表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

104/114

2-D100-27 船の神10 アンタ、船は好きか?

首尾よく城の中に潜入した『船の神』マリヴェラとクーコ。

外では『愛の神』マリヴェラと、天使族マグファイブの戦闘が続いている。

その中、ユキを監禁している張本人ムビ・マーサに相対したマリヴェラは、一体どうするつもりなのだろうか?!


 

 「水化」で糸状に伸びた俺のセンサーは、大統領の息子ムビ・マーサの居場所を捉えた。

 

 奴は玄関ホールに居る。


「行こう」


 隠れることなく、クーコと連れ立って廊下を堂々と歩く。


 だって、この城の主の奥さんなんだぜ?

 そばの部屋から出てきたメイドが、俺を見つけた。

 驚いて、何も言い出せずに立ちすくんでいる。

 俺はそんなメイドに駆け寄った。


「ねえ! 大変なのよ! あの鬼神がこの城を粉々にする魔法を使ったの!

 なるべく早く皆に外に出るように伝えて!」


 と、迫真の演技だ。


 後でクーコに聞いた所、


「大根」


 の一言で片づけられたのだが。


 メイドは頷いて何処かへ走っていった。


 さて、玄関ホールだ。


 表からは衝撃音や爆発音が続いていた。


 そんな外に通じる大きな扉を、一人の天使族が沢山の兵士に囲まれながら見つめている。

 仕立てのいい背広を着ている太った天使。

 ただ、天使族と言う一族は、顔がいい。

 ギリシアの彫刻みたいに彫りが深く、整っているのだ。

 へんてこな悪魔族とはまるで違う。


 俺はクーコにすぐそばの通路を示した。


「ここを行って突き当たりを左。そのまた突き当りを左。すると、向こう側の回廊に出るから、今度は右。またまた突き当りにユキが閉じ込められている塔への階段がある。丁度今言った通路には兵士はいない。塔の上だけだ。行けるか?」


「……色々言いたい事はあるけど分かったわ」


「取り合えず、衛兵を何とかしたら、ドアを開けて。そこだけ密封されてるんで、入れないんだ。それでユキを確保したら待っていてくれ」


「衛兵は何とかするけど……。もし、あの赤い方が来たら?」


「抵抗せずに言われたままに従って。何とかする」


「天使の方が来たら?」


「同じくだ」


「信じてるから」


「ほんとかよ!」


 クーコは「戦闘モード」の猫娘に変身すると、脱兎のごとく走って消えた。


 よし、じゃあやるか。


 俺は物陰から姿を現し、ムビ・マーサに叫んだ。

 

「この城は今から3分後に崩れ去ります! 皆さん外に避難してください!」

 

 ホールに響き渡る声に、そこにいた20名ほどの兵士たちがどよめいた。

 獣人や妖魔、色々いる。

 もちろん、このような場所に居るのだから雑兵な訳はない。


「ああ? 何だ? ……ユキ? なぜそこに居る?」


 そう言ったのはムビ・マーサだ。

 如何にも苦々しいと言う表情をしている。


「あなたの妻がここに居てはいけませんか?

 危険です! あの鬼神が魔法を使ったのが分かりませんでしたか?!

 城が崩れるのです!」


 再びどよめき。

 兵士はお互い顔を見合わせている。


 俺はムビ・マーサに歩み寄り、繰り返した。


「早くお城の使用人さんたちを避難させないと! 危険です!」


「黙れ!」


 ムビ・マーサが叫んだ。

 そして俺の方へと歩み寄る。

 俺はその分後ろへ下がる。


「お前。似てはいるが偽物だろう? そう言えばそれらしき噂が流れていたからな。魂胆は何だ? おい、兵士ども何やっている? コイツを捕え、ユキがいるか見て来い!」


「はっ!」


 と、数人の兵士が走っていった。


 その時、外から歓声が上がった。

 扉が開かれ、外に居た兵士が中に顔を覗かせ叫んだ。


「鬼神が逃げました!」


 中に居た兵士も歓声を上げた。


 俺も作り笑いを見せた。


 内心はマグファイブに感心していた。

 多分グリーンだけじゃないと思うけれど、あの炎のマリちゃんを退けるとはね。

 アホみたいな回復力も、立派な武器だよなあ。


 俺はそんなのとは戦いたくないね。

 だから逃げるんだ。


 ムビ・マーサだけは緊張を崩していない。

 軽く顎を上げて、俺の方に突き出して見せた。


「どうやら鬼神は去ったようだ。この城はまだ崩れておらんぞ?」


「そのようですね。でも崩れるのは確定済みですよ」


「馬鹿な事を……ん?」


 ムビ・マーサが戸惑ったのは、メイドたちが何人か、玄関ホールに入って来たからだ。


「お前ら何をしに来た?」


 俺が答えた。


「この城から避難してもらってるのさ」


 正にその通り。


 ユキの姿で言いまわっただけではなく、城内のほぼ全てに張り巡らせた糸が声で知らせたのだ。

 既に、裏の勝手口等では避難が始まっている。


「戻れ! 勝手な事……」


 俺は最後まで言わせなかった。


「ムビ・マーサ!!!」


 いきなりの大音声だった。

 言われた本人も兵士も、ポカンと口を開けた。

 俺は続けた。


「なあ、ムビさんや。良い事を聞かせてあげる」


「は……?」


 扉が開いて、マグイエローが入って来た。

 黄色いタイツなので多分そうだ。

 異様な雰囲気に身構えたが、ムビ・マーサが手で制した。


「アンタ、船は好きか?」


「船……だと……? そのような物、我らは飛べるからな。不要だ」


「そうかい。一応、物流を担ってるんだけれどな。結構重要な輸送インフラだから覚えておいた方が良いぞ」


「だから何だ?」


「俺はね、前の世界でも船が好きでねえ」


「……?」


「珍しい船が、住んでる場所に近い港に来ると、カメラを手に見に行ったもんさ」


 突然始まった俺の自分語りに、ムビ・マーサもイエローも兵士も戸惑っている。


「でね、たまに、海上自衛隊やアメリカ海軍の艦船が一般公開されると、必ず行く事にしていた。ま、今じゃそれももう遠い夜の夢、なんだけれどな」


「貴様、乙者か?」


 俺はとっておきの笑顔を見せながら、変身を解いた。

 白い光が一瞬だけ全身を包むと、もう元の姿――――大和撫子マリちゃん――――に戻っていた。

 そして、さっと優雅に礼をした。


「あ、まだ名乗ってなかったっけね。失礼! 始めましてムビ・マーサ閣下。俺の名は、マリヴェラ・ムーラン・ロンドール。本物さ!」


 ムビ・マーサが一歩下がった。


「まさか、本物か! 生きて……」


「まあね! それで、俺は俺の身内を取り返しに来た。それだけの話。でもね、邪魔をするならこの大陸丸ごと更地にしてもいいんだよね。分かる?」


 実際には、今の俺では大陸を丸ごと滅ぼすなどできない相談だ。

 しかし、もしユキがどうにかなるならば、俺は何だってするだろう。


 俺は自分の笑顔が消えていたのに気づいた。

 無理やり表情筋を動かし、笑顔に戻る。


「話の続きをしよう。それでね、俺が乗った事のある船で一番印象に残った船はね……。アメリカ海軍がある時、世界でも最大級の軍艦を一般公開したんだよね。そりゃあもう凄かった。アレに比べればガレオンなんか小さいもんだよな」


「アメリカ? なんだそれは。いや、貴様は何を言いたい?」


「おおっと、残念! そろそろ3分だ。では皆さん、ごきげんよう」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