第4章 失踪者
神奈川県川崎市内でまた女子中学生の遺体が発見された。被害者は加賀絵理奈、14歳の中学校2年生だ。4月8日に捜索願を出されてから3日しか経たない11日に一人目の被害者、鈴野真弓と同じように全裸の状態で発見された。
神奈川県警本部、捜査一課の刑事、海堂慎太郎と千田健一、丹波直樹が現場へと到着した。今度はゲソ痕が目立たない草むらの中で遺棄されていた。全裸で仰向けの状態で倒れている被害者に手を合わせてから顔を確認し、今捜索願が出されている加賀絵理奈だと確認出来た。1人目の被害者と同じように腹部を数十か所刺されており、また、心臓が飛び出て目と口と鼻から血が流れ出ていた。顔中には殴られたような青痣が顔の何か所にもあった。
「ひでぇ殺し方しやがる・・・!!」そう言ったのは神奈川県警捜査一課巡査部長の丹波直樹だ。
「犯人はこの神奈川県川崎市内にいるって事確定でいいですよね、警部!!」
「まずは間違いないだろうな。今回はゲソはないが、殺し方といい、遺棄の仕方といい、鈴野真弓を殺害した手口と似ている。」いたいけな少女の変わり果てた姿を見て、慎太郎は歯を食いしばった。
「鈴野真弓の時と比べて、殺し方が酷くないですか?鈴野真弓の時は腹部を数十か所刺されていましたが、加賀絵理奈は殴られたでもされたのか、顔に青痣が多いですね。」と、千田。
「強姦されたんだとすればまずは抵抗するだろう。その時に大人しくさせるために殴ったりしたんだろうな・・・断じて許せん。」と、慎太郎が言った。
その後、遺体は法医学へと一旦預けられ、家族に報告の電話をした。加賀絵理奈の両親は血相を変えて病院へと走ってきた。案内された部屋には変わり果てた娘の姿があった。
「検死は全て済みました・・・。」立ち会わせていた慎太郎が両親に伝えた。加賀絵理奈の両親は娘の変わり果てた姿を見て手をブルブル震わせていた。
「・・・・絵理奈?」母親が娘の頭を優しく撫でながら名前を呼ぶ。
「何故・・・絵理奈がこんな目に・・・!!犯人は誰なんですか!?」父親が声を震わせて慎太郎に聞いた。
「まだ・・・捜査中です。ですが必ず捕まえます・・・。」慎太郎は深々と頭を下げた。
「現に捕まってないじゃないか!!警察がもたもたしているから絵理奈がこんな目に遭ったんだろ!?」父親が慎太郎に掴み掛った。
「あなた!!」とっさに母親は父親を抑えようと後ろから背中に抱き着いた。
「何で・・・何で娘がこんな目に・・・うわぁぁぁぁあぁぁぁ!!」
慎太郎は拳を握り、震えていた。悔しかった。また、犠牲者を出してしまい・・・、自分も子を持つ親だ。この夫婦の気持ちは痛いほど分かる。分かるからこそ、まだ犯人を捕まえていない自分に腹が立つのだった。
*
石島慶太はここ最近、顔色が悪かった。高校入学してからは高校生活を楽しんでいるように見えたが、最近顔色が悪い事を妹の真理子は心配していた。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「え?あ、あぁ・・・。」妹の声にも何やら落ち着きがないように返事をした。
「ま、真理子!!学校は部活いつも何時に終わるんだっけ?」
「え?うーん、大会が近いと19時過ぎちゃうよ?もう少しで春の大会が始まるからそろそろその位になるかも?」
「そっか、兄ちゃんがその頃になったら迎えに行ってやる。」
「え?どうしたのお兄ちゃん。」真理子がくすくす笑いながら言った。
「そうね、真理子。お兄ちゃんに学校まで迎えに行ってもらいなさい。最近、物騒なんだから。どうやらまた中学生の女の子の死体が見つかったらしいわよ。」と、慶太と真理子の母親が言った。
「分かった!!じゃあ、そうして貰おうかな?」真理子はそう言って兄、慶太に抱き着いた。真理子は少し、ブラコンではないかと思うほど、兄、慶太が大好きだった。小さい頃は将来お兄ちゃんのお嫁さんになると言うほどだった。
