第5章 監禁
4月15日、土曜日。翔二は横浜駅で本日会う約束をしている石島慶太を待っていた。9時半に待ち合わせる約束だったが、翔二は早く慶太から事件の事を聞きたく、早く来てしまった。
(あぁ・・・、早く来すぎちまった。)翔二はスマホの時計を見て、頭を掻いた。横浜駅の隣にカフェがあったが、とりあえず入らずに改札前で待っていた。待っている間、時間が来るのがとても遅く感じた。25分位になり、辺りをきょろきょろしてみた。全然、慶太が来る様子はなかった。
また30分位が経ち、10時前の9時55分に慶太の携帯に電話をしてみた。コール音が鳴った。が、その時、急にぶつん!!と音がして、コール音が途切れてしまった。あまりにも大きな音で途切れた為、翔二は思わず携帯を耳から放した。
「翔二。」聞きなれた声が後ろから聞こえて、恐る恐る振り返ると刑事であり、自分の父である、慎太郎が後ろに立っていた。
「こっ、こっ、こっ、これは・・・!!」慌てて言い訳をしようとしたが、父の顔が深刻な顔をしているのに気づいた。
「石島君とここで会う約束でもしているのか?」父のあまりにも深刻な顔を見て、翔二はただ事ではないと感じ、素直に頷いた。
「石島君の電話は通じたのか?」
「コール音が1、2回ほど鳴ったんだけど・・・、急にぶちんって切れた・・・。」
「・・・・そうか・・・。」父の眉間に皺を寄せた顔を見て、すぐに感づいた。
「・・・家に帰ってないのか!?」翔二の問いに、父は静かに頷いた。
「妹の真理子さんも帰ってないようだ。」父の言葉に翔二は言葉を失った。
(だって・・・昨日まで一緒に喋ってたのに・・・!!)
「ただ単純に石島に妹がいるから狙われたのか!?それとも、石島自身やっぱ事件の事で何か知っていたとか!?」父を質問攻めした。
「そこまではまだ分からん。だが、俺もお前の言う通り、そのどっちか、いや・・・どっちの理由も行方不明の理由は視野に入れている!!」父はそう言って歩き出した。
「どこ行くんだ!?」
「まず、石島君の家に向かおうと思うが・・・どうせお前も来るんだろ?」
「行く!!」父について行って翔二は慶太の家へと向かった。
*
目が覚めた時には辺りが暗く感じたが、カーテンから幽かに日の光が見えているのが見えた。頭を起こすと、ズキッと頭に痛みを感じた。
(ここ・・・どこだ・・・?)慶太はすぐに昨夜の出来事を思い出し、辺りを見渡した。
(真理子!?真理子!?)必死に妹の姿を探すと自分の横で静かに眠っていた。思わず口元に耳を当てると、微かに寝息が聞こえた為、慶太はほっとした。腕は縛られているが、足は歩けた。後ろにあるドアに足をかけると開いたが、その奥に多分、外に繋がるドアがあるのを見つけた。辺りが暗すぎて見えず、とりあえず顔を壁に押し当てながら灯りのスイッチを探すと、数歩壁に沿って歩いた先にスイッチがあるのを見つけ、それをプチンと押したら灯りがついた。電気の灯りと共に妹が目をぎゅっとまぶしそうにつぶって、少し、目を開けた。
「おにい・・・」
「見るな!!」がばっと妹の上を覆いかぶさるように自身の体を寝かした。心臓がバクバクと高鳴っている。慶太は真横にある壁を見て心臓が止まるような思いをした。壁にはびっちゃりとまるで血しぶきが飛び散ったように血で真っ赤に染まっていたのだった。
(まさか・・・・これ・・・これまで殺された2人の女子中学生の・・・!?)そう考えた瞬間、吐き気が慶太を襲った。
「絶対見るな・・・!!」妹に壁を見せないように近くにあった毛布を口に銜え、妹の頭にかけた。そっと立ち上がり、改めて電気を消した。
(間違いない・・・俺達・・・監禁されたんだ・・・!!)恐怖で慶太は体中が震えるのを感じた。
