おやすみ。
ある秋の日のことだった。
なんていうんだろう、神秘的って言うのかな。空が綺麗だった。
ただそれだけ。でも…、でもね。
がんばってもがんばっても結果が出ない私にとってはとても良いことだったの。
すっかり忘れていた感情も、溶け出すように出てきて。
きっと、頑張ってた私への神様からのご褒美かな、なんて。単純だよね。
でも。私はこの空を見れただけで安心なの。よかったの。
しっかり生きていかなきゃって思ってても、心のどこかで怖がってて。
ただただぼうっとしてた。白い部屋の中で。
きらいになった訳じゃないよ。こんな手紙を書くなんて、変だよね。だけどこれだけは安心してわか
ってほしいの。私はあなたのこときらいじゃない、ううん、大好き。
というか、大大大好き!
生まれたときから決まっていたなんてロマンチックなことを考えてみたり、ね。
まぁでも、あなたのことだから笑って許してくれるのだろうけれど。
れんあいとかよく分からないって言うあなたに、私は最初びっくりしたよ。
変、とか思っちゃったりして。今は思ってないよ。あなたと出会って
わかったことは沢山ある。こんなに人を愛したの
って初めてだと思うな。
たんじゅんだけど、あなたの事が好きで、毎日毎日がんばれたの。
らいねんも、再来年も、ずっとずーっと一緒に居ようって言ってくれた。
必要以上の優しさだって思うかも知れなかったけど、私には嬉しかったよ。
ずっと一緒に居るとか、さっきも書いたけど言ってくれたしね。
人との関わりがあんまりなかった私を気遣って、友達紹介してくれたり。楽しかったね。学校の業
間休みに一緒にクラスメイトでオセロしたりね。ボロボロに負けてたよね…。
にっこり~、なんて笑えない私でも、心配してたよりみんなちゃんと接してくれて。
なぁんだ、全然大丈夫じゃん!! って分か
ってさ。あなたが私にくれた物、それはたくさんあるよ。たとえば、愛とか。
てを繋いでくれたときはびっくりしたけど、でも良かったよ。
あいしてる、とか余計な言葉は一切言わなかったあなた。
なんでかな~、と思ったけど友達が教えてくれまし
た。友達って大事だよね。本当、あなたに感謝。
にやにやしてたけど、やっぱり女の子って恋の話が好きなんだね。
会話の中に、ふとした愛情表現があるじゃんよ、だってさ。
いやぁ、何で私気付かなかったんだろう。思い返してみれば貴方はさりげなく愛情表現してるね。最高
に嬉しいよ!
行動ももたもたしてるし、口下手だし……。
きっと迷惑ばかりかけていますよね。
まだ足りないところは何だろう。
すっかり忘れてたけど、もうすぐ私の誕生日です。会えたら、会いに来てね。
***
「嘘だろ……」
俺は手紙を握りしめ、病院へ全力疾走していた。あいつの誕生日、俺に届いたあいつからの手紙。
まったく意味不明だったけど、読み終えた後気付いた。気付いたのが遅すぎたかも知れない。
病室のドアを慌てて開けると、医者さんは俯いていた。
『会えたら、会いに来てね。』
手紙に書いてあったあの言葉。思い出して涙が出てきた。俺は、彼氏として最低だった……。今日、
あいつにプロポーズするつもりだったのに、あんなに悪化していたなんて………。
俺は、気づけなかった。あいつの異変に。
「ごめん、ごめんっ、ごめんなっ……」
どんなに泣いても、どんなに嘆いても、あいつは帰ってこない。それでも、俺の嗚咽は止まらなかった。