「悪い・・・。宿題あるんだ・・・。」そう言って慶太は自分の部屋へと向かって行った。
階段を上がって自分の部屋をバタンと閉めた後、嫌な事を思い出したのか余計顔が真っ青になった。
「あれ・・・さっきのニュースに出てた・・・女の子だよな・・・?」心臓がバクバク言っている。ふと、真理子の笑顔が脳裏に甦った。
(だめだ・・・!!絶対に・・・真理子の存在を気づかれないようにしなきゃ・・・!!)その時の男達の顔を思い出した慶太はたちまち吐き気に襲われた。心臓がバクンバクンと高鳴る音しか慶太の耳に入らなった。
*
「悪いな、しばらく忙しくてな。来てもらってすまなかった。」慎太郎がそう言って翔二を神奈川県警に招き入れた。翔二はむすっとした顔をして慎太郎を睨んでいた。自分のローファーを返してもらえたのだった。
「うちの学校に犯人がいるって言うのかよ?」翔二が慎太郎に訊ねた。
「何とも言えないな。お前のところのローファーはアマゾンで売ってんのも見つけてしまったし・・・そこから買ってお前の学校の生徒の仕業にでも見せかけてるのかもしれん。だが、あの塾にお前の学校の人が通っているのが分かったから念の為、聞く予定だ。」そう言って慎太郎はローファーと一緒に翔二に缶コーヒーを渡した。
「調べてやってもいいぜ。うちの学校にその塾に通っている奴。1人だけだろ?簡単だぜ?」翔二がにっと笑って慎太郎に言った。
「無論その必要はない。明日その塾に聞き込みに行くからな。」慎太郎の返事に翔二はちぇっと舌打ちをした。
「それと、デートがこんな所なんて可哀想だろ?まともなところに連れてってやれ。」そう言って慎太郎がピッと缶コーヒーを持ちながら指した場所は県警本部前に立って待っているセーラー服姿の女子だった。
「あと、これ彼女にも。」そう言ってもう1本コーヒーを渡した。
「か、彼女じゃねぇし!!」翔二は顔を真っ赤にして否定した。
「へぇ?その割には最近よく一緒にいるではないか?」にやりと慎太郎は笑みを浮かべた。
「い、一緒の寮と一緒の学校と一緒のバイト先だから最近一緒にいるだけだよ!!それに最近物騒だからな!!女の一人歩きさせねぇようにしてやってるだけだ!!ふん!!」そう言って翔二はずかずか蟹股で歩きながら缶コーヒーを2個持って県警を出て行った。事件の事を聞こうとする翔二を追っ払うにはこの手がいいらしい。慎太郎は奥にいる蛍に手を振りながら自分も本部に戻った。
「それにしてもでっかくなりましたね。」そう言って出てきたのは慎太郎の部下、丹波直樹だ。
「悪いな。丹波君の事は覚えてないらしい。」
「いいですよ。だって会った時あいつまだ5歳でしたもん。」と丹波は笑った。
「弟亡くした後だから・・弟みたいに思っちゃいましたけどね。」丹波が苦笑すると慎太郎がパンっと丹波の背中を叩いた。
「行こうか。」
「はい!!」
*
16時過ぎに石島慶太は塾についた。あたりを見渡すと一人の男と目が合った。その瞬間、慶太はバッと目を逸らした。
(関わりたくない・・・何だってあんな人間が同じ塾にいるんだよ!!)慶太は冷や汗が止まらなかった。
と、その時後ろから声をかけられた。
「石島慶太さんですね?」振り向くとスーツを着た男3人が慶太の後ろにいた。まぎれもなく、警察だと慶太は思った。
「警察の者ですが、塾が終わってからで結構です。お時間頂けませんか?」
「・・・すみません・・・最近、変な事件が多いから塾が終わったら妹を中学まで迎えに行きたいんです。・・・今じゃ・・・だめですか?」
「しかし、今から授業でしょう?お忙しいなら申し訳ない。また空いている日にお声がけしますので。」そう言って刑事はそのまま帰って行った。
「い、いいんですか警部!!」丹波が思わず慎太郎に声をかけた。
「最近の物騒な事件が原因で彼自身も疑心暗鬼になっているだろう。それに、妹がいる人間があんな残酷な事件を起こしたりはしないよ。」そう言って慎太郎は出て行こうとした。
