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1-D100-15 マリヴェラ買物中


 翌朝。


 ルチアナが宿までやってきた。

 こちらは着の身着のままが勢ぞろい。

 更に、資金&荷物持ちの志願兵が数人だ。


「お早うございます、ルーシ」


「おはようマリちゃん」


 ルチアナに紹介した。


「こちら、ミツチヒメ様にユキ様、ユウカ様。クーコさん」


 それぞれ挨拶を交わす。


 ルチアナも、公式の場ならもっと堅苦しく振舞えもしようが、プライベートなので程ほどである。

 今日のルチアナは、涼しげな緑基調のロングのワンピースだ。

 メイド姿とも昨日の格好とも、メイクすら全く違う。


「昨日のあれは、男を釣る為のなんだから」


 そういってカラカラ笑う。

 ユウカがルチアナをチラチラ見ていた。その顔が上気している。

 一目惚れでもしたかな? 

 ロジャースはなぜこんな良い子と別れたんだろうね? 酒乱だからか?


「それじゃ、とりあえず何が欲しいの?」


「服?」


「服よね」


「後はなんだ。ほら、リスト作ったじゃない。雑貨、本、武器、魔法道具。それから……」


「あらあら、欲張りね。まあ、一日で回りきれる物ではないし。近くに服屋の多い地区があるから、まずはそこにいきましょう」


 ルチアナは俺の手を握ってルンルンで歩いている。

 その後ろをミツチヒメがユキ、ユウカとクーコがそれぞれ軽く会話をしながらついてくる。

 周りは、荷物持ち兼護衛の水兵が固めている。

 志願者が多かったので、くじ引きで決めたらしい。

 一体、荷物持ちの何がいいのだかね。


 こんな集団なのだから、すれ違う町の人が皆振り返って見ている。

 それはそうだろう。

 まずやってきたのは、色々な服がショーウインドーにディスプレイされている大きなお店だ。


「おや、ルチアナさんかね。いらっしゃい。珍しく、お友達といっしょですか?」


 店先で掃除をしていた店の主人は、品のよさそうな中年男性だ。


「ええ。この子に似合うのが欲しいの」


 主人が俺の頭からつま先まで見定める。

 何かに納得したかのように頷いた。


「丁度いい商品がありますな。中へどうぞ」


 他の連中も一緒に、店の中へ入っていった。


 俺は試着室まで通され、いきなり何着か手渡された。

 慌ててルチアナに耳打ちした。


「ちょっとちょっとルーシ」


「何? マリちゃん?」


「俺、下着も持っていないし、いいの?」


 そうなのだ。間に合わせで作ってもらった物を着ていたのだが。


「いいのいいの。あなた、人間じゃないって忘れてない? トイレも行かないでしょ?」


「そりゃそうなんだけど。だからと言って……」


「欲しいならブラも下着も持ってきてあげるから。着ちゃって着ちゃって」


 とりあえずカーテンを閉め、水兵服を脱ぎ大きな鏡に映った裸の自分を見た。

 正面からまともに見るのはこれが初めてだ。

 なんだかなー、とため息をついて、乳房をぎゅっと掴んだ。


 カーテンの隙間から、にゅっと手が伸びてきた。


「ほら、下着持ってきてあげたから」


 ルチアナである。


「ありがとう」


 昨日の様な泥酔状態なら、


「マリちゃんどーお?」


 等と言ってカーテンを引き開けかねない所だな。


 俺は元の世界の物に近い下着を……ブラなんかつけた事ねえけど……でもなんとかやり遂げ、一枚目の服に手を伸ばした。

 それは、コットン製の、深い紺色のワンピース。

 ああ、かわいいなコレは。

 ただ、これ着るなら、胸元が開いているからネックレスは必須だろうし、帽子とサンダルもいるよなー。


 一応、登場人物の服装を描写するのに服飾の資料は必要だ。

 だからそういう視点でなら、客観的に似合うかどうかを判断できる。


 カーテンを開けてルチアナに見てもらう。

 彼女は俺の姿を嘗める様に眺めた。


「うん、いいじゃない」


 合格らしい。

 と言うか、この店の主人の目利きが良いのか。

 採寸もしてないのにサイズもぴったりだな。

 そんなこんなで、そのワンピースの他にも何着かを買う事にした。

 例えば、フォーマルでも使えるコートとシャツ、ボトムスと靴、部屋着等である。


 着替えは店内で済ませて、今は例のワンピ姿だ。

 ユキも着替えを終えて、袋いっぱいに服をつめて現れた。


「……ユキさん、随分凄い量だね」


「うーん、つい。こういうお買い物って、初めてだし」


 と照れている。

 ああ、そうかもしれないな。

 そういうユキは、麻地の白いロングスカートとシャツに、麦藁帽子。いかにも夏らしい。


「あれ?姫様は?」


 ミツチヒメは何も買わなかったのか、手ぶらのままだ。


「うん? わたくしはこういう服は苦手だ。お主だって苦手ではないのか?」

「え、まあそうなんですけど」


 ミツチヒメが胡散臭い物を見るように俺の姿を眺めている。

 うん、そりゃまあワンピなんか当然違和感が強い。

 ヒラッヒラだし。

 下着だってそうだ。

 俺、トランクス派だったんだぜ?