(どんな事が起きても・・・必ず真理子だけは逃がさないと・・・・!!)慶太は後悔した。こんな事になるなら・・・土曜日と言わずに、警察の人が来たその日に全部話せばよかったと・・・。
*
慶太の家の近くに父は車を止めて、
「少しここで待つ。」と言った。
「何?」
「鑑識の人と待ち合わせている。」翔二は丹波じゃなくてほっとしていた。20分ほど待つと、1台の車が到着して、長身の鑑識の服を着た男性が出てきた。
「海堂警部!!お待たせして大変申し訳ございません!!」やたらと爽やかでイケメンの若い男性が車から出てきた。
「彼は鑑識課の鬼束琢磨君だ。」慎太郎が紹介してくれた。
「やや!!もしかして、警部の息子の翔二殿ですか!?お噂はかねがね!!わたくし、鬼束琢磨と申します!!」丹波とは打って変わって丁寧な言葉遣いに翔二は驚いた。しかも、自分に対して深々と頭を下げている。丹波なんか絶対にこんなことしないだろうと思った。
「よ・・・宜しくお願い致します・・・。」鬼束の丁寧な言葉遣いに思わず同じような口調で翔二は返した。そんな翔二に対してイケメンならではの素敵な笑顔で返してくれた。
「すまない、今日は息子と同伴でいいかい?息子の友達なんだ。」
「かしこまりました。どうぞ、一緒に行きましょう。」そう言って鬼束は何やら機械を持っていた。
「これは盗聴器を見つける機械です。」
「と、盗聴って・・・!!」慎太郎を見ながら顔をあげると慎太郎は特に何も言わなかったが、目では語っていた。石島の家に盗聴器が仕掛けられているのではと。
そして、ふと翔二は思いだしたように慎太郎に聞いてみた。
「あ、あの・・・丹波とかいう親父と千田さんもこの後来るのか?」
「いや、千田君は2人目の被害者の加賀絵理奈の友人に話を聞きに行っているし、丹波君は石島君の妹の真理子さんの友人に話を聞きに行っているから二人はこないぞ。」それを聞いて翔二はほっとした。丹波がいたら後々うるさいからだ。・・・父よりも。
石島の家に着き、父は呼び鈴を鳴らした。慎太郎が「海堂です。」と言うと、数秒経ってからドアが開かれた。石島の両親が出てきた。息子と娘が一晩のうちにいなくなったのだ。何日もご飯を食べていないかのようにとてもやつれていた。
「け、刑事さん・・・息子と娘は・・・!?」すがる様に慎太郎に聞いてきた。
「息子さん達を一刻も早く見つけるためにご協力願います。部屋を調べさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「お、お願いします。」そう言って両親が中に入れてくれた。一瞬、翔二の顔を見て、両親はきょとんとした。
「あ、倅です・・・。実は息子さんと友達で今日会う約束をしていたようなんですよ。それでこちらに連れてきました。邪魔させないようにいたします。」それを聞いて両親も少しだけ顔を緩めた。
「お、俺・・・絶対に石島たちを見つけますから・・・!!」両親の顔を見て翔二は思わずそんな言葉を言った。父親が翔二の両手を握って力強く頷き、涙を流した。
*
家の中に入り、まずは玄関からリビングを調べ始めた。
「刑事さん・・・それは?」父親が聞いてきた。
「盗聴器を探知する機械です。」
「と・・・盗聴って・・・!!」両親が顔を青ざめた。
「何故犯人は慶太さんと妹の真理子さんの事を知っていたのか。犯人が慶太さんの事を最初から知っていた・・もしくは妹さんがいる事を知る為に何かしていたのであれば盗聴器を家に仕掛けていたとしか考えられません。
慶太さんは私に事件の事について話したい事があると仰っていました。と、なると考えられる事は・・・慶太さんは犯人を知っている可能性が高く、慶太さんの行動を知る為にこの家に盗聴器を仕掛けていたのではないかと私は推測しております。」慎太郎が説明している間に鬼束が盗聴器を調べる機械をセットして、準備が完了した。
