終戦 歓声 戦場で
最後は呆気なかったな。
目の前に落ちている首無しの狼をみてひとりごちる。
魔導書へとカースフェンリルを仕舞い、にゃん吉達の元へと戻っていく。
「お疲れ様にゃー!」
「ああ、チコとコアは応援ありがとなやる気湧いたよ」
二人の頭を撫でなでてやる。
「お兄ちゃんかっこよかった!」
「うん!かっこいいし強かった!」
二人はヒーローを見るような輝かしい目で俺のことを見つめてくる。
「チコとコアも特訓したら強くなれるぞ」
「兄ちゃんよりも強くなれるー?」
俺よりも強くか…
「んー俺も強くなっていくからな…俺を超えたいなら、俺よりも頑張らないといけないな」
「ご主人よりも頑張ったら気狂いにゃ…」
チコの腕の中、にゃん吉が疲れた顔で辛辣なことを言っている。
死闘が終わったことにより、体に押し寄せる疲労感に耐えながら語り合っていた。
その時…ふと違和感を感じる。
森の中、此方を何者かが監視している。
死闘が終わり、未だに敏感になっている感覚が無意識のうちに捉えていた。
「にゃん吉、いきなりで悪いがあそこら辺に全力で雷魔法ぶち込んでもらっていいか?」
「んにゃ?いきなりにゃね、わかったにゃ」
にゃん吉から高電圧の砲撃が指示した場所へと飛んで行く。
それはまるで流星の様に一直線に進んでいき、周りの木々に感電しながら広範囲を蹂躙していった。
よし、気配は消えたな。
「ありがとな、それじゃあ宿に戻るとするか」
途中、コアが惨殺したモンスターを魔導書へ回収しながら、俺たちは戦場から去っていった。
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Side グラッド
「なんなんだあれは…あの化け物を一人で倒しやがった」
周囲から聞こえる呟きが耳に入る。
周囲の冒険者はあれが化け物同士の戦いに見えたのだろう、かなり恐怖している。
だが、私と妻はおかしいとは思わなかった。
『オトギ』
この街でのみ、その名前にはかなりの意味を持つ。
それは街の恩人であり、常識の破壊者であり、冒険者ギルドの敵対者であった。
今からかなり昔、まだ父が領主をしており私が時期当主として学んでいた頃、とある女性にであった。
彼女はモリコ オトギ。一見普通の女性であった。
だが、中身がおかしかった。
貴族である私に喧嘩を売り、力を持つ冒険者ギルドへと喧嘩を売る。そんなことをしながら守りたいものは全て守っていった女性であった。
かなりアグレッシブで、自由人。当時私と妻は色々なことに付き合わされていた。
「モリコ様の関係者なんだ、当然だな」
「ですわね、あの方もモリコ様と同じく、なかなかとんでもないみたいですわね」
そうだ、とんでもない。またこの街の危機をオトギの名のものに救って頂いた。
それがどんな理由であれ、わたし達は『救われた』。その事実に戦場に居る狐面を見つめながら只々感謝していた。
「これは負けるわけにはいかないわね」
狼が現れた時の絶望感は無くなり、力強い目をしながら妻は語った。
「そうだな、勝つぞ」
私は残った敵を殲滅すべく動き出す。
戦場の敵はオトギの者が連れていた少年のお陰ですでに1000体を切り終結が見えていた。
騎士と共に残った敵を切り裂いていく。
自分も守りたいものを守るために…
ギラギラとした目で騎士と共に敵を切り裂いていきながら前進していた。
そのとき…
一本の太い光が森へと向かい一直線に伸びていった。
急激な攻撃に何事かと辺りを見渡す。
発射先はまたもやオトギの者の近くにいた子猫であった。
やはり…またオトギか…
着弾した光は拡散し、周囲に電撃を広げていく。かなりの広範囲攻撃だ。
着弾後急に変化が現れる。残っていた敵達が急に逃走を始めた。
目の前のゴブリンなんて急ぎすぎて転んで居る。
急に何が起こったのか…訳がわからない急な変化について行けずに騎士達と固まっていた。
皆が固まり動けない中…
「「「うおぉぉぉお!!!」」」
突如上がる歓声。
当然のようにそちらへと視線を向ける。
森の入り口、そこに冒険者がいた。
確かあれは【荒野の狼】と言う名のSランクパーティだったはずだ。
喝采を浴びて立つ集団の真ん中、そのリーダーであるゲイルが1匹のモンスターの首を持ちそこに立っている。
それは、ゴブリンキングの首である。
ゴブリンキングはモンスターを操り襲撃を行う特性を持つ。
モンスターが逃走したのは指揮していたゴブリンキングが死んだためであったようだ。
領主として戦果を挙げた冒険者へと近づいていく。
冒険者達を掻き分けていく。すると、ゲイルが何が叫んでいることに気づく。
何を言っているんだ?