「あ、あの!!」急に声をかけられて慎太郎たちは振り向いた。
「お、俺の方から空いている日に連絡します・・・連絡先・・・出来れば教えて頂いても・・・?」慶太が慎太郎に言った。
「もちろんだとも。」慎太郎はにっこり笑って慶太に名刺を渡して帰って行った。
「・・・確かに犯人なら俺達に連絡先を教えろなんて言いませんよね?」丹波が言った。
「あぁ。彼は犯人じゃないよ。ただ・・・何かを知っていると思うんだ。」
刑事達が出て行った後、慶太は用心深くあたりを見渡した。大丈夫、誰も自分を監視していない。教室にも戻ってみた。大丈夫、あいつは女と話している。心底ほっとして大きく深呼吸をした後、携帯がブーブーとバイブ音が鳴った。慶太はびっくりして思わず慌てて取り出した。妹の真理子からラインが入っていた。
『何時頃に終わるー?私、8時くらいになりそうー!!』と、書いてありその下に首をかしげている動物のスタンプを押していた。
そんな妹のラインを見て緊張が一気にとけたのか少し、顔を緩めた。
(大丈夫、土曜日だ。土曜日なら学校も塾も休みだ。この刑事さんに連絡しよう。)刑事の連絡先をもらえて心底ほっとしたんだろう。大事に生徒手帳に名刺を挟んで塾の教室へと向かった。
*
一方、翔二はこの間、ひと悶着した3年生の先輩、牧田智のいる3年生の教室にいた。
「・・・・何の用だ?」牧田がきょとんとした顔をして翔二に言った。
「こ、この間の詫びだよ。」そう言ってお菓子を牧田に渡した。
「あはは、別に気にしてねぇけどもらっとくよ。サンキュー。」大きな口を開けて笑って言った。
「で?他にもあるんだろ?知りたい事。」さすが3年生だ。話が早いと翔二は思った。
「この塾、うちの学校に通っている奴いる?」翔二が塾のチラシを牧田に見せた。
「ん?有名進学塾じゃないか。馬鹿しかいないうちの学校にこんないい塾に通っている人間なんていたかな?」すると後ろから聞きなれた声がした。
「あん?海堂、お前何で3年のクラスにいるんだ?」ゲッと思って振り向くと自分の担任教師、中島進一が何故か3年のクラスにいた。
「べ、べべべべ別に!!」
「また、喧嘩してんのか?」呆れたような顔をして中島が言った。
「違いますよ先生。何か俺に聞きたい事があるみたいなんですよ。」牧田がフォローしてくれた。仕方なしに翔二は同じ質問を中島にした。
「たく、うちの学校に新たに入学してくれた頭のいい奴は鬼灯ぐらいしかいねぇよ。何であんな頭のいい奴とお前らは仲が良いんだ?」完全な嫌味である。翔二はむっとした。
「ん?この塾は・・・確かいたな。通っている奴。1人だけ。」
「誰!?」
「おい、この間みたいに学校を遅刻しないって誓うなら教えてやる。」
「誓う誓う!!」
「まぁ、今回はこれでいいだろう。よろしい。この塾に通っているのは1年2組の石島慶太って奴だよ。」
「1年2組だな!!サンキュ!!」そう言って翔二は3年の教室から出て行った。
「あ、おい!!たくっ・・担任に向かってサンキュとか言いやがって・・・悪かったな牧田。」中島が苦笑しながら言った。
「別にいいですよ。それにしても何であいつその塾の事調べてるんでしょうね?」
「さあなぁ・・・。」
翔二は1年2組に向かった。まだ数人、生徒が残っていた。
「何か用?」2組の生徒の一人が翔二に声をかけた。
「石島慶太って奴、いる?」
「石島?あいつならもう帰ったよ。塾があるとか何とか。」
「マジか、一足遅かったか。悪かったな、また来るよ。ありがとう。」
「あ、何かさー、最近変な事件多いじゃん?あいつ中学生の妹がいるからその事件の犯人が捕まるまでその妹を迎えに行く為に塾があってもなくてもしばらく早く帰るって言ってたよ。」
「お、そうか!!ありがとう。じゃあ、また昼休みとかに来るよ!!」そう言って翔二は2組を離れて行った。
(そうだよな。最近の被害者は女子中学生だもんな。それじゃ早く帰って妹迎えに行きたくなるよな。)