まずは玄関から入るところから機械を持ちながらゆっくり鬼束が歩き始めた。リビングに入った瞬間に早速機械から音が鳴り始めた。ピーピーと甲高い音が家の中に響き、鬼束がどのあたりから音が鳴っているかゆっくり歩きながら近づいていくと、家族が携帯の充電をするコンセントの差込口から反応があったようだ。
鬼束が道具を取り出し、差込口を外した瞬間、四角い盗聴器が出てきた。
「どうやら、これで家の中を盗み聞きされていたようですね。」そう言って鬼束が慎太郎に盗聴器を渡した。盗聴器を見た瞬間、石島の両親は顔が真っ青になった。それから順にトイレや風呂場、2階に上がり、両親の部屋、慶太と真理子の部屋から1個ずつ盗聴器が見つかり、家の中から合計6個の盗聴器が見つかった。石島の両親は盗聴器を見て言葉を失っていた。
「鬼束君、盗聴器の販売元を調べてくれ。」そう言って慎太郎は盗聴器を鬼束に渡した。鬼束は盗聴器を受け取り、鑑識用の鞄に入れ、車まで戻って行った。
「最近、家の近くで変わったこととかはありませんでしたか?」気を遣いながら、慎太郎は質問した。
「分かりません・・・ただ・・・。」母親は顔を伏せて喋らなくなってしまった為、父親が答えた。
「ただ?」慎太郎と翔二が同時に聞いた。
「最近・・・息子の様子は変でした・・・。まぁ、妹想いの優しい子でしたが、やはり最近の物騒な事件があってか、妹の迎えは頻繁にやってくれてたのですが・・・やたら心配しすぎていたというか、もちろん私たちは息子が迎えに行ってくれて安心してました。ただ、一昨日までそわそわしていたというか、いつもは落ち着きがある息子がここ最近落ち着きがないように思えました・・・。」その言葉を聞いた慎太郎は、確信した。やはり、一連の事件の事を慶太は知っていると。それを知ってしまった以上、落ち着きが無くなり、しかもそれを犯人に知られてしまった。だから、連れ去られたと推測した。
「息子さんのお部屋を調べさせて頂いても構いませんか?」慎太郎が聞くと、両親がふたたび慶太の部屋へ慎太郎と翔二を案内した。部屋は、参考書や教科書がびっしり本棚に並んでいて、翔二は目を見開いて驚いた。
「漫画が一冊もねぇ!!」
「お前も慶太君を見習え。」呆れ果てた顔をしながら慎太郎は慶太の部屋を調べた。だが、特に何か慶太が事件の事を知った理由になる物は何も見つからず、一通り調べて石島家から出て行った。
「次は、鈴野真弓の実家へ向かう。」そう言って慎太郎は車に乗り、翔二も慎太郎について行って車へと乗りこんだ。
*
丹波が石島真理子の友人に真理子と慶太について聞いていた。
「とてもいいお兄ちゃんでしたよ。真理子の事この中学まで迎えに行ってくれてましたし、私たちも途中まで一緒に帰ってくれてました。」
「そっか、何か慶太君が迎えに行くにあたって学校内で変わった事とかなかった?」丹波が真理子の友人に聞いた。
「う~ん・・・。」友人は首を傾げた。すると、もう一人の友人が思い出したように顔をあげた。
「そういえば・・・最近・・・お兄さんとは違う高校生くらいの男の人が学校近くうろちょろしていたのを見た事あります・・・。」
「・・・その話・・・詳しく教えてくれ。」丹波は目の色を変え、聞き込みを開始した。
さらに、千田の方は第二の被害者、加賀絵理奈の友人と会って話を聞く約束をして、とある神奈川県内にあるカフェで待っていた。数分待っていると、制服を着た女子中学生が千田に声をかけてきた。
「あの・・・加賀絵理奈の友達です・・・。」2人の女子生徒が千田に声をかけてきて、千田はにっこり笑って2人の女子中学生と向き合って座り直した。
「忙しいのにごめんね。もしかして、今日も学校だった?」
