動き始める各ギルド
各ギルド回前編
Side 冒険者ギルド
「もうそろそろか…」
恒例となった、脱退者リストを陰鬱な気持ちで待ちながら、椅子に背を預けて待つカレナ。
最近では、徐々に離脱者も減り、安定して来ていた為、あまり感傷的になる事もなく静かに受付嬢を待つ。
そんなカレナへと声がかかる。
「ギルドマスター、宜しいでしょうか」
「ようやく来たか」
待ちに待った報告に気を引き締めて、そちらへと振り向く。
そこに居たのは…
「こんばんは、ギルドマスター」
狐面を被った少年。
「なっ!?」
カレナは瞬時に飛び上がり、避けるように退避する。
一定距離を保ちながら、再度確認するが、間違いない。
「『ツムグ オトギ』か…」
城壁で会った少年がそこに居た。
捜索依頼を大々的に出してまで探していた人物。
カレナが待ちに待った少年が何事もないようにそこに佇んでいる。
「そんな逃げなくても攻撃しないぞ」
軽く手を振りながら、自身に向かいそんな軽口を吐くその姿に、本人と確信する。
「な、何の用だ」
ギルドマスターとしてのプライドか、必死に繕いながら問いかける。
「ちょっと報告にな」
「…報告だと」
こんな危険人物からの報告。間違いなく良い話ではない。
此処連日浴び続けている精神的疲労に押しつぶされそうになりながらも、カレナは耳を傾ける。
「ああ、いい加減お前らがしつこ過ぎるからな。此処らで一度追撃する事にした。
多人数に俺の強制連行を命じたんだ、自業自得だろ?」
「っ…」
冒険者ギルドマスターの自分が呼んでいると言えば、敵対していようと素直に従うと信じていたカレナは、ここに来て自身が選択を間違えた事を理解した。
目の前にいる化け物にはギルドマスターであろうと通用しないと。
「追撃は単純。冒険者が此処から出られないように全力で周囲を囲った。
まぁ、もし出たけりゃ出ても構わないぞ。
当然俺は止めないし邪魔もしない。
その代わり、簡単に破れるとは思わないようにな。
此処を囲んでいる箱は俺自身も出られない程に堅牢に作り上げといたから」
淡々と告げられた言葉。
先程から聞こえる冒険者達の怒声にこの話が真実であると実感する。
「それと、此処までしつこくしてくれたあんたにプレゼントだ。
よく食べる可愛い奴らだから解放されるその日まで仲良く過ごしてくれ」
それだけを言い切ると、元からその場には何も無かったようにふわりと消え去る。
見つめていたカレナさえ、紡がいつ消えたかもわからない程にさらりと。
消え去った事で交渉すらも出来なくなった現実に、カレナは顔を歪めつつ、現状把握の為に部屋から駆け出していく。
地獄は連鎖し広がっていく。
今はまだ始まったばかり。
――――――――――――――
Side 商業ギルド
ウェルドの街において商売の全てを管理し、領主すら軽く超えるほどの財力を有する商業ギルド。
その中枢、ギルドマスターの部屋では現在、売上の計上や卸代金の計上など、金勘定に関しての全てをギルドマスターのトーネが管理していた。
どうやら最近では、魔法士ギルドからの卸が増えた事もあり、書類を楽しげに眺めながら、仕事に励んでいるようである。
―――コンコン…
「緊急の報告です。宜しいでしょうか」
「はぁ…こんな時間に報告なんて、一体なんなのでしょうか」
楽しげな時間に水を差された為か、少しむすっとしながらトーネは室内に招く。
「忙しいところ申し訳ありません」
「いえ、それよりも報告を」
促された事で報告に来たものは、重苦しく口を開く。
「つい先程、冒険者ギルドに謎の物体が出現し、冒険者ギルドへの出入りが出来ない状態になりました」
まさかの報告。
冒険者ギルドに現れた謎の物体など、普通に報告を受ければ驚愕してもおかしくない。
それ程に理解が容易に出来ないほどの情報。
当然、突然こんな話をされたトーネも驚愕を浮かべ…
「ついに来ましたか…」
ずに、納得して思案していた。
口に手を当て何かを知っているようなその姿。
報告へ来た者は、変わらないその姿に不安顔を浮かべていた。
「君は戻っていいよ。後は私が受け継ぐから」
伝令の背後からかかる声、その主は幼い顔立ちの少女。
だが、伝令は侮る事もせず、素直に引き下がっていく。
此処、商業ギルドでは知らぬ者のいないその少女。
その正体は…
「ああ、ミーニャ。サブマスターの君がこの部屋に来るなんて珍しい」
「当然、いち早くトーネ君と話さないとならない事案だからね」
商業ギルドサブマスター、『商売幼女』のミーニャ。
それが、この少女の正体であった。
「それで、トーネ君。君は何を知ってるの?
