01
「ついにこの日が来たな」
「……ああ」
魔錠車の運転席からかけられた言葉に、クラフト・エヴォルヴァは窓の外の光景を眺めながら、言葉少なに答えた。
少年から青年へと脱皮しようとしている年頃のはずだが、祭りで賑わう街路を見る目はひどく醒めていた。
赤褐色の髪、髪と同じ色の眉、それらとコントラストをなす澄んだ空色の瞳。後ろで束ねただけの大雑把な髪型とは対照的な、厳しく引き締められた眉根と鋭く何かに集中している目。そして、着古したつなぎの作業着と工具の持ち手のはみ出したウェストポーチという技術者らしい装いの上に、戦闘用のベルトと要所を覆う軽防具を身につけている。
熱さと冷静さ、雑さと集中力、そして技術者と戦闘者――対極的な要素をいくつも兼ね備えた少年は、静かな苛立ちの交じる声でつぶやいた。
「過ぎ越し祭――千年前、この地で魔王ブカンフェラスを封じた聖女テレーシア・ケリュケインを記念する祭り、か」
窓の外の街路はお祭りの空気で一色だった。
が、その光景を眺めるクラフトの横顔には苦い色が浮かんでいた。
「今日何が起こるかで、クラフト、おめえの理論が正しいかどうかがわかるな」
「理論じゃない、史実だ。こんなにも明らかなことを、俺以外の誰もが真面目に信じようとしない」
「そう言うな。みんな、他の奴が信じてるかどうか、偉い奴が信じてるかどうか、その程度の基準で信じたり信じなかったりするもんだ。自分の頭で考え抜いてことの真偽を見極めようとする奴なんて少数派よ。かくいう俺だって、おめえの理論――いや、史実か、それを根っこから信じられてるとは言えねえ。俺は所詮、凡庸な機匠にすぎん。俺はクラフト・エヴォルヴァという天才的な機匠の言うことだから、信じてみようと思っただけだ」
「自分のことを凡庸とか言うの、よくないぜ」
「そりゃあ、自分の限界ってもんを見たことのない奴が言うことだよ」
馴染みの親方は自嘲するようにそう言った。
クラフトの意見は違ったが、とりあえず苦笑して、それ以上は反論しなかった。
天才機匠と言われたところで、自分はまだまだ若造だ。親方の積み重ねて来た経験の重みを、自分の若い理論で否定するつもりなんてない。
もちろん、だからと言って違うと思うことをむりやり呑み込むつもりもないが、それもひとつの見方かと思える程度には、クラフトはこの親方のことを尊敬していた。
「にしたって、千年も前のことだろ? そりゃ、信じろったって難しいよ」
それは、今から千年前のことだ。
戦乱の最中にあったファルダール大陸に、突如魔王が現れた。
ブカンフェラスと名乗った魔王は、異界から呼び出した魔物の軍勢とともに征服を開始、ものの数年でファルダール大陸の五分の四までを手中に収めてしまった。
その頃には、大陸の支配者たらんと覇を競っていた大国たちも、恐れを知らない魔物の軍勢と魔王ブカンフェラスその人の膨大な魔力の前になすすべもなく滅んでいた。
魔王の支配は苛酷極まりなかった。
戦争のための重税に苦しんでいた大国の民たちの中には、はじめ魔王を独裁者からの解放勢力として迎えた者もあったらしいが、そんな甘い幻想は数ヶ月と保たずに崩壊するのが常だった。
魔王に対抗しうる勢力を失った大陸の人々のあいだに、絶望感が蔓延した。
が、そんなとき、勇者たちが現れた。
彼らは大国同士の醜い覇権争いからは距離を置き、人知れず武芸の技を磨いていた高潔な剣士や善なる魔術師たちだったという。彼らは巷間で人助けに勤しみ、時に人々を苦しめる盗賊や正規軍崩れのならず者たちを討伐しながら暮らしていた。
彼らは一人で、あるいは少人数のパーティを組んで魔王に挑んだ。
彼らは大陸の希望だった。
