1-D100-11 マリヴェラ落胆中
目を覚ましたのは、日が落ちかけた頃だった。
俺が寝ていたのは寝台の上段だった。
下から声がした。
ミツチヒメだ。俺が起きた気配を察したらしい。
「お、起きたか。良く寝ていたのう」
「ん。お早うございます。何時ですか?」
「六時の時鐘が鳴った後だ」
「もうそんな時間に……」
四時間ほど眠った事になる。
余程疲れていたのであろう。
なにやら、体中ギシギシ痛む。
人間でない種族の眠る時間は、属性値に左右される。
具体的には、月と日の属性値だ。
両方が10以上なら、数日は眠らなくても何とかなる。
俺の属性値は月が18、日が7だ。
人間よりはるかに高いし、神族の基準からもまあまあのレベルだ。
そもそも、神族という種族はさほど睡眠は必要ないと思っていた。
現に、ヤイト浦からの帰還後の睡眠は一時間だった。
しかし四時間?
それだけ体を無防備の状態に晒すのだ。
この海の真ん中で、信頼できる人たちと居るならば良い。
では、例えば陸上で単独行動中だったりしたらどうする?
ちょっと考え物だ。
「どうした」
ミツチヒメが背伸びして上の寝台を覗き込んできた。
俺は上半身を起こした。
「姫様は、睡眠が必要ですか?」
「……そうか、なるほど。うむ、必要だ」
「どうしていました?」
「普段は護られていたからな……。わざわざそこから抜けだしてこのザマなのだがな。そうだな、確かに今後の事は考えなくては」
そういえば、ミツチヒメは男と逢引しに出かけて殺されたんだっけ。
最強の海神姫と呼ばれていても、寝ている時にはそんなもんなんだ。
いや、この「アンガーワールド」はそういう世界なんだ。
「寝ている時間は、我ら神族といえども……」
ミツチヒメはそう言いかけ、僅かに目を泳がせた後、何故か「ブッ」と
噴き出した。
下の寝台に戻って尚クスクス笑っている。
「なんです?」
「いや、なんでもない。そろそろ夕食の時間だ。食べるだろう?」
「ええ」
一体ナンだろう。嫌な予感だ。
キャビンでは、夕食の準備が出来ていた。
例によってたまねぎとジャガイモと……。
またマグロ?
俺がつかみ取りしたマグロはもう食べてしまったはずだ。
船員が釣りでもしたのか、ミツチヒメが取って来たのか。
皆、おいしいおいしいと言いながら食べている。
確かにおいしい。
が、ユウカ。それに八島君。
キミらは何故こっちをチラチラ見る?
俺の顔に何かついているのかね?
「そうだ!」
食事が終わりかけた頃、ミツチヒメが声を上げた。
「のう、八島。例のお宝はどうだった?」
八島はかわいい顔をはじけさせた。
「いやあ、凄い事になってます。マリヴェラ大明神様様ですよ。会計の志摩野くんと、大雑把な計算をしたんですが」
「が?」
「そういえばマリさんは、この世界の通貨事情はご存知です? 内海共通通貨『円』なんかは?」
「知ってます。へえ。『円』は存在するのですね」
それはゲーム内で使われた通貨単位だ。
価値は元の世界の日本と大体同じ。
本来は各国で通貨制度が存在しているのだが、ゲーム内ではあちこち移動する。
その度に両替だ何だで面倒なのを解決しよう、というわけで登場したものだ。
超国家組織の「内海銀行」なるものが創始され、流通が始まった通貨なのである。
要は後付け設定というやつだ。
初めは某ゲームサークルで使われ始めた仕組みだったが、結局それは便利な存在で、他のTRPGサークルにも広がったという。
まさか現実に流通しているとは。
「おっけー。では驚かないで下さい。金銀と、換金可能な宝石類だけで七十五~九十億円」
ロジャースですら思わず口笛を吹いた。
「おっと、失礼しました」
「凄いでしょ。更に、換金不可能な宝石と、何が入っているか分からない玉手箱が十個。そして……」
「まだあるのか」
「はい。ヴォルシヴォ公爵家の紋章が入った大箱が三十個」
ヴォルシヴォ!
