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ほにゅうるいがいる

作者: 曲尾 仁庵

わがやには ほにゅうるいが いる

わたしは ほにゅうるいの おせわを している


ほにゅうるいは おおきい

イングリッシュマスティフと おなじくらい

でも イングリッシュマスティフほど かわいくは ない

イングリッシュマスティフほど かしこくも ない

むしろ ちょっと おばかだ

わがやの ほにゅうるいは

イングリッシュマスティフには なれない


ほにゅうるいは とつげきする

かべに とびらに とつげきする

そして ごん と にぶいおとを たてて ぶつかる

ぶつかると すこし むきを かえて

また とつげきする

こまわり という ことばは

ほにゅうるいの じしょには ない

みちが ある ところを とおるのではない

とおってみて とおることが できたら

そこが みち なのだ

そして わがやの かべや とびらに

きょうも きずが ふえていく


ほにゅうるいは よく いうことを きく

わたしが あれをして これをして と いうと

げんき よく へんじを する

げんき よく へんじを するが

げんき よく へんじを して おわる

ほにゅうるいは よく いうことを きくが

きくだけで じっこうには うつさない

そして しょっちゅう

わたしや ははに おこられている


ほにゅうるいは よく ねる

いすの うえで よく ねる

ほうっておくと ほぼ いちにち ねている

ねてばかりだと からだが なまってしまうので

わたしが おきなさい と こえを かけると

げんき よく へんじを するが

つぎの しゅんかんには もう ねている

そして しょっちゅう

わたしや ははに おこられている


ほにゅうるいは うんどうが きらいだ

じぶんから うんどうを することは ほとんど ない

わたしが うんどうを しなさい と いうと

いえいえ わたくしは けっこうです

という かおを する

わたしが いやがらないで やりなさい と いうと

いえいえ あっしのことは きにしねぇで おくんなせぇ

という かおを する

わたしが いいから やれ と いうと

またまた だんな ごじょうだんが すぎますぜ

という かおを する

そして けっきょく

わたしや ははに おこられている


わたしも ははも やるべきことが たくさん ある

つねに ほにゅうるいに かまっては いられない

だから ほにゅうるいは

へんじさえ していれば

きりぬけられると しっている

そういう こざかしい ちえは

おどろくほど すばやく みにつけた

しかし へんじを しただけでは

ごまかせない ことも ある

わたしが あきらめることなく

やれ と いいつづける ときや

ははの いかりが おもいのほか ふかいと きづいたとき

ほにゅうるいは つぎの いってを くりだす

まるで アルパカの あかちゃんが

ははおやを よぶときの ような

あわれで さびしげな こえを だすのだ

わたしが あわれな こえを だすんじゃ ない と

ほにゅうるいの あたまを なでると

ほにゅうるいは えへへ と わらう

わたしも おもわず わらってしまって

けっきょく わたしは ほにゅうるいを ゆるしてしまう

わたしは ほにゅうるいに あまい

そして ほにゅうるいは

わたしが ほにゅうるいに あまい ということを

しっているのだ


ほにゅうるいは おふろが きらいだ

おふろに はいるよ と いうと

あきらかに いやそうな かおを する

まいにち まいにち あきもせず

ははに おこられ わたしに おこられ

しぶしぶ ゆっくり おふろに むかう

シャワーなら なんとか あびて くれるが

ゆぶねに つかるのは かたくなに いやがる

わたしと しては からだが ひえないように

ゆぶねに つかって ほしい の だが

いまのところ シャワーが

おたがいの だきょうてん だ

おふろで ほにゅうるいを わしゃわしゃと あらう

うん きょうも きれいに なった

ほにゅうるいは ひふが よわいから

きれいに するのは たいせつ なのだ


ほにゅうるいは たべることが だいすき

ごはんよ と いうと

にこにこと うれしそうな かおを する

すき きらいは なく

なんでも よく たべる

そこは ほにゅうるいの

けっして おおくは ない びてんの ひとつだ

まぐまぐと いっしょうけんめいに たべる すがたは

なかなかに かわいい もので

ほにゅうるいの おせわは

それなりに たいへんだけれど

もうすこし がんばって みようかと

そう おもうことが できる


ほにゅうるいは たべることが だいすき

おやつよ と いうと

めを きらきらと かがやかせる

さっきまで わたしが どんなに おこっても

うとうと ねむりこけて いたくせに

さんじが ちかづくと ぱっちり めが あき

おやつを よこせ と ほえる

わがやでは うんどうを しない わるいこには

おやつは でてこない システムに なっております

と わたしが いうと

ばかな

という かおを する

そんな おうぼうが ゆるされて よいのか と

こうぎの こえを あげる

このよに せいぎは なくなって しまったか と

てんを あおいで なげく

ほにゅうるいは ことばを しゃべることが できないから

まるで かいせいほにゅうるいの ように うなる

ほにゅうるいが おこるのは

ほぼ おやつが もらえない とき だけだ

その あまりの けんまくと

しょうもない どうきに

わたしは おもわず わらってしまって

ほにゅうるいに おやつを あげてしまう

ほんとうは うんどうも しないで

いちにちじゅう ねこけている

ほにゅうるいの じごうじとく なのだけれど

おやつを めのまえに して

にこにこと うれしそうな ほにゅうるいの かおを みていると

まあ いいか という きに なって

わたしは いっしょに おやつタイムを たのしんでいる


びょういん からの おみまいの かえり

ふと かんばんに めが とまる

そこには いっけんの ケーキやさんが ある

ほにゅうるいは おやつが だいすき だから

ケーキを かって かえったら

よろこんで くれるかな?