*
午後20時に間に合うように慶太は塾が終わると走って妹の中学校へと向かって行った。後ろを気にしながらも妹の為に全力疾走で走って行った。20時5分前に妹の中学校についた。それから15分くらい待つと友達と一緒に校門まで歩いてくる妹の影が見えた。
「お兄ちゃん!!」真理子が手を振って兄の元へと駆け寄って行った。
「いいなぁ、真理子。お兄ちゃんが迎えに来てくれて。」
「えへへ、いいでしょー?」そう言って真理子は慶太の腕に抱き着いた。
「あ、良かったら君たちも一緒に帰ろう。最近物騒だし。」
「え、いいんですか!?」彼女たちのほっとした顔を見て慶太は思った。
(妹だけじゃない・・・この子たちだっていつあいつに狙われるか分かったもんじゃない・・。)慶太は妹の友達と一緒に途中まで歩き、妹と一緒に家まで帰って行った。
慶太が時折後ろを振り向きながら歩いているのを見て、真理子は首を傾げた。
「お兄ちゃん・・・大丈夫?」
「え?あ、あぁ・・・。」
「もしかして変な人が私を狙ってないか心配してる?大丈夫だよ!!わざわざ男の人と一緒に歩いている女子を襲う人なんていないよ!!」真理子の笑顔に慶太は苦笑して答えた。誰かにつけられていないか心配だった。家に帰るまでの間、慶太は後ろを気にしながら歩いて帰って行った。
「おかえり!!」無事に家について、父と母が出迎えてくれた。
「ただいまー!!」妹と一緒に家に入って行った。
「慶太、ありがとうね。もし塾が遅くなるようだったら、お母さんやお父さんにラインでいいからよこして。お父さんかお母さんが真理子を迎えに行くよ。」母が言った。
「ありがとう。そうして貰えると助かる。」
「さぁ、手を洗ってうがいしておいで。ご飯出来てるから。」母が言うと、真理子は兄の腕を引いて一緒に洗面台に行った。洗面台で手洗いをした後、今日慎太郎から貰った名刺を取り出して部屋に向かった。
(この・・今日会った刑事さんに連絡しよう。土曜日なら俺はいつでもいい。でも、刑事さんの都合もあるから・・ちゃんと聞いて決めた方がいいよな。よし!!)決心して、ダイヤルボタンを押した。4、5回コール音が響いた。
『はい、海堂です。』塾の時に会った時と同じような、低めの声が耳に響いた。
「あ、あの・・・今日話をした石島です・・・!!」緊張しながら声を出した。
『あぁ、君か!!どうしたんだい?』先程の低めの声とはうって変わって、父親のような優しい声が聞こえた。
「こ、今度の土曜日・・・空いていませんか?お、お話したい事があるんです。」一瞬、沈黙が走った。
『事件の件かね?』
「は、はい・・・どうしても・・・刑事さんにお話ししなくてはいけない気がして・・・。」
『分かったよ。土曜日なら何時でもいいよ。』
「じゃ、じゃあ・・午前中とか大丈夫ですか!?」
『あぁ、いいよ。県警じゃかたっ苦しいだろうから、どこか喫茶店とかで待ち合わせようか。』
「あ、ありがとうございます!!」こうして、慎太郎と土曜日に会う約束が出来た。
(良かった・・・!!ちゃんと土曜日、この人に話そう・・・!!)慶太は心の底からほっとした。
「慶太―?」下のリビングから母の呼ぶ声が聞こえた。
「今行く!!」軽い足取りで階段を下りて行った。
*
刑事と会う約束まで2日だ。それまでは、気を抜けないと慶太は思った。だが、さぞかし、今までよりも足取りが軽やかだった。心のつっかえがもう少しで取れると思っていた。
朝8時半。1年2組の教室前に明らかにガラの悪い恰好をした生徒がいた。うちのクラスにこんな奴いたっけ?と、思うほどだった。
いや、うちのクラスの奴じゃないと思った矢先に目が合った。やべっと、とっさに目を逸らしてしまった。しかも、男はこっちに近づいてくる。
「あのさ、石島慶太って奴いる?」しかも男は自分を探してるし!!朝からついてない。
「お、俺だけど・・・。」物凄く気まずそうな顔をして名乗りを上げた。
