What is Today ?
「ふぁ〜……」
珍しいことが起きた。
というか、なにが起きたのだろう。
うん、こんな日、どれだけぶりだろうか。
「…俺が自力で起きてる………眠い」
いつも寝坊して電車に乗り遅れそうになる俺が、今日に限って誰に起こされるわけでもなく起きていた。目覚まし時計が鳴った様子もない。
ついに、寝ぼすけ達也、卒業の日が来たのだろうか?
頭がすっきりしないまま布団から起き上がる。
ああ、なるほど。
そして、狭い部屋のキッチンを見て理解した。
「あれ、起こしちゃった? ゴメンね」
俺の彼女が朝食を作っていた。
「ううん、多分蒸し暑いから起きたと思う…おはよう」
「うん、おはよー」
上京して、一年。
こっちにきてできた彼女は毎朝朝ごはんを作りにきてくれる、なんとも献身的な彼女だった。
不規則な俺の食生活を心配してくれて毎日来てくれるが、今でも少し申し訳ない気がする。彼女に言えば、私が好きでやってるんだよー、とか言われそうだけど。
とんとんとん、と心地よい音が部屋中に響いていた。
「てか今日は早いね」
それにしても、今日はえらく時間が早い。確かにいつも作りに来てくれるが、こんなに早い日は初めてだった。
「あ〜うん、まあね。…今日はちょっと特別な日だから」
「特別な日?」
「うん、特別な日」
にっこりと笑ってまた料理に取りかかる彼女。なんだろう、すごく楽しそうだ。
疑問に思い、壁にかけてあるカレンダーに目をやる。
今日特別な予定はない。というかそもそも、カレンダー自体大学関係のメモばかりで、特別な日と関係のありそうなことは書いていなかった。
頭の?マークが増えていく。
「あっ、時間かかると思うから、まだ寝てていいよ」
「こんな早くから作ってるのに時間かかるの?」 「うんかかっちゃうの」
弾んだ声の彼女。
さらに?マーク追加。
今日って何の日だっけ?
特別な日…何かの記念日?
付き合い始めた日にはまだ遠いよな。なら彼女の誕生日…もまだ遠いか。大学でなにかあったわけでもないし…。
寝てていいよ、と言われたものの、そんなことを考えていたら目がさえてしまっていた。
「小説でも読んでよ」
枕元にある文庫本をぱらぱらとめくり始めた。
「…………や………つやく……―達也くんってばー」
「んー……って、あれ?」
「やっと起きた。やっぱり達也くんは寝ぼすけさんだ」
気づかないうちまた眠ってしまっていた。しかも人に起こされている。
「うう、卒業できたと思ったのに…」
「ん? 大学卒業できるのは三年後だよ?」
「…なんでもない」
いつも通りにオレは彼女に起こされ、彼女のぼけぼけっぷりに付き合っていた。
「ほらほら起きてっ、ごはんできてるよ。あつあつがいいんだよ、おいしいんだよ」
「はいはいわかってるよ」
ゆっくり起き上がろうとすると、辺りをおいしそうな匂いが包んでいるのに気づいた。
匂いに誘われてその方向に視線を運んぶと、テーブルの上には……和風というより、洋風。
……というより朝食っぽくないというか、
「…これ晩ご飯、だよね?」
夕飯に出てきそうな品々がずらりとならんでいた。
からあげにハンバーグ、エビフライにポテトサラダにスープ、
「それに…ケーキ」
それらがテーブルの上を陣取っていた。
立ちすくんでしまう俺。
「達也くんまだ寝てるの?」
「いや、起きてるけどさ…なにこれ?」
そう聞くと、彼女は、あちゃー、と頭に手をやりうつむいた。
「やっぱり朝ご飯にこれは…無理だったかな? で、でも朝ご飯じゃないとご飯作りにこれないから…だから今日だけは特別、ねっ」
「待って待って。さっきから今日は特別な日って言ってるけど一体なんなのさ?」
「え?」
急に頭をを上げて、じっと俺を見る彼女。
「達也くんまだ寝てるの?」
「いやだから起きてるって」
正直に答えると、
「―あははっ」
突然笑いだした。
「すごーい、本当にいるんだねそんな人! あははっ」
「え、ちょ、待った。なんで笑ってるのっ?」
「すごいよ達也くーんっ」
「わけわかんないって」
そうやってひとしきり笑うと、彼女は深呼吸して息を落ち着けた。
「うん、そうだね。言葉にしないとわかんないこともあるよね」