そろそろ私にも教えてくれていいんじゃない」
独断で冒険者ギルドからの卸に対し制限をかけようとするなど、此処最近のトーネの行動に、疑問を感じていたミーニャ。
そして案の定、今回冒険者ギルドへと起こった謎の現象に、彼が何か知っていると確信してミーニャはこの部屋を訪れていた。
「…そうですね。これから貴方にも動いてもらう時があるかもしれないですのでお話ししましょう」
真剣な顔で真っ直ぐミーニャを見つめながら、トーネは重苦しく淡々と語り出す。
「まず、この話は私も、ギルドマスターの席を引き継いだ際、前任者から語られた話ですので、詳しい内容は分かりません。
ですので疑問等は答えかねます」
「分かったよ」
「宜しい。そうですね…ミーニャ。貴方は昔、此処がつぶれかけたという話は知っていますか?」
「当然でしょ。このギルドで知らない人はいないよ。確かギルドマスターが投資に失敗して資金が底をつきかけたって聞いたけど」
今から30年ほど昔。
商業ギルドは多岐に渡り投資を行なっており、地球で言う銀行と変わらない業務を行なっていた。
「そうです。当時のギルドマスターは、投資相手を誤り、資金回収すらできなかった為このギルドは傾きかけた。
では、その投資相手は知っていますか?」
「いや…知らない」
傾いた原因となったギルドマスターだけが注目され、投資相手が知られていない事実にミーニャは不自然な感覚に陥る。
眉間にしわを寄せながら聴いているミーニャへとトーネは変わらない口調で続けていく。
「このギルドを破綻まで追い込み、資金回収すら出来ず、商業ギルドを貶めたその投資相手、それは…」
語られるにつれ、緊張からかミーニャは息を飲む。
「冒険者ギルドです」
そんなミーニャの姿とは裏腹に、あっさりと告げられたその名前。
それは、この街最大のギルドの名前であった。
「なっ!?あり得ない!!冒険者ギルドがそんな事態を起こすなんて!!」
驚愕からか取り乱し、トーネに当たるように叫ぶ。
だが、
「事実ですよ」
残酷にもそれを肯定する。
「っ…もしそれが事実だとして、なんでそんな事になったの!
あり得ない、冒険者ギルドが破綻するなんて」
信じられない事実から逃れるように、問いかける。
「私も聞かされただけですので、詳しくはよくわからないのですが…とある女性か、冒険者ギルドをそこまで貶めたそうです」
あり得ない。そう吐き出せればミーニャはどれだけ楽になれただろうか。
だが、真っ直ぐ語るトーネの姿、その気迫がそれが真実だと訴え、ミーニャの口を閉ざす。
「…」
理解できない事実を必死に飲み込もうと耐える。
「当時、冒険者ギルドを壊滅させた女性。それは、『モリコ オトギ』と言うそうです」
「あ、『オトギ』って…」
「貴方も知っていましたか。
そう、現在冒険者ギルドが敵対している少年それが…
『ツムグ オトギ』
当時壊滅させた者と同じ性を持つ者です」
この時点で、現在冒険者ギルドに何が起きているのかを朧げながら理解していく。
幼い見た目ながらも、サブマスターとして商業ギルドで活躍する彼女は、なかなかに優秀なようだった。
「分かったよ。今はその話を信じる。このまま昔と同じく商業ギルドを破綻させるわけにはいかない。
全て指示に従うから私はどうしたらいい?」
可愛らしいいつもの媚びた姿はなく、戦場へと赴く戦士の様にトーネを見つめるミーニャ。
「まずは現状の確認から始める。私は冒険者ギルドへと向かうので、君は魔法士ギルドに向かい、冒険者ギルドの卸分を搬入出来るかの確認をしてほしい。
もし、当時と同じであれば、以降冒険者ギルドからの素材は滞ると思っておいてくれ」
的確なトーネの指示のもと、商業ギルドも動き始める。
過去のトラウマを引っさげて。
騒動の中駆け回る商業ギルド。
地獄の側で彼らは何を掴むのか。
こんばんは、ペンギン一号です。
初の商業ギルド登場ですね。
紡と今後どう関係を保つのか…
冒険者ギルドの破綻も相まって楽しいことになる予定です。
残したプレゼントもありますしね。
さて次回は、魔法士ギルド回。
冒険者ギルドの現状に魔法士ギルドも動き始める。
是非お楽しみ下さい。




