楽しい実験街中で 2
対冒険者
自身を実験対象としか思っていない、紡の狂気的なその姿。
楽しげに見つめる紡の表情に、ティミスは長年に渡り冒険者として命をかけて来た経験から、本能に任せるように行動に移す。
(こいつは危険だわ…)
それは、捕縛とはかけ離れた行動。
紡の眼球に向け、腰に下げる金の剣を用い、魔力を込めた全力の突き。
当たれば確実に命を刈り取るであろう一撃を、迷いもなく紡へとはなっていく。
剣の先端が目に向け吸い込まれるように近づいて、
―――すっ…
「っ!?」
その一撃は、止められることもなく紡の頭を見事に突き抜ける。
避けると見込んでいた筈が、眼前に映る串刺し状態の紡に、ティミスから驚愕の声が漏れ出す。
それはティミスだけに留まらず、周囲で眺めていた冒険者達やカインに至るまで息を呑み、紡へと視線を向ける。
その見つめる視線の全てが物語っていた。『これは確実に死んだな』と。
漁夫の利を狙っていた、数人の冒険者達はあっさりと捕縛対象を殺害したティミスへと軽蔑の視線を向けている。
「い、いや普通避けると思うわよ!動かないなんて…」
周囲へと言い訳をするように大声で告げる。
冷や汗を流し、周りを説得するように焦りながら。
そう、ティミスは現在側から見ていたもの達からすればただの犯罪者。
街で歩いていただけの紡を一方的に襲撃し殺した者としか見えていなかった。
自身が犯してしまった罪悪感と周囲から飛ぶ非難の視線に、キレかける。
そんなティミスへと…
「酷いな、痛いじゃないか」
笑顔の串刺し男から声がかかる。
眼球があった場所に突き刺さったままの剣。
それを軽く撫でながら、笑顔で話すその姿はまるで奇術師の様。
生死すら捻じ曲げる不可思議なその姿に、見つめていた大人達は全てが呆け、双子だけが声援と拍手を送っていた。
「あ、貴方…生きてるの?」
「ん、ああこれか。突き刺さってるが生きてるぞ」
未だに刺さったままで楽しげに語る紡。その姿にティミスは狂った世界に放り込まれた様に混乱が加速していく。
「はぁ…しょうがないな」
先程からこちらを見つめ顔色をころころと変えるティミスに気を遣い、紡は眼球に刺さる剣をするりと抜きさる。
「ほら、返す」
ティミスへと剣を放り投げる紡。
優しく取りやすい様に楕円を描きながら飛ぶその剣は、狙った様にティミスの手前に持ち手が届く様に落ちていき、見事に受け取…
―――ガシャン…
らずに地面へと落下した。
「おいおい、きちんと受け取ってくれよ」
そう語りかけるが、ティミスは一向に黙ったまま。
口を半開きにしながら、一点を見つめて動かない。
ティミスが熱心にまっすぐ見つめる先。それは、紡の左目付近。
詳しく言えば、左目があるかと思われた場所。
今現在は、何もない。
真っ黒な空洞と共に、奥の景色が筒抜けとなっている。
顔面に残る剣の通っていた痕跡にティミスは目を奪われていた。
感動や興味などでは無い。純粋な恐怖心から。
(やはり、この魔法は俺好みだな、とても面白い)
困惑するティミスの姿に、楽しさすら感じる紡は、新たな自身の力に、便利性と楽しさを感じながら、遊んでいた。
「な、なんでその状態で生きているのよっ!!」
猟奇的な紡の姿に耐えきれなかったのだろうか。ティミスは半ば狂乱状態で叫ぶ。
「そんなこと言われても、死ぬ理由が無いし」
こっそりと魔導書からハンカチを取り出し左目を抑えながら紡は語る。
「その片目!私が間違いなく潰して、頭の奥まで貫いた筈なのになんで死なないのよ!」
えー、そんなこと言われたって、死なないに決まってるだろ。だって…
「そんな痕なんかどこにあるんだ?」
そんな事実は無かったんだから。
告げると共に両手を真横に広げ、ティミスへと全身を見せる。
左目の穴はいつのまにか消え去り、そこに立つ紡は怪我一つ追っていない元と変わらない姿でそこに居た。
「…」
ついに言葉すら出なくなったティミスは右手で口を押さえながら、表現できない感情を必死に飲み込もうと、耐える様な表情を浮かべる。
周囲の冒険者達も狐につままれた様に、目を見開きながら、紡を見つめ、動けずにただ見守るだけであった。
「さて、そろそろ俺も追撃させてもらおうか」
もう既に軽く試せたしな。そろそろ片付けるか。
ティミスへと手を翳しながらある魔法を発動する。
「っ!させないわ!」
目の前の何をし出すのかも分からない狂った少年が行う追撃から逃れる為、ティミスは魔法を使う。
360度全ての追撃から守れる様に。
今まで幾度も助かって来た土魔法で自身を囲んだ。
否、囲んでしまった。
(あら、どうしたのかしら?)