 ユウカも店から出てきた。

 ユキと同じように服を袋に詰めてはいるが、着替えては来なかったようだ。


「姫様、お待たせしました」


「なんだ、ユウカ。着替えなかったのか?」


「はい、姫様。余り目立ってもどうかと……」


「ふむ、護衛は任せて、少し羽を伸ばしてもいいのだぞ?」


「はい」


 最後にクーコが現れたが、彼女も水兵服のままだった。

 買い物も控えめであった。


「ありゃクーコ先生もそのままですか」


「先生ってなんです?」


「歌を教えてくれるので、クーコ先生です」


「やだもう、やめて。恥ずかしい……」


 荷物は当然の如く志願兵に手渡される。

 まだ宿に程近いので、その内の三名が宿まで届けに走った。

 そして走ってこちらに戻ってくるのだ。

 まあ、頑張れ。

 

 ルチアナが指をさした。


「お次はね、直ぐそこに武器屋があるわ。ほら、看板が見える」


 見ると、盾が飾ってある。

 分かりやすい。

 中に入ると、数人いた客らが全員ぎょっとこちらを見た。

 それはそうだろう。邪魔してゴメンね。

 でも俺たちはお構い無しに店内を物色する。


「ここにあるのは殆どが普通の剣や防具よ? 属性付与や魔法効果がある物は、魔法道具屋ね」


「へえ。そうなんだ」


 普通の武器が入用だろうか?

 (ふね)に必要な分は、別途に会計の志摩野達が買い入れるだろう。

 昨日ロジャースの剣をつかんだ時も、普通の武器だったから俺にダメージはなかった。

 属性や魔法の付与がされている武器があれば、その方がいいよね?

 普通の武器を買うメリットは、値段だけだろうか?

 まあ、何かの時に金属バットやバールの様な物はあってもいいけどさ。


 気がつくと、ルチアナが物欲しげにガラスケースに取り付いている。

 中には、何振りかの刀が置かれている。

 日本刀だ。この世界には日本刀も存在するのだ。


「あー、やっぱり、いい物はいいわねえ」


 目がとろんとしちゃっている。


「もしかして、刀使うんですか?」


「つかうぅ。ま、当然対人にしか意味は無いけどね」


 値札を見ると、安くて三十万円以上、高い物は数百万円の値が付いている。


「うむむ」


 そういう訳で、ここでは在り来たりの鈍器、金属バットやバールの様な物数本のみご購入。


「じゃ、隣がその魔法道具屋でーす」


「うわ。なんか小汚い店があると思ったら……」


「コラ。味があると言いなさい」


 そんな店の中に入ると、意外に広い。

 が、暗いし臭い。

 何の匂いだよコリャ。

 店の一等地の棚には、液体の入った小さなガラス瓶がびっしり並んでいる。


 「媚薬」コーナーだって。


 惚れ薬、元気になる薬、キモチ良くなる薬、タイプ別、年齢別……。

 需要あるんだろうな。

 でも見飽きないや。実際、ミツチヒメとユキは魅入っている。

 って、なあなあ、お前ら、誰に使うんだよ。


 手に取ると「知る」で効用や威力がある程度分かる。

 「媚薬」の一つを見てみたら、笑っちゃう事にしっかり効果有りだった。

 別の棚にある水薬は、いわゆる冒険者用か。

 タイプ別の解毒薬、同じくタイプ別の回復薬。切り傷とか火傷とか、そういうのね。

 買い物籠にごっそり入れる。


 ルチアナは、店主と思しき老女と話し込んでいる。

 俺は次に装飾品の売り場を物色する。

 効果は……どうやらしっかりあるんだが、あんまり可愛い物はない。

 属性アップのイヤリングやリング、ネックレス。

 1上がるだけでどれも一つ百万円から。

 属性値って、疲労やダメージで下がる事を考えると、1だけでもあると良いよな?