私は耳を傾ける騒がしい歓声の中一歩一歩近づくたびにそれが鮮明になっていく。
「俺…こい……てない!」
さらに近づく
「俺達は…こいつ…してない!」
何をしてないのか?
そしてついにその叫びが耳に入ってきた。
「俺達は今持っているこいつを殺していない!」
さらに続く。
「さっき飛んできたあの雷の一撃、あれがこいつの死因だ。俺達は死んだこいつを報告のために首だけ持ってきただけだ」
【荒野の狼】の面々は自身の手柄ではないからだろう、とても気まずそうな顔で立ち尽くしている。
だが、そうか…私達は最後まで『オトギ』に救われた訳か…
自身のなにも出来なかった不甲斐なさと、『オトギ』の者への感謝が入り混じり複雑な心境であった。
まぁいい、不甲斐なくても街を守ることが出来たんだ。
隣で並ぶ妻と共に薄っすらと明るくなる空の下城門を眺め微笑んでいた。
鳴り止まぬ歓声。今ここに、歴史に残るウェルドの戦いの幕が下りた。
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Side???
森の中、焼け爛れた身体を引き摺りながら動く物体がいた。
それは、切れ端のような赤い布を纏い、ヒビ割れた黒い仮面を被っている。
何かから逃げるように後ろを伺いながら一心不乱に前を目指している。
「なんなんだよあいつは…」
そいつは前へと進みながら現実逃避をするように一人でつぶやいている。
「あの距離から気付くとか化け物かよ…更にあの猫、なんで猫があんな雷魔法を撃てるんだよ!!」
この男は実験の確認として森の中から戦場を観戦していた。
その視線を感じ取られ、にゃん吉による雷魔法が直撃していた。
その男はズキズキと身体に感じる痛みに紡とにゃん吉への憎悪が募っていく。
「あの狐面…絶対に殺してやる…」
呪詛を呟きながら、その男は身体を引き摺り進んでいく。
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Side 城門外 南門前
「なぁ、なんか歓声上がってないか?」
「いや、俺には聞こえない!まだ戦いは終わっていないはずだ!!」
そこに居る全ての人間は現実逃避をしていた。
モンスターの襲撃に対し意気揚々と戦う覚悟をしていた。
そう、覚悟をしただけで終わった。
こちらに来たモンスターの数は9匹。150人の騎士と冒険者に対して9匹だ。
もう、我先にと戦いを行なっていった。
モンスター1匹に対して20人で囲むという状況のところもあった。
待てども待てども一向に来ない。
だが、もしかしたら来るかもしれないとここを離れるわけにはいかない。
そんなジレンマの下、皆イラついていた。
実際、南門にモンスターが少なかった理由は、森にあるピーの聖域が防波堤の役割をなし、南門に向かうはずのモンスターが東と西へと流れる形になったという訳だ。
だが、ここに居る奴らには只々、モンスターが来ないという現実しか無かった。
皆で聞こえて来る歓声を現実逃避していると、指揮官のフーパの元に伝令がやって来た。
周囲にモンスターは無く、皆汚れていない。だが、目だけが血走っている姿に伝令は困り顔をしている。
その伝令が口を開く…
「伝令です。敵指揮官を撃破したためモンスターが逃走を始めました!私たちの勝利です!」
その一言が俺たちにとどめを刺した。
此処は南門、歴史的なモンスターの襲撃に対し死傷者0を達成した奇跡の門。
戻ってきた奴らは褒め称えられる。
だが褒め称えられる奴らの目は、死んでいた。