しかし、彼らでは魔王に届かなかった。
物量では数多の魔物を従える魔王軍に及ばず、また個人の力量でも膨大な魔力を持つ魔王に敵わなかった。
数知れぬ勇者が殺された。
希望の星がひとつひとつ磨り潰されていく現実に、人類は震え上がった。
しかし、その恐怖こそが、ばらばらだった人類をまとめあげた。
市民も権力者もみな、魔王を倒さねば未来がないと、痛切なまでに認識した。
勇者たちの死によって、魔王を倒すためならなんでもやると、大陸中の人間が心から思えるようになったのだ。
そんな人々の想いを束ねたのが、聖女テレーシア・ケリュケインだった。
孤児だったという聖女テレーシアは、類い希なる魔力許容量を持っていた。
人々は大陸中に存在するありとあらゆる魔力を持ち寄り、聖女の体内に蓄えた。
数多の魔力鉱物を、魔力の宿る古道具を、ご神体として仰がれてきた聖遺物を、人々は惜しげもなく潰し、聖女の体内に魔王にも匹敵するほどの魔力を注ぎ込んだ。
聖女は溢れんばかりの魔力を抱えて魔王に挑んだ。
その結果は――
「……聖女はその身ごと魔王を氷晶の中に封印した」
クラフトは魔錠車の助手席から通りがかった広場の様子を眺めながらつぶやいた。
広場では子どもたちによる劇の出し物が行われている。
過ぎ越し祭での定番歌劇「聖女、魔王を封印し賜いけり」だった。
魔錠官でもあるクラフトの目は、広場にある錠のいくつかが開かれ、歌劇の音響に利用されているのを見てとっていた。
「みんな、お伽噺だとしか思っちゃいねえ。おかしな話だ。こうやって子どもでも魔錠を使ってるってのに、その大本となった聖女の伝説は誰一人まともに信じてないんだから。聖女が俺たちに託した願いに想いを馳せる奴もいない……一体、何のための備忘祭だよ」
〈蜂と蛆どもの主〉魔王ブカンフェラスを倒せないと悟ったテレーシアは、ブカンフェラスを自分ごと封印し、その間に人類が強くなることに希望を託した。
伝説ではそう謳われている。
後に残されたのは、聖女と魔王をその裡に封じた直径三キルアにも及ぶ巨大な魔法の氷晶だけだった。
〈凍結された決戦場〉――その氷晶はいつのまにかそう呼ばれるようになっていた。
「〈凍結された決戦場〉から漏出する魔力には二種類の波紋が交じってるってのは、この街を裏から支える機匠にとっちゃ常識だ。が、〈凍結された決戦場〉の奥底に本当に聖女と魔王なんてもんが眠ってるのかってことに関しちゃ、ほとんど全ての機匠が否定する。笑いだす奴だっているだろう。基本的には透明度の高い氷晶だが、内部にはさまざまな応力が働いているから、核の部分まではどんな光学機器を使っても見通すことはできねえ」
「見えないからいないなんて、理由になってないだろ」
「まぁな。だが、だからいるとも言えないわな。大概の機匠は現実主義者だ。魔力が安定して供給されてさえいれば、その正体がどうだろうと構わないというのが、俺を含めた機匠の一般的な意見だろうよ」
「…………」
「もちろん、〈凍結された決戦場〉はそれ自体が魔力の塊だから、魔力による深層探査も不可能だ。最近じゃ、〈凍結された決戦場〉は単なる巨大な魔力鉱石にすぎないと言う若い機匠も多い」
「……聖魔決戦が歴とした歴史的事実だっていうのにか?」
「聖魔決戦でぶつかりあった膨大な魔力が何らかの理由で変質したのだ、と言っていたな」
「その『何らかの理由』ってのを聞いてみたいもんだな」
「ま、誰だって認めたくないんだ。この街が、この繁栄が、そんなにも脆い基盤の上に成り立ってるものだなんてことはな」
「…………」
聖魔決戦から千年が経つ間に、〈凍結された決戦場〉の周りでは劇的な変化が起きていた。