それこそが、俺が言っていた某シナリオで登場した財宝輸送船の荷主だ。
と言う事は、あのシナリオの中での出来事は、実際にこの世界で起こった事件なのだ。
これは一体何が起こっているのだろうか。
「そのヴォルシヴォですね、私が言ってた財宝輸送船っての」
すると、ミツチヒメが苦虫を噛み潰したような顔になった。
「やはりアレがそうなのか。
それはヴォルシヴォ公爵家の花嫁持参金と花嫁道具だ。
当然憶えている。当時、わたくしが輸送船失踪の犯人ではないかといわれたからな」
ユキが目を丸くした。
「そうなのですか?」
ロジャースが椅子に座りなおした。
「ええ、私も若かったので詳しくは存じませんが。
十数年前、ホーブロ王国の大身、ヴォルシヴォ公爵の娘が、
フォルカーサ帝国の帝王家の一員へ嫁ぐことになりました。
その際、持参金を積んだ船が護衛ごと行方不明になって、
海賊だの陰謀だのと騒ぎになった事がありました」
「その後は?」
「幸い本人は乗っていなかったのですが、
縁談は破談となりました。その公爵の娘は
結局ホーブロ王国内のショーブ伯爵という有力貴族へ嫁いで、
いまでは一大勢力となっていますよ」
皮肉なものだ。
いや、先に触れたシナリオにおいて、妨害をしてきた謎の集団とは、その後勢力を広げたそのショーブの手下だったのだから。
結局、彼らにとっては作戦成功だったのだろう。
「そこでですね」
「なんだ、マリヴェラ」
「一応十年以上経っていますが、これは使いようだと思うのです」
「ほう」
「正直、換金するのも微妙だと思うのです」
「やはりわたくしが犯人だった、と言う者もいような」
ミツチヒメのこめかみに青筋が立っているのが見える。
青筋?
Why?
神族には血管すら無い筈なのに。
「かも知れません。そこで、今後ホーブロに立ち寄った時に、これをユキさんとユウカさんから公爵にお返ししましょう」
「なるほど」
八島が頷いた。
「確かに、換金するよりも効率よくコネを作れるかもしれませんね」
「まあ、私も法や慣習は分かりませんので、細かい所はロジャースさんと八島さんにお任せなんですけど」
「いや、マリヴェラ、それはいい考えだぞ。わたくしも賛成だ。どの道、ホーブロへは行かざるを得ないしな」
「そうなんですか?」
ユキが後を継いだ。
「私の父の妹、サツキ叔母がホーブロの家臣、トヨシマ様に嫁いでおります。海外の頼れる親類は、サツキ叔母様位しか居ないのです」
そっか。そうだよな。
ずっとアグイラ、またはずっと船の上、というわけには行かない。
ポントスに反撃?