一向に待っても、なんの音も衝撃も来ない。
此方が魔法を解く事を待っているのかしら。そんな疑心暗鬼により、ティミスは依然として周囲を堅牢な土魔法で固め続けるのであった。
「終わりだな。二人とももういいぞ」
「「はーい!」」
あっさりと片付いたことに、紡を讃える様に双子が足に抱きついていく。
紡としても喜ばしかった様で、双子を持ち上げて抱きしめたりして感謝を表していた。
「あー…ちょっといいか?」
「あ?なんだおっさん」
暖かな時間をカインに邪魔された紡は、軽く荒れた様に返す。
「申し訳ない。だが、あれはもういいのか」
真っ直ぐとカインが指を指す先。そこには、黄色い艶のある見た目をした棒状の物体で構成された、大きな四角い箱がズンっと置かれていた。
それは、紡が発動したことで生み出されたものであり…
「大丈夫だ。あれからは出られないから」
中にティミスが封入されていた。
【お菓子魔法流 捕縛術 堅牢要塞(芋)】
反射性能を内側に貼ることにより、中からの脱出を阻止し、素材自体も、硬質芋けんぴを使用し、物理対策もとられた作りとなっている箱。
イメージと追加魔力により、性質変更、素材変更が可能。
「このまま一週間ほど放置しておくか」
冒険者ギルドにおいて、最高のSSSランク、『黄金女帝』ティミス。ここに、一週間断食&暗闇生活が確定した。
紡のその呟きに、その場にいた全ての冒険者達が顔を真っ青にしてゆく。
だが、殺されかけた事も見ていたために、誰も文句を言えない。只々去りゆく背中を無言で見つめる事しか出来ずにいた。
「あ、そうだ」
「ど、どうした」
箱から離れ、少し歩いたあたりで急に何かを思い出した様にはっと顔をにこやかにする紡に、嫌な予感をしながらカインは問いかける。
「いやー、冒険者ギルドがしつこいからな。ここらで一つ追撃をしておこうかなって」
「できれば…街の被害が…」
「おっさんも心配性だな。
わかってる、街には影響出ないって。それにもうやったしな」
紡の言葉に、反射的にカインは冒険者ギルドがある方向へと顔を向ける。
この位置からでも、問題なく見えるであろう冒険者ギルド。
カインが見つめたその先にあったものは…
先ほどとは違う、白く染め上げられた見るからに堅牢な巨大な箱がそびえ立っていた。
こんばんはペンギン一号です。
さて、皆様は紡の魔力性質が分かった方はいるでしょうか。
そこまで難しくないのであっさりと分かりそうですね…
そしてついに、前から悩んでいた芋けんぴを出すことが出来ました。
漸く芋けんぴを出せて感無量ですねー!
次の課題は酢昆布。
どなたかいい案があれば教えてください。
さて、次回は。
突如冒険者ギルドへと現れた壁。
それにより冒険者ギルドは…
是非お楽しみ下さい。