決戦から百年と経たないうちに、高原の荒野だった決戦場の周りには、人工湖を挟んで都市ができあがっていた。そして、この都市は母なる大地を離れ、〈凍結された決戦場〉をその懐に抱きながら大陸の空を浮遊している。
大浮遊都市キャラビニエール。通称・聖鎧都市。
それは、〈凍結された決戦場〉から漏れ出す膨大な魔力を動力源として地上から浮遊する人工都市だった。
〈凍結された決戦場〉から溢れる魔力は、半径十五キルア、人口実に三〇〇万という大都市を宙に浮かせてなおあまりある。
〈凍結された決戦場〉から漏れ出す魔力は、街に張り巡らされた排魔路を通して街中に分配される。魔力はゆるやかな孤を描く形で中心から外縁へと流され、街の外へと放出される。
と同時に、その循環と逆の方向にキャラビニエールはゆっくりと公転していて、それによって魔力の流れに負の慣性力を与えて減速し、利用しやすくしている。
公転軌道制御用錠結合体――通称・公転ジャイロと呼ばれる施設が街の随所にあり、その施設を経由して、魔力は細い排魔路へと分配される。そして最後には、魔錠と呼ばれる栓から取り出され、種々の用途のために使われる。
魔錠、あるいは錠は、街の至る所に設置され、現市長ドルーア・マーティレイの代からは、一般市民でも資格さえ持っていれば、錠を自由に利用できることになった。
キャラビニエールの市民たちは、ほとんど水道に近いような感覚で錠を使っているが、その魔力がどこからやってくるのかといえば、千年前の聖魔決戦の際にできたあの〈凍結された決戦場〉であり、聖女の行使した大魔法と魔王の持つ魔力なのである。
「ドルーアさんの魔錠の一般開放は画期的だった。危険視する声もあったが、俺たち機匠にとっちゃ福音だった。腕をふるう機会が飛躍的に増えたんだからな。結果としてここ数十年沈滞気味だったキャラビニエールの景気もよくなった。油にまみれて回炉をいじってるとわからねえが、空前の好景気なんだってな。そのせいで今年は祭りも華やかだ」
「……千年紀だってことを差し引いても、常にない盛り上がりだな」
千度目の過ぎ越し祭が盛大に開かれ、キャラビニエールは大いに賑わっている。
過ぎ越し祭は身を犠牲にして世界を救った古代の聖女を讃え、その事績を語り継ぎ、もって千年後の魔王との決戦に備えようという記念祭だ。備忘祭とも言う。
が、その伝承は形骸化し、今では神話と見なされている。よくある終末論の一種であり、科学的な根拠はないと学者は言い、現在主流派の宗教は伝承は異教の教えに基づくものであり偶像崇拝に当たるとして過ぎ越し祭には関知しない態度を取っている。
従って、キャラビニエールに千年前の伝承を本気で信じる者はいなかった。
ここにいる、一人をのぞいて。
「――さて、着いたぞ」
魔錠車が止まったのは、キャラビニエールの南舷Ⅰ区、人工湖を挟んで向かい側に〈凍結された決戦場〉を仰ぎ見る辺りだった。
一日二回転の周期で公転しているキャラビニエールでは、磁針による方位では地図を見ることが難しい。
そのため、春分・秋分における日の出時刻を基準として、その時刻に東西南北それぞれの方向にある面を東舷、西舷、南舷、北舷と呼び、磁針による東西南北とは区別している。
また、公転の周期が一日二回転であることから、日の射す方向と日照時間とが地上とは大きく異なっている。
太陽が東から昇り、南の空を巡って、西へと沈む間に、キャラビニエールは半日分、すなわち一回転の公転を行う。そうすることですべての舷に日照を保障しているのだ。
