第3章 真相
『この人殺し!!』良平のその言葉に蛍は体を硬直させた。蛍は翔二を見たが、翔二は蛍を見ずに良平から目を逸らさず見つめているだけだった。良平はそのまま言葉を続けた。
「お前の親父が刑事だからな。刑事の息子が人を殺しちまったらやばいのお前だけじゃないもんな。だから、もみ消したんだろ?汚ねぇ・・・汚ねぇよ・・・!!俺は絶対お前を許さねぇ。そして、お前を逮捕せずにもみ消しているお前の親父もな!!いつか絶対親父とお袋の仇を取ってやる!!」良平はそう言って蛍の事も気づかずそのまま走って行ってしまった。
蛍は翔二を見つめた。それに気づいた翔二は力なく笑った。
「悪い。行こうぜ。」そう言って翔二は歩きだした。
「海堂君・・・、今の人は誰?」蛍が聞いた。だが、翔二は蛍の方には振り向きもせず、「お前には関係ない。」とだけ言って歩き出した。少しだけ、蛍は胸がちくんと痛んだ。
*
神奈川県警本部で慎太郎は借りてきた監視カメラを1つ1つ調べていた。どうも慎太郎は3月に強姦され、殺害された女子中学生、鈴野真弓が恋をしていたという男子が気になった。どんな男子だろうか、その男子が鈴野真弓を殺害した可能性もなきにしてもあらずだったからだ。
「仮に第三者が殺害した可能性も俺は視野に入れてもいいと思っています。別で男子生徒が鈴野真弓に好意を抱いていて告白をしたが、鈴野真弓には他に好きな男がいた。で、その事を伝えて男子を振った為、逆恨みで強姦、殺害されたという線です。」巡査部長、丹波直樹が言った。
「あー、そういう線もありうるね。」警部補の千田健一もうなずいた。
「そうだな、現在分かっていることは、犯人は3人。調べた結果ゲソ痕が同じ跡だった為、同じ高校に通う男子生徒3人。きっと犯人同士の繋がりは、学校の中だろう。うちの息子のゲソと一致すれば犯人は青嵐高校の生徒となる。そうしたら、まずは本当にうちの息子と同じ学校の人間があの塾に1人だけ通っているのは絞り込めた。その少年にゲソが一致したら話を伺おう。」そして、慎太郎は時計を見た。
「そろそろ捜査会議の時間だ。行こう。」3人は会議室へと向かって行った。
会議室に向かっている際に、受付で揉めているような声が聞こえた。3人は受付の方に顔を出すと、40代位の女性が泣きながら受付に話しているのが目に入った。
「娘が・・・娘が昨日の夜から帰ってこないんですよ!!部活が終わって帰ってくるはずなのに・・・携帯に連絡しても出ないんです!!最近、女子中学生が殺害された事件があるからもう心配で心配で・・・!!」泣いている母親を宥めながら受付が奥に通して、捜索願を書かせていた。
「丹波君。」
「はい!!」
「後であのお母さんが書いた捜索願を受付から借りてきてくれ。・・・嫌な予感がするんだ・・・。」慎太郎のその嫌な予感はぴたりと後で当たることになる。
*
良平に会ってから完全に翔二は気力を失ったかのように元気がなかった。
良平の言った“人殺し”の意味、蛍はどうしても気になった。まだ、自分は翔二の事をよく知らない。でも、人殺しをするような人間には少なくとも見えない。だけど、翔二は何も言わないから余計心配だった。蛍は良平の言った事など、信じる気はなかった。出会ってまだ1週間も経ってないが、何となく翔二がどういう男の子か分かり始めている。
(本人に聞いても、話してくれないだろうし・・・。私が口を出していい案件じゃない・・・。忘れた方が海堂君の為だよね。変に勘ぐって探るような真似はしたくないな。)
そんな事を考えていると翔二は急に立ち上がった。
「翔、どこ行くの?」拓也が聞いた。
「さぼる。」
「あ、俺もそれに賛成~。」連司が続けて席を立って翔二と一緒にドアへ向かって行く。
「じゃ、俺も!!」続いて拓也も立ち上がった。
「ちょ、3人とも!!タクと連司は今日中島先生に逆さ吊りにされたばかりなのにやばいでしょって!!」止めたのは和也だった。
「中学でもあんな感じだったの?」美由が優奈に聞いた。
「そ、あんな感じ。で、担任が結構強面系だったから、毎回首絞められてたよ。」と、優奈が言った。
「海堂って、モテてたでしょ?」美由が聞いた。
