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御伽噺に導かれ異世界へ  作者: ペンギン一号
夏の最後の思い出に
63/75

やっと戻った異世界に 2

前回の続きです。







うず高く積み上げられたモンスターの山。

崩れかけながらも、ギリギリで耐えているその山を、おっさんの一団が囲んでいる。


『おい、すげぇぞ…宝の山だ!』


『シャドウクロウにバイドスネーク…そしてこいつは、幻影兎か!なんで三羽もいるんだよ!』


『グリットさん…俺、こんな風景初めて見ました…』


『こんなので驚いてどうすんだ。あっちを見てみろ…とんでもない奴がいるぞ』


グリットが促した先。

それは当然、カースフェンリル。

山の横に居ても、かなりの存在感を放つそれは、解体業をする者達を魅了していく。


『…グリット。彼奴は俺が解体したい』


『狡いぞ!あれは俺が…』


『ダメです。俺もしたいですよ!』


それは、その場に集まっていた職員達の喧嘩にまで発展しかけていた。


『お前ら、気持ちはわかるが今は止めろ。俺だって解体したいのを我慢しているんだ。

全てを終わらした後、全員であれを解体するぞ』


そのグリットの言葉に、解体場はテンションが最高潮になり、職員達は雄叫びを上げながら踊っていた。



「悪いな、煩くなっちまった」


「そう思うんならこっちを見て話せ」


困り顔で頭を書きながらそう語るグリット。だが、目は未だにカースフェンリルへと釘付けになっている。


「はぁ…あの狼は実際強かったが、そんなになるようなものか?」


「おいおい…何言っているんだ。あの狼は、素材も超一級品でありながら、状態も完璧。目立つ傷は腹と首の二つだけという、最高の状態なんだぞ!

