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御伽噺に導かれ異世界へ  作者: ペンギン一号
夏の最後の思い出に
74/75

地獄の連鎖は止まらない

冒険者ギルド回







魔法ギルド、その一室で蠢く一人の人物。


「んふふー、食べちゃうよー!」


机の上に乗せられたクッキーを前にフーパは息を荒げながら興奮する。


「ずっと待ってようやく手に入れた高級クッキー…ストレス発散だー!」


紅茶を空へと掲げるその姿に、日頃のストレスを感じさせる様であった。


「へぇ、ギルドマスターがこんな時間にクッキーパーティなんていい身分だな」


「っ、ツムグ君!?何でここにいるんだい!」


「俺の兄弟達にギルドを見せてあげようと来たんだが。

まさかギルドマスターともあろう人物がこんな時間に一人でパーティしてるとは」


「い、いや今は休憩中で…」


焦りながらしどろもどろ話すフーパ。

テンパっているのか、背後から近づくハンターには気づかない。


「兄ちゃん持って来たよー!」


「ミッション…コンプリート…」


「あっ!クッキーがー!!」


気配を殺し、息を潜め、狙った獲物は逃がさない。

そんな双子の見事なハンティング技術でフーパの机からクッキーを略奪して来る。

紡へと親指を立てながらキリッとした顔で決める姿はまるでスネー◯の様であった。


「二人ともよくやった、ご褒美にそれ食べちゃっていいぞ」


「「やったー!」」


「ダメだよ!それは僕が予約して漸く手に入れた…あー!?」


フーパの静止など聞く耳持たず、ばりぼりと飲み込む様に少ないクッキーが双子に吸い込まれていく。


「ああ…僕のクッキーが…」


項垂れるフーパへと全てを食べた双子が近寄って行き告げる。


「微妙だったよー」


「三十点…」


「うん。君達は間違い無くツムグ君の兄弟だ…」


「可愛いだろ。俺の自慢の二人だ」


「そうだね…見た目は可愛いと思うよ…」


無くなった皿を見つめながら悲しそうに俯いていた。


「お礼あげるー!」


「さっきのより美味しいよ…」


そんなフーパへと、さっと皿の上にクッキーを生み出し持っていく。


「っ!?…うん、君の兄弟だよ。間違い無く」


先程までのおちゃらけた様子と打って変わり、鋭い刃の様な雰囲気を漂わせるフーパ。

頬からは、一本の冷や汗がたらりと落ちていく。


「有難う、喜んでもらうよ」


―――サクッ…


「え…何これ…」


「どうだ、美味いだろ」


「美味しいなんて次元じゃない。これは一個の芸術だよ。

こんなクッキーなんてこの国にすら無いんじゃないかな」


プルプルと震えながら、込み上げる感情を吐き出す様にフーパは語っていく。

それ程に二人が生み出したクッキーはフーパの心を揺さぶり、衝撃を与えていた。


「丁度いい、今回はあんたに二人を紹介する事も目的だったから。

女の子がチコで男の子がコアだ、何かあったら面倒見てやってくれ」


「分かったよ。このクッキーの為、僕の全権限で守らせてもらう」


「いや、そこまでしなくていいんだけど…」


瞳を燃やしながらそんな決意されても引くわ…


「おじちゃんクッキーが好きなの?」


「いや、僕は甘いもの全て大好きさ」


「だったら…まだ他の甘いのいっぱいあるよ…」


あー、ダメだってそんなこと言ったら、


「本当!?是非食べさせてもらってもいいかい!!」


ほら食いついてきた。


「お兄ちゃん…」


確認する様にチコが此方を見つめる。


「しょうがないな、一個だけだぞ」


「うん…!!」


戦闘狂も妹の可愛い視線には弱い様だ。

二人は紡から許可が下りた為、渡すお菓子を話し合う。


「むー、どれにしよっか」


「…がいい…」


「いいよー決定!!」


何にしたんだろうか。

皿に手をかざす二人へと興味深い視線が集まる。

数秒後、手をかざし疲れたふりをする様に額を裾で拭く二人の姿。

その目の前には、一つの長い塊がドンと置かれている。


「お、なかなか良いじゃないか」


「「でしょー!!」」


「これは…丸太?でも甘い匂いもするね」


見た事もない物体に茶色の側面を軽く突く。


「それはバームクーヘンって言うお菓子だ。俺のおすすめは牛乳と一緒に食べる事だな」


「美味しそうだね!」