「翔二は剣道と空手3段ずつ持ってるって言ってたでしょ?中学の時は剣道部の主将だったよ。で、学校とは別の道場で空手も教わってたみたい。だから、結構女子にモテてたよ。でも、その頃は本当にやんちゃでタクとバカいっぱいやってたんだけど・・・。中3の修学旅行かな?あれから昔より翔二、口数少なくなってたんだよね。その頃、友達の両親が亡くなっちゃってさ・・・。翔二、すごい仲良かった子なんだけど、その子の親の葬式にも出なかったのよ。」優奈のその言葉を聞いて蛍はピンときた。きっとそれが朝の男の子の両親だと。行き辛かったんだと、蛍は思った。翔二のあの辛そうな顔と背中が蛍の脳裏に焼き付いて離れなかった。
その日の帰り道、前を翔二が歩いているところを見つけた。蛍は思い切って翔二に声をかけようと決意した。
「海堂君!!」呼ばれて驚いたように翔二が振り向いた。
「何だ、お前か・・・。」ため息交じりに翔二が言った。
「一緒に帰らない?同じ方向だし。」
「別にいいけど・・・。」結構速足で歩いているように見えていたが、蛍が横に並ぶと翔二は歩幅を合わせて歩き始めた。だが、いざ一緒に帰っても相変わらず会話がなかった。最初に一緒に帰った時の方が会話があった気がしていた。これもまた、朝の出来事が原因なのかと蛍は思った。蛍はどうしても気になってしまい聞きたい気持ちもあった。だが、朝に1回聞いた時に翔二に“お前には関係ない”ときっぱり言われた為、これ以上聞くのは出来ないと蛍は思い、何も聞かない事にした。
*
朝、神奈川県警に娘が帰らないと捜索願を出してきた書類を慎太郎は読んでいた。
行方不明者は“加賀絵理奈”。ストレートロングヘアの茶髪の女子だった。パッと見、コギャルだ。学年は中学2年生だった。テニス部の部活動に入っていて、夜18時過ぎに帰ると連絡のラインが送られてきたが、それ以降行方が分からなくなっている。
「母親はラインを送り続け、父親は電話をし続けている。ラインは既読にならず、電話には一向に出ないらしい。」慎太郎が言った。
「1人は塾の帰りに行方不明で、その後、遺体となって発見され、今度は部活の帰りですか。そうなると、塾の人間が犯人と決めつけるのは早いかもしれませんね。」と、千田。
「1人目のガイ者と今行方不明の女子中学生は違う学校ですしね。単なる家出とも考えられるかもしれません。」と、丹波。
「いや、家出は違うと思う。それなら、わざわざラインで今から帰るなんて送らないだろう。」と、慎太郎が言った。
「あ、そっか。」丹波が頭を掻いた。
「悪いが3人とも、この子の捜索も視野に入れて事件の捜査を行ってくれ。」と、刑事部長の伊佐美が言った。
「分かりました。」3人は頭を下げる。そして、立ち上がり、更なる聞き込み捜査を開始した。
*
寮に帰った後、蛍はスマートフォンをいじっていた。
「ただいまー!!」ドタドタと騒がしく帰ってきたのは連司と拓也だった。その後ろから和也も帰ってきていた。
「おかえりなさい。」蛍が3人に声をかけた。
「ただいまー蛍ちゃん♪何してんの?」連司がひょいっと蛍が見ているスマホを覗き込むように顔を近づけた。
「あ、えっと・・・バイトを始めようかと思って・・・。石川さんも神崎さんも始めたらしいから・・・。」そう言って蛍はスマホのバイト求人情報を見せた。
「あ、俺もやろうかと思ってたんだ!!蛍、一緒にやろうぜ!!」拓也が言った。
「あれ?タクはバスケ部に入ったんじゃないの?バイトする時間ある?俺は部活入ってないからファミレスのバイト始めたけどねぇ~」と、連司。
「ま、何とかなるだろ!!」と拓也が言うと後ろから声が聞こえた。
「何とかならねぇよ!!うちの学校はバイトと部活の掛け持ち禁止だ!!」振り向くと担任の中島がいた。
「ぎゃーー!!なかじー!!何でいるの!?」拓也が叫んだ。
「誰がなかじーだ!!部活とバイトどっちかにしろ!!去年バイトと部活の両立が出来ねぇ生徒がいて部活をなまけだしたから部活のキャプテンとその生徒が大喧嘩しやがって教頭が面倒くせぇからって校則にバイトと部活の掛け持ち禁止を校則に加えやがったんだよ!だからやるならどっちかしかねぇんだよ!!生徒手帳の校則読んでみろ!!」ぎゃんぎゃん騒いでいるとリビングのドアがガチャリと開いた。入ってきたのは翔二と彩芽だった。
「げ!?何で中島がここにいるんだよ!?」明らかに翔二は嫌そうな顔をした。
「何だ嫌なのか?」
「嫌に決まってんだろ!!何でいるんだよ彩芽!!」翔二が彩芽に聞いた。
「もう恒例なのよ、寮に入る生徒がいれば絶対に進ちゃんが遊びに来るって。潤君と旬君っていう生徒さんの頃からよ。」と、彩芽。
「潤兄と旬兄もこんな思いしてたのか・・・。」拓也がため息をついた。