「お前か!!」名乗りを上げた途端、男はにかっと八重歯を見せて外見の茶髪に金髪のメッシュ、学ランの下に赤いYシャツとは裏腹に可愛らしい笑顔を見せてきた。
「俺、7組の海堂って言うんだ!!」海堂と名乗った少年が自己紹介してきた。ん?海堂?どこかで聞いた名字だと慶太は思った。
「あのさー、聞きたい事があってさ!!お前有名な進学塾に通ってるんだろ?そこでさぁ、生徒が殺される事件あっただろ?」
「あ・・・、あぁ・・・。うん・・・。」
「ちょっとその件で詳しく聞かせて欲しいんだけど。」海堂と名乗った少年の言葉に思わず気が緩み、ふっと笑ってしまった。
「な、何だよ?」慶太が笑った瞬間、驚いた顔を翔二はした。
「あぁ、ごめん・・・。何か昨日会った刑事さんみたいだなって。」ふふっと笑いながら慶太が言った。
「それって・・・神奈川県警?捜査一課?」
「うん・・・!!」慶太が頷くと翔二は頭をぽりぽり掻いた。
「多分・・・それ、俺の親父。」そう言った瞬間、慶太はああ!!と目を見開いて頷いた。
「あの、明後日刑事さんと喫茶店で会って話をするんだけど・・・良かったら君もどう?何か、警察の家族がそばにいるなら心強いし。」
「明後日か!!いいぜ!!あ、でも俺が来た時俺の親父うるせぇからフォローしてくれよ!!」
「う、うん!!分かった。」そんな話をした後、2人は携帯でラインの交換をした。そんな時に、急に翔二は首根っこを掴まれた。
「予鈴。」担任の中島が翔二の首根っこを掴んでそのままズルズルと引きずって翔二を連行していった。
「じゃ、じゃあ・・・土曜・・・。」引きずられながら翔二は2組を離れて行った。
まさか、昨日会った刑事の息子が同じ学校だなんて思わなかった。きっと彼も将来刑事になるんだろうなと慶太は思った。
*
翔二は早速慶太にラインを送ってみた。土曜日に会う前にまずは念の為慶太のアリバイを聞いた。1人目の被害者、鈴野真弓が遺体で発見された3月17日のアリバイと2人目の被害者、加賀絵理奈が遺体で発見された4月11日のアリバイを簡単でいいから教えてくれと送ってみた。すぐに、返事は帰ってきた。同日二日とも、彼はその日は塾があり、20時過ぎに家に帰ってきたという。
(本当に簡単だな・・・。)翔二は苦笑した。
(まぁ、いいか!!土曜日親父たちと一緒にこいつが話したい事聞けるんだ!!それまで我慢しといてやるか!!あ、そういえば考えてみれば俺、2人の被害者の死亡推定時刻とか知らねぇや。あとで千田さんに聞いてみよう。)そう思って携帯のラインを開き、千田へ連絡してみた。嬉しいことに千田は今日の夕方自分と会う約束をしてくれた。翔二は机の下で小さくガッツポーズをした。
放課後、翔二は早めに学校を出ようとしたところを拓也たちに捕まった。
「どこ行くのー?」拓也が翔二に聞いた。
「ちょっと親父の部下の人と会う約束してんだよ!!わりぃな、先帰っててくれ!!」
「翔パパなら俺会いたい!!」拓也は翔二の父、慎太郎の事が大好きだった。
「親父には会わねぇよ!!」そう言うと拓也はちぇーと唇を尖らせた。
「彩芽さんには言っておくから早めに帰ってきてよー!!」和也が翔二に言うと、翔二は手を振って返事をした。
「翔二、小さい頃からお父さんの部下の人とよく会ってたみたいだよ。近所のおじさんみたいな存在なんだって。」優奈が蛍と美由に言った。
「でも、何で海堂、その部下の人と今日会うの?」美由が聞いた。
「多分・・・翔二将来刑事になるからお父さんの事件に首突っ込んでるんだと思う。」と、優奈。
「翔パパ・・・迷惑じゃない?」連司が笑いながら言った。すると、周りの和也たちも大きく頷いた。
(海堂君・・・将来刑事になるんだ・・・。)蛍はそう思うと、何故か急に翔二が前に見せてくれた笑顔を思い出すと、また胸がきゅんと鳴った。
(な、何だろう・・・最近海堂君の顔を思い出す度、胸が高鳴っちゃう・・・。私、どうしちゃったんだろう・・・?)
