第47章 憤慨①
あの新聞記者、久野に会ってから連司はずっとモヤモヤしていた。
食事中も連司は心ここにあらずの状態だ。
「・・・・連司?」彩芽が何度か聞いて、翔二が連司を小突いた。
「・・・え!?」小突かれてやっとはっとした。
「どうしたの?最近、ボーっとしていること多いわね?」彩芽が心配そうだ。
「そ、そうかな・・・ごめん。」連司が慌てて返事をする。
「・・・おい、この間の新聞記者に何か言われたのか?」翔二が訊いた。
こういう時、本当に翔二は勘が鋭い。
「え?何?新聞記者って。」彩芽が訊く。
「だ、大丈夫だよ。ほら、俺ってイケメンじゃん?
色々インタビューされたんだよ。」
「新聞記者が何のインタビューするんだよ。」翔二が怪しい・・とでもいうように訊いてきた。
「え、えぇ~?もしかして、翔・・・自分が取材されないからって焼いてるんだ!?」連司が茶化すと、
「はぁ!?んなわけあるかぁ!!」と、翔二がムキになった。
「ご馳走様ぁ~!!」
そして、連司は逃げるようにリビングから出て行った。
「たっく・・・。」翔二がふんと息を吐く。
「ねぇ・・・翔。連司に何かあったの?」彩芽が訊いた。
「わっかんねぇ・・・親父の阿保に訊いても何も言ってくれねぇんだ・・・。」翔二はムッとした顔をして返事をした。
一方その頃、久野は会社で残業中だ。
パソコンのキーボードをカタカタ音を立てながら記事を書いていた。
今書いている記事は池田の記事とはまた違う殺人犯の記事だ。
【十六歳少年Aの心の闇】というタイトルで書き始めた。
「心の闇ね・・・。」
そう言いながら久野は伸びをする。
そして一枚の写真に手を伸ばした。池田の写真だ。
「こいつも心の闇ってもんがあるのかな・・・。
ん・・・・?」
久野は池田の資料を見て目を細めた。
「あれ・・・?これって・・・。」
久野はスマホを取り出した。
*
九月十六日。まだまだ残暑が続くこの頃。
一人の女性が犬の散歩で朝、とある住宅街を歩いていた。
相模原市内の小さな商店街の道程だった。
犬がワンワンワンと吠えると、吠えた先に女性が目をやると女性は息が止まるような気分に陥った。
「きゃああぁぁぁぁぁああ!!」
女性の目線の先には久野勇吾の遺体があったのだ。
「警部!!」
丹波に言われ、慎太郎は丹波と千田と共に現場へと向かう。
現場となった商店街では野次馬で埋め尽くされていたが、なんとか現場に来れた。
キープアウトのテープを潜り抜けながらビニール靴に履き替えて現場に入る。
青いブルーシートを鑑識の鬼束に取ってもらい、マル害を確認。
「久野・・・勇吾ですね・・・!!」
丹波が言うと、慎太郎はすぐにマル害の周りの身体を確認。
首に絞められた痕があるが、ひも状のものなどではない。これは・・・。
「ガイ者は久野勇吾さん、毎朝新聞で働く記者のようですね。
死因は首を絞められたことによる窒息死ではありますが、どうやら扼殺かと思われます。」と、鑑識の鬼束琢磨が言った。
「扼殺・・・・。」慎太郎が言った。
一瞬目を閉じて考える。
「そう言えばこの人・・・池田文也について調べていたよね。
まさか・・・。」慎太郎がそう言って、久野の首を見る。痣のようなものがあった。
「それなんですが・・・警部・・。マル害の携帯を調べた結果・・・驚きの人物と連絡しています。」
「驚きの人物?」慎太郎が眉間に皺を寄せると、鬼束は久野の携帯の履歴を見せた。
慎太郎も丹波も千田も履歴の通話相手を見て驚愕した。
相手は・・・杉山連司。二十分くらいの通話時間が記されていた。
「近づくなって言ったのに・・・無視しやがったなこいつ・・・!!」丹波は久野の遺体を睨みつけた。
「どっちにしろ、連司君に話を訊くしかないな。」慎太郎も大きなため息をついた。
*
慎太郎は早速、連司に連絡を取った。ラインで今日時間取れるかどうかを訊いてみた。
連司はよくわからず、“いいよ”と返信をした。