「あ、でも今日は午前中だけだし、部活も早めに終わったから大丈夫です。」
「何か好きなもの頼んでいいよ。でね、ちょっとお友達の加賀絵理奈さんについて色々教えてほしいんだ。」加賀絵理奈が茶髪の髪だったのに対して、友達である女子生徒は黒髪だった。でも、加賀絵理奈同様、少し、化粧もしているようだ。丹波がいたら、
『よく、学校の教師は注意しないよな。』と、言いそうだ。
「それなりに友達は多かったと思います。それから、男友達も。その分、ちょっと地味な女子の陰口言ったりしてる時もありました。」
「何か、もう中学生でその・・彼氏とかいたりしたのかな?」千田の問いかけに女子生徒は口に手を当て、考え込んだ。
「彼氏は・・・かれこれ3人目くらい?」
(中2で3人!?)千田は思わず目を見開いて驚いた。丹波なんかいたら、本当に口をあんぐりして驚いているだろう。
「今はいないみたいですよ?」驚いている千田を見て、慌てて女子生徒は訂正した。
「えっと・・・加賀さんが行方不明になる前、何か変わった事とかなかった?」気にしないように千田は続けて質問した。すると、思い出したように女子生徒が言った。
「そういえば・・他校の中学生と揉めているの見た事があります。」
「他校の中学生?」千田が聞き返した。
「セーラー服着た、ツインテールの女の子?で、その間に眼鏡をかけた男の子?高校生くらいだったかな?揉めていた人は同じくらいの女の子でした。」その話を聞いた途端、千田は一人思い浮かんだ女子生徒がいた。
「もしかして、この子?」とっさに出した写真は1人目の被害者、鈴野真弓だった。
「そう!!この人です!!絵理奈みたいな濃い化粧してたから、この写真と若干違うところあるけど、この人に間違いありません!!」
「で?一緒にいた人は心当たりある?」
「顔は何かとても頭のよさそうな顔してましたけど、なんか・・・ちょっと雰囲気怖かったよね・・・?」
「確か、あの制服は・・・成徳学園!!超頭のいい学校だよ!!」
「どうもありがとう!!いい情報だよ!!」千田は手帳に聞いた事を全て書いた。成徳学園の生徒はあの塾に3人いた事を思い出した。
*
父に連れられて来た次の場所は1人目の被害者、鈴野真弓の実家だった。
「何しに行くんだよ?」
「調べたい事があるんだよ。嫌なら車から降りていいんだぞ。」しれっと父に言われた翔二はむっとした。
「誰も嫌なんて言ってませんー!!」そう言ってぷいっとそっぽを向いた。駐車場に車を止めて鈴野真弓の家へと向かった。
呼び鈴を鳴らして、出迎えてきたのは鈴野真弓の姉、麻美だった。
「神奈川県警、捜査一課の海堂です。少し、お時間宜しいですか?」慎太郎は警察手帳を見せながら会釈をした。
家に招き入れられ、鈴野家からは母と姉がいた。父はどうやら仕事のようだ。一瞬、翔二を見て親子は不思議な顔をしたので、慎太郎が慌てて自分の息子で真弓と同じ塾に通っていると嘘の説明をした。(本当は通っていないし、どう見ても塾に通っているようなタイプじゃないので、無駄な嘘をついたと後で慎太郎は後悔した。)
「刑事さん・・・また、女の子が行方不明になったとニュースで・・・。」
「はい、只今全力で探しております。その為にまず、ご遺族の方々に真弓さんについて分かった事がありますので、ご報告しにきました。」
「真弓について?」母と姉が顔を見合わせた。
「真弓さんには好きな男性がいたようです。心当たりはありますでしょうか?」慎太郎の言葉に母と姉は同時に驚いた顔をして首を横に振った。
「実は・・・真弓とは喧嘩中で・・・。」姉の麻美が口を開いた。
