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2-D100-23 船の神8 赤い流星

無事フロールに会えた『船の神』マリヴェラ。

マグヘイレンに潜入し、クーコと共に、ユキが監禁されている場所を偵察に出かけたのだが……。

彼らが目撃したのは、赤い流星だった。



「一体何をやっているの?」


 マグヘイレンの首都にある安宿から出かけようとしている俺に、クーコが問いかけた。


「んー? 何って、お散歩」


「ユキ様の恰好をしてわざわざ目立つようにあちこち出没するのがお散歩?」


「まあね。炎のマリちゃんの方の動きも読めないし、幾つかあるプランの内の一つを実行中ってワケ」


「ふうん。ねえ、一緒に行っていい?」


「いいよ」


 と、二人で外に出た。


 なお、ユキの母親フロールは例のひんぬー寺院に残っている。


「旧王宮内に居るはずのユキが外を出回っている」


 という噂をバラまくように、祥州に居たクエル君にお願いしていた成果が出始めているし、そんな場所にユキそっくりのフロールが来ると、とばっちりを受けかねない。

 ただでさえ炎のマリちゃん討伐の為に軍が騒がしいし、海沿いに位置する首都から内陸へ避難し始めている住民もいる。


 だが、この混乱は俺にとって望む所。

 旧王宮に入れないのであれば、入れてもらえばいい。

 その為には、多少の混乱はあった方が良いのだ。


 ただ、今回はユキの恰好ではなく、本来の俺自身プラスアルファ、つまり船の女神に狐の尻尾を生やした格好で出歩く。


 一日一度は行っている、旧王宮周辺の偵察だ。


 街を離れ、手入れされた林と田畑が交互に現れる郊外の田園風景を抜けると、旧王宮は麓に川が流れるこんもりした丘の上に建っている。

 王宮と住民たちは呼んでいるが、実際は石造りの城だ。

 本格的な、例えば祥州等の城と比べると小さめであるし、パッと見は防御施設も大した事が無いように見える。

 城壁は頑丈そうで、麓の川から水を引き込んで堀と成しているが、それだけだ。

 フロールが言うように、本当に結界が有るのだろうか?

 「しる」で見るだけでは分からない。

 もっとも、最高の結界ならば、そこに結界がある事すら分からない物なのかもしれない。


 一番大きな問題は、炎のマリちゃん対策の為、ここの防御を天使族の特殊部隊「マグファイブ」が統括することになった点。

 

 マグファイブだぜ?


 5人の原色全身タイツを着たやつらが悪者を倒すってやつ。


 聞き込みによると、国民には絶大な人気があるらしく、たまに首都においてヒーローショーを開催するんだそうだ。

 魔カメラで撮影したピンナップも売ってたし。


 ナンていうか……。


 推測するに、最近来た乙者のせいなんだろうけど。

 まあ、本人たちが楽しければいいんだけど。


 ねえ?


 で、その彼らってのが、フロールが「俺に匹敵する天使族10人」と言う、その内5人なわけで。

 つまり「冥化」を使えない俺にとって、強襲っていう選択肢は難しいのだ。


 旧王宮を望める場所を通る道を二人で雑談しながらゆるゆると歩く。

 すると、城の塔の天辺に誰かが立っている。


「おいおいクーコ。あそこに立ってるやつ見えるか?」


「うわ、まるでマリさんみたい」


「ちょっと、ナンか俺の事馬鹿にしてね?」


「気のせいよ?」


 多分、アレがマグファイブだ。

 緑色の服だから、マググリーンだろう。

 いや、全身タイツだから中の人が本物のマググリーンかは確かめようがないんだけれどな。

 強そうなのは確かだ。


 しかしまあ、大統領のお子様だからって随分好き勝手にできるもんだね。

 軍の特殊部隊を動かしちゃうなんてな。

 次期大統領就任は確実なのかな?

 略奪婚するような屑なのにな。


 こっちじゃそう言うのがステータスになるのかとも思ったが、フロールらによるとそうでも無いという。

 よくわかんないよな。



――――



 俺とクーコは作戦会議だ。

 道を歩きながら、念の為に小声で喋っている。


「アタシがマリさんを捕まえた事にしてお城に突き出すのどう?」


「どうやって捕まえた? とか色々無理過ぎじゃね?」


「でも、マリさんが言うような、『自分が本物のユキです』って言いながら城門を押し通るのも駄目でしょ」


「そ、そうかな? そのシナリオをずっとプランAで考えてたんだけど」


「ああ……魔王様は仕方ないとして、やっぱりフロールさんに来てもらうんだった」


「すみませんね。フナ虫レベルで。……おっと、馬車が来るな」


 街の方から旧王宮まで伸びる道を、馬車の列がやって来た。


「ひいふうみい。結構な数だね」


 先導している騎士が、道端に立っている俺達を見つけると、駆け寄ってきて言った。


「お前ら、邪魔だ。ムビ・マーサ閣下がお通りになられる。道から退け!」


 俺とクーコは顔を見合わせると、大人しく言われたままにした。

 流石に「頭が高い」とまでは言われなかったが、大統領のご子息とは随分お偉いお方なようだ。


 砂埃を巻き上げて、大統領の紋章の入った馬車は過ぎていった。


「何あれ」


 クーコの機嫌が悪化している。

 それはそうだ。


 今通ったのは、ユキを攫ってクーコを半殺しにした奴の息子で、ユキを監禁して嫁と称している男だ。


 あ、やべ、俺も腹立ってきた。


「残念。黄金のマリちゃんならナンて事は無かったんだけれどな。今の俺じゃあのマググリーン一人もどうかな」


 フナ虫め、と俺は罵られるかと思ったが、クーコはそうしなかった。


「悔しいね。でも絶対何とかしようね」


 クーコはそういったのだった。


 二人で時間が許すまで、旧王宮の周辺を探った。


 結界。マグファイブ。


 もうそれだけで鉄壁。

 軍隊で襲い掛かっても駄目なんじゃないのか?

 やはり、予定通りユキに化けて入り込むしか……。


 クーコと二人でため息をつき、街に戻ろうと踵を返し始めた時。

 俺達にとっての奇跡が起こった。


 突然、城の中から早鐘が鳴り始めた。

 マググリーンを見ると、彼は空を見上げている。

 その視線を辿ると、落ちかかった日の光を受けているのか、赤い光が空を飛んでいる。


「クーコ、あれ……」


「あら? 流星?」


「いや……」


 赤い光は、二三度上空で旋回をしてから、旧王宮へ目掛け急降下を始めた。


 あれはきっと、通常の3倍速い。


 俺達は木の陰に潜み、どこか美しいその光景を見守ったのだった。


祝100話!

か、勘違いしないでね!

最近一話当たりの文字数が少ないのは、構成上の問題なんだからね!


いえ、本当に、「ウイングオブヒュブリス」と「報告書」を一緒にするとか、当初はそんなだったのですよ。でも流石になあ……と。


ともあれ、ここまでお付き合いいただいて有難うございます。

……泣いてませんよ?


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