その日は普通に授業を受け、そして、普通に放課後を迎えた。
「連司~!!帰ろう!!」拓也が連司に声をかけた。
「ごめん、今日は先約があるから!!」連司がごめんと手を合掌した。
「なんだよ~?また女~?」拓也がお茶らけて訊いてきた。
「へへへ、バレたか。」
そう言ってお互い手を振って、連司は校門を出て右へ向かった。
翔二たちに気づかれずに慎太郎たちと会う事になった。
慎太郎からは、【くれぐれも、うちの馬鹿息子に気づかれないようにね(^^♪)】と、顔文字つきで連絡があって、連司はふふっと笑いながら【了解!!】と、グッドの絵文字をつけて返信をした。
翔二は無駄に野良犬並みに嗅覚が利くと、慎太郎が言った。
慎太郎、丹波、千田と連司は待ち合わせをする事になった。
学校の最寄り駅から二駅ほど先の駅前の喫茶店で待ち合わせた。
「翔パパ!!」連司が慎太郎と丹波と千田を見つけ、手を振った。
慎太郎は笑顔で答えた。
「どうしたの?
・・・光一の件で、何か分かった?」連司が不安そうに訊いた。
「その事なんだけど・・・。光一君の事で連司君に訊いてきた記者の男の人、覚えている?」慎太郎が静かに訊いた。
「そりゃ、最近会ったから覚えてるよ。
確か・・・久野勇吾さんだっけね。
あ、アイスコーヒーください。」
連司が答えると、慎太郎は頷きながら続ける。
「実は・・・久野さんが遺体で発見された。」
「・・・え!?」連司がポケットから取り出した携帯を落としそうになった。
「・・・・・。」
しばらく、沈黙が流れた。
「どういう・・・こと?」
「殺された。首を圧迫されたことによる窒息死で。
扼殺の可能性が高い。」丹波が答える。
「やく・・さつ?って何?」
「首を腕や足などで締め上げて殺害する行為だよ。犯人はどうやら武道の達人かもしれん。」慎太郎が答える。
慎太郎の言葉に連司は池田文也の顔が浮かび上がった。
「まさか・・・!!」
「池田であるとは断言できねぇ。
扼殺とは確かに武道の心得を持っていればできる殺し方だが、それが池田が犯人であるとは言い切れねぇよ。
他にも武道やっているやつがいるからな。
俺達がお前に訊きてぇのは、昨日・・・久野の野郎と電話で連絡していたな?
なんの話をしていたか教えてもらおうか。」丹波が訊いた。
「連司君、不安にならないでくれ。決して君を責めているわけじゃない。
ただ、マル害の通話履歴に君の携帯の番号が載っていたんだ。
それを調べるのも俺達警察の仕事の一つなんだ。」と、慎太郎。
「安心しろ。お前の事、俺達は信じているから。」と、丹波。
慎太郎達には嘘は言えない。刑事だからというのもあるが、特に慎太郎には嘘が通じないだろう。それくらい、彼の事は騙せない。
「昨日の夜・・・寝ようとしたら、久野さんから急に電話が来たんだ・・・。」
「・・・久野勇吾と連絡の取り合いはしていたのかい?」と、慎太郎。
「いや・・・一方的に連絡が来たんだ。」
「・・・ん?あいつはお前の連絡先知っているのか?お前が教えたのか?」丹波が訊いた。
連司は首を横に振った。
「・・・急に来た。」
「急に?多分連司君は久野から名刺預かっているね?だけど、久野には連司君の連絡先教えていない?」
「教えていないんだ・・・。大人なんて、親か彩芽ちゃんかなかじーか翔パパしか知らないはず。」連司が答えた。
慎太郎と丹波と千田が目を合わせる。
「・・・・なんで知っているんだあいつ・・・。」丹波が眉間に皺を寄せた。
「連司君・・・。」慎太郎が連司に声をかけた。
連司は顔を上げて慎太郎を見る。すると、慎太郎が頭を下げていた。
「ごめん・・・。」
「・・・なんで・・・翔パパが謝るの・・・?」
「俺達警察が犯人分かっているのにすぐに池田を捕まえられていないから連司君がこんな嫌な思いをするんだ・・・。
本当にごめん・・・。」
「・・・・。」連司は声が出なかった・・・。