「あれ?委員会の両立はいいの?」連司が聞いた。蛍は図書委員に入っている。
「月初めに委員会と図書室の放課後の本の貸し出しの手配の仕事をランダムに指定される紙が配られるからその紙に書かれている日にバイト入れなきゃいいだけだし・・・、それにこいつの場合は真面目にやるから大丈夫だろ。」と中島が言った。
「何それ!!超差別!!」拓也が言った。
「うるせぇ!!文句あるなら教頭のハゲに言え!!」自分の上司を禿呼ばわりしてるよこの教師・・・。とこの寮にいる誰もが思った。
「俺もなんかバイトしようかな・・・。」そう言って翔二はスマホを取り出してバイトの検索をし始めた。蛍はちらりと翔二を見る。あれから、まともに翔二とは口を聞いていない・・・。
*
寮の近くに洒落たパスタ屋がアルバイトを募集しているのを検索で見つけた。蛍はそこに電話をして、次の金曜日の夕方に面接をする事になった。金曜日にパスタ屋に行き、パスタ屋のドアを開けると意外な人物と出くわしてしまった。
「いらっしゃいませー・・・。」そこにいたのは翔二だった。
「海堂君!!」蛍は驚いた。
「ここでバイトしてたんだ・・・あ、私もね、バイトの面接に来たの・・・。」
「・・・・嘘だろ?」翔二は物凄く嫌な顔をした。
(そ、そんな嫌な顔をしなくても・・・。)蛍は苦笑するしかなかった。翔二の仕事を教えている感じのいい大学生くらいのお兄さんが奥へ案内してくれ、店長と面接をして、人手がかなり少ないからそのまま即採用になった。
「彼も昨日入ったばかりなんだよ。人手が少ないからよろしくね。あ、僕は花澤透。宜しく。」帰ろうとした時に面接室に案内してくれたお兄さんが声をかけてくれた。蛍も宜しくお願いしますと頭を下げた。
「あ、海堂君もこれから宜しくね・・?」念の為、翔二にも声をかけた。
「俺の足を引っ張んなよ・・。」ぶすっとした顔でそんな事を言った。
*
オーダーハンディーの取り方を教えてくれたのは透ではなく、翔二だった。意外にも教え方が上手で何とか注文の取り方は覚えられたようだ。土日の休みは同じことを考えていたようで朝から夕方までみっちり2人はバイトを入れていた。
「オーダーの取り方教えてくれてありがとう・・・。」
「別にお前の為に教えたんじゃねぇ。」いつも通り翔二はぶすっとした顔をして答えた。
(じゃあ、何の為に教えてくれたんだろう・・・。)と、蛍は心の中で思ったが、あえて言わないようにした。
17時になり、透から上がるように言われ、翔二と一緒に上がった。いつも通り、話すことがないまま同じ方向に2人は帰って行った。
歩いていると、翔二が珍しく口を開いた。
「お前さ。」
「え?」いきなり声をかけられたから聞き返した。
「何も聞かねぇんだな。」横顔だけ蛍の方を向いて言った。
「な、何の事?」蛍がきょとんとしていると翔二は驚いたように目を見開いた。
「それはボケなのか?」翔二の言っていることが理解できてない顔を蛍はまだしていた。翔二は呆れたようにため息をつく。
「この間会ったあの男の事、何も聞かねぇんだなって思ったんだよ。変に気にしてなんかこっちが損した気分だぜ。」翔二の言葉に蛍もこの間の男の子の事を思い出した。
「だ、だって海堂君がお前に関係ないって言ったんじゃん!!」
「わ、分かってるよそんな事は!!」すかさず、翔二は顔を真っ赤にした。図星を付かれて恥ずかしいらしい。だが、翔二はすぐに目を伏せて黙ってしまった。初日の夕食の時と同じ顔をしていると蛍は思った。蛍は思わず翔二の手に触れた。
「あの男の子と何があったの・・・?」蛍は聞いた。蛍に左手を触れられ一瞬、翔二は手を震わせた。そっと蛍の顔を見た。蛍が心配そうに自分を見ていた。
「お前・・・人が殺される現場って見た事なんてないよな・・・?」翔二が訊ねた。もちろん、あるわけがない。蛍はとりあえず見た事がないという意味でうなずいた。
「俺は1年前、人が殺される現場を見たんだ。その被害者はこの間会ったあいつ、良平の両親なんだ・・・。」
*
今から1年前の春、ちょうど今より少し後の季節の頃、翔二は学校の修学旅行で北海道に来ていたことを話した。修学旅行2日目に札幌へ行き、友人である良平の家にお邪魔しようと話していたらしい。そんな時、札幌の住宅街に入った後、翔二は同じ班である拓也や和也、優奈たちとはぐれてしまったらしい。
