楽しい実験街中で
領主回最後
その場に居た全ての者に様々な印象を植え付けていった妖精。
去るときは意外にもさらりと帰っていく。
約束を果たしたピグミーは『また会いましょうね』とだけ残し、皆の見つめる前でさらりと宙に消え去っていった。
「もう警戒しなくてもいいぞ」
先程から紡を守るように二人で周囲を固めていたコアとチコの二人の頭を撫でながら告げる。
「むー…わかった…」
「うー、警戒解除ー!」
紡が襲われたことに、反応できなかったのが悔しかったのか、二人は渋々ながら了承する。
警戒解除しながらも未だ唸っている二人に、紡は愛おしさを感じていた。
「そろそろ俺達は行くとする。丁度よくやることも出来たしな」
早く帰って魔法を実験したい。
ギラギラと輝く紡の目は、強く気持ちを物語る。
「そ、そうか出来ればもっと話ができればよかったんだが」
「悪いな。正直今は話すよりも実験が先だ」
うずうずと体を揺する紡を、嬉しそうに眺めている双子が『お兄ちゃん…楽しそう…』と地味に喜んでいた。
「しょうがないな。そうだ、今回の襲撃の処理が終わってから、我が家で是非会食を行いたいのだがどうだ?
勿論、日時は君の都合で構わないから」
「んー…そうだな。俺達以外にも増えるがそれでもいいか?」
「構わない。日時が決まり次第是非連絡をしてくれ」
紡との再度の約束を取り付けることができたグラッドは満面の笑みを浮かべる。
内心では、このまま我が家に引きずり込むことができなくても、せめて友好を築いておかなくてはと必死にきっかけを望んでいた。
それ程までに、グラッドにとって『オトギ』の者はこの街を守るための重要なファクターであると捉えているのであった。
そんなグラッドの気持ちもつゆ知らず、紡はすぐさま帰ろうと去っていく。
その際、とある事を思い出し、軽く言い放つ。
「あ、そういや魔法士ギルドに襲撃にいた狼と同じ魔力を持つ男がいたから、去勢して連行しといたぞ」
紡は軽く言い放つが、グラッド達からすると今回の襲撃に対して、解決への足がかりがぽっと浮いて出たようなもの。
紡達を取り残して室内は騒々しくなっていく。
「カイン、確認に向かわせろ!その男の確保も任せる、早急にだ!」
「畏まりました!!」
おー、張り切ってるねぇ。
そんな二人を横目で見つつ、紡は黙って屋敷を去っていくのであった。
領主館からようやく出てきた紡達は、街中をゆっくりと進んでいく。
会談が終わり実験にワクワクしていたはずの紡だが…現在の顔色は冴えない。
それもそのはず…
「いや、忙しそうだし送り迎えなんていいんだけど」
「仕事は部下に任せて来たから大丈夫だ」
何故かカインが付き添いでついて来ていた。
お目付役を付けられたようで紡は怪訝に感じる。
そんな紡に気づいたのか、
「申し訳ない。君は私達からすると恩人なんだ。
君に何かあるとは思わないが、私達の敬意として少しの間だけでも警護させて頂きたい」
警護って言っても騎士団長私服じゃん。
一応剣は持ってるけど、側から見たら普通のおっちゃんにしか見えないぞ。
「はぁ…いいけどさ」
興味を無くしたように、紡は双子を愛でながら先を急ぐ。
その姿が、カインには年相応の子供のように感じ、優しげな笑みが漏れていた。
「さて、まだ後1時間程あるしどうしようかな」
まだ時間に余裕があるため次の行き先を悩む。
すると…
「僕、魔法士ギルドって所に行ってみたい!」
「私も…」
二人から、意見が上がる。
そうだなー、二人の社会見学ついでに今後の為ギルドマスターに顔見せしておくのも悪くはないか。