しばらくの間沈黙が続いたがやがて、連司が静かに言った。
「翔パパ・・・先日透兄ちゃんが亡くなったじゃん・・・。
翔がね・・・自分が死ねばよかったみたいな事を言っていたんだ・・・。」
連司の言葉に慎太郎はぴくっと体が反応する。
「俺・・・その時の翔の気持ち・・・・わかるんだ・・・。だって、その感情・・・去年俺が光一を失った時に感じた感情だから・・・。」連司の目から涙が一粒流れた。
「・・・・。」その感情は、丹波も痛いほどわかる。
かつて、最愛の弟を死神に殺された時、同じことを思ったからだ。
何故、自分が殺されなかったのかと・・・。
「久野に・・・何か言われたか?」丹波が訊いた。
「・・・池田の事で分かったことが一個あるから伝えたいから今度いつでもいいから会わないかと言われた。」
「池田の事で?」慎太郎が訊き返した。
「うん・・・。」
「お前はなんて答えた?」と、丹波。
「半信半疑だったけど・・・池田の事で何かわかるのであればと思ってOKを出したよ。
どこでいつ会うかはまた折り入って連絡すると言われた。
だから、電話も五分もしなかったと思う。」
連司の言葉に慎太郎は確かに通話時間が数分くらいしかなかったのを思い出した。
「そうか・・・ありがとう・・・。」と、慎太郎。
「俺が犯人とか思った?」連司が訊いた。
「思わないよ。君がそんな事するわけがない。」と、慎太郎。
「・・・・。」連司はふっと笑った。
「あぁ・・・。」連司は両手で顔を覆った。
「・・・連司君?」
「情報源だと思ったんだ・・・。俺、あの記者の人利用しようと思った。
ムカつくこと言われたし・・・。でも・・・。そんな事思ったから殺されちゃったのかな・・・?」
慎太郎はすぐに連司の手を握った。
「それは違う。そんな事思っただけで人が殺されるなんてたまったもんじゃない。
連司君・・・光一君の時もそうだけど・・・自分を責めないで・・・!!」
連司の身体は震えていた。
「お前の友達を殺した池田文也も、この久野さんを殺した犯人も俺達が捕まえるから、お前はちゃんと休め!!」と、丹波も連司を励ました。
だが、連司はうつむいたままだった。連司の精神は限界だった。
*
九月十八日の事だった。寮の前に見知らぬ女子高生がいた。
「誰?あの子ら。」優奈が顔をしかめて窓から見た。
「あぁ、俺の友達。」連司が言った。
見た感じ、別の学校の女子高生だった。
「連司~♡」女子高生たちは連司が寮から出てきた時に嬉しそうに手を振った。
「あんたねぇ・・・高校生のくせに女遊び激しいのよ!!」美由が呆れた顔をして言った。
「美由ちゃんやきもち?」と、連司が訊くと、
「ばっか!!」と、美由に言われた。
すると、後ろから翔二が大あくびをしながら出てくると、
「眠い・・・。」と言って、彼女である蛍の肩に顔をうずめた。
蛍はびっくりしたが、すぐに微笑んだ。
「おはよう~。」連司が女子高生たちに近づいているが、女子高生たちは連司に笑顔をむけつつ、蛍や優奈たちに視線を送っていた。
「何よ?」優奈がじろっと睨むと、女子高生たちは視線をそらした。
「優奈ちゃん、俺の友達虐めないでよ~。」と、連司が言うと、
「はぁ!?」と、優奈が更に連司を睨みつける。
「やだ、こわーい!!」女子高生たちが連司にぴっとりくっついて、言った。
もう一人の女子高生は翔二を見て、熱い視線を送ったが、翔二は無視。
「蛍、行こうぜ。」翔二は優しい笑顔で蛍の手を握って、一緒に登校。
その後ろを優奈と美由と連司以外の男子は歩いて行った。
(確かに・・・連司いつもより女遊びが激しいかも。
何かあったのか・・・?この間親父たちと何話してたんだろう・・・。)翔二は気になりながら、連司を見た。
女子高生の一人が翔二に気づき、また熱い視線を送ったがそれに気づいた翔二はまた無視をして、蛍の手を握った。
手を握られて嬉しかった蛍は、少しはにかんだ。