携帯も繋がらず、1人迷っていた時、静かな住宅街で女性の叫び声が聞こえ、駆け寄った時には女性が殺される現場を目撃したのだ。
「その時・・・、俺は犯人と目が合ったんだ。人が殺される現場なんて初めて見たから・・・何も出来なかった・・・。」
「そんなの・・・出来なくて当然だよ・・・。なのに、何故海堂君が殺したなんて・・・?」
「ただの人殺しじゃなかったんだ・・・。良平の両親を殺していた男は・・・人間の目じゃなかった・・・まるで・・・まるで・・・化け物のような・・平気で何人も殺してきたような顔をしてた・・・。
それに・・俺の体が完全に硬直したのは・・・その男の右目に火傷の跡があった。それのせいで・・余計体が動くことが出来なかったんだ・・・。
良平が何故俺が良平の親を殺したなんて言い出したのかは検討はつかない。俺が真実を言っても信じてくれないんだ・・・。」そう言って翔二は下を向いてしまった。前髪で翔二の顔は隠れてしまったが、蛍は翔二の心に大きな傷があることを知り、下手に口を開けなった。ただただ、黙って翔二の手を優しく握っていた。
寮に戻った後、翔二は平然として拓也達と大笑いをしてリビングで話していた。さっきまでの翔二の辛そうな顔が嘘の様だった。
聞きたい事も本当はあった。翔二の父親は警察だ。その事をちゃんと話しているのだろうかとか、でも・・・翔二のあんな顔を見てしまうと蛍は何も聞く事が出来なかった。
拓也達とスマホのゲームで対戦とかしながら笑い合っている翔二を見て、蛍はほのかな胸の痛みを覚えた。
(海堂君の顔を見ると、胸が苦しい・・・。彼の心の傷、どうやったら癒せるんだろう・・・。)
次の日、翔二の話を聞いてから翔二が気になって仕方ない蛍はあまり眠れなった。朝の6時半には起きてしまった。
「あら、蛍ちゃん早いのね。おはよう。」彩芽が起きていて寮生の分の弁当を作っていたところだった。
「眠れなくて・・・。」
「仕方ないわよ。まだ、入学式から4日しか経ってないもの。朝ご飯作るわね。コーヒー、紅茶、どれがいい?」
「じゃあ、コーヒーで・・・。」朝ご飯はホットサンドにゆで卵とポテトサラダだった。先に出してくれて、その後暖かいコーヒーが出された。彩芽の料理は相変わらず美味しくて、思わずおかわりをしたくなってしまう位だった。
朝ご飯を食べ終わり、全ての準備が整ったのは7時ちょっと過ぎだった。その頃に美由が起きてきた。
「あれ?あんた早いね。」美しい黒髪のロングヘアをかきあげながら美由が言った。
「眠れなくて・・・もう学校に行ってようかと思って。」
「そ、気を付けて。」そう言って美由は洗面台へと向かって顔を洗いに行った。
(相変わらず、神崎さん綺麗だなぁ・・・。同い年とは思えない位大人っぽい・・。あんな感じになりたいなぁ・・・。)密かに美由のすらっとしたスタイルを見て蛍はそう思った。
寮を出て学校の通学路を通っていると、とある曲道で見覚えのある制服が見えた。黒桜高校の制服だ。男子も見覚えがあった。翔二に『人殺し』と言って罵声を浴びせた高田良平だった。
(な、何しているんだろう・・・こんなところで・・・。ま、まさか海堂君を待ち伏せているの!?)声をかけるかかけまいか、迷った。そして、蛍は良平にある疑問が頭をよぎった。
(何故彼は海堂君がご両親を殺したと思ってしまったんだろう・・・?)そんな疑問が蛍の足を前へ進めた。
「あ、あの・・・!!」声をかけられて良平は振り向いた。
「あ?お前・・・あの時の・・・。翔二の女か?」女と言われて急に顔が熱くなるのを蛍は感じた。
「ち、違います!!!」思わず首を横に思いっきり振った。
「ま、どうでもいい。何の用だ?」良平の鋭い目つきに思わず怯みそうになった。
「お、教えてほしいんです・・・。あなたは何で海堂君を・・ひ、人殺しと・・・?」
「・・・・。」良平はしばらく黙ったまま蛍を見返していた。
「か、海堂君は・・・正義感の強い人です・・・入学式の日に勘違いだったんですがカツアゲをされてそうな男の子を助けに入った人です!そ、そんな人が・・・人をましてや、お友達であるあなたのご両親を殺すなんて・・・考えられません・・・!!」蛍は良平の目を見て言った。良平は黙ったまま蛍を見返しているだけだった。良平の目つきと長い沈黙が蛍を緊張させた。
やがて、急に良平の口が開いたのだ。
「おい。」思わず蛍は身構える。
「今日、放課後時間取れ。」
*