ケーキなんて めったに かわない の だけれど

ほにゅうるいの にこにこを そうぞうして

わたしは ケーキやさんの とびらを くぐった

そして そこに ひろがる べつせかい

いろとりどりに かがやく いくつもの ケーキたち

そのなかに ひときわ めを ひく

うつくしい すがたを した ものが あった

シャインマスカットタルト

エメラルドいろの えいこう

おもわず てを のばしかけ

てが とまる

きかん げんてい ひときれ せんにひゃくにじゅうえん

さすが シャインな マスカット

ねだん までもが かがやいて

ちょくし できない

おもわず さいふに めを おとす

さいふの なかには おかねが ある

こんしゅうの しょくひが

ここで この うつくしい あくまに

みいられて しまったら

こんやの おかずが ひとつ へる

あしたの おかずも へるかも しれない

ちなみに

ほにゅうるいの えいようを

へらす わけには いかないから

おかずが へるのは わたしだけだ

しかし まちがい なく

ほにゅうるいは よろこぶだろう

きらきらと めを かがやかせる だろう

ならば わたしの こたえは きまっている

シャインマスカットタルトを ください

それから チョコレートケーキも ください

そっちの イチゴショートも

へいせいを よそおう わたしの こえは

すこし ふるえていた かも しれない

だが しかし

やるなら てっていてきに だ

たとえ そのさきに まつのが

たまごかけごはんの まいにち だったとしても

きょう このとき だけは

ケーキに おぼれたって いいじゃない

ケーキの はこの すばらしき おもさと

おさいふの たえがたき かるさを かみしめながら

わたしは かえりみちを いそぐ

ほにゅうるいは きっと

この ケーキを みて

おおはしゃぎ するに ちがいない

わたしは わくわく しながら

ほにゅうるいの まつ わがやに もどった

そして わたしが みた ものは


もりもり で あった

ふだん より より もりもり で あった

おお もりもり で あった

ほにゅうるいは えへへ と わらっている

わたしは おもわず ひざから くずれおちた


ああ ケーキなんて かわずに

さっさと かえって きて いたら

ほにゅうるいに もりもり なんて

させずに すんだのに

わたしは ちょっぴり おちこんだ

でも ほにゅうるいは おちこまない

ふしぎそうに こちらを みる

ほにゅうるいは のうてんき だ

それは ときに はらだたしく

そして ときに すくわれている


ほにゅうるいは はじめて みる

シャインマスカットタルトに

あんのじょう おおよろこび だ

ごきげんな ほにゅうるいを みて

まあ いいか と おもう

でも


ごめんよ シャインマスカットタルト

おまえには なんの つみも ないのに

わたしが おまえを おもいだすとき

それは もりもりの きおくと ともに


すこし げんきの ない わたしに きづいて

ほにゅうるいは じぶんの イチゴショートを

はんぶん わたしに くれた

わたしは びっくりして

ほんとうに いいのか と きくと

ほにゅうるいは うんうん と うなずく

さしだされた おさらの うえには

はんぶんに なった イチゴショートがあり

そして いちごは すべて なくなっていた


わたしは ありがとう と おれいを いって

ほにゅうるいの あたまを なでる

ほにゅうるいは きもちよさそうに

めを つむっていた


ほにゅうるいは やさしい

ただ すこし きは きかない かも しれない


ほにゅうるいには とくぎが ある

おどろくべき ことに

ほにゅうるいは タオルを たたむことが できる

てと くちを きように つかって

タオルを たたんで くれる

くちで くわえて タオルを たたむことの ぜひは

ここでは とうまい

なぜか タオル いがいは たたまない

バスタオルも たたまない

ほにゅうるいには なにか

どくじの びがくが あるのだろう

わたしが せんたくものを たたんで いると

じぶんで つくえの うえを かたづけて

さあ ここに タオルを おくがいい と ようきゅうする

タオルたたみは じぶんの しごと と おもっている らしい

はじめて ほにゅうるいが タオルを たたんだとき

わたしは ほんとうに おどろいて こう おもった


どうだ うちの ほにゅうるいは かしこいだろう

なんにも できない わけじゃ ないんだぞ


ほにゅうるいは ときどき

じぶんの ごはんを わたしに くれる

たべることが だいすき なのに

わたしに くれる

わたしも せいちょうきは とうに すぎたのだから

そんなには たべられない の だけれど

きっと ほにゅうるいに とって

わたしは いつまでたっても こども なのだろう


さいきん ほにゅうるいは

おはよう を いえるように なった

ときどき ありがとう も いってくれる

つまり いきるうえで ひつような ことばの

ごぶんのにが いえる と いうことだ

のこりの みっつは

いただきます

ごちそうさま

おやすみ

で ある

それだけ いえるように なれば

じんせいは じょうじょうだ

よくを いえば

トイレ と いえれば なお よい

ほにゅうるいは ひび しんかする

その しんかを はっけん する たびに

うれしくて たのしくて

わたしは ほにゅうるいと いっしょに

わらっている


わがやには ほにゅうるいが いる

わたしは ほにゅうるいの おせわを している

ほにゅうるいの おせわは

それなりに たいへん だけど

なんとか みんなで

きょうも たのしく くらしています

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