そして、学校。いつも通り寮生は過ごしていた。
「今日の夕飯、冷やし中華だって!」拓也が言った。
「いいねぇ~まだ、残暑が残っているから嬉しいよね!!」と、和也。
「もうアイス毎日欠かせないもんね。いつになったら涼しくなるの。
もう、九月も中旬なのに。」と、優奈がアイスを食べながら言った。
「あれ?蛍は?」翔二がスマホをいじりながら寮生たちに訊いた。
「なんか、なかじーに呼ばれてたよ。雑用やらされているんじゃ!!」と、拓也。
「あんの大魔王・・・。蛍に雑用させやがって・・・!!」そう言って、翔二は教室を出て行った。
「愛されているねぇ~蛍は~。」と、はにかみながら春那が言った。
一方、蛍が中島に言い渡された雑用は・・・。
「わりぃな、さっき生徒とぶつかって小テスト三種類一緒にしちまったからまとめるの手伝ってくれよ。」
「・・・先生・・・これ、点数ついていますが、私が見ながらやってもいいのですか・・・?」蛍が目を点にして言った。
「お前は他の奴らにこいつらの点数ばらしたりしねぇだろ?」
「そりゃ、プライバシーですし、しませんけど・・・。」
「その辺は信用してるから、お願いしてるんだよ。
先にやってろ。その代わりジュース買ってきてやるからよ。」そう言って、中島は数学準備室から出て行ったのだった。
「まぁ、いいか・・・。」蛍は苦笑しながらテストを分けていた。
次々出てくる・・・。翔二の点数、四十点・・・、拓也、二十点・・・。
蛍は更に苦笑した。そんな時、窓から誰かの声が聞こえた。
窓を開けると・・・。
「え・・・?」
そこには、朝連司と話していた他校の女子高生がいたのだ。
「あ・・・。」二人の女子高生が苦笑していた。
「え、えっと・・・?」蛍も苦笑した。
「朝の・・・連司の友達だよね・・・?」蛍が訊くと、二人は頷いた。
「ど、どうしたの・・・?学校は・・・?」蛍が訊いても二人は苦笑して何も答えない。
「あ、ここじゃ・・・もしばれたらまずいから、裏門まで送るね・・・。」
そう言って、蛍は窓から降りて二人を裏門まで送った。
「連司と何か待ち合わせでも?」
「ち、違うの・・・ただ、連司の学校ってどんなところなのかなって思って・・・。」
「あ・・・そうなんだ・・・。さっきまで私といた先生、うちの学年で一番怖い先生だから見つかる前に帰った方がいいよ・・。じゃあ・・・。」
蛍が帰ろうとすると・・・。
「あ、あの・・・。」
呼び止められ、振り向いた。
「ありがとう・・・。名前なんていうの?
よかったら、友達にならない?」女子高生の一人が蛍に言った。
そんなことを言われたのは初めてだ。
「あ、ありがとう・・・。じゃあ・・・。」
蛍はスマホを取り出した。そして、二人とラインを交換した。
(そっか・・・朝、私たちをじっと見ていたのって私たちと仲良くなりたかったのかな・・・?そう思うと、嬉しいな・・・。)
蛍は嬉しそうな顔をした。
「ひ~じ~か~た~!?」
声にぎくっとなる。
「お前・・・逃げるたぁいい度胸してるじゃねぇか・・・!!」
後ろに大魔王・・・いや、中島がバッグに炎を燃やしていた。
「あ、これには深い事情が・・・!!」
「中島!!てめぇ、蛍に何してるんだ!!」
そんなこんなで翔二が登場した。中島と翔二がしばらくの間もめていたので、次の授業が少し遅くなったのは言うまでもなかった。
*
九月十八日の夜。連司は、とあるところにいた。
オレンジジュースを飲んで、周りを見渡して、飲み干したらすぐに帰った。
帰りは、二十一時を過ぎていた。
「・・・ただいま・・・。」
「連司、お帰り!!」彩芽が玄関まで出迎えてくれた。
「・・・・。」連司はぎこちない笑顔で返事をした。
「どうかした?今日バイトだったっけ?」
「あ、まぁ・・・そうだね・・・。」
「ご飯いる?」
「うん、ぺこぺこ!!」
「じゃあ、用意するわね!!あ、あのね、ご近所からメロン頂いたの!!
