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2-D100-30 愛の神11 & 船の神11

ユキは救出された。

それを知らない『愛の神』マリヴェラは、今日もマグヘイレンの旧王宮へ向かったのであった。



 『愛の神11』



 俺は今、空を飛んでいる。


 昨日は失敗しんした。

 天使族はゾンビでありんす。

 もっと耐久戦の準備をしないとダメだな。


 それとも、主都を焼いて脅しんすかねえ。

 って、クソ、どんどん『ありんす』が混じりやがるな。

 ちょいちょい意識も飛んでるし……。

 昨日だって、気付いたら撤退してたしな。

 『ありんす』にその時の状況や撤退の理由を聞いても答えやがらねえ。


 今日は取りあえず、朝早くリヴェンジ号を発ってマグヘイレンの上空に来たけれど、どうしたもんか。

 長期戦にはなるだろうが……。

 あの城、正攻法でイケるか?

 ……それとも、街を焼くか?

 街中で戦闘されたくなきゃユキを渡せって言ってみようか?


 俺の眼下に、マグヘイレンの港が広がっている。

 幾つかの帆船が錨を下しているが、活気は見られない。


 そうだ、まずはここを焼こう。


 マグヘイレンの港なんだから、人魚ビジネスにも間違いなくかかわっただろうし。

 降りてみよう。


 そう考えて高度を下げた俺の視界に、懐かしい船影の姿が飛び込んできた。


 あれ?


 スパロー号だ。

 帆は畳んでいるけれど……。

 うん、間違いない。

 いつの間にあんなところに錨泊してたんだろ。

 ずうっと北を大回りしてこっちに来たのかな?

 何をしに??

 艦長はロジャースかな?


 しかし俺がその上空を旋回しても、甲板には誰もいない。

 マスト上の見張り台にもいない。

 おかしゅうおざんすね?

 ふわりと艦尾甲板に降りたつ。


 間違いない。スパロー号だ。

 ある程度船材が変わっているモノの、この俺が間違えるはずがありんせん。


 二年ぶりだ。


 ついつい、懐かしさに辺りの手すりを撫でてしまう。


 船体に対して「知る」を使うも、レジストされた。

 スパロー号は、心臓部の魔道装置周辺以外は概ね普通の(ふね)なんだ。

 レジストされるなんてありえない。

 益々訳が分からない。


 トントン、と小さな階段を降り、キャビンへと向かう。

 衛兵すらいない。

 俺は心配になりんした。

 何か事件に巻き込まれているんじゃないだろうな。


 乗組員全員人質になってしまったとか?

 それにしては艦がこんな所に居るのは解せない。


 コンコンとノックをして、キャビンのドアを開けた。


 居た。


 だが、そこに居たのはロジャースでは無かった。


「……魔王様?」


「おう。マリ公だな。座れ。」


 魔王様。

 魔改造した和装に、茶筅結びにしたピンクの髪の毛。

 二年前のあの時以来だ。

 魔王の言う事が正しければ、この世界は彼女が新たに作り出した世界なのであった。


 言わば創造神だ。


 俺は言われるままに椅子に座る。


「なぜ、魔王様がこの様な所に?」


「うむ、それがな……」


「どうされましたか。珍しく歯切れの悪い」


「バグなのだ。貴様にはすまぬことをした」


「っ!」


 背中一面を、焼けつく痛みが襲い掛かった。


(何だコレ?!)


「ぐあああぁぁ!」


 反射的に体は仰け反ろうとしたが、背中が椅子に貼りついたようになってまるで動けない。


 椅子か?

 椅子になんかあるのか? 

 この椅子おかしいぞ??

 全ッ然、床から離れねえし!


 す、「水化」を……「炎化」――――「愛の炎!」


 出来ねえ!!

 出ねえ!!!


 ヤバい、『ありんす』! 出てこい!!


 魔王が椅子から立ち上がり、俺の横で動けない俺を見下ろした。


「聖なる釘」


「?」


「そう言う魔法が有るのだ。高聖属性と高金属性が成しえる珍しき魔法がな。如何なるものをもその場に固定するのだ」


 その魔法がどうしたってんだ?

 もしかして、今俺を攻撃してるのは……?


「ま、魔王様が?」


 魔王は悲しそうに首を振った。

 こんな魔王の感情は初めて見た。


「マリヴェラが、だ。お前は……ここで死ぬのだ」

 

 死ぬ?

 え?

 マリヴェラ「が」?


 何言ってるんですか魔王様?


 死ぬ……俺の事?


 俺……もしかして、もう飛べないのか?



――――



 『船の神11』



 終わった。


 影免で切り落とした首は、床の上にゴトリと落ちた。


 国を一つ滅ぼし、あちこちの港を焼き、多くの者の命を焼いた「炎のマリヴェラ」は、死んだ。


 神族にしてはあっけない結末だが、多分、魔王は彼を「死」という言霊で縛ったんだと思う。

 魔王の存在力は圧倒的だし、「言霊」の実際のシステムを作ったのも魔王だ。

 だから、赤い鬼神は「俺はこれで死ぬ」と感じ、納得してしまったのだ。


 赤い光がふわりふわりともう一人の俺だった存在から立ち昇った。

 魔王がその胸へずぶりと手を差し入れた。

 そして引き抜いた掌には、大きなルビーに似た宝石が。


「思念石ですね?」


「うむ」


「飲め」


「え?」


「これは、間違った世界へとまろび出てしまったとは言え、

 貴様でもある。貴様はこの狂った『愛の神』が何を見て何を感じたか、

 己の物としなければならない」


「愛の神……」


 思念石を失った遺骸は、あっという間にスパロー号のキャビンの空気となって消えてしまった。


「予のミスによって生まれた存在かも知れぬ。

 が、それすらも運命の一部なのかもしれぬ。

 それ以上の事は余ですらわからぬ」


 俺は思念石を手に取った。


「予の見立てでは飲んだとて問題ない。しかし安心せよ。

 万一貴様が逆に飲まれたら、予が直々に手を下す。

 ロンドールの連中には『相打ちであった』と報告して遣わす」


「はあ。サービス万全で有難い事ですね」


「まあな。しかし、成功すれば貴様はあの『愛の神』の全てを受け継ぐであろう」


「え……記憶だけではなく、能力もですか?」


「左様。当たり前の話だが、甲種の思念石なんぞを飲んでも何も起こらん。

 それ所か、おかしくなるだけだからな?

 此度のようにほぼ同じ魂の波動を持つ存在で無いとダメだ。

 甲種が稀に共食いの果てに強大化するのは、これに近い現象である」


「強大化って……。今、なんかフラグ立ちました?」


「何だ? フラグだと? 大丈夫だといったら大丈夫だ。とっとと飲め」


「ま、まあ、魔王様の事ですから、別の世界でとうに失敗……いえ、実験済みなんでしょうし……」


「フン、聡いのは嫌いではないが、時と場合による。貴様、やはり随分しつこい性格だな? ん?」


 魔王がにじり寄った。

 顔が近い。

 俺は後ずさった。


「とと、とんでもございません。決して悪くなど……」


「もういい。飲め」


「畏まりました」


 俺は観念し、口を大きく開けて、艶やかな赤い石を飲み込んだのであった。


結局纏めちゃいました。(*´Д`)テヘ

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