「反抗期だったんです。夜も遅いし、真弓は塾が忙しいと言っていたんですけど、塾が終わっで4時間後の夜中の0時過ぎとかに帰ってきたりしたもんでしたから、旦那とも私とも、姉である麻美ともろくに口を聞いてくれなくなっていたんです。」母親が説明をした。どうやら、真弓と麻美は結構年が離れていたようだ。真弓は中学1年生だが、姉の麻美は大学1年生のようだ。
年の離れた姉にライバル心でも抱いていたのか・・翔二はそう考えた。姉を見る限り、頭の良さそうな出来る姉って感じがした。もちろん、妹の真弓も頭のいい塾に通っているから頭はいいんだろうが、この姉の方が1枚も2枚も上手に感じた。
「失礼ですけど・・・喧嘩をした理由って?」翔二が口をはさんだもんだから、慎太郎が驚いた顔と同時に翔二の頭に拳骨をくらわした。
「気にしないでください。」慎太郎はにっこり笑って翔二の頭をグーでぐりぐりして黙らせた。
「いえ、いいんです・・・些細な事なんですけど・・・。」姉が教えてくれた。
「いなくなる前の3日前の7日の日、実は真弓の誕生日だったんです。でも、7日が過ぎて0時になっても真弓が帰ってこなかったんです。何かあったと思って警察に行こうと両親と話していたんですよ。そしたら、真弓がひょっこり帰ってきて・・父が怒る前に私が真弓の顔を引っ叩いて怒鳴りつけたんです。
『みんな真弓の誕生日を祝おうと待っていたのに何でこんなに遅いんだ、みんな心配していたんだよ』って・・・。」そら、怒るだろと翔二は思った。
「そして、真弓は殴られたのが気に入らないのか私に殴り返して、まぁ、殴り合いの喧嘩になってしまったんです。父と母が同時に私たちを抑えて止めてくれましたが、とうとう真弓は何も言わずに部屋に引きこもって・・・それ以来・・・いなくなるまで口も聞きませんでした・・・。」徐々に麻美の声が震えた。喧嘩した事を後悔しているようだ。
「今思えば・・・その頃からもしかしたら、夜遊びを誘うような変な人たちと関わっていたのかもしれないって思って・・・もっとちゃんと・・・見てあげれば良かったって・・・心から後悔してます・・・・。」麻美は顔を下に向け震える声で言った。
慎太郎はそんな麻美の肩に優しく手を添えた。
「真弓さんが亡くなったのはあなたのせいじゃない・・・。必ず犯人は捕まえて見せます。その為に・・・申し訳ございませんが、真弓さんの部屋を調べさせて頂いても宜しいでしょうか?何か手がかりを知りたいんです。」
「ご案内します・・・。」麻美は涙を拭きながら2階へと案内した。母親には座っているように言って階段を上がって行った。
階段を上がって曲がった手前に真弓の部屋があった。真弓の遺留品である携帯電話等は調べたが、特に男の影があったとは思えなかった。入った瞬間にぬいぐるみやら、プリクラ帳やらが沢山あり、翔二は女の子の部屋だなーと思った。プリクラ帳を覗き込んでみたが、女友達とプリクラを撮っているのがほとんどで、同い年くらいの男の子が写っていたりしていたが、事件に関係はなさそうだと翔二は思った。そんな時、机の上に1台のパソコンが置いてあるのに翔二と慎太郎は気づいた。
「このパソコンは真弓さんのですか?」慎太郎が質問した。
「えぇ。ただ元は私の物なんです。大学に入ってバイトでためたお金で新しいのを買ったので、古いのを真弓にあげたんです。」
「真弓さんってSNSとかやってました?ほら、フェイス何とかとか。」続いて翔二が質問した。
「えぇ。してたわ。確かSNSはパソコンでログインしてたのを何度か見た事がある・・・。」
「パソコン、立ち上げてもいいですか?」
「え、えぇ・・・。」麻美の許可を得て、翔二はパソコンを立ち上げ、インターネットを接続して、真弓のSNSをログインした。パスワードはもともとログイン前に登録されていて簡単に入ることができた。
「本当は他人のSNSを勝手に見るのは趣味じゃねぇけど事件解決の為だ・・・ごめんな。」小さな声で翔二が真弓の机に向かって言った。後ろでは父も一緒に見ている。