ご飯後出すわね!!」
「う、うん・・・。」返事をして、連司は寮に上がった。
夕ご飯を食べて、メロンを食べて、連司はスマホのSNSを開いた。
特命でSNSにて池田文也の情報を集めていた。
変にあの記者のような人間に頼らなくても、今はSNSがある。
嘘でも本当でもバンバン情報は入ってくるのだ。
そして、気になる情報が一つ見つかった。
【池田文也は横浜市出身で、昔から横浜のこのクラブにいるよ。】という内容の匿名連絡。
「・・・・。」連司はその匿名の連絡をじっと見つめていた。
*
「ねぇ、蛍。今度さ一緒に遊ばない?」
この間の連司の女友達から蛍は遊びに誘われた。
「え・・・?」あまりにも唐突に言われたので、蛍は驚いた。
「なに~!?その反応!!」新しくできた友達、舞が笑いながら言ってきた。
「ご、ごめん・・・いきなりでびっくりして・・・。」蛍が苦笑した。
「だめ?」もう一人の友達、千絵が訊いてきた。
「そ、そんなことないよ・・・!!」
「じゃあ、明日ちょっと横浜行かない?楽しいクラブがあるの!!」
「え・・・クラブ?な、なんか怖いイメージがあるけど・・・。」
「そんなことないよ!!行こうよ!!」
「う、うん・・・。」
学校外で初めてできた友達・・・。変に断って関係が変になるのが嫌だったため、蛍は頷いた。
そして、遊ぶ日当日。
「あんた何そわそわしているの?」優奈が蛍に訊いた。
「え・・・そ、そうかな・・?」
「なんか、いいことあったの?」美由も訊いてきた。
「あ、あのね・・・他校で友達が出来て・・・今日その子たちと遊ぶの・・・横浜で。」
「へぇ?そうなんだ。」
「優奈ちゃん達も来ない?」蛍は何気なく訊いてみた。
「あ~・・私バイトだ。」
「私もだ。」
残念。優奈も美由も春那もみんなバイトだった。
「楽しんでおいで。プリクラでも撮ってきなよ。帰ったら見せて。」と、美由が言った。
「う、うん!!」蛍が本当に嬉しそうにうなずくから、美由や春那、優奈も嬉しそうに蛍の話を聞いていた。
そして、放課後校門で別れて蛍は横浜へと向かった。
クラブには行ったことがない蛍。ちょっと緊張している。
「蛍―!!」舞と千絵が蛍に手を振った。
蛍は二人の元へ走る。
「遅ーい!!」
「ご、ごめんね・・・。」
「行こう行こう!!」
三人は横浜駅から歩いて、とあるクラブハウスへ向かっていった。
「そういえば・・・クラブって私行った事ないんだけど、未成年でも入れるものなの?」
蛍が訊くと、一瞬だけ舞と千絵の顔が真顔になった気がした。
「あるよ~、うちらが今から行くのそこだから!!」千絵が言って、行こう行こうと背中を押した。
ドッドッドッドと、大きな音が店中に響いて、たまに声が聞こえない。
「蛍、ジュース持ってきてくれる?」
「う、うん・・・。」
蛍は席を立った。すると、一人の男が蛍に声をかけた。
「土方蛍さん?」
「え・・・?あ、はい・・・。」
ジュースを貰っている途中だった。声をかけてきた男は二十代前半くらいだった。
何故、自分の名前を知っているのか・・・?
