漸く領主と御対面
領主対面回
厳重な警備に囲まれて連れて行かれた先。そこは、領主館とは思えぬ程に寂れた建物が建っていた。
冒険者ギルドと比べるとより質素なその屋敷は、まるで地球の紡が住んでいる屋敷の様に感じる。
「こんなとこに領主がいるのか?」
「ああ、領主様は質実剛健。周りの絢爛さなど、気にしないお方だからな」
どうやら、悪徳領主とかではない様だ。
屋敷の佇まいに、紡は領主の本質を感じていた。
屋敷へと入ると、連絡を受けていたのか待っていたのは数人のメイド達。
地球では、秋葉原くらいでしか見ることのできない希少生物に、紡は目を奪われる。
その中で、若そうな女性がこちらへと歩み寄る。
「ようこそいらっしゃいました。
私、この屋敷でメイド長をしております、キッカと申します」
へぇ、こんな若そうなのにメイド長とは結構優秀なんだな。
「俺は、ツムグ オトギだ。
一応呼ばれたから来たんだが、理由はよくわからん」
「そのお話は、後で領主様の方からさせて頂きます。
一先ず、ご案内いたしますのでこちらへとどうぞ」
キッカに促され、紡達と騎士団長はその背後をついていく。
屋敷自体もかなり年季が入っているようだったが中もあまり物が少ないな。
貴族の屋敷なんて、もので溢れかえっているかと思ったが。
紡の感じた通り、通路には花瓶なども置かれてなく、寂しいさすら感じさせるほどであった。
―――コンコンっ…
「グラッド様。お客様をお連れ致しました」
「入れ」
中からは、渋い声が聞こえてくる。
ドアを潜ると、そこに居たのは、イケメンのおっさんだった。
かなり年齢はいっていそうだが、筋肉質のガッチリとした体型をしており、それがイケメンと相俟って渋さを演出している。
案内された席へと座ると、目の前に座るおっさんは口を開く。
「急に呼び出して申し訳ない。
私はこのウェルドの街の領主をしているグラッドだ」
「捜索を出していたようだし、知っているとは思うが俺はツムグ オトギだ。
それで、俺に用とは何だ?」
俺の捜索依頼まで出していたんだ。それなりに何か理由があるんだろう。
露骨に分かるほどに面倒な表情をする紡。
重苦しい空気の中、決意を固めた表情でグラッドは口を開いていく。
「以前、家の者が強制連行を行ってしまい誠に申し訳ない!!」
深々と頭を下げるグラッド。
その隣では、騎士団長も下げている。
この街のツートップが少年に頭を下げている姿。
異様な光景であった。
「心底どうでもいいんだけど」
「「えっ…」」
いや、そんな決死の覚悟で謝られても困るし。
威圧かました程度で下がる奴のことなんか、正直どうでもいい。
「家の子達に手を出したのであれば、問答無用で殺すが、あの程度であれば気にかけてすらないんだけど」
「あー…そうか、申し訳ない。どうやら此方が気にし過ぎていたようだ」
心身ともに疲弊していたことが、独り相撲だったと知り、恥ずかしそうに頭をかきながら、グラッドは顔を真っ赤にしていた。
「話はそれだけか?」
「いや、もう一つ」
すっ…と顔が真剣な表情へと戻り、続けていく。
それはこれまでずっと伝えたかった事。
それを伝える為だけに、捜索を出し、懸賞金すらかけていたその言葉。
グラッドは待ちに待ったそれを漸く口にする。
「この街を、そして人々を守って頂き、感謝する」
漸く伝えることができた。グラッドは頭を下げながらも晴れやかな表情をしていた。
「礼はいらない。俺は戦いたかっただけだ」
紡のその返答に、グラッドは無意識に笑みが漏れる。
(やはりあの方と同じことを言うんだな…)
それは、遠い昔。グラッドが街を助けてもらった際に、言われた言葉と同じであった。
唯我独尊を体現し、感謝すら受け取ろうともしないその姿に、目の前に座るものは『オトギ』の者であると再確認していた。
「そうか…それでも、この街に住む一住民として、感謝する。
ありがとう。」
「はぁ…礼は受け取っておく」
軽く手を振りながらそう返す紡。
その姿に、遠い昔に見た女性の照れ隠しを思い出し、グラッドは懐かしさすら感じていた。
そんな暖かい空気の中…
「お前、チコになにしたー!!」
いきなりグラッドへと、コアが威嚇する。
その背後には、何故か怖がっているチコ。
震える手で、コアの裾を握りながら、背後に匿われていた。
「どうしたんだ?」
「兄ちゃん…さっきからチコがあのおじちゃんの事を怖がっているんだ。
あのおじちゃんがテルに何かやったんだ!」
コアの端からグラッドを見つめながらいまだプルプルと震えているチコ。
うん、何かあったのは間違いないな。
と言うことは…
「家の子に何しやがった。返答次第ではお前ら…殺す」
「殺すー!」
先ほどまでの暖かい空気など微塵もない。執務室は、一瞬で戦場と化す。
一つの選択の迷いが死を招く、命がけの世界。
少年と子供の二人でそれを作り出していた。
「いや…あのだな…」
言葉を詰まらせるグラッド。
それが更に室内の空気を重苦しく染め上げる。
正に一触即発。圧倒的な暴力で室内に血のアートが描かれそうになっているその時。
―――コンコンっ
「入りますよ。
あの者が訪れたと、キッカから報告が…これはどう言う状況なのかしら」
室内に訪れた一人の女性。
怪訝な顔で此方を見ながら、首を傾げている。
グラッドと騎士団長は、その女性へと恥も外聞もなく助けを求める視線を向けており、それが更に女性を混乱させていた。
「あ…あの時のカッコいいお姉ちゃん…」
「あら、チコちゃんでしたね。久しぶりです。
それでは、貴方がチコちゃんのお兄ちゃんで宜しいかしら」
これまた凄い美人が出てきたな。言動からするとおっさんの娘ってとこか?
