天使 降臨 解体場
解体場回
「何…これ…」
解体場の光景にミーニャは呟く。
未だ一角に積まれた魔物の山。
自己主張する様に積まれたそれは、解体場へ入ったもの達全ての視線を集めるほどの迫力があった。
「これはツムグさんが本日持って来られた魔物達ですね」
(意味がわからない…
冒険者ギルドがこの街の全ギルド員を導入してもこんなに集まることはないよ…)
現実として紡の異常性を垣間見たミーニャは隣に居る只の少年にしか見えない存在が、常軌を逸した存在へと変わる感覚に陥る。
「気持ちはわかります。ですが、それだけではありませんよ。
異常なのは数だけではありません」
その言葉にミーニャは山を見つめる。
そして、気づいてしまう…
「っ!?」
(な、何でこんな珍しい魔物ばかりなの!!)
高級な魔物が数多く混ざるこの異質な光景に。
「こ、これ全部ツムグ君が?」
「全てです」
あり得ない。
それが頭の中で何度も繰り返される。
そんなミーニャの感情など知らず、紡は更に爆弾を投げる。
「おー、意外と減ってんじゃん」
「ふふっ、グリット達が例のアレを解体したいが為に張り切っていましたので進捗スピードがとんでも無い事になっていますよ」
「減ってるの…これで…」
愉しげに語り合う二人の会話に、ミーニャは驚愕を浮かべて呆然と眼前の光景を眺める。
目の前の見たこともないほどの魔物の山、それが減っているなんて、常人の感覚では追いつくことができなかった。
「おう、ツムグじゃないか。また何か用か?」
サブマスターを引き連れたことで目立っていたのか、グリットが解体を中断して此方へと歩み寄る。
「仕事中に悪いな、ちょっと見学に来たんだ」
「ん?その二人に見せる為か?」
「ああ、俺の兄弟なんだ」
二人を軽く撫でながら、グリットに紹介するように前に差し出す。
「おう、宜しくな」
白い歯をキラリと輝かせながら、二人へと挨拶するグリット。
だが、二人はグリットの目を観察する様に見続ける。
「あー、悪い。血だらけで怖かったよな」
気まずそうに頬をかきながら苦笑いを浮かべる。
そんなグリットの側へとコアが歩み寄って行き、
「おじちゃんカッコいい!」
体に付着した血なんて気にもせずヨジヨジと登り始める。
チコは、ゴツゴツとした手を小さな手でちょこんと握り、
「おじちゃん…いい人…」
華やかな笑顔を向ける。
血だらけの姿なのに平然と近寄る二人に、グリットは嬉しさを感じながらも、照れ臭いのか誤魔化す様に二人をわしゃわしゃと撫でていた。
「ふっ、どうだうちの子達は。超絶的に可愛いだろ」
「…こんなにも子供に好かれるのは初めてだ」
「見た目じゃねぇよ。この子達はグリットさんの本質を気に入ってるんだ」
「それは…嬉しいな」
厳つい顔を全開で緩ませながら、グリットは触れ合いを心から喜んでいた。
「よし、二人とも見学に来たんだろ。色々と見せてやろう」
「「やったー!!」」
グリットは双子を肩に軽く担ぎ、自身の仕事を自慢したいのか意気揚々と解体作業をしている場所へと連れて行く。
「落ちたな…」
そんな背中を見ながら、グリットが双子の可愛さに陥落した事を確信していた。
愉しげに話しながら案内するグリットの背中。
紡以外にそれを見つめる視線がもう一つあった。
当然それは…
「なんであのおっさんは良くて、私はダメなの…」
出会って早々嫌われたミーニャだ。
見た目でも圧倒的にミーニャの方が好かれる容姿をしており、更にグリットは血だらけの姿。
それ程の差がありながらも、チコが選んだのはグリットであった。
その事実に、当然納得ができない。
(殺人鬼の様なあのおっさんと私に何の違いがあるっていうの…)
それは既にチコへの苛立ちに変わり、バレない様に隠しながらも、内心ではふつふつと黒い感情が溢れていた。
そんな姿に、気づく一人の人物。
「やめた方がいいですよ」
隣に並んで紡達を眺めていたテッドは、ミーニャへと苦言する。
「冒険者ギルドが潰れる今、商業ギルドも潰すわけにはいかないのでお話し致しますが、あの双子、いやツムグさんの家族に手を出された場合、理由など関係なく消されると思った方がいい。
それが、幾ら理不尽に嫌われているといってもですよ」
どうやらテッドは先程のチコとミーニャのやり取りを聞いていた様だ。
「ツムグさんは、自身に手を出されなければ自身から動く事は無いでしょう。
だが、家族に少しでも悪意を向けられた途端、それは狂気へと変わる。
手を出した出していないなど関係なく。
そういう人物だと我が魔法士ギルドは理解しています」
「…貴方達は友好関係を築けてるからいいよ、でもそれなら私はどうしたらいいの」
既に嫌われたミーニャは、解決方法が一向に思い浮かぶこともなく、テッドに八つ当たりをする。
「そんな事はそちらで解決して下さい」
知った事かとその疑問を切り捨てる。
その言葉にミーニャが更に気を落とす様に小さくなっていた。
「はぁ…しょうがないですね。