宝石を眺める様にバームクーヘンを見つめ蕩けた顔を浮かべるフーパ。


「うふふっ、有難う。これは後で牛乳を買ってきてからのお楽しみにするよ」


嬉しいのか知らんがその笑い顔は正直キモいぞ。


「あ、そう言えば紡君、ついにやっちゃったらしいね」


「ああ、冒険者ギルドだろ?安心しろよ更地にはしてないから」


「いや、更地の方が僕的に分かりやすくて良かったんだけど…なんか変な物体が建っているというし、君は一体何をしたんだい?」


「え、いや普通に冒険者ギルドを大きな箱で閉じ込めただけなんだけど」


「はぁ…それは断じて普通じゃないよ…」


いや、そんな呆れられても俺はばあちゃんの真似しただけなんだが。


「一応中で全員生きてるんじゃないか?

中にぶち込んだプレゼントも殺傷能力は無い奴だからな」


「プレゼントって…怖いんだけど」


「いや、プレゼントの内容は……だから」


そこまで酷いことはしてないぞ。

だが、紡から内容を聞いたフーパは顔面蒼白となる。

それにより今まさに冒険者ギルドで起こっている被害が、頭へ次々と浮かび上がる様であった。


「…本当に君は容赦がないね。下手をすると現時点で冒険者ギルドには死人が出ているんじゃないかい」


プレゼントなんて可愛らしく言い繕った時限爆弾。その危険性にフーパは人知れず今まで敵対視していたはずの冒険者ギルドへと祈りを捧げていた。


(僕もこれほどの仕打ちなんて望んではいないんだ。

逃げ出す事は出来ないだろうから、一人でもいい…生き延びてくれ。)


未だに囲まれた箱の中に願う。

たが、いくら願おうと箱の中は…既に地獄に染まっていた。






―――――――――――――――――――






side 冒険者ギルド




宙に浮かぶ狐面が突如消えた冒険者ギルド内では現在、ギルドマスターによる指示のもと脱出作戦が決行されていた。

冒険者達による力技から始まり魔法、熱による破壊工作、その全てを試したのだが結果は…


「…やはりダメか」


ことごとく失敗。

周囲には、ボロボロに朽ち果てた武具を前に立ち尽くす冒険者や、魔力切れから気絶した様に倒れ伏す冒険者が死屍累々を築き上げていた。


「これってまさか本当に…」


一人の冒険者が呟く。

それに呼応する様に他の冒険者達も内心であの言葉が浮かび上がってくる。




『このギルドを隔離させてもらった』




冗談かと思っていたその言葉がここにきて急に現実味を持ち始める。

このまま、本当に此処から出られないのではないか。

直視できない現実に皆が絶望を感じ始めていた。



「ギルドマスター、少しいいか」


そんな絶望が伝染していく中で唯一動けた人間。

それは、


「テール。何かあったのか」


以前の絶望を知る男。テールであった。


「何かあったか…だと…そりゃあったさ」


肩を震わせ、耐える様に感情を噛み殺しながらカレナを睨みつける。


「俺が聞きたいのは一つ。何で冒険者ギルドのタブーに手を出した」


「何だそれは」


「は?…知らないのか?」


あっさりと聞き返すカレナにテールは驚愕を浮かべる。


「まさか…このギルドに訪れた厄災も知らない…」


「聞いた事もない」


「何であんたはギルドマスターやってるんだよ…」


平然としているカレナにあきれ返ることすら超え、殺意すら芽生えていた。


「何だそのタブーというのは」


「ちっ…説明してやる」


テールは既に敬意すらも無くし、イラつきながら昔話をカレナへと語り始めた。



「…では何だ。昔冒険者ギルドはその『モリコ オトギ』という人物に潰されかけたというのか?」


「勘違いしないでくれ、潰されかけたではない。

俺達冒険者ギルドが見逃してもらったんだ。

あの者からすれば潰すなんて造作もないだろう」


このギルド一古株のテールが重苦しく断言するその姿。それは冗談などでは無いと強く物語っていた。


「それで聞いた話ではギルドマスター、あんたは『ツムグ オトギ』へと強制連行を行なったのは真実なのか?」


「…ああ、本当だ」


「ふっ、ふふっ…そう、真実か。あんたは冒険者ギルドのタブー『オトギ』の者に手を出してしまったわけだな」


テールは押さえつけることの出来ない怒りに体を震わせ、それでも耐えきれない感情から、無意識に引きつった笑顔を浮かべる。


「…知らなかったんだ」


(巫山戯るな!もう知りませんでしたじゃ済まない段階なんだぞ!)


責任逃れとしか思えないカレナの発言。それは、テールの殺意を最高潮に高めていく。

コップになみなみと注がれた水の様に、ギリギリで一線を超えない様に強靭な精神力で押さえつけられる殺意。

既にカレナを見つめる視線には若干の殺意が漏れ出ている様であった。


「残念だが、もう知らないでは済まない。

あんたの選択ですでに審判は下されたんだ。

当時と変わらない、ここから先は地獄への一方通行。

此処から正常で何人が出られるんだろうな」


「…」


その言及に苦々しく、苦悶の表情を浮かべるカレナ。

カレナ自身も理解しているのだ。自身が下した間違い、それにどんな存在に手を出してしまったのかを。

ギルド内に渦巻き始めた絶望と共にそれがカレナの心を締め付けていく。


「はぁ…ギルドマスターとしてあんたはギルドに閉じ込められた全ての冒険者達が無事に出られる様に動け。

もしそれが出来なければ、何があろうと俺が殺してやる」


「…申し訳ない」


殺したい気持ちを飲み込み、この場だけでも見逃したテールの心意気。

殺されても文句が言えないカレナは誠心誠意頭を下げる。


テールの心意気により、絶望へと塗り潰されていた冒険者ギルドに小さな、それでも確かな希望が生まれていた。

だが甘い…『オトギ』の絶望は更に押し寄せる。



『『きゃぁぁぁあ!!!』』



ギルドの奥から届く、全ての者達の鼓膜を刺激する叫び声。

小さな希望を胸に、二人は声の元へと向かう。

そこは…酒場用食料庫。

今現在個人が持つ食料を除き、全ての食料が集まる場所。

その入り口で受付嬢の二人が中を覗きながら座り込んでいた。


「何があった!」


「ギルドマスター…食料庫が…」


受付嬢の一人が真っ直ぐと指す先。

カレナとテールは飛び込む様に中を覗き…


「何なんだこれは!?」


「嘘だろ…最悪だ…」


絶望は連鎖する。

二人の視界に映ったのは、

















ゴキブリの山。






食料に群がる真っ白に染められたゴキブリ達であった。



「くそっ!早く食料を取り出す!」


カレナの指示の元、飛び交うゴキブリを払いながら、食料を運び出していく。

時間が減るにつれ、徐々に食べ尽くされていく食料を正しく命がけで守る二人。


「…これだけか」


最終的に守りきれたのは、ギリギリに切り詰めて4日持つかどうか程の食料だけ。


「あのゴキブリは一体…」


未だ食料庫内から聞こえるカサカサという足音に問いかけるかの様にカレナは呟く。


「間違いない。あの『オトギ』の者が言っていたプレゼントだろうよ」


正解。

あのゴキブリこそが紡の残していったプレゼント。

カレナへと仲良く過ごす様に伝えた存在であった。





【お菓子魔法流 悪辣術 暴食白(グラトニーホワイト)(バグ)


食料のみを無尽蔵に貪り食う虫をホワイトチョコレートで作り上げる。

破壊されたとしても、時間が経つと元に戻り再度行動を開始する。

本能のままに食料のみを狙い、その他のものには一切の興味を示さない。


全ての醜悪が塊となった様な悪辣魔法である。






「っ!あれがだと…悪辣がすぎるぞ」


「容赦などしない、それが『オトギ』だ」


「こんな現状どうすればいいんだ…」


「諦めるなよ、あんたはギルドマスターだ。

それにどんな状況であろうがこの状態を作った原因である、あんただけは諦めることを許さない」


精神的にすでに追い込まれている二人。

それは、ギルドへと隔離されてからまだ6時間ほどしか経っていない時点の話であった。


冒険者ギルド。現在此処はパンドラの箱とすら言えない現状。

希望など残ってはいない純粋な絶望のみの箱の中。

ゴールのないマラソンの様に続く絶望が全ての者達を飲み込んでいき…更に地獄は加速する。









こんばんは、ペンギン一号です。

動き始めていた紡のプレゼント、想像しただけでも耐えられない光景…

それにしても、閉じ込められて食料を奪われたら私であれば間違いなく発狂すると思います。

直ぐに動けるギルドマスターとテールはなかなか優秀な様ですね。

今後、少なくなった食料だけで、残った冒険者達は一体どうするのか気になるところです。


次回は、とある新キャラ回。

是非お楽しみ下さい。



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