真弓の個人ページに入り、真弓が友達と一緒にいる写真やペットの写真が投稿されていたりしているのを見て、そして、日記のページを開いた。いなくなる前の3月9日まで日記が書いてあった。
『今日も彼と目が合っちゃった!!もしかして、彼も私の事、気にしてくれているのかな?』
『彼が他の女の子と仲良く話してる・・・何かつまんない。』
『今日彼が私と目が合った時、にっこり笑ってくれた!!やばい!!超嬉しい!!』
「どうやら・・・好きな男がいる事は本当のようだな・・・。」慎太郎が言った。その彼ってのは誰だと翔二は日記を開いて探し続けた。すると、翔二はある日の日記を見て、手を止めた。
「ん!?」日記を読んでみた。
『今日、他校の女が彼に色目使ってた!!許せなくて喧嘩した!!何あの茶髪女!!自分可愛いとか思ってんの!?』
「他校の女・・・?茶髪・・?」慎太郎と翔二が声を合わせて言った。
(てか、女って怖・・・。)翔二は心の中で言った。
「・・・・まさか加賀絵理奈か!?会っていたというのか!?」慎太郎がはっとして言って翔二は続いて日記を開いた。最後の日記だった。いなくなった3月10日0時過ぎに日記を更新している。日記にはこう書かれていた。
『今日、真也君に呼び出されちゃった!!もしかして彼も私の事・・・。』
「・・・真也君・・・?」翔二と慎太郎が言った。
「おい、親父・・・こいつがもしかして・・・・!!」すると、慎太郎の携帯が鳴った。
「はい、海堂。丹波君!!え?石島真理子の中学に成徳学園の生徒がうろついていた?うん、分かった。この間もらった塾の生徒で割り出そう。こっちも鈴野真弓が想いを寄せている男の名前が分かった所だ・・・。」そして、その後は千田から電話がかかってきていた。
「やっぱり・・・鈴野真弓と揉めていたのは加賀絵理奈だったんだね。ありがとう。私もこれから本部に戻る。」
「成徳!?頭のいい学校じゃねぇか!!」
「あぁ、お前とは天と地の差だ。」さりげなくそんな事を言われてカチンときた。
パソコンは証拠品の一つとして、慎太郎が鈴野家から預かることになった。姉が慎太郎と翔二に頭を下げた。
「妹を・・・あんな目に遭わせた奴・・・必ず捕まえて下さい!!」涙をぼろぼろこぼしながら麻美が言った。
「あぁ、必ず捕まえるさ。妹さんの無念、それから次に殺害された中学生の無念を絶対晴らして、今行方不明になっている女子中学生も助けるから!!」そう言って慎太郎は鈴野家を出て行った。
*
車を走らせながら父は眉間に皺を寄せて運転していた。
「県警に戻るのか?」翔二が聞いた。
「あぁ。だが、千田君も丹波君もお互い反対方面にいるから夕方以降に本部集合になるな。少し腹減ったな。何か食うか?」父に言われて初めて気が付いた。時間は15時を回っていた。気が付いた瞬間に翔二の腹の虫が大きな音をたてた。
「腹減った・・・。」翔二がぽつりと言うと、慎太郎はフッと笑い、近くの和食屋に入って行った。父はかつ丼を注文すると言った。
「何でかつ丼?」
「受験の時いっぱい食べただろ。“勝つ”だ。俺は必ず犯人を捕まえて被害者の無念を晴らそうと思っている。犯人に自分のやった事がどれ程の事か分からせる必要がある。ただ犯人を捕まえる事が刑事にとって勝つことじゃない。犯人を反省させて自分のやった過ちを反省させる事が出来たからこそ、初めて俺は犯罪者に勝って本当の事件解決だと思うからな。」
「お・・・俺もかつ丼・・・。」父の言葉に翔二も同じものを頼んだ。
かつ丼を食べながら翔二はある疑問を父に聞いてみた。
「あのさぁ・・・ドラマみたいにさ・・・被害者が最低な人間で、その復讐で殺人が起こるとかあった?」