そして、彼女は俺をすっと見つめて、
「ハッピーバースデイ、達也くん」
にっこりと笑った。
「え? 誕生日って……誰の?」
「誰のって、達也くんのだよ」
不思議そうに首を傾げる彼女。
俺は頭を整理しながら、少し間をおく。
「あのさ、俺の誕生日…………来週なんだけど」
そして彼女は、
「ふ、ふあーーっ!!」
部屋中に悲鳴を轟かせた。
「ええーーっ!? どどど、どうしよー! せっかくドッキリがーっ」
あたふたとしながら半べそになっている。
う、ここまでの反応とは思っていなかった…。
「ううー、達也くんなかったことにしてーー……わぁっ?」
俺は黙ったまま、彼女を引き寄せた。俺の胸に抵抗なく収まる。
「た、達也くん?」
「えーとね、ゴメン。実は今日俺の誕生日であってたりして……」
「………」
彼女は固まって、
「ええーーーーーっ!!」
また轟かせた。
「ゴメン。自分の誕生日を忘れてるのが恥ずかしくて、嘘をついた。それにそんなにがっかりするとは思ってなかった…」
「な、なーんだぁ〜〜」
「わととっ」
急にしぼんでいく彼女を受け止める。
「ゴメンね、そしてありがとう」
「う、うん……どういたしまして。よかったよー、色々ムダにならなくて」
「うん、ゴメン…」
「ううん、それはいいの。ただ達也くんを笑わせられたからほっとしてるの。ドッキリは逆にかけられちゃったけどね」
胸の中でちょっぴり悔しそうに笑う彼女。
きっとこんな近くだと俺の顔が赤くなったのに気づいたに違いない。
「ホントありがとう、色々頑張ってくれたんでしょ?」
「うん、頑張ったんだよー。下準備して、ケーキは昨日のうちに家で作ってきて、こっちですることをなるべく少なくして」
「えっ、あのケーキも手作りっ? すごいなぁ…」
「えへへ。満足してくれた?」
俺を見つめる期待と心配の混じった瞳。
それに対して俺は、ゆっくり顔を近づけていって、
「大満足だよ」
耳元で呟いた。
「う、うん…よかった」
軽く頬が触れる。熱を帯びたそれにまた鼓動が早くなっていく。
ゆっくりと顔を離していく。
「達也くん…」
「○○…」
どきどきしながら互いを見つめた。
そして――
「――うがっ!」
俺だけ床と天井が逆さまの世界にいた。
「起きなさいって言ってるでしょ、達也。遅刻するわよ。あと布団きれいにしときなさいよ」
そう言って敷き布団を床に落とす母親。
目の前に広がるのは見慣れた俺の部屋、上下逆さまだけど。
……って、まさか…
「夢オチかっ!? ―おわっ!」
体勢を崩し、ばたっと床に倒れ込む。
そういや俺彼女の顔覚えてないっ。しかもあんな部屋知らないしっ。
あれっ、おい、嘘、嘘だろ!
「って、遅刻するっ!」
八月五日、本日誕生日を迎えた俺はまだ受験すらしていない高校三年生だった。
「はっ、なんだこれっ!」
ちなみに今日初めにもらった誕生日プレゼントは、ロッカーに詰まった大量のうまい棒なのでした。
どんだけ誕生日、楽しみにしてたんだろ、俺。
What is Today? ― Today is your birthday.
Happy birthday.
これは今日(八月五日)に実際今日誕生日の友達に送ったメールです。
マジです、メールです、そして内容が荒いです…だって誕生日ってこと忘れてたから即興で作ったんだもん。
てか自分の誕生日忘れられるのって悲しいですよね。誕生日なのに何事もなかったかのように学校が終わり、家での晩飯を終え、睡眠。無理です、泣きます。
昔、作者は近い経験をしました。私の家は誕生日になると決まってちまき寿司をするんですけど、私の誕生日であるその日食卓にあったのは、天ぷらと味噌汁と白ご飯。不思議に思った私は「今日はちまきじゃないんだね」と聞きました。母親は首を傾げます。そして、しばらくして…謝られました。泣きそうでした、つかうるうるでした。
どうかお母さんお父さん、子供たちの誕生日を忘れないであげてください。軽くグレてしまいます。
すみませんあとがき長くなってしまいました。目を通してくださった皆様、ありがとうございました。お暇でしたら、感想、批判など聞かせてください。
ありがとうございました。