「よし、魔法士ギルドに行くとす「ちょっといいかしら」」
次の行き先が決まりかけたタイミングで紡へと声がかかる。
そちらに振り向くと、そこに居たのは一人の女性。
嫌味な程に軽鎧へと豪華に金をあしらい、目が痛くなるほどに無駄に輝く。
それは、どこに現れても注目を集めそうな姿。
みた途端、紡の頭に『成金』と言葉が浮かびあがる程に。
それ程までに声をかけて来た女性はとても痛々しく写って見えていた。
「なんかようか?」
こんな成金趣味の奴、俺にはこんな知り合いは居なかったはずだが。
「貴方、ツムグ オトギであっているわよね」
「そうだけど」
「よかったわ、貴方に冒険者ギルドから連行依頼が出されているの。
素直に私について来ていただけるかしら」
うわー、冒険者ギルドかよ。こいつら毎度毎度邪魔しやがって…面倒だな。
「面倒、パスで」
それだけ告げ、紡は双子と仲良く遊びながら、歩を進め…
「無理よ、私も依頼なの。何が何でも連行するわ」
行かせるものかと、女性は紡達を石壁で囲っていく。
それは鉄格子まで付けられた牢屋状に形を変え、騎士団長諸共、石壁の中へと囚われた形となる。
「はぁ…しつこいな」
頭を抱えてため息を吐く。
「諦めなさい。私はSSSランク、『黄金女帝』のティミス。下手に怪我をしたく無ければ素直に従うのよ」
え、この成金趣味SSSランクかよ。
「おっさん、あの趣味悪そうなのマジでSSSランクなのか?」
街を歩いていただけで、SSSランクと化け物が一触即発になっている現状に胃の痛みを感じ、上からさすりながらカインは答える。
「あ、ああそうだ。あの者は『黄金女帝』と呼ばれる冒険者ギルドSSSランクの一人だ」
「えー…なんかガッカリ感が凄いな」
全身金色なんて、地球じゃ変人もしくは変態扱いしかされないだろうに。
それを恥ずかしげも無くひけらかしているとは、こいつかなり痛い奴だな。
「ガッカリですって…貴方は命が要らないのかしら」
あ、聞こえてたか。
「なぁ、おっさん。聞きたいんだが」
「…なんだ?」
紡の問いかけにカインは沸々と嫌な予感が湧き上がる。
それが強まるにつれ、胃の痛みも更に強まっていくカイン。
「あれ、壊れても問題ないか?」
ティミスをまっすぐ指差し、そう告げる紡。
その言葉に、カインはついに諦める。戦わせないという選択肢はもう無くなったと。
「…出来れば街は壊さないでくれ」
目の前のSSSランクを見捨て、街の安全を確保する。それが今のカインが取ることのできる最善の選択であった。
「二人は下がって見ていてくれ」
「「はーい」」
双子はカインの元に近寄っていき、ヨジヨジと登り始め、肩まで辿りつくと二人揃って座る。
どうやら、高い所から観戦したかったようだ。
双子が去ったのを確認した後、紡は牢屋を軽く触れる。
それに呼応するように、牢屋は粉々に砕け去っていく。
紡が歩を進める度に徐々に崩壊は広がり、外に出た時にはその場に残骸以外何も残ってはいなかった。
「なっ!?」
想像を超えた現実にティミスは息を飲む。
そんなティミスへと紡は残骸な一言を告げていく。
「さぁ、実験の時間だ。簡単に倒れるなよ『実験体』」
手に入れたおもちゃを試したい紡は、狂気すら纏い、キラキラとした笑顔をティミスへと向ける。
その様子にカティナの運命を悟った双子とカインは、無意識に手を合わせ冥福を祈るように願っていた。
こんばんは、ペンギン一号です。
今回は、前振り回でした。
次回には楽しい実験が行われる予定です。
それに合わせて冒険者ギルドへと襲いかかる悲劇。
ボロボロになっていく様、是非お楽しみ下さい。