「舞ちゃんと千絵ちゃんが見せたいものがあるって言ってて・・・ついてきてくれますか?」
そう言って、男は強引に蛍の手を引っ張る。
「え・・・ちょっと・・・!!」
手を振りほどこうとしたが、力が強く、逃げることができずに地下へと連れていかれた。
「きゃっ!!」
地下の暗い部屋に閉じ込められた。
「な、なにをするんですか!?だ、出して!!出してください!!」
ドアをドンドン叩くと、
「誰があんたみたいな地味女、友達になりたいと思うのよ!?」
「大体気に入らないのよね!!連司みたいなイケメンと仲がいいどころか、あんなイケメンの彼氏いるとか!!」
「え・・・?」
この声は間違いなく、舞と千絵だ。
確かにさっき、翔二の事を訊かれた。
『ねぇ、朝いた茶髪で金髪のメッシュのカレ、誰?彼女いるの?』
『あ・・・翔君のことかな・・・?私のカレなの・・・。』照れながら教えたのを覚えている。
「今から数人の男が来るから相手してもらいなよ!!」
「男にヤラれてあのイケメン彼氏に振られちゃいな!!」
きゃははと笑いながら声がどんどん離れていくのが分かった。
蛍は絶望した。
「や、やだ・・・やだ・・・!!」
暫く何度か叫んだ。出してほしい!!出して!!と。
だけど、誰も来なかった。
だが、足音が近づいてきた。
蛍は一瞬ビクッとした。まさか、自分の相手をするという男かと思ったが、足音は一人のようだ。
さっき、千絵たちは複数と言っていた。
蛍はダメもとでまた叫んだ。
「だ、出してください!!閉じ込められているんです!!
お願い出して・・・!!」声がどんどん涙声になった。
すると・・・。
「その声・・・蛍ちゃん!?」
聞き覚えのある声だ。連司だ。
「連司!!お願い、閉じ込められているの・・・助けて!!」
「・・・わかった!!」連司は一回がちゃがちゃとドアを確認すると、だいぶ古びている鍵だった。
男が蹴り飛ばせばドアごと壊せると判断した。女子だと少し難しいかもしれない。
「蛍ちゃん、ドアを蹴り飛ばすからそこから離れて!!」
連司に言われて、蛍はドアから離れた。
連司が数回蹴り飛ばしたら、鍵は壊れ、ドアも開かれた。
「蛍ちゃん!!おいで!!」
連司に手を差し伸べられて、その手を取った蛍は連司と手をつないでクラブから出た。
だが、走っている最中、蛍は腕をいきなり後ろから掴まれた。
「土方蛍さん?」
ロン毛でひげが生えた男をはじめとしたガラの悪そうな男、五人組が蛍を見ていた。
蛍はゾッとして、連司の後ろに隠れた。
「なんだあんたら・・・。」
ただ事ではないと思った連司は自分の後ろに隠れた蛍をすぐに庇った。
「お前には用はねぇんだよ!!俺らはこの蛍ちゃんに用があるんだ!!
ほら、蛍ちゃん♡おいで♡」そう言って、男が一人蛍の腕に手を伸ばそうとすると、
「蛍ちゃんに触るな!!」
連司の長い脚が男の手を蹴り飛ばした。
「・・・この野郎・・・!!」
一瞬にして乱闘が起こった。
「ぶっ殺してやる!!」
男たちが五人一斉にして、連司に襲い掛かる。
一人で五人相手、しかも蛍を庇いながらは、なかなかきつかった。
すると、男が一人、蛍に手を伸ばそうとした。
「蛍ちゃん!!」
蛍の方に顔を向けた瞬間、みぞおちを食らった。
「うぐっ!!」
「連司!!!」蛍が叫ぶ。
「蛍ちゃん、こんなやつより俺達の相手してよ♡」
男が蛍を後ろから抱きしめる。
「いやぁぁぁああ!!」
「蛍ちゃん!!」連司が何としても蛍の元へ行こうとしたが、殴られてしまう。
その瞬間・・・。
「いででででで!!」
「なーにしてんだよ、高校生相手にてめぇらいくつだコラ!!」
男をひねