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外伝 八島七海1

八島君が主人公の外伝です。

本編とはあまり関係がありません。

ちょっといい話の類です。


 主人公の名は八島七海(やしまななみ)


 本編の主人公と同じく転生者です。

 元ワクワクの住民であり、主君筋に当たるユキや同郷のマリヴェラとは、早い段階で別れを告げています。


 スパロー号から降りた彼が居を定めたのは、内海のど真ん中、アグイラ。

 その時点では南の帝国フォルカーサの支配下にあった交易の重要拠点です。


 ユキやマリヴェラから退職金に当たる資金を受け取り、アグイラに辿り着いた八島は、早速商売を始めました。

 勿論彼が手を染めたのは、船による交易です。

 そしてそれは上手くいき、徐々に財産を増やしていきました。

 彼は元々、ワクワク王国では通商を担当していました。

 性格も良く商才も持ち合わせ、各港にもコネが有るのだから、成功しない訳は無かったのです。


 初めは手堅く一般の交易船に一定額を出資して荷を運ばせていましたが、

 やがて一つの船をチャーターするようになり、その後あっという間に自らの持ち船を得るに至りました。

 出資した船が一度も難破したりしなかったという幸運もありましたが、主に彼の目利きを褒める人の方が多かったのです。


 その持ち船は、余り大きな船ではありません。

 全長20メートルほどのスループです。


 スループとは、流線形な船体を持ち、マストは一本。

 帆は縦帆の一種、ガフセイルを艤装した船です。

 内海では主に交易や漁業に使われます。


 中古ではありますが、伝手を頼りに、元ワクワクの商人から安く譲り受けることができました。


 船の名はドラゴンフライ号。


 そして八島オーナーのドラゴンフライ号、第1回の航海。

 八島は記念すべきその航海に、自ら乗り込んだのです。

 船長はアグイラに住む知り合いの男。

 水夫達も同じくアグイラの産でした。


 明け方になって港に着いた八島は、待ち合わせの約束をしていた桟橋(さんばし)にやって来ました。

 桟橋に係留しているボートの内の一つに乗っていた男が、手を振って叫びました。


「おーい、八島さん。こっちこっち!」


 その男はドラゴンフライ号の航海士です。

 船の中では船長の次に偉いのです。


 もっとも、ドラゴンフライ号程度の大きさの船では、乗組員全員合わせて10人を超えることはそうありません。

 今回も、船長含めて6人だけです。


 ただ、この世界では科学技術が発達していない代わりに、魔法の技術が進化しています。

 この船にも、八島はちょっとしたお金をかけて、船体に波の抵抗を受け流せるような加工を施してあります。だからそこらの船よりもスピードを出せるのでした。


 八島は笑顔を見せました。


「お早う。如何にも初夏の良い朝だね」


「ええ。波も良し、風も良し、でさ」


 ボートは陸を離れ、ドラゴンフライ号に横付けされました。

 錨が上げられ、徐々に帆も上がります。


 出航です。


 八島は、大きな期待を胸に、潮風を大きく吸い込んだのでした。



――――



 ここはキャビン。

 その船における、一番上等な場所。


 もっとも、このサイズのスループではキャビンと言っても、とても狭いただの部屋です。

 そこに、オーナーである八島と、この船の船長が角突き合わせて話し合っています。


「帝国の内部分裂がどれほど進んでいるのか、分からないのはそれだけなんですよね」


 八島が言いました。


 これは、あらゆる情報を集めた八島が分析の結果出した結論なのです。

 皇帝の一派と宰相の一派が、水面下でかなり激しく争っているのだとか。

 地方では両者に属さない勢力もあるようで、かなり情勢は錯綜しています。


 船長が、やれやれと言う感じで首を振ります。


「私が懸念しているのは、それによって治安が乱れ、

 沿海地方の住民がどっと海に漕ぎだしてこないか、という点です」


 つまり、帝国及びその影響を受けている内海の沿海に住む人たちが、海賊に仕事替えしないか、という意味です。


「まあ、既にポツポツ被害が出始めてるからね。

 酷いのになると、帝国の軍その物が海賊の真似事をしているとか」


「まだ噂レベルですけどね。……はぁ。

 それで、今回はその帝国のど真ん中、メリッサに行くわけですが」


 八島は肩をすくめました。


「まあね。でも今回の荷、アグイラ名産の織物とフォールス産の魔法道具。

 特に魔法道具は、メリッサじゃ既に普段の3倍以上の値がついているから。

 ロンドール海峡でも海賊被害が出てるらしいんで、そのせいさ」


「八島さんはこうなる事を見越していたのですか?

 アグイラに来てからずっと魔法道具を買い込んでいたそうじゃないですか」


「いや、ロンドール海峡については想定外。でも、内海が不安定化するのは目に見えてたし」


「東のポップ海も騒がしくなってますし、商売しにくくなりますね」


「でも、船長も交易商人ならそんなの気にせず仕事するでしょ?

 海賊被害は少し聞くけれど、まだ誰も交易をやめていない。

 それにがっつり保険はかけてるから万一が有っても大丈夫」


「保険の世話にはなりたくないですなあ」


 実際、海賊や私掠船が沢山徘徊していた時代のカリブ海でも、小さな交易船は沢山航行していました。

 確かに物流が滞った時期もありましたが、それでも庶民の船は、海賊を避けながら一生懸命交易をおこなったのです。

 勿論、したたかな交易商人なら、密貿易などにも手を染めたのでした。


「そうだ、船長は今回何を持ってきたの?」


「はい、八島さんと同じ織物ですよ。やはりメリッサでは需要が大きいですからね」


 交易船の乗組員は、通常私的な交易を許されていました。

 一般船員は少なく、船長は多めに積み込めたのです。


 彼らの給料は、とても安かったのですが、そういう役得でようやく相殺されたといえます。

 ただ、ドラゴンフライ号については、八島は比較的いい給料を支払ったので、乗組員の士気は上々でした。


 目的地のメリッサまでは、アグイラから直線距離で約2600キロメートル。

 風と潮の流れも加味すると、約2800~3000キロメートルの航海になります。

 物凄く遠くでは無いのですが、近くもありません。


 イメージとしては、東京~香港、もしくはロンドン~ジブラルタル程です。

 ただ、途中には寄港できるヴェネロ島やバラ島が存在するので、季節を選ぶ上に荒海のロンドール海峡を抜けなければいけない北行船団航路よりは、遥かに優しい航路でした。


 ……それまでは。




雰囲気変えてみました。

約2500字×六本編成です。

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