表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

105/114

2-D100-28 クーコ、走る

クーコは『船の神』マリヴェラが指示した通り城内を疾走した。

主であり親友であるユキの元へと。


 クーコは走った。


 途中、何人かの使用人とぶつかりそうになりながらも、ユキが居る塔の下まで。

 この城への潜入自体が急な事だったので、ナイフ一本しか持ってきてはいないが、今のクーコには大したことではなかった。


 ナイフを口に咥え、四つ足で音も無く階段を駆け上がる。

 最上階。鉄製の扉の前に、衛兵が一人座っていた。

 スケールメイルを着込み、頭には鉄兜を乗せている。


 しかし待たない。止まらない。

 

 衛兵がクーコを認め動こうとした時には、クーコの膝が衛兵の顔にめり込んでいた。


「ぐおっ!」


 次いでナイフで手甲が覆っていない指先を薙ぐ。

 クーコは衛兵の腰に挿してあるショートソードを奪い、顔面に突き刺した。


 動きを止めた衛兵は、大型の人型魔物ホブゴブリンだった。


(打たれ強い妖魔系じゃなくてよかった)


 クーコは衛兵に止めを刺し、その腰回りを探った。

 鍵束が見つかった。

 そして、幾つか目のカギで、ようやく開く。

 扉が開いた。


「……クーコ? 本当に?」


 懐かしい声。

 自分の主であり、親友。

 護れなくて、動けなくて。

 どんなにこの二年悔しい思いをしたか。

 でも、もうそれもどうでもいい。


 クーコはベッドに腰かけているユキの胸に飛び込んでいった。


「申し訳ありません。二年も……」


 クーコは泣きながらやっとの事で謝罪の言葉を口にした。

 逆にユキの方がクーコの背中を撫でて慰めた。


「ううん。大丈夫。クーコこそ無事だったのね。来てくれてうれしい」


 クーコはユキを繋いでいる鎖に気付いた。


「足枷?! ……何と言う……!」


 鎖を引き千切ろうとしたクーコの腕を、ユキが触って止めさせた。


「ねえ、マリさん来てるでしょ?」


「……はい。良くお分かりですね」


「うふふ。つい今しがた気づいたの。ほら、そこ!」


 ユキが部屋の入り口を指さすと、そこに水の塊が出現し、マリヴェラの形をとった。

 『船の神』の姿だ。


 マリヴェラはウインクすると、ユキに手を振った。


「正解でーす。いよう。お久しぶり!」


「……何それ。全然別人じゃないの」


「まあな。何ならお前の恰好になってもいいんだけれど?」


「やめて。もう……」


 今度はユキの目から涙がこぼれ、止まらなくなった。


 マリヴェラはユキに歩み寄って、軽く額にキスをすると言った。


「今、俺の分身が連中の相手をしてるけれど、時間がない。今から脱出するから」


「どうやって?」


 クーコは訊いた。

 外には天使族もいる。

 階段の下から兵士が登ってくる足音も聞こえてきた。

 普通に考えれば、絶体絶命である。


「お前らを『水化』して外の堀から逃げる。もう水路は繋いであるんだ。

 ユキは多分できると思うけど。どうするクーコ、また『スリープ』使うか?」


 クーコは首を振った。

 眠らされると、何かあった時に即応できない。

 マリヴェラが言っているのは「俺と一心同体となって脱出しよう」ということ。

 一度は受け入れているとはいえ、普段なら拒否しているだろう。

 でも今なら何でもできる。

 皆で家に帰れるのであれば。


 マリヴェラが笑顔を弾けさせた。


「よし、じゃあみんなで帰ろうか!」


 その時、地響きと大きな揺れが旧王宮を襲ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