「うーーん・・・。」慎太郎が顎に手を添えて思い出そうとした。
「まれにある。だが、俺が捕まえてきた奴らは大抵は自分勝手で、己の欲望を満たすための殺人を犯す奴らばかりだ。」
「欲望?」
「要するに、ストーカー殺人事件だったら、“あの子が俺の愛情を受け止めてくれなかった。俺はこんなに愛しているのに。二度と他の男に言い寄られないように自分のそばにずっといさせるために殺した。‟とかな。」
「あぁ~~~・・・。」翔二がなるほどと頷きながら一口カツをほおばった。
「・・・翔二。将来刑事になるって本気なのか?」
「あ、当たり前だろ!!俺は死神を捕まえるんだ!!」翔二が言った。慎太郎はそんな翔二の目を見つめた。
「な、何だよ?」
「いや・・・刑事の仕事はドラマや漫画とは違うからな。人間の嫌な部分を沢山垣間見る。その辺、ちゃんと覚悟しとけよ。」そう言って慎太郎はお茶を飲んだ。
「わ、分かってるよ!!」翔二はかつ丼をほおばり、食べつくした。
かつ丼を食べ終え、しばらく話していたら16時になっていた。
「じゃ、ここから一人で帰れるな?」急に父から車を降ろされた。
「は?」翔二が驚いた顔をした。
「は?じゃねぇよ。俺は本部に戻って千田君たちと捜査報告しなきゃいけないんだ。」
「俺もつれてけよ。」翔二が車に乗り直した。
「だめだ!!降りろ!!」慎太郎が車から無理矢理降ろしたり翔二が乗り直したりで慎太郎が本部に戻るのがかなり遅れたのだった。翔二に1発拳骨を喰らわしてやっと大人しくなったのだった。
そして本部に戻った慎太郎は、先に資料を取り出し、あの塾に“真也”という名前の生徒がいないか前にもらった生徒名簿を取って探し出した。すると、“しんや”という名前は何人もいたが、漢字が“真也”という名前の生徒を1人発見することができた。
「警部!!」丹波と千田が帰ってきた。まずは千田が加賀絵理奈が殺害される前に起きた事を慎太郎に報告し、丹波は石島真理子の学校の近くで成徳学園の生徒がうろついていたのを発見されている事を報告した。
「この塾で成徳学園の生徒は・・・。」慎太郎が生徒名簿を調べた。
「確か、3人いました。」丹波が自分がコピーして持っていた生徒名簿を持ってきて、慎太郎に見せた。
「明日、この生徒たちに話を聞こう。加賀絵理奈はともかく、鈴野真弓と石島慶太は同じ塾だ。何か知っているかもしれん。」と、慎太郎が言った。
*
目が覚めてから何時間経っただろうか。妹の真理子は喉を乾かしていないだろうか・・・。慶太は隣で震えている真理子をそっと体だけで抱きしめた。
「お兄ちゃん・・・怖い・・・。」真理子が震える声で言った。
「・・・大丈夫だ。何があっても兄ちゃんが絶対に守ってやる。」腕は縛られていた為、ちゃんとは抱きしめてあげられなかった。その分、体に重みをつけて精一杯自分の体温を真理子に感じさせ、安心させてあげたかった。
慶太はふと、今日会う約束をしていた翔二の顔を思い出した。彼のラインは交換済みだ。どうにかして、この状況を彼にだけでも伝えられないだろうか。制服のズボンの後ろポケットにあったはずの携帯が見つからなかった。取られたに違いないと確信した。
自分は殺されても構わない。何とか真理子だけでも逃がそうと混乱しながらも必死に頭を働かせた。すると、玄関があるであろう監禁されている部屋の向こう側からドアが開く音が聞こえた。3人の男達の笑い声が聞こえた。
足音は徐々に自分達のいる部屋へと近づいてきた。そして、ドアがガラリと開けられた。3人の男達は自分達が目を覚ましている姿を見るとにやりと笑った。慶太は3人の男達を見て顔を歪めた。
「あんたらが・・・何やってんだよ・・・・・!!」男達を睨みながら慶太が言った。男達は慶太と妹の真理子を見ながらにやにやしているだけだった。
第6章に続く。