できるなら、既に誰かが口にしているだろう。
とりわけ、殴られたら殴り返すであろうミツチヒメが言わないのだから、現実的ではないのだ。
そのミツチヒメが言った。
「ともかく、アグイラに着けば、着の身着のままからは解放される。次に進む為の食料も買い込める。兵に給料も支払える」
ロジャースも深く頷いている。
ミツチヒメが続ける。
「この艦がここにあるのも、マリヴェラ、お主のおかげだ。大明神等とは少々度が過ぎているが、感謝はしているからな」
感謝された。
照れる。
「だから、な。今のうちに謝っておく。正直、すまなかった」
「? 何をです?」
「その内分かる」
ナンなんだ。
他の連中もこっちを見ない。
釈然としないまま、夕食が終わった。
――――――――――――
各々退出し、キャビンに残ったのは俺とロジャース、八島だけだ。
俺は二人に、財宝についての更なる情報を聞いた。
「ねえロジャースさん、財宝って、アグイラのような港町に持ち込むと、税金が掛かりませんか?」
「いえ、下ろさずに持ち込まなければ大丈夫です。
基本的に入港税は掛かるのですが。
それに、高価な魔法道具も、入港時と出国時にチェックすれば、
問題有りません」
「あの何が入っているか分からない玉手箱は?」
「あれらは魔術師ギルドで鑑定を依頼します。
鑑定能力はアグイラの魔術師ギルドが世界最高なのですが、
その点は、メイナードがそこの出身なので、ご心配なく」
八島が補足した。
「鑑定時に書類を作成しておけば、出国時にトラブルは生じませんよ。ただ、鑑定料自体が、目玉飛び出るほど高価になることがあります」
「どの位目が飛び出ますか?」
「聞いた話では、過去最高が百億円だとか。その魔法道具は今フォルカーサ皇帝の手元にあります」
「鑑定だけでねえ」
ロジャースが肩をすくめて言った。
「とは言え、世にある名品はほぼ全て、
何処かの有力者の所有になっています。
魔術師ギルドが濡れ手に粟、という訳でもないのです。
鑑定する機会自体少ないですからね」
ニヤリと八島が笑った。
「でも、そんな名品が続々発見されたら?」
俺は体を乗り出した。
「陸上は探しつくされているけど、海底は金脈である、と?」
「ちょっとゾクゾクする話ですよね」
――――――――――――
さてここでついでに、RPGの冒険者御用達、ギルドについて軽く触れる。
記憶によれば、この世界には冒険者ギルド、海洋ギルド、商人ギルドと、商人ギルドの傘下にある職人ギルドがある。
この内、魔術師ギルド・冒険者ギルド・海洋ギルドは、『ギルドファウンデーション』に加入している国の国民ならば利用可能という、超国家組織なのだ。
魔術師ギルドは魔術師の育成、職や依頼の斡旋、反社会的魔術師の討伐などを請け負っている。
冒険者ギルドとも連絡し、パーティ結成の斡旋もする。
そしてアイテムの鑑定も仕事の一つだ。
冒険者ギルドは、もちろん冒険者への仕事や傭兵業務の斡旋、依頼の請負、保険の受付等などが仕事だ。
海洋ギルドは、水兵や水夫の仕事の斡旋、積荷や船への保険業務、護衛や船団の組織業務代行までやる。海に関することは何でもご相談だ。
商人ギルドは日本にも昔あった「座」に近いもので、業種ごとに組織されている。
国家が物資を必要とした時に滞りなく納める義務を負う代わりに、新参者が参入するのは簡単にできない仕組みになっている。
職人ギルドはもう少し緩やかなもので、加入には審査がいるものの、排他的ではない。後進の育成もしている。
こんな所かな?
普通にキャラ作ってパーティ組めば、魔術師ギルドか冒険者ギルドにはお世話になるはず。
俺もアグイラに着いたら、魔術師・冒険・海洋ギルドには加入しておこう。
情報を購入したり、傭兵を雇う事もできるようになるからだ。
――――――――――――
ロジャースが首をかしげている。
甲板の物音を聞いているようだ。
耳を澄ますと、波や艦の音の向こうから微かに歌声が聞こえる。
女の声。
この声は……クーコだ。
「クーコさんですね」
「何処で歌っているのでしょうね?」
その歌は……聞いた事がある。元の世界の歌だ。
甲板に出ると、ユキもユウカも居た。
クーコは艦の舳先にちょこんと坐っている。
非番の者達が、歌に誘われて、船首付近にたむろって居た。
