閑話 芽生え始めた恋心
巫のその後です。
紡達が去り行き、ようやく何時もの空気が戻ってきた『巫家』。
だが、未だに皆の頭には、あの傍若無人な一団の事だけが浮かんでいた。
名家である『巫家』に対し、一般人でありながら、自身の意見を全て貫いていった一団。
常識を破壊し、全ての者に驚愕を植え付けていった、奇跡の体現者。
見た者全てが、ありえないと語るその者達。それが去った後に残ったのは、静寂のみであった。
「面白い方々でしたね」
優華へとそう語る蒼華は、いつもと違い、面白いものを見た様に、穏やかに笑っていた。
「あれを面白いで済ませていいのかは、分かりませんが」
「そんなこと言って、貴方も気に入っているのでしょう」
「…嫌いではないです」
「ふふっ、嫌いではないですか」
素直になれない優華が、顔を赤く染めながらそう語る姿を見て、蒼華は笑みが溢れる。
「では、そろそろ私も動くとしますか」
「一体どうするので?」
「名前も住んでいる場所も分からなければ、次に会えませんからね。
迦毘羅こちらに来なさい」
「畏まりました」
その呼び声とともに、広間の戸が開く。
そこからは、和風の屋敷には似つかわしくない、メイド服を着た一人の少女が現れる。
柔らかい雰囲気で洗練された動きをしている、正に主人に使えるメイドを表した佇まいをして、蒼華へと歩み寄る。
彼女は如月 迦毘羅。
門番でトチ狂っていた如月 秋夜の実の妹であり、この『巫家』では、隠密として働いている。
「貴方には、ゼロの身辺調査をしてもらいます。よろしいですね」
「畏まりました」
「但し。絶対に見つからない事。見つかった場合は、丁寧に謝罪して菓子折りでも持っていきなさい。
そうね…魚です。魚の入っているものなら、大丈夫でしょうから」
蒼華は、ピンポイントにゼロの弱点を見抜き、指示を飛ばす。
「それと絶対に、敵対して攻撃を仕掛ける様な事はしない様に。
もし、行ったのであれば、私共『巫家』は貴方とのつながりを切る形になりますから」
「大丈夫です。私も皇矢様を倒した、あのような化け物との敵対は望んでいませんので。
私の実力であれば、3秒で塵になりますから」
軽くそう語る迦毘羅であったが、この指令に恐怖を感じているのか、手が無意識に震えていた。
「分かっているので有ればよろしいです。
もし見つかっても、女の子である貴方で有れば、ゼロは殺しはしないと思いますから、穏便に済ませる様に。
でも、申し訳ないですね。貴方の兄が重体で病院に運ばれている最中だというのに」
迎えに来たコアとチコが破壊した門と門番。
二人が気持ち悪いのがいたと言っていたその門番というのが、秋夜の事であった。
「いえ、問題ないです。どうせなら、あのバカの事をこの世から消していただければよろしかったのに…」
迦毘羅の周囲へと負のオーラが渦巻く。
「そ、そうですか。それでは任せました」
「畏まりました。失礼いたします」
未だオーラは止まらず、それを纏いながら、迦毘羅は室内を後にしていく。
「あの子は本当に…兄妹仲良くすればいいのに」
「それは難しいかと、兄があれですから…」
「そうね…」
『巫家』でも、秋夜はバカだと周知されていた。
「それにしても、宜しかったのですか。
下手をすれば、ゼロに敵対だと取られかねないですよ?」
「問題ないです。私の所見ですが、ゼロは敵対しない限り弱者を虐げる様な事はしないでしょう。
それに今回は、バレたとしても、同盟相手に手土産を持って行くだけ。それならば、敵対行為にもあたりませんので」
長年の勘でゼロの本質を蒼華は掴んでいた。
「もし、見つかった場合は、そこからは優華。貴方の仕事です」
「はぁ…あれは本気だったのですか?」
「ええ、ゼロを落としなさい。必ず『巫家』へと向かい入れるのです。
あの者を向かい入れることが出来れば、不安は完全に解消され、『神祇官家』への対抗策ともなり得る存在。
全ては貴方にかかっていますよ。
『巫家』も、貴方の為全力で援護いたしますので、全力でかかる様に。
…それに、優ちゃんも悪くないと思っているんでしょう?」
「…わかりません。心がもやもやしますけど…」
いくら『巫家』の為と言葉を並べていても、実際は優華の気持ちを成就させてあげたい。その為だけに蒼華は動いていた。
いつもと違う優華の仕草。ゼロを見つめる目線。今まで一度も見たことがないその姿から、母親として、優華の芽生えかけの初恋を感じ取っていた。そんな胸を両手で押さえている優華へと優しく語りかける。
「いいのよ、今は分からなくて。でも、折角の機会があるんだから、会うだけしてみなさい。それによって見えてくるものもあるんだから。
私は、優ちゃんがどんな選択をしても、咎めたりなんてしない。だから、その気持ちが何なのかを今は探すことから始めたらいいわよ」
「…わかりました」
顔を真っ赤にして俯きながら返事をする少女を、優しく見つめる一人の女性。
『巫』として、生きているこの二人は、暖かくもほろ苦い、綺麗な初恋を追求していく。
こんばんは、ペンギン一号です。
今回は、一応ヒロインになるのかな?
ここに漸く登場です。
但し、見た目は小6ですが。
此処から成就するのか。それとも、破局するのか。
是非お楽しみください。