「そうだ。俺はツムグ オトギ。あんたは?」
「申し遅れました。私はそこのグラッドの妻、カリナと申します」
へぇ、娘かと思ったら嫁さんだったか。
「それで、この状態は一体…」
「そこのおっさんが、家の子に何かしたらしくてな、拷も…尋問しようかと思ってたとこだ」
チコが震えるほどの何かがあったんだ。問答無用で悪速斬しかないだろ。
「チコちゃん、もしかしてあの時の…」
「うん…怖いおじちゃんなの…」
「はぁ…そういうことですか…」
ん?なんか知ってるのか。
疲労感が口から吐き出されているような、カリナの深いため息に、その部屋にいる全ての者達の視線が集まる。
(なんでこんなことになっているのかしら…)
天井を仰いで頭を抑えるが、カリナの気苦労が和らぐことは無かった。
「ということは何だ、あの戦場で俺に応援を送ろうとして、それを止めたチコを睨みつけてしまったからということか?」
「ええ、あの時は私が止めましたので、問題ないかと思っていましたが…」
「あのおじちゃん…怖い人…」
そんなに怖かったのか。だが、あの戦場だし俺に応援を送るためだからなぁ…
紡はチコを優しく撫でながら、声をかけていく。
「大丈夫だ。あのおじちゃんは怖くないぞ。
ちょっとアホなだけだ」
戦場だとしても、子供を睨みつけるなど、アホとしか言えない。
「いや…私はアホでは「貴方、黙りなさい」」
カリナの一括に、グラッドはしゅんとしながら下を向く。
「アホなの…?」
グラッドへと、可愛く首を傾げながら紡に確認してくる。
女の子にまっすぐな視線でアホと言われる。それは、グラッドのかなりの精神を削っていた。
「そうだ、だから怖がる必要はないぞ。もし次に睨みつけたら俺がきちんと去勢しとくしな」
「お兄ちゃん…分かった…」
うむ、家の子は聞き分けが良くていい子だ。
「アホなおじちゃん…怖がってごめんなさい…」
素直に謝ることも出来るし。
謝罪を受けるグラッドは、下を俯きながら、プルプルと震えていた。
「コア、もう解決したから大丈夫だぞ」
「分かったー。兄ちゃんに感謝するんだぞー!」
先程から、グラッドと騎士団長の周りを囲んでいた鋭く尖った飴の氷柱がふわりと消え去る。
漸く命の危機から解放された二人は安堵のため息をついていた。
「それにしても、なんで騎士団長のおっさんも囲っていたんだ?
チコが怖がっていたのは領主のおっさんだけだったよな」
「ついでー!」
頑張れ騎士団長。どうやらあんたはついでに死にかけてたようだ。
笑顔でそう放つコアを騎士団長は真っ青な顔で見つめ、小さな声で「俺はついでか…」と呟いていた。
崩れ落ちる男二人を見つめて、可愛らしく笑う子供達。
室内は異様な風景に混沌としているのであった。
こんばんは、ペンギン一号です。
いやー、双子が可愛すぎて書くのが楽しいですね。
着実に紡の性格を受け継ぎつつある双子が面白くて仕方ないです。
もっと活躍させてあげれればいいのですが。
さて次回は…
領主対面回続編。
そして現れるお嬢様。
是非お楽しみ下さい。