これは貸しですよ。私が見た所、あの子供達は見た目には左右されない、その者の本質を見抜いていると思われます。
小さいあの二人がどの様になど、疑問は残りますが。
私が言えるのは一つ。素直になった方が良いですよ。
どんなに取り繕っても見透かされるだけですので」
それだけ伝えるとテッドは紡の元へと去っていった。
「素直か…」
それは、今まで容姿を武器に商売していたミーニャにとって、殆ど晒したことのない姿。
相手に合わせ性格を弄り、言葉遣いすら変えるミーニャからしてみれば、難しい選択であった。
本性を晒して気に入られなければ終わる。
その恐怖と、晒した事の無い本性を晒す恥ずかしさに一人その場に佇み必死に葛藤を繰り返しているのであった。
「どうだ、中々面白いだろ」
「すごい綺麗だった!」
「おじちゃん達…カッコいい…」
双子にキラキラとした目線を向けられながら褒められる解体職員達。
強面の一団が恥ずかしそうに照れる姿は中々の迫力があった。
「そろそろ行くぞ」
紡の呼び声に双子は走って近寄って行く。
「仕事中に悪かったな」
「気にするな、いつでも来て構わないぞ。
当然その時は二人を連れてだがな」
そんなに二人が気に入ったのか。
背後で作業する解体職員達も深く頷いていた。
そんな姿を見た双子は、ひそひとと秘密の話を始め、二人で示し合わせると、
「兄ちゃん、お皿頂戴!」
何故か皿を要求する。
「いいけど」
鞄から取り出す様に魔導書から皿を取り出すと、二人は楽しそうに皿の上に手を向ける。
そして…
「おじちゃん達にこれあげる!」
「お仕事頑張って…」
二人は可愛らしく微笑みながら皿を二人揃って差し出す。
その上には、いつのまにか山盛りのエクレアタワーが建設されていた。
一瞬の早業に、紡達以外の全ての者達が目を丸くし、テッドに至っては魔法の発動兆候を見てしまった為か、傍で頭を抱えていた。
「ありがとな」
いち早く現実に戻ったグリットが双子から皿を受け取る。
「あー、それはエクレアってお菓子だから冷たい所に保管して出来れば今日中に食べてくれ」
「ほう、これがお菓子か」
ウェルドの街では見たこともない真っ黒なその姿に、興味深く眺めながら、グリットは一つかじる。
「っ!?美味いぞ!!」
「「いえーい!!」」
巨大なグリッドの叫びに双子は嬉しそうにハイタッチしていた。
「それじゃあまた来るな」
「「おじちゃん達バイバイ!!」」
「こんな美味いものありがとな。いつでもまた来てくれよ」
背後から野太い見送りを浴びながら紡達は解体場を後にしていったのであった。
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side テッド
あの魔法は一体…
紡達が去ったことも気づかずに、テッドは一人解決の見えない疑問に頭をフル稼働していく。
「間違いなくあれは魔法。発動兆候からしても間違いないはず。
だとしたら…あの魔力特性は何だ…
発動時空間に歪みができていない時点で収納系はあり得ない。
だが、だとしたらあのお菓子とやらは魔力から生み出された…
いやそれはない筈だ。そんな魔法聞いたこともない。
ならば、伝説の転移系統…こんな所でわざわざ見せびらかす様に使うなんてあり得るのか…」
解決しない疑問と次々と湧き上がる謎。
それがテッドの頭を拘束していく。
そんなテッドの耳に届く野太い歓声。
『んな!?これすげぇぞ!』
『美味すぎる…』
『お前、食い過ぎだ!俺の分きちんと残しとけ!!』
『あの二人は天使か…』
『何言ってる、天使に決まってんだろ』
差し入れのエクレアに手を伸ばし口から生やしている男達の姿がそこにはあった。
不味い!一つでいい、あの黒い物体を回収しなければ!
究明の為、サンプルとしてエクレアを求めるテッド。
「グリット、悪いが私にもそれを一つくれないか?」
「…テッドさん。あんたの頼みでもそれは聞けねぇ。
これはあの子らは俺達に差し入れとくれた物だ。
かけらも残さずきちんと俺たちが食べるのが筋ってもんだろう」
格好つけて語るグリット。背後で肯定する様に頷く解体職員達。
だが此奴ら、実際にはこの美味いお菓子な上、天使の双子からの差し入れを渡したくないだけであった。
「そ、そんな事を言わずに一つでいいんだ」
「諦めな。これは俺達が命に代えても守る所存だ」
解体場で行われている攻防。
双方の目的は、皿の上に乗るエクレア。
側から見れば、小学校の給食時の様な可愛らしい攻防にその場にいる男達は真剣な表情を浮かべていた。
「はぁ…もう私行っていいかな」
側からそれを眺めるミーニャ。
その残念そうな視線には気づかずに男達は戦い続けるのであった。
こんばんは、ペンギン一号です。
ついに始まった双子天使化計画。
解体場は既に制圧したので、次はどこを制圧してやろうかと悩み中ですね。
このまま可愛らしさを存分に出せればと思います。
次回、悲壮のギルドマスター。
是非お楽しみ下さい。
今回は投稿が遅くなりお待ち頂いた方々に誠に申し訳ありません。