*
学校のある駅から4駅ほど先にある駅前のエクセルシオールカフェに翔二は千田と待ち合わせをした。
「翔二君!!こっちこっち!!」ぽっちゃりの千田はもうすでにコーヒーの他にミルクレープのケーキを頼んでいた。
「何か食べる?」
「う~ん・・・ココアとチョコケーキで!!」注文したら早速翔二は本題に話を持っていった。
「まず、一人目の被害者は鈴野真弓さん。中学1年生の女子生徒で、有名な進学塾に通っている。3月10日に行方が分からなくなり、それから7日間、捜索願を出されて捜索していたが、17日の夕方に森林にて全裸で腹部を十数か所刺された状態で遺体が発見された。遺体には強姦された痕があり、3人の男の精子が見つかっている。」千田が1人目の被害者の説明をすると翔二はノートを取った。
「マジかよ・・・。」強姦されたと聞いて翔二は顔をしかめた。被害者の写真を見て深くため息をつき、可哀想だなと思った。
「そして、2人目の被害者は加賀絵理奈。中学2年生だ。4月7日、テニス部の部活が終わり帰るとラインを親に送ってからその夜は帰ってこず、母親は朝まで待ってみたが、それでも帰ってこなかった。朝から夕方まで友人の家に電話をしたりしたが、分からずじまいで次の日の8日の夜に警察署に捜索願を出された。それから3日後の4月11日、とある神奈川県内の森林にて遺体となって発見された。鈴野真弓と同じところは強姦されて全裸の状態で遺体が発見されたというところ。違うところは加賀絵理奈の方が顔や体中の所々に痣があり、どうやら、強姦され、暴行を受け、殺されたとみられている。」千田の言った事を翔二はノートにさらさら書いた。
「で?最初の被害者は進学塾の生徒だったからその進学塾に通っていて、なおかつうちの学校のローファーのゲソが見つかったからうちの学校を調べたら石島にたどり着いたというわけか。残念だけどな、俺の推理では石島は白だぜ。」翔二が得意げに千田に言った。
「うん、警部もそう言っているよ。」千田が笑いながら答えた。
「じゃあ、何で?」
「うん・・・警部の推理では石島君は何か知っていると睨んでいるんだ。」
「なるほど、それは俺も思った。だって今度の土曜日、会うんだろ?俺も来ていいって言われたもん。」翔二が言うと、後ろから声が聞こえた。
「千田さん、そこまで。」翔二が振り向くと最近、父の部下になった巡査部長の丹波直樹が千田を呆れた顔をして見ていた。
「たく、高校生のガキなんかに何でこう、事件の事ベラベラしゃべっちまうんだよ。名探偵コナンじゃねぇんだぞ?」
「ご、ごめん丹波さん・・・。翔二君結構面白い事気づいてくれるからつい・・・。」千田が苦笑した。
「おら!!ガキはとっとと帰って宿題でもしてろや!!行くぞ千田さん!!」
「お前、千田さんのストーカーかよ?後ついてきていたわけ?キモいんだよ。」翔二がちっと舌打ちをする。
「馬鹿か。警部に呼び出されているんだよ。それで千田さんを探していたわけ。」ふんと言って丹波は千田と一緒にシオールカフェを出て行った。千田は手を振って丹波の後をついて行った。
(ま、いっか。情報収集できたし。)翔二もふんと言って残りのアイスココアを飲み干し、ケーキを口に押し込んだ。
「あ・・・死亡推定時刻まで聞いてねぇ。」ケーキを食べ終わった後に気づいたのだった。カフェのお金は千田が出してくれていた。
*
次の日、寮生たちと一緒に学校に向かって歩いていた頃、慶太の後ろ姿を翔二は目撃した。
「石島!!」翔二の声に振り向いた慶太は翔二に手を振った。
「おい、一緒に行こうぜ!!あ、こいつら俺と同じ学校の寮で生活してる奴らだよ!!」
慶太は翔二をはじめとする寮生たちと一緒に学校へと向かった。
「へぇー・・・大変だね・・そりゃ、今物騒だもんね。妹さん迎えに行かないと何が起こるか分からないしね。僕も弟がいるから、何かわかるよ。」弟がいる和也が頷きながら慶太と話をしていた。
「もしさぁ、塾が遅くなるようだったら俺達に連絡してくれれば妹さんの中学に俺達迎えに行くよ?」と、連司が言った。
「あ、気をつけてよ?こいつ、妹さんに手を出すかも。」と、優奈が慶太に忠告をした。
「ひどいなぁ~優奈ちゃん!!」そんな会話をして笑いながら学校へ登校した。
下駄箱を抜けて階段を上り、3階に1年生の教室はあった。階段を上って右を曲がり、2つ目の教室が2組の教室で、7つ目の教室が7組の教室だった。
「明日、どうする?」翔二が聞いた。
「10時に横浜の喫茶店で待ち合わせなんだ。」と、慶太が言うと、
「じゃあ、9時半くらいに横浜駅で待ち合わせでいいか?」と、翔二が聞いた。
「うん!!」2人は9時半に横浜駅で待ち合わせをする約束をして、別れた。
(あと1日・・・。)そう思った矢先だった。知らない番号から電話がかかってきた。慶太は嫌な予感しかしなかったが出ないと後悔する気がして、電話に出た。
「も、もしもし・・・?」電話に出て、どうやら踏切近くにいるのか、踏切の音が聞こえた。すると、1分もしないうちにぷちっと切れた。一瞬、ぞっとした。
(た、ただのいたずらだ・・・いたずら電話だ・・・。)慶太はそう自分に言い聞かせた。
*
午後19時。妹の中学校の校門前で慶太は妹の帰りを待っていた。
「お兄ちゃん!!」10分後に妹が来た。
「おう、急いで帰ろう!!」妹の腕を引いて足早に帰ろうとした。
「お、お兄ちゃん!!おなかすいたからコンビニ寄っていい?」
「だめだ!!帰ってから母さんが夕飯作ってくれるだろ?それまで我慢しろ。それに、夕飯前になんか食うと運動した意味なくて太るぞ。」兄に言われて唇を尖らせたが大人しく真理子は言う事を聞いた。
中学を出て、20分ほど歩いていると、妹が急に後ろを振り向き始めた。
「・・・どうした?」
「さっきから・・・足音が・・・。」かすかに慶太も足音が聞こえた。だが、辺りを見回しても誰もいない。
「は、走るぞ!!」妹の腕を引っ張って全力で走った。なるべく、人混みを探した。だが、この道は暗くて人混みがある駅までかなりの距離があった。
(頼む・・・間に合ってくれ!!)全力で走っていると、かすかな灯りが見えた。駅が近くだと気づいた。
(逃げ切れる!!)と、思ったその瞬間・・・、誰かに足を引っかけられた。ずしゃあ!!と慶太は派手に転んだ。
「きゃっ!!」真理子も慶太に腕を引っ張られていた為、一緒になって転んでしまった。
「す、すまない!!真理子!!立てる・・・か・・・!?」自分たちの上に誰かいる!!急に辺りが先程よりももっと暗くなった気がした。周りには3人の男達が自分達を囲んでいた。
「た・・・頼む・・・い、妹だけは・・・俺の事は好きにしてくれ・・・!!妹だけは・・・!!」その瞬間、2人の頭に衝撃が走り、そのまま意識を失った。意識を失っても尚、慶太は妹を抱きしめたまま、放さなかった。
*
午後11時過ぎ。とある警察署で調べ物をしていた慎太郎はやっとそれを終え、部下2人と帰る準備をしていた。
「警部、千田さん、送りますよ。」丹波が言った。
「ありがとう。」そう言って会議室を出た後、また、女性の泣き声が聞こえた。泣き声の聞こえる方へ向かうと、息子と娘が帰らない両親が近くの警察署へ捜索願を出していたようだった。
「帰るって連絡が19時過ぎにあったのに・・・一向に帰ってこないんです!!」母親が泣きながら説明し、父親は震える手で捜索願を書いていた。それを慎太郎は見させてもらうと、驚愕した。
『家出人氏名 石島慶太・真理子』と、書かれていた。手が震えた。明日、会う約束をした男の子と同姓同名だった。慎太郎は絶対に探し出す事を両親に約束し、捜索願を丹波に渡した。すると、急に慎太郎はどこかへ行ってしまった。丹波は心配になり、慎太郎の後をついていった。
慎太郎は先程の会議室に戻っていた。そして・・・ダン!!と会議室の壁を殴っていた。
「くそっ・・・・!!」肩を震わし、しばらく慎太郎はその場にいた。悔しくて仕方がなく、歯を食いしばった。
第5章に続く。