「試着してみていいですか?」


 老女に聞いてみる。


「どうぞ。それの価値が分かる人は少ないがねえ」


 ああ、属性値が1しかない人が使った所で、さほど意味は無いもんな。


 さて。

 リングを手に取る。水属性アップをはめてみる。確かに上がる。

 同時にもう一つ水属性。イヤリングとの組み合わせでも上がらない。

 と言う事は、同属性の重複はしない。

 では木属性を水属性と同時に。上がる。

 両方外して、イヤリングも一緒に冥化させる。

 上がらない。

 なるほど。この身に「装備」しなきゃいけないんだ。

 ではこうだ。

 月と水属性のイヤリングと冥属性のリング1つ。魔属性のネックレス、だ。


「ふうん。どう選ぶかで結構人が出るのよねえ」


 ルチアナはそう言い、老女はひゃっひゃひゃ、と笑っている。


「世の中には、+5なんちゅうモノがあるがいの、値は付かんがな」


「+5は凄いですねえ」


 そんなアイテムを持っていたら、神化なんて直ぐだ。

 俺が経験したシナリオでは、+3までしか登場した事がない。

 それも、プレイヤーには入手できないモノだった。

 もし、あの海の底から引き上げた魔法道具がその様な一流品だったらと思うと、ワクワクしてたまらない。


 さて。

 後は何だ。


「ルーシ、ホムンクルスはいるかな?」


「あー、それなら、フォールスの方が安いわよ。本場だもん」


「これ、ルチアナ。商売の邪魔をするのでない」


 店主の老女は、目を怒らせてからバックヤードに姿を消し、また現れた。

 透明なガラスの瓶を抱えている。

 中には怪しい液体に浸かった右腕が入っていた。


「在庫はこれだけだがのう。二千万円の所を、半額でよいぞ」


 ルチアナが顔をしかめた。


「ねえ、一体何時の入荷なの?何か色変わってない?」


 確かによく見ると、かすかに緑がかっている。


「いつでもいいだろうが。効果は変わらんぞい。色が違うのもまたお洒落

だぞ」


「むちゃくちゃでしょ?」


 腕か。

 全身でなくとも、実はそれで十分だ。

 この後、「言霊」をもう一つ身に付ける事にしているからだ。


 「つくる」


 そして、「なおす」とのコンボで「つくりなおす」にもなる。

 どうなるかというと、例えばこのホムンクルスなら、その腕から千切りとった肉を皮膚や筋肉に作り直せるようになるのだ。

 それを「なおす」と「つく」と「ヒール」で負傷箇所にくっつける訳だ。

 骨も同様だ。


 人間以外の動物から切り取った肉や骨でも治療に使えなくはないが、やはり安全性は格段に違うと聞いたことがある。だから一般的ではない。

 ホムンクルス自体は、こちらはやってみないとわからないが、材料を与えさえすれば、治療で使用した分を「なおす」で補充できる可能性さえある。

 変色も直せるだろうし。……多分ね。


「よし、買った!」


「え? ホントに? 緑色よ?!」


「まいどアリ!」


 これは右腕である。

 あの砲撃戦で腕を無くした水兵は、左腕を無くしたのであった。

 残念ながらじっけn……いや治療には使えないだろう。


 え? 両腕が右腕でもいいのではって?

 それはちょっと色々ダメでしょ。


 彼はここで艦を降りる予定である。

 これも運と言う物だ。


 そんな感じで細かい物もどんどん買い物籠に追加する。際限がない。


「ユキさんは何を買っているんです?」


「えー、うーん、身を守れるようなものを……」


「お金は気にしないで良いですからね。ロジャースさんに許可もらってますから」


「はい」


 ユキがふっと微笑んだ。

 うんうん、笑った方がかわいいですよ。


 武器防具も意外にある。

 気になったのが「ミスリルシルバーシリーズ」。

 どこかで聞いた事のある名前だけれど、篭手だけで百万円以上するのか……。

 ああそっか。

 俺にとって、防具は装備しなくても身体の表面を守れりゃいいんだから、工夫次第だな。

 アンデッドなんかもいるかもしれないから属性付属の武器もいるかなあ。

 様々な状況が頭によぎるから決めきれない。


 他の物には余り興味を示さなかったユウカが、属性付与の剣を手にとって目を輝かせている。

 値札には、五百万円とある。


「ユウカさん、それ、買う?」


 ユウカが慌てた。


「いえ、こんな凄いもの、私には使いきれません……。剣と弓と乗馬、魔法の稽古はしていましたが、どれも余り向いていないそうです」


 と、頭を掻いた。


「まだ、言霊も持っていませんし……」


 それは……。

 まだまっさらなんだと言える。

 この世界では、普通に生活していれば、若くして言霊の一つも持っているものだ。


「きっと、あらゆる可能性を秘めているって事なんですよ」


「あら、マリさん良い事言うわね」


 ユキが向こうの方から言った。

 ユウカは顔を赤くしながら、高価な剣を元の場所に戻した。


 しかし悩ましい。何を買えばいいのか、今ひとつピンと来ない。

 悩んでいると、ユキが数百万円分の属性付き武器と防具のセットを数人分、老女に注文した。


 豪快すぎる。


「ユキさん、凄いです」


「ユキさんやるわねー」


 俺とルチアナが同時に賞賛の声を上げた。

 所詮、俺たちはお金があっても庶民感覚が抜けないのだ。


 よし、ここでのお買い物は以上。


 金額は五千万円にもなった。

 店主の老女はホクホクである。

 他の国のチェーン店でも使えるクーポン券をくれた。

 流石にそれ程の金貨を持ってきてはいなかったので、志願兵が一旦宿に取りに戻り、精算を終わらせた。

 必要と思われる物はケチってはいけない。


 だが……。

 会計を済ませて、買った物を箱や袋に入れている時に気づいた。


「おいおい、誰だ媚薬を買い物籠へ入れたのはー???」


 全員知らんふりである。

 もちろん、俺ではない。



今日も読んでいただきありがとうございます。

ちょっとずつPV増えてきて嬉しいです(*´з`)

2019/7/31 ナンバリング追加。本文微修正。

2019/9/18 段落など修正。

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