「ねえユキさん、クーコさん、歌上手いですねえ」
「元は歌手だったらしいわ」
「ホントですか?」
「普段は余り歌ったりしないけど……。今日はいい夜空ですから」
「ふうん」
その歌を歌った女性シンガーソングライターは、二年前に事故で無くなっている。
メジャーではない。
それでもインディーズでは知る人ぞ知るアーティストだった。
若き不慮の死は、大変惜しまれたものだった。
一曲歌い終えると、またもそのシンガーソングライターが作曲した別の歌を歌い始めた。
まあ、前世がどうとか、今は良いか。
澄み切った夜空からは、星が落ちてきそうだ。月は見えない。
静かなライブは、日付けが替わるまで続いたのだった。
皆は階下に下がって行ったが、俺は甲板に残った。
客室に戻ろうとしたクーコに俺は拍手した。
「素晴らしいです。まるでご本人みたいで」
「あら、作者、知ってるの?結構マイナーでしょ?」
「ライブに行った事もあります。アルバムだって全部持っていますし、カラオケで練習もしました。ご本人なんですか?」
クーコは少し驚いた表情をしてから、少しうつむいた。
「そう……。多分、あたしは彼女なんだと思うけど……。最近自信がなくて」
「そんな……」
でもそれは分からないでもない。
転生と言っても、見た目はもちろん、全く別の生き物になってしまっている上に、価値観だって違う世界で生きているのだ。
歌手なら、そもそも剣で斬り合いなんてしない。
「私から見れば、クーコさんはクーコさんでしかないんですけどね。それより、歌教えてください。弟子にしてください!」
「ええっ?」
「男子だったからか、カラオケの得点も伸びなくって……」
「それは単に下手だったからではないかしら。ま、いいわ。助けてくれたお礼がまだだものね」
「やった! お願いします!」
クーコと握手を交わす。
「ねえ? 神族って代謝が無いって聞いたけど、息はできるの? 声帯とか横隔膜とかあるの?」
「あー、それは人型の時には人を模してる事になってるはずなので、大丈夫です。元々人ですし」
「わかったわ。じゃ、色々落ち着いたらレッスンしましょう。半端では終わらせませんからね?」
「はい!」
と、ニコニコで客室に戻ると、寝そべっていたミツチヒメが身を起こした。
「おう、終わったようだな」
「ええ。クーコさんの歌、素敵でした」
「うむ、ここまで聞こえていた。あれは、向こうの世界の歌か?」
「はい」
俺はチェストに坐り、そこに残っていた飲み掛けのコーヒーを飲み干した。
「こっちにああいう歌はあるのですか?」
「あるにはあるが、大きな国で流行る位だ。
ワクワクまでは、中々伝わらん。
ま、流行りもの多くは向こうの世界のものが伝わったものなのだがな」
「なるほど」
「のうマリヴェラ」
「はい姫様?」
「頼みがある」
「どうしたんですか?」
「わたくしに何かあった時には、ユウカとユキの事を頼む」
「えっ?」
藪から棒に。
「ナンですか、急に」
「事の始めから今まで、わたくしはどうにも惨めでな。わたくしがしっかりしていればと思うと……」
と言い、ミツチヒメはふっと横を向いた。
ありゃ、気丈に振舞っているかと思ったら、すっかり凹んでいた。
ユウカが言った通り、国は、きちんと国防なり諜報なり外交なりをしていなければ、神族一人で守りきれるものでは無いのだ。
だからシナリオにおいても、敵が強力であったとしても、知能を有する場合、単独で暴れていたりする事は少ない。
「普段王族は、王都にいるからな。恐らく今頃……。となると、直系のわたくしの子孫は、ユウカとユキだけになる」
子孫。
子孫って言ったか?
道理であの姉弟は、ミツチヒメにどこか似ている……。
ていうか、神族も子孫を残せるんだ。
なるほど、ワクワクがミツチヒメによって作られた国であるなら、君臨する王族が彼女の子孫でもおかしくはないのか。
元の世界の王侯貴族も、神が祖先だと言い伝える事が多い。
ワクワクの場合、その神様が現実にいて、しかも健在なだけだ。
「わたくしは元々、相州豆州辺りに住まう海神でなあ」
相州は今の神奈川、豆州は伊豆の辺りだ。
「四百年ほど前に、何時の間にかこの世界へ足を踏み入れていたのだ。ま、神隠しという奴だ」
神様が神隠し?
