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2-D100-25 船の神9 潜入 

旧王宮を偵察していた『船の神』マリヴェラとクーコ。

天使族の護衛「マグファイブ」が待ち受ける旧王宮に赤い流星が堕ちて行く。

それは吉兆なのか、それとも凶兆なのか。

賭けに出る刻は今。

二人は走りだした!

 

 起こったのは、まずは爆発だった。


 旧王宮全体を覆う強力な結界によって、赤い光は阻まれたかのように見えた。

 しかし両者が触れ合って火花を散らした後、赤い火球が出現。

 火球は膨れ上がり、結界は押されて城の方へと大きくへこんでしまった。


 いや、それはそれで結界すげえなと思う。

 ただの爆発じゃなくて、コントロールしてかなり収束させた爆発だったもんな。

 そうで無かったら、結構離れた所に居る俺たちだって危なかったかもしれん。


 マグヘイレンって魔法に関することは世界一ィィらしいのだが、その片鱗を見せられた。


 しかし、次の瞬間に結界は刻まれてあっけなく消えた。


 普通の人間には見えないだろうが、白く細い糸のようなものが炎のマリヴェラの周りを乱舞している。

 鋼線……。ではなく、やはり炎系の何かか。

 あいつ、攻撃力高いよな……。羨ましい。


 ここでようやくグリーンが飛び出し、空中で赤い奴と相対した。


 ああ、お互い自己紹介してやがら。

 二人ともノリがいいのかバカなのか。

 幸い風下なので良く聞こえる。


「待って居たぞ悪の鬼神! お前の悪行もここまでだ!」


「はぁ? 何言ってんだ誘拐魔! 何とかレンジャーみてーなカッコしてるくせに、か弱い女の子を監禁してるとはな!」


「く……こ、こちらにも大人の事情と言うモノがある!」


 うわあ。

 グリーンさん、それ言っちゃダメでしょ。

 と俺は内心つっ込んであげた。


 赤い奴……こいつが偽マリヴェラ、いや、本物ではあるけれどこの世界に来るべきでなかった中村賢の成れの果て。


 見た目こそ、見慣れた形の(黒に染まってはいるが)ワンピースを着た、スタイルのいい女なんだが。

 背中を流れる長い髪の間から延びる、赤い羽根。

 身体の周りにチロチロと燃える炎を纏い、額には2本の角がある。


 あの角が鬼神化の印かな?


 一応、自分の事を「ナカムラ」って名乗ってたな。

「マリヴェラ」とか名乗っていたらどうしようかと思ったわ。


 しかし、グリーンってバカだろ。


「あの塔の最上階に居る奥方様には指一本触れさせん!」


 だって。


 他の色の奴に替わった方がよさそうだぞ?


 案の定、二人の勝負は数分で終わった。


 グリーンの方は魔力を使った銃器を撃つスタイル。

 鬼神のナカムラの方は、さっきの白い糸を振るっている。


 その白い糸が曲者だ。


 石でできた城の壁に触れるだけで、そこがすっぱりとバターでも斬るように切り落とされる。

 直ぐにグリーンも周りを取り囲まれて刻まれてしまった。


 面白い事に、彼が纏っていた鎧は白い糸に抵抗しており、したがって刻まれたのは鎧の覆っていない部分だけ……。


 あ、いや、糸が胴体を空中に保持したまま中ほじくってるな……。


 うわあ。見なきゃよかった。

 内臓御開帳だ。


 ま、天使族ってのはあんだけバラバラにしても復活するしな。

 あーでも、あの鎧相当いいモンだぞ。

 拾って持って帰ったらダメかしら?


 クーコが俺の袖を引っ張った。


「ねえ、マリさん。あんなのに勝てるの? そもそも、近づくことすら……アタシには想像もできない」


「えっ? 炎のマリちゃんの方? 正面から戦ったら無理さ。 百に一つも勝てないよ」


 そりゃそうだ。

 あいつがファイアボール一個寄越しただけで、俺はお陀仏確定だもんな。

 船は燃えやすいんだ。 


「でもさ、あいつが俺なんだとしたら、時間はかかろうとも絶対に会える。

 無傷でね。それは初めから全然心配してない。

 もしそうしたら、影免は持ってきてるんで、チョンと首を切ってみるさ」


 影免とはワクワクの国宝で、所謂「魔剣」の一つだ。


「出来るの? 大丈夫なの?」


「そん時になったら魔王様も手伝ってくれるってさ」


「魔王様がそうおっしゃるのなら」


「俺だけじゃダメか? 信用無いなあ」


「無いでしょ?」


「へいへいすみませんでした」


 鬼神は放り出したグリーンの残骸を見下ろすと、ゆっくりと飛びながら城に近づいた。

 そして先ほどグリーンが守っていた塔の最上部にある窓を覗いた。

 「奥方様」のいる場所だ。

 窓には鉄格子が嵌っており、彼はそれを両手でつかんだ。

 鉄格子に変化はなかったものの、窓は直ぐに融け去り、鬼神は中に居る誰かと会話を始めた模様だ。


 多分、それはユキなんだろう。

 ああ。会いたい女がそこに居る。

 もう何もかも捨てて、俺も今すぐ行ってしまいたい。


 ……ん?


 今すぐ? ……そうか。


 これは天啓だ!!


「クーコ! ここだ!! 行くぞ!!!」


 俺は走った。クーコもちゃんと付いてきた。


 勿論、鎧の回収が目的ではない。


 走りながらユキの姿に変化した。


 城門は固く閉まっていた。

 俺らは城壁を駆け上がった。

 勿論、あの鬼神の死角である。

 今なら結界も解けている。

 城内に飛び降りた。

 警護している兵らは鬼神のいる方を見ているので気づかれない。

 クーコにささやいた。


「一番近くの窓を破って入る。離れるなよ?」


「了解」


 玄関や中庭の方がまた騒がしくなった。

 歓声が上がっている所からすると、増援でも到着したのだろう。


 俺は城の建物にとりつき、2メートル上方の窓を足を延ばして覗き込んだ。


 そこは書斎らしかった。

 誰もいない。


 「水化」させた手を窓と窓枠の隙間に差し込み、内側から鍵を開けた。


 普通の窓だね。チョロい。


 城壁の守りが結界で完璧であるほど、中のセキュリティはゆるい。

 世の中そういうもんだ。

 だって、重要な軍施設とかでない限り、超高価なセキュリティで建物を守っているなら、建物内部のセキュリティにお金かけたくないじゃん?


 先ず俺が入り、上から腕を伸ばしてクーコも引き上げた。

 書斎の中でしゃがみ、クーコの息が整うのを待った。


「よし。これで目的は達成したも同然。間違いさえなきゃ、ユキ救出に関しては何とかなる」


「随分自信があるのね。一体どうするの?」


「とっておきのプレゼントを用意してるからね。ただ、ここのクソ野郎に雇われているだけの使用人たちを巻き揉まないように、一芝居討つ必要があるんだよね」


「一芝居?」


「ま、それは見てのお楽しみ。で、今、俺は『水化』した身体を、城の全てに張り巡らせているんだ」


 と、細い水の流れが繋がる人差し指を見せた。


「一緒に行くだろ? ユキの『旦那』様に、これからご挨拶と行こうじゃないか!」


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