ここに長年勤めている俺が、見たこともない、最高のモンスターが、最高の状態でやってきたんだ。

そんなもの、解体業をしている奴なら、狂喜乱舞しても仕方がない話だろうが」


へー、そんなもんなのか。


「まぁ、解体してくれるのであれば、俺はいいんだが」


息を荒くしながら、カースフェンリルを見つめて興奮している集団を見てしまったせいか、紡は関わるのをやめた。


「ね、ねえ…ちょっと減らしたりなんて思ったりしないかい?」


ん?ああ、ギルドマスターもそういや居たな。


「減らしたりねぇ…なら、あの狼を…」


しょうがないなあ。減らしてやるか。

紡は、悪どい笑みを浮かべながら、何かを企むように、狼の回収を告げようと…


「ギルドマスター。もし、あの狼を回収などしようものなら、俺達解体職員は、ボイコットさせて貰う」


血走った目で、グリットを中心とした、解体職員達が、いつのまにかギルドマスターへと詰め寄っていた。


「い、いや、出来ればあの狼以外を!あそこの山の半分くらい減らしてくれたら僕も嬉しいかな」


「はっ…俺は減らすのなら狼のみだ。

選びな。狼を減らして解体職員達に吊るし上げを喰らうか、仕事を増やすかを」


さぁ、運命の選択だ。地獄か地獄の二択。よく楽しんで選ぶといいぞ。

プルプルと震えながら、何かに耐えるように、ギルドマスターは告げる。


「回収は…しなくていい…」


ここに、ギルドマスターの休日返上が確定した。



「で、俺はよくわからず狩ってきたから、出来ればこの中から、美味いやつとかを知りたいんだが」


「そうだな…やはり、一番美味いのは幻影兎だな。正直、ここに三羽も居る事が俺には信じられないんだが」


あー、あの兎か。ピーに渡したっきり、未だに食べてなかったからな。

次帰った時にでも何か作って貰うか。


「今回は、この三匹は売るって事でいいのか?」


「まだ前回のやつも残ってるし、一羽だけ残して、あとは売ってもいいぞ」


「よし、有難い!」


グリットは一羽だけ幻影兎を持ち上げ、脚に何かタグらしきものを付ける。


「ん?何だそれ」


「これは、買い取り札だ。買い取りが決まった物にこれを付ける決まりになっているんだよ。

この兎は中々手に入るようなものじゃないからな。俺が買うことに決めた。

いつも、遅くまで待ってくれてる嫁さんに食べさせたくてな」


そっか…かっこいいな。


「そうか…なら、この兎は売らない」


「な、そいつはないだろ!」


まさかの言葉に、グリットは面を食らう。


「売らない代わりに、おっさん。こいつやるよ」


嫁さんの為にそこまでしてあげるおっさんへの俺からのプレゼントだ。


「…いいのか?」


「ああ、おっさんの事は気に入ったし、俺の秘密を守る為に協力してくれているんだ。

このくらいの役得があってもバチは当たんないんじゃないか」


このおっさんは、いいおっさんだからな。


「いや、でもこいつ一羽だけで金貨数枚は…」


「いいから貰ってくれよ。嫁さんの為に、そんな高い物を買おうとしているおっさんの心意気に対しての俺の気持ちだからさ」


「…有り難く受け取る。ツムグ、もしこの街で何かあれば俺に言え。俺もお前の事が気に入った。

お前のその優しさがな。

俺ができる事ならば、何だってやってやる」


紡に褒められたことに照れながらも、嬉しそうにグリットは語る。


「いや、たかが兎一羽だぞ。そこまでしなくてもいいんだが」


「いいんだよ。幻影兎は関係ない。俺がツムグ、お前の事を心底気に入っちまっただけだからな」


力強い表情で、グリットは紡の背中を叩きながらも嬉しそうにしている。






「ねぇ、沢山の仕事を任せられた僕にも幻影兎をくれたりなんか…」


「自分で獲ってこい」


ギルドマスターは軽く切り捨てる。




「はぁ…仕事も増えるし…休みも消えていく…これは、もうこの仕事をテッド君にすべて任せて僕は休みを…」


「許されるわけ無いに決まっています」


ん?誰だこのおっさん。

ギルドマスターの背後へといつの間にか謎のおっさんが現れていた。


「て、テッド君!違うんだよ。僕はサボろうとしたわけではなくてだね…」


ふうん、あのおっさんは、テッドって言うのか、ギルドマスターが謝ってるし、ギルドのお偉いさんってとこか?