笑う所だろうか。
ここは笑う所だろうか。
「その頃には既に、忘れられ祀られぬ神ではあったがな。そして、紆余曲折の末、無主だったこの島へ流れ着いたのだ」
「そうなんですか」
「ワクワクを失ったのは仕方が無い。
今のポントスなら、民を不幸にすることは無いだろう。
だが、あの二人には、ささやかであっても幸せになって欲しい。
折角、王族というしがらみが無くなったのだ」
「……まだ、ワクワクの状況は不明ですが」
「ふ、気休めだな。まあ良い。そう言う事で、宜しく頼む」
そういうミツチヒメは、とても儚げな表情をしている。
俺はつい、その手を取ってぎゅっと握った。
「私の力でよければ、出来うる限り」
「うむ」
「じゃ、私はとりあえず、飲み物を貰ってきます」
「ああ、そうしてくれ。わたくしはコーヒーが良いな」
「分かりました」
という事で、カップを持って廊下に出た。
やれやれ、ただの暴君かと思ったら、中々しおらしく可愛い所もあるじゃないか。
八島が絶賛していたのは、こういう所かな?
しかし俺は、キャビンに向かおうとして足を止めた。
この階層の前部は、一般水兵たちの居住区がある。
そこからの会話が聞こえてきたのだ。
引っかかるキーワードが一つ。
マグロ女。
マグロ女?
もしかして俺の事か?
俺は忍び足でそちらに向かう。
非番の者たちが、輪になってゲームをしたり、お酒を飲んだりしている。笑い声がさざめく。
そこに雨が降り始めた。
当然金色の雨だ。そこにいる連中が一斉にピタリと動きを止めた。
どうも、オレサマの方がよりご立腹らしい。
金色の髪を振り乱したオレサマが、手直に居たササの肩に手を置いた。
「ようぅぅ、お楽しみの所失礼するよぉぉ。
ちょっと、気になる言葉を聴いたんだよなぁぁ。
ね、ササ君よぉぉ。マグロ女ってなぁなんだぁぁ?」
ササは捕食者を目の前にした小動物のように震え始めた。
「いやっ、そんな事……。言っていません……」
「言っていない? そうか、聞き違いかな?
でも知っているだろう?
もう一回聞く。マグロ女って何だ?」
「ひぃ」
恐慌状態のササに替わって答えたのが、ベルだ。
「姐さん、勘弁してやっておくんなさい。実はこういうことなんで……」
驚愕だった。
サルベージが終わった後、眠りについた俺の体をミツチヒメが乗っ取り、マグロ漁に勤しんだと言うのだ。
しかも、マグロ両手に素っ裸で「マグロとったどー」などと叫びながら甲板に戻ってきたと言う。
はぁ?
素っ裸って何だ?
ドコがどうなると素っ裸になるんだ?
はぁ?
「憑依」って事か?
「とったどー」っておい……。
はぁ……。
記憶も覗かれたか……。
くそー。あの疲労感はそのせいだったのか。いや、なんていうか……。
がっくりだ。
夕食の際の謝罪は、これか。
しおらしいとか可愛いとか思ったのが馬鹿みたいだ。
オレサマはがっくりしすぎて引っ込んでしまった。
今度慰めてやらないとな。
ベルも気の毒そうに頷いて俺の肩を叩いた。
「あ、うん、ありがと」
足取り重くキャビン横の給仕室に赴き、二人分のコーヒーを淹れてもらい、客室に戻った。
……ミツチヒメは、寝息を立てて寝ていたのだった。
いいご身分である。
今なら取り憑けるかな?
悪戯倍返しできるぞ?
寝台のミツチヒメの横に座り、彼女の頭に手を置いた。
……が、しない。
そういうことは、俺はしないんだ。自分にそう言い聞かせた。
憑依にはリスクもあるじゃないか。ユキの時とは違う。
俺はミツチヒメの頭をぐしゃぐしゃっとした。
そして寝台を離れ、チェストに座り、魔法の教科書を広げたのだった。
2019/7/31 ナンバリング追加。本文微修正。
2019/9/5 段落など修正。