今日はどことなく、時間が経つのが早く感じた。朝に良平に会って放課後に会う約束をしてしまったのだ。良平の見た目だけを見るととても怖い男の子に見えた。はっきり言って2人で会うのは相当勇気がいる。
良平とはラインも交換した。朝に別れた直後、ラインが届いていて学校が終わったら良平の学校である黒桜高校に来るようラインが入っていた。
「蛍―!!一緒に帰ろう!!」拓也が蛍の肩をいきなり抱いた。それを見た翔二がむっとした表情で拓也を睨んでいた。
「ご、ごめん・・・今日用事があって・・・。」
「えーー!?俺よりも大事な用事ってどんな用事?」連司が食いついた。
「やめなよ、2人とも。土方さんだって用事位あるでしょ?」止めてくれたのは和也だった。
「私もバイトだ。先帰ってて。」
「私も。」美由も優奈もそろって教室を出て行った。
すると、翔二は寮生に見られないように蛍の右手を握りしめた。急に握られて蛍はびっくりして翔二を見返した。翔二はラインのQRコードを蛍に見せた。
「帰り、遅くなるようだったらライン送れよ。さ、最近物騒だからな・・・む、迎えに来てやる。」思いがけない翔二の行動に驚きつつも蛍は翔二とラインを交換した。
帰りに学校で翔二達と別れてからも蛍は翔二のラインをずっと見つめていた。胸がドキドキして治まらなかったのだ。翔二が手を握ってきたときの翔二の顔を思い出していた。目を合わせてはくれなかったものの、顔を真っ赤にしていたのを思い出した。蛍はそれを思い出す度に自分の顔も赤くなるのを感じた。
それから小走りで蛍は黒桜高校へと向かって行った。
黒桜高校へ着くと、公立高校だからか、自分のセーラー服とは違うブレザーの制服を着ている女子を見て蛍はいいなぁっと思ったらしい。蛍の姿に気づいた黒桜の男子たちが一斉に蛍に駆け寄ってきた。
「どこの高校?」
「あれ?その制服青嵐じゃね?何の用?ここに彼氏いるの?」
「かっわいー!!」盛ってくる男子たちに蛍は戸惑いを隠せなかった。すると、男子の肩に大きな手がのるのが見えた。
「おい、俺の連れだ。散れや。」助けてくれたのは良平だった。
「え!?高田の彼女!?」
「ショックーー!!」ぎゃんぎゃんわめく男子を無視した良平は蛍の肩に手をやりさっさと学校を出て行った。
*
良平に連れてかれたのは小洒落たカフェだった。良平はアイスコーヒーを頼み、蛍はアイスカフェオレを頼んだ。数分間、コーヒーを飲んだりカフェオレを飲んだりとお互い黙り込んだ。良平が全くしゃべってくれず、いつ話を切り出そうか悩んでいた頃にやっと良平が口を開いてくれた。
「何で翔二を人殺しと言い出したのか、お前はそれを聞きてぇんだな?」アイスコーヒーのストローを回しながら良平が聞いてきた。蛍は黙ってうなずいた。
良平はまたアイスコーヒーを一口口に含んで大きなため息をつきながら話し始めた。
「1年前・・・俺は親父とお袋を殺されたんだよ。翔二にな!!」良平の言葉に蛍はすぐに反論した。
「か、海堂君はあなたのご両親を殺していません!!海堂君は右目に火傷のある男があなたのご両親を殺したと言っていました!!」
「どこにそんな証拠があるんだ!?」
「じゃ、じゃああなたは海堂君が殺した現場を見たんですか!?」蛍のその言葉に良平は黙ってしまった。良平は蛍から一度目を逸らした。そして、またアイスコーヒーを一口口に含み飲み込んだ。そして、良平は蛍の方へと顔をまた上げた。
「動画を見せられたんだ・・・。」良平が言った。
「ど、動画?一体誰に?」
「警察関係者だって見せてきた奴は言ってた。黒いハット帽かぶってる男だった。その動画を見せられて親父とお袋を殺した男の証拠だと言われて見せられたんだ。それを見たら親父とお袋を殺している男が映ってた。後ろ姿だったけど・・・あれは翔二だった。」蛍は良平からその言葉を聞いた途端、驚きを隠せなかった。翔二から言われた言葉と全然違った。良平はこれ以上言うのが辛くなり、席を立った。
「もういいだろ!!」そう言って良平は2000円程、机に置くと店を出て行こうとした。
「ま、待って!!」蛍は良平を呼び止めた。良平は蛍の声に足を止めた。
「あなたは嘘を言ってません・・・でも・・・海堂君も嘘は言ってません・・・信じて下さい・・・!!」蛍の言葉をどう受け止めたのか後ろ姿だったので分からなかった。良平はそのまま店を出て行った。