「ギルドマスター。その話は後でじっくりさせて頂きます。それよりも先に彼に話を。

先程、私の元に来た受付嬢の話では、彼があの者の筈ですが」


「そ、そうだね!ツムグ君。彼はこのギルドのサブマスターをしているテッド君だよ。

基本的に魔法士ギルドの全ての事務を取り仕切っているのが彼なのさ」


「紹介に預かりました、私はテッドと申します。ギルドマスターが迷惑をかけたようで申し訳ありません」


「え、なんで僕が迷惑かけた前提なんだい?」


「俺はツムグ オトギ。そっちも、ギルドマスターには迷惑しているみたいだな。

可哀想に、こんなのがトップなんて…」


「ええ本当に…」


「なんで僕がそんな扱いなんだい!!」


「「ギルドマスター、煩い(ですよ)」」


「二人とも初対面だよね…なんでそんなにも息ぴったりなんだい…」


再度ギルドマスターは地に倒れ伏して凹んでいた。


「それにしても、貴方のお陰でギルドも活気が出始めて、感謝が絶えませんね」


「あー、そういやギルドの人数増えてたな」


以前はほぼ人もおらず、受付も一台だけ。完全に場末の酒場状態だったもんな。


「俺何かしたか?依頼も受けてないし、ギルドに貢献した覚えなんかないんだけど」


「先の大量のモンスターですよ。あれのおかげで、商業ギルドにかなりの伝手が出来ましたからね。

その代わりに、ギルドマスターの休みも溶けましたが」


あー、あれか。あの量だったし色々と使い道があったんだろうな。


「それともう一つ。それは、貴方の存在です」


「存在って、俺が居るだけでなんかなるっていうのか?」


「いえ、逆ですよ。貴方が居なかったからこの状況になったのです。

貴方が、冒険者ギルドと敵対してくれたおかげで、魔法士ギルドへとかなりの人材が流れて来ましたからね。

人員も増え、商業ギルドへと伝手もできた。

私どもは貴方に感謝しかありませんね」


そんな事態になってたのか…そりゃ、冒険者ギルドマスターも俺のこと探すわな。


「勝手にそうなっただけだからな。俺は無関係だぞ」


「それでもです。以前の魔法士ギルドはかなりギリギリで経営していたので、今回の件は、何よりの助けになりました」


「だったら、俺が出て行かないように、ギルド経営を頑張るんだな」


「お任せください。今回もこれ程のモンスターの山。ギルドマスターをこき使ってでも、ギルドを完全に立ち直しますので」


生き生きとした表情で、そう語るテッドを、死んだ目をしながらフーパは見つめていた。








一向に死んだ目をしているフーパとテッドに連れられ、紡はギルドマスターの部屋へと訪れている。


「それでは少しお待ちください。前回の支払い分をお持ちしますので」


鮮やかな礼と共に、テッドか室内から出て行く。


「はぁ…休みが…」


このおっさんはこれしかないんだろうか。

目の前でグダるフーパへと冷たい視線を向ける。


「はぁ…あ、そう言えば、一つ聞いておきたいんだけどいいかい」


「なんだ?」


「君、これから冒険者ギルドとはどうするつもりだい。

その返答によって、僕達魔法士ギルドも対応が変わってくるからさ」


そうだな…今更冒険者ギルドに戻る気もないしな。

だからと言って、冒険者ギルドを潰したいわけでもないし、正直どうでもいいからなぁ。


「んー、そうだな。冒険者ギルドに戻る気も無いから、呼ばれても行く気はさらさら無いな。

もし、武力で強制連行しようものなら、冒険者ギルドを更地に変えるけど」


「そ、そっか。出来れば、更地に変えるときは周りに被害が出ないようにして欲しいかな」


「ああ、大丈夫だ。冒険者ギルドだけを更地に出来るから」


「ソレハアンシンダネー…」


さらりとあり得ないことを平然と語る紡に、フーパは無意識に棒読みになっていた。






「お待たせ致しました。此方が前回の代金に…ギルドマスター、どうかなされたのですか?」


室内へと戻ってきたテッドは、紡を見つめながら悟りを開いたような顔をしているフーパを心配する。


「ちょっと、僕の常識とかけ離れた事があってね、もう大丈夫だよ。」


「そうですか、ならばいいのですが。

では、此方が代金ですね。詳しい内訳をお聞きされますか?」


テッドの前には、ぎっしりと詰まっていそうな袋と、かなりの文字が記入された紙が一枚。


「もしかして、その紙すべてを説明する気か?」


「そんなわけ無いですよ」


まぁ、そうだよな。ぱっと見でもかなりの数書かれている。そんなもんをいちいち話したりなんて…


「もう一枚ありますので」


紡は気づいていなかったが、どうやら紙は二枚重ねだったようだ。

そんなもん聞いてられるか!


「長くなりそうだし、断る」


「そうですか、では此方が代金ですね。総額で金貨431枚と銀貨6枚になります」


受け取り、袋に移すふりをしつつ魔導書に収納する。


「それじゃあ、もう用も済んだことだし俺は帰らせて貰う」


早く三人を召喚してあげたいしな。


「今回は大量のモンスターを納品頂き有難う御座いました。またよろしくお願いします」

「気が向いたらな」


軽く会話を返しつつ、ドアへと向かって行く。

そんな紡の背後へと、フーパが思い出したように声を掛ける。


「あ、そう言えば、領主様も君を探しているようだから、もし会っても穏便にしておいてね」


はぁ…冒険者ギルドからも追われてるっていうのに、領主も探してるのかよ。

面倒くさいなぁ…


「領主次第だな。もし強制しようものなら、その時は更地にするだけだし」


何を更地にするかを言わない紡に、二人は不安が募っていく。

それだけを残して、紡はギルドマスターの部屋から出て行った。


「テッド君。今すぐ領主様の元に急いで!絶対に強制連行しないように報告を!」


「畏まりました!今すぐ出ます!!」


紡がようやく帰った後も、残した爆弾の所為で、二人は休まらずに騒がしく走り回る事となる。

この街を守る為、二人は必至に駆け巡るのであった。







こんばんは、ペンギン一号です。

今回は、魔法士ギルド編。

今まであまり出なかったフーパとテッドをピックアップしてみました。

フーパのキャラは、わかりやすくてとても書きやすかったですね。


次回は、領主編になります。

お楽しみください。

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