たとえば東舷なら、太陽が東から昇り西へと沈む間に、東から始まって南、西、北へと巡り、東へと戻ってくる。もちろん南舷であれば南から始まって西、北、東を巡り、日没時に南へと戻ってくることになる。
一日の公転がどこから始まるかは、各舷に住む市民たちにとって、無視できない意味を持っている。
というのは、〈凍結された決戦場〉から立ち上る陽炎が日光の一部を遮ってしまうため、太陽と〈凍結された決戦場〉と各舷の位置関係によって、日照に差が出てしまうからだ。
東舷であれば、東を向いている朝には正面から陽が射すため日照に恵まれるが、公転が進むとともに徐々に日照条件が悪くなっていく。キャラビニエールの公転は一日に二回転、すなわちキャラビニエールは太陽の二倍の速度で公転する。東舷が南を向く頃には太陽はまだ東南にあり、太陽が南中する時には東舷は既に西を向いている。従って、昼間に太陽の恩恵を存分に受けられるのは、東舷に代わって南に現れる北舷だ。
午後になり、東舷が北に回る頃には太陽は南西にあり、一周の公転を終えて東舷が再び東面する時刻には、太陽は西の地平線へと沈んでいく。この時刻、太陽との間に〈凍結された決戦場〉を挟むため、東舷の日照は日中で最も悪くなる。
同じ理屈で四つの舷それぞれに日の射す方向と日照時間のムラが存在するが、このムラには舷ごとに有利不利が存在する。大まかにいえば、朝の日照に恵まれる東舷と太陽が南中する昼に南面する北舷がよいとされていて、朝太陽に背を向けることになる西舷や昼に北を向いてしまう南舷は条件が悪いことになる。
もちろん、背を向けるといっても日が射すことには違いがないから、太陽と反対側の舷がまるまる影に覆われてしまうわけではないが、太陽の日差しが強い時間帯にその舷がどの方角を向いているかによって、日照条件におのずと不公平が生まれてしまう。
そのような理由で、東舷・北舷は地価が高く、富裕な市民の住居が多いのに対して、南舷・西舷は相対的に貧しい住人が多い地域となっている。
さて、なぜ今クラフトが南舷Ⅰ区に立っているかといえば、これからこの地区は北面して〈凍結された決戦場〉の影に入るということと、貧民の多い南舷側の方が警備が手薄だということの、二つの理由があった。
つまり、この時間もっとも人目につかずに〈凍結された決戦場〉に侵入できるのが、この南舷Ⅰ区からの侵入経路だったのである。
もちろん、キャラビニエールの心臓である〈凍結された決戦場〉への無断立ち入りは厳禁であり、高額の罰金や懲役を科される場合もある。
「……すまねえな。こんなことに巻き込んで」
「いいってことよ。ま、面倒に巻き込まれるのはごめんだから、おめえが行ったらさっさととんずらこかせてもらうけどな」
親方は南舷の出身らしいから、目撃されても当局に目をつけられることはないだろうという計算もあった。一般に、貧しい地区ほど市当局への反感が強く、仲間内での連帯感が強い傾向にある。
「シアちゃんにこんなことの手伝いをさせるわけにもいかねえんだろうからな?」
「…………」
クラフトは答えず、魔錠車(年季の入った軽量運搬車だ)の荷台のシートをまくり、その下に隠しておいた秘密兵器を取りだした。
それはまさに、「秘密兵器」と呼ぶにふさわしい代物だった。
クラフトが子どもの頃夢中になった歴史小説に、斬馬刀という武器が出てきた。
文字通り馬ですら真っ二つに叩き斬るという巨大な太刀で、刃渡りだけで一メリア半近く、肉の厚さはほとんど戸板ほどもある恐ろしい刀だという設定だった。
もちろん、歴史上の名だたる英傑であってもそんな大きさの鋼の塊を自由に振り回せたはずもなく、それはあくまでも小説の中のことである。
が、今クラフトが取りだした武器は、その斬馬刀に勝るとも劣らない巨大な剣だった。