その後、蛍も店を出たが、良平の言葉が気になり帰る足が重かった。気晴らしに本屋に寄ったりしていたらすっかり19時を過ぎていた。彩芽からラインが何通も来ていた事にも気づかなかった。急いで蛍はラインを返し、速足で寮へと向かって行った。
学校と寮から相当離れている場所に来ていた為、夜にはスーツを着た男性や店の宣伝に出ている店員などが目についた。中には少しガラが悪そうな男の連中もいた。蛍は速足でそこを抜け出そうとしたが捕まってしまった。
「高校生だー!!」
「ねぇ、一緒に飲もうぜー!!」未成年なのに飲めるわけがない。明らかに男たちは酒で酔っ払っていた。
「か、帰ります・・・放してください!!」蛍は男の連中をすり抜けようとしたが、囲まれてしまった。
「冷たいじゃーん!!少しぐらいお酒大丈夫だってー!!」1人が蛍を後ろから抱き着き、放さないようにした。
「酒飲ませろ酒!!」蛍に抱き着いた男が大声をあげ、蛍の口を無理やり開けようとした。
(やだ・・・怖い!!)男が蛍の口の中に指を入れようとした瞬間、その手ががっつり握られたかと思うと後ろに捻られた。
「いてててててて!!」
「おい、こら!!高校生のガキに無理矢理酒を飲まそうとしてんじゃねぇ!!強要の罪で逮捕すんぞ!!」スーツを着た男性が蛍に抱き着いていた男の腕を捻り、更に抵抗しないようにすぐに男の両手を後ろにやり掴んで離さないようにした。
「何だこらおっさん!!何様のつもりだ!!」仲間の男が怒鳴り散らす。すると、男性の方は胸ポケットからある物を出してそれを男の顔面に叩き付けた。
「け・い・さ・つ・で・す・け・ど!?」目の前に見せつけられた警察手帳を見て男たちの顔面が真っ青になったのが分かった。
「悪いけどこいつらの面倒見といてくれ。」男性の後ろにいた同じくスーツを着た男性が2人、制服警察官に話していて、男たちはそのまま制服警察官に連行されていった。すると、蛍を助けた男性が男達に言った。
「お前らいくつだよ!?」
「は、二十歳です・・。」
「誰がおっさんだ!!俺はお前達と変わらない25だ!!二度とおっさん呼ばわりすんじゃねぇ!!今度言いやがったら背負い投げかますからな!!」男性が怒鳴り散らした後男達はそのまま制服警察官に連れていかれた。
*
「助けて頂きありがとうございました!!」蛍は刑事3人に頭を下げた。
「こんな時間だ。家まで送って行こう。こっちに車があるから。どっちだい?」蛍から見て3人の中で一番偉く見える男性がそう言ってくれた。さっきのように怖い思いをしたくなかった為、蛍はその言葉に甘えた。刑事達の車に乗り、蛍は寮の道を教えつつ送ってもらうことにした。すると、蛍のラインの電話が鳴っている事に気づいた。相手は翔二だった。慌てて出ると真っ先に怒鳴り声が電話の外にまで響いた。
『どこ行ってんだてめーーー!!何時だと思っている!?』まるで父親のような怒鳴り声に蛍は怯んだ。すると前に座っている刑事がその声に眉をあげた。
「ご、ごめんなさい海堂君・・・!!」
『今どこにいる!?何時だと思っているんだよ!?』
「ご、ごめんなさい・・・え、えと・・・。」おろおろしながら蛍が回答に困っていると助手席にいた刑事が口に指をあてて、そのまま蛍の電話を替わった。
「お前は彼女の保護者か。」いきなり聞きなれた声に翔二は驚きを隠せない声を出した。
『親父!?何で土方と親父が一緒にいるんだよ!?』翔二の大きな声に蛍は驚いた。
(海堂君のお父さん!?)蛍ははっとした。入学説明会で途中で電話が鳴って出て行った男性だと蛍は思いだしたのだ。
「今お前の寮まで送って行くところだから心配すんな。じゃあな。」
『べ、べべべべ別に心配なんかしてねーよ!!』そんな声と共に電話が切られた。
「やかましい息子だけど、宜しくね。」にっこりと優しい顔をして慎太郎は蛍に笑いかけた。そして、蛍ははっとした。
「あ、あの・・・私さっき、翔二君のお友達の高田君って人に会ったんです・・・。」蛍の突然の告白に慎太郎は目を見開いて驚いた顔をした。慎太郎の顔を見て蛍は慎太郎が何か知っていると確信をした。
「話を聞かせてくれないか?」慎太郎がそう言うと蛍は頷き、翔二に聞いた話、良平から聞いた話を話し始めた。
全て聞き終わった後、慎太郎は深刻な顔をして黙ってしまった。沈黙を破ってくれたのはこの間翔二と一緒に会った部下の千田だった。
「警部、ここは翔二君にも良平君にも真実を話した方がいいかと思います・・・。」
運転している丹波は黙って2人の話を聞いていた。
「そうだな・・・。」2人のやり取りは何をさしているか蛍には分からなかったが、本当の真相が語られる気がした。
その後、青嵐寮に着いた。寮の近くの車道に1人の男の子が立っていた。翔二だった。
「親父!!土方!!」翔二が呼んだ。
「か、海堂君!!」蛍が車から降りた後、助手席から慎太郎が出てきた。蛍は運転した丹波や千田に礼を言って慎太郎と一緒に翔二の元へと向かった。
「翔二。」慎太郎が真っ直ぐ翔二の顔を見て声をかけた。
「明日、暇か?」
「は?学校ですが。」
「知っている。学校の後だ。」
「バイトは入ってねぇけど。」
「ならば学校が終わる頃、学校まで迎えに行く。学校が終わったら待ってろ。」
「は?何で?」
「明日話す。」そう言ってそのまま行ってしまった。
「・・・・・親父と何か話したのかよ?」翔二が蛍に疑問を投げかけた。蛍は思わず首を横に振った。
(言えない・・・今日、高田君と会ったなんて・・・。)
「ま、いいや。彩芽が飯作って待ってるから行こうぜ。」そう言って翔二は前を歩いた。
「あ・・海堂く・・・。」
「お、俺の事は・・・タク達みたいに・・・翔って呼んでいいから・・・。」ふと、翔二の横顔を見るとまるでゆでだこのように顔が真っ赤だった。
*
次の日、学校が終わると翔二は寮生達と別れて一人教室に居残っていた。窓からは父の部下の車はまだ見えていなかった。スマホでゲームをしながら待っていると、1台の車が校門の前に止まったのが見えた。明らかに父の車だった。急いで教室を出て行って校門まで走って行った。
「悪い、待たせたな。」父が車の運転席から顔を出した。
「てっきり千田さんあたりが迎えに来るのかと思ったぜ。」
「千田君は良平君を迎えに行ってる。」
「え・・・?」父の言葉に驚きを隠せなった。
「乗れ。」言われるがまま翔二は父の車の助手席に乗った。
父の車に乗って連れていかれたのは父が職場としている神奈川県警本部だった。慎太郎は何も言わず前を黙々と歩いている為、翔二は慎太郎の後をついて行くだけだった。父について歩いていると、とある会議室に案内された。
「入れ。」慎太郎がドアを開けて中に入ると、良平が窓際の椅子に座っているのが見えた。千田ともう一人、慎太郎の新しい部下である丹波もそこにいた。
「翔二・・・てめぇ・・・!!」良平はギンと翔二を睨みつけた。
「翔二、良平君の前の椅子に座れ。」父に言われるがまま翔二は良平と向き合う形になって椅子に座った。ガタッと音を出して良平は椅子から立ち、帰ろうとしたが、丹波にがっつりと肩を抑えられた。
「おい、このままお互い誤解し合ったままでいいのかよ?お前だってこいつとは小さいガキの頃からの仲だろ?本当は薄々分かっているんじゃねぇのか?こいつが自分の両親を殺すわけがないって。」丹波の言葉に良平は黙って椅子に座りなおした。慎太郎はまず、翔二の方を見て声をかけた。
「まずは翔二、お前の目撃した男とはこいつの事か?」慎太郎はスーツの胸ポケットから1枚の写真を取り出した。写真には右目は前髪で隠れているが、恐ろしい目つきの長髪で黒髪の男が写っていた。
「こ、こいつだ・・・!!」翔二は写真でも恐ろしいこの男の顔を見て息をのんだ。
続いて慎太郎は良平の方を向きなおした。
「良平君は翔二がご両親を殺している動画を見せられたと言ったな。」
「何故それを・・・あ、あいつ・・・!!」
「まぁ、提供者の事は置いといてくれ。まずはその動画を見せたという男はこいつか?」また、1枚男の写真を見せてきた。黒いハット帽をかぶっていて、緩いパーマがかかっている男だった。良平も目を見開いて驚いた。
「こ、こいつです・・・!!」良平の証言に慎太郎は頷いた。2枚の写真を見て丹波は歯をギリっと食いしばった。
「親父!!誰なんだよこいつらはよ!!」翔二がしびれを切らして父に聞いてきた。
「うるさい!!順を追って話すから静かにしてろ!!」慎太郎が一喝すると翔二はしぶしぶ席に座りなおした。
「まず、良平君が会ったこの男は警察関係者でも何でもない。奴はヤクザの売人だった男だ。現在組から抜け出し、違法の物を売りさばいている男だ。噂では翔二が見たというこの右目に火傷の男、死神真治と手を組んで奴の殺人を手助けしていると聞いている。この男の名前は森明だ。」
「こ、この死神真治とかいう男は・・・な、何者なんだよ・・・?」翔二が聞いた。
「そうだな・・・お前に分かり易く説明をすると殺し屋と言ったところだな。森はこいつの逃走経路を手助けしているようなものだろう。いつ、この2人が手を組み始めたのは分からないがな。北は北海道、南は沖縄と多分森が手助けしているんだろうがどういう手段で移動しているかは分からない。だが、何百万人もこいつに殺された被害者は多い。そして、森はおろか、死神の目撃情報はたった2人からしか挙げられていない。だから、こいつの写真を探すのも苦労した。」
「ほ、他にもこの男の目撃者はいるのか!?誰だ!?」翔二が聞くと前から声が聞こえた。
「俺だよ。」丹波が答えた。
「10年前・・・丹波君は弟さんを殺されたんだ。生きていれば翔二と同い年の弟さんだ。」慎太郎が答えた。
「お、俺はこの森って男に翔二が親父とお袋を殺している動画を見せられたんだ!!あ、あれはどう説明するんだよ!?」良平が聞いてきた。
「そんなもん、パソコン1台ありゃ簡単にそんな動画作っちまうんだよこの森って野郎は!!こいつはもう、犯罪の天才と言ってもいい位だぜ!!」と、丹波。丹波の言葉に良平は顔が真っ青になり、うずくまった。
「良平・・・。」翔二が良平に声をかけた。
「ごめん・・・ごめん・・・翔二・・・俺・・・俺・・・!!何でお前を信じてやれなかったんだろう・・・!!」良平は声を震わせた。
「親父さんとお袋さんは俺の目の前で殺された・・・だから、俺が殺したようなもんだ・・・。」翔二の言葉に良平は首を横に振った、
「これが・・・2人が知らなかった真相だ。話すのが遅くなってすまなかった。
我々は全力でこの2人を捜査している。必ず捕まえるから。」慎太郎が言った。
「俺だって将来刑事になるんだ!!俺が捕まえる!!」翔二が言った。
「馬鹿野郎!!ガキはすっこんでろ!!」丹波が翔二に一喝した。翔二はむっとした顔をして丹波を見た。しばらくの間、お互い睨み合っていた。
*
真相を聞いた後、翔二と良平は互いの帰る場所へと帰る為に神奈川県警を出て行った。今までの事が嘘の様に2人は笑い合って帰って行った。
「あのさ、お前の彼女にも謝っておいてくれ。」良平が言った。
「か、彼女!?だ、誰だよ!?」翔二は本気で驚いた顔をした。
「とぼけちまってよ。ロングヘアの彼女いたじゃねぇか。あいつ、俺にこう言ったんだよ。海堂君はあなたのご両親を殺していませんって。実は昨日会ったんだよ。」
「・・・・土方の事か!?」
「名前まで知らねぇけど。」
「か、彼女じゃねぇし!!」翔二は耳まで顔を真っ赤にして否定した。
「てか、何で会ったんだよ!?」
「・・・心配してたんじゃねぇか?お前の事。すげぇかばってたし。」
「・・・・。」そのまま2人は歩いて帰って行った。いつも通り、たわいない会話をしながら。
*
その後、良平と別れて翔二は寮に帰ってきた。真っ先に顔を出したのは蛍だった。
「お、おかえりなさい・・・。」
「・・・・。」翔二は黙って蛍を見つめていた。
「?あ・・、あの・・・?」蛍はきょとんとしていた。
「お前さぁ・・・良平と会ったんだな。」いきなりの翔二の言葉に蛍は驚きを隠せなかった。翔二が慎太郎に呼び出される事は昨日の時点で想像はついていた。だが、良平がいるとは思ってなかった。
「ご、ごめんなさい・・・。」
「何で謝るんだよ?」
「か、勝手な事をしたから・・・。聞いたんでしょ?高田君に・・・。」
「・・・・。」とりあえず翔二は黙ってみた。蛍が自分の顔色を窺っているのがよく分かり、大きなため息をついた。
「確かに、お節介で余計な事してくれたなお前は。」翔二の容赦ない言葉にずんと蛍の体が重くなった。
「おかげで良平との誤解も解けたし、俺も新たな目標が見つかったからよしとするけど。」翔二の言葉を聞いて蛍は顔をあげた。
「礼だけは言ってやる。・・・ありがとな。」翔二はこの上ない笑顔で蛍に言った。その時、蛍の胸の鼓動が激しく高鳴ったのだ。
*
鑑識課から連絡があった。どうやら、提出した翔二のローファーのゲソと犯人の足跡らしきゲソが一致したそうだ。
「警部、あの塾には青嵐の生徒は1人いますが・・・。」
「・・・・うん、彼のローファーも採取させてもらうか。」そう言って塾の生徒のリストを慎太郎は見つめていた。すると、バタバタと大きな足音が会議室に近づいてきた。
「警部!!また、女子中学生の遺体が発見されました!!鑑識からの連絡ですと・・・あの今行方不明になっている加賀絵理奈の遺体だそうです!!」丹波の言葉に神奈川県警本部に緊張が走った。
第4章に続く。