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さよならはホームで!  作者: 小林つばさ
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事の起こり

私はどうやら死んでしまったらしい。


それはつい1時間前のことである。


「彩子!急がないと約束な時間におくれてしまうよ。第一印象は大事だからね!」

と、私(前崎彩子)に急かしてくるこの男は婚約者である牧野孝典。


 私が大学一回生、孝典が4回生の時にサークルの新歓で出会い、交際すること6年。ついに私たちは結婚することになった。今日はその孝典のご両親との顔合わせを兼ねた食事会がある。


 約束の時間まであと2時間。電車で30分もかからないところが孝典のご両親が予約してくれたお店の場所。移動で多く1時間見積もってもまだまだ時間はあった。孝典は待ち合わせの30分前には現地に着いていないと落ち着かない神経質なところがあった。時間にルーズな私とは正反対であった。


 化粧台の前に座ってメイクを最終確認。濃すぎるのはもちろんいい印象を与えないだろうけど、薄すぎるのも地味な子だと思われかねない。今日は慎重にアイシャドウも落ち着いた色、リップもほんのり色づくくらいで全体的に薄くしたが、これではぱっとしないような…。


「ねぇ、やっぱりメイク薄くしすぎたかな?リップもう少し濃くしてもいいと思うー?」


「それで大丈夫だって。十分可愛いよ。少し早く出てゆっくり移動しよう。お店の場所だって駅から10分かかるし。」


「そんなに急がなくたって大丈夫だよ。あー緊張してきた。孝典の両親と会うんだよ!どんなこと言えばいいんだろう。付き合ってから一度も挨拶に行ったことないし、いきなり結婚だなんて、ほんとに大丈夫かな。」


 孝典との付き合いは長いが一度もご両親とは顔を合わせたことがない。大学時代のデートはいつも外か一人暮らししている私のアパート、都内の大学だけあって遊ぶところはいくらでもあった。だから孝典の実家に遊びにいくことはなかった。孝典はいつも両親が会いたがっていることを言っていた。だが、行かなかったのだ。


というのも孝典のお父さんは都内に本社を構える大企業の役職つきのお偉いさん。これは付き合い始めて、孝典の実家が高級住宅街で名高い西麻布に住んでいることに驚き、なんとなく孝典のお父さんのことを聞いてしまった。それで、孝典はケロッと誰でも聞いたことがある企業名を出して、そこで監査役をしていると言ってのけた。


  群馬の超普通の家庭で育ち、上京しはじめた小娘にどれだけの衝撃を与えたことであったか。その時思ったのは、お金持ちでもみんながみんな高い服を着ているわけではないのかと。孝典はいつもどこで買ってきたかわからないようなノーブランドの服を着ていた。服にもお金をつかようなことは何も興味がなかった。だからお金持ちの生まれだとはこれっぽっちも思わなかったのだ。なんとなく、普通の家庭で育ったことに負い目を感じて、ご両親と会うのを避けてきたのだった。

 しかしもう避けられない。目の前で時間を気にかけているこの彼と結婚するのだから。


上品にみえそうなワンピースのすそをひっぱり、立ち上がった。


「よし!!行こっか!」


「時間ギリギリだよ。乗る予定の電車の時間まで後10分!急いで!」

 アパートの部屋に鍵をかけて外に出る。


「ヒール大変だと思うけど、頑張って。」


 アパートから駅までちょうど10分くらい。その電車に乗れなくても遅れることはないが、孝典は急かしてくる。急かさないでといいながら、孝典の歩調と合わせるためにカツカツとヒールを鳴らしながら歩いた。


駅向かう途中の唯一の横断歩道、孝典が走る。ヒール履いてるの忘れてるでしょ!と思いながら追いかけた。

孝典が渡り終わったところで信号は点滅しはじめた。まだ私は半分も渡っていない。急がなきゃ、ヒールの底が削れてしまわないか心配しながら走った。


「ほら!急いで!」


振り返った孝典が言う。


「ヒールなの!しょうが…」


言いかけたところで目の前が真っ暗になった。






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