刃渡りは一メリア程度と、かの斬馬刀よりは小ぶりだが、複数の聖鎧回炉を盛り込めるだけ盛り込んだ刃は幅広で肉も厚い。もちろんそれだけでは取り回しに困る。刃の背の部分にいくつかのハンドルが用意されていて、状況に応じて持ち替えることで、そんなバカでかい代物でもかろうじて振り回せるよう工夫されていた。
「……何度見てもバカげたでかさだな。そんなもん、本当にまともに扱えるのか?」
「回炉を起動すれば、重さについては中和できるんだ。それを応用してやれば慣性を殺したり逆に増したりすることもできるはずだから、優れた魔錠官なら練習次第でそれなりに使えるようにはなるはずだ」
「だが、そんだけデコボコしたもんでどつきあいなんぞしたら、あっという間に壊れちまうだろう」
「もともと、これで斬り合うことは想定してないよ。こいつは魔力の増幅装置兼制御装置だ。巨大な魔法の杖だと思った方が実態には近い。ま、いざとなりゃそれなりに斬り合えるようにはしてあるけどな」
「聖女さまに捧げる魔法の杖にして聖剣ってわけか」
「そういうこと。魔王をやろうってんだ。少々バカげてるくらいの武器じゃなくちゃ足りねーだろ?」
「……そりゃ違いない」
親方は苦笑した。
「当代きっての天才機匠クラフト・エヴォルヴァ、対、千年前に封印された伝説の魔王ブカンフェラス――なかなかの好カードだとは思うが、俺も妻子やら弟子やらのある身だ。問題がなけりゃ、この辺でお暇させてもらうぞ」
「ああ。無理を聞いてくれて、本当にありがとう」
「いいってことよ。だがな、何があっても必ず、生きて帰ってくるんだぞ? おめえは俺たち機匠の希望の星なんだからな」
「……もちろんだ」
クラフトは荷台から下ろした「斬馬刀」――超多重魔錠接続型逆加速増幅式聖鎧回炉内蔵対魔王用聖鎧回炉刀〈旋風・0〉、略してタビュロ、を背中に負う。その他、冷却ジャイロ等、いざという時に役に立つ工具類を確認してから、運転席の親方に向かって親指を立てた。
「……クラフト、武運を祈る!」
親方は親指を立て返しながら魔錠車を発進させた。
遠ざかる魔錠車を見送り、クラフトは改めて人工湖の向こうの〈凍結された決戦場〉を睨む。
〈凍結された決戦場〉は直径三キルア、公転面からの高さ五〇〇メリアにもなる巨大な氷晶の浮島だ。
氷晶はどういう理由でかひとつの山を模倣している。浮島には自然の山で見かけるような木や岩や動植物が再現されている。といっても、それはあくまでも氷晶による再現であり、それらの木や岩や動植物は硝子の彫像のように透き通っていて、動くこともない。
山はどうやら〈犠牲の聖女〉テレーシア・ケリュケインの故郷の山を模倣したものらしいと言われているが、なぜそうなったのかは、それこそ聖女自身に聞かなければわからないだろう。
と同時に、氷晶――〈凍結された決戦場〉からは、危険な存在が生まれることもある。
凍結獣。
そう呼ばれるそれは、かつて魔王が率いたとされる魔物の、氷晶による再現である。凍結獣は他の動植物の模造品とは異なり、敵意を剥き出しにしてキャラビニエールへと襲いかかる。キャラビニエールにはそれら凍結獣を征伐するための特別な部局があり、凍結獣による一般市民への被害を水際で食い止めている。
〈凍結された決戦場〉は、キャラビニエール繁栄の基礎となる膨大な魔力を、ただもたらしてくれるわけではない。その本性は聖魔半ばするものであり、封印が千年で切れる以上、やがて「聖」は排除され、後には「魔」のみが残される。
もし滅びたくないのであれば、やらねばならないことがある。
「さあ……行くか」
クラフトの目には、決意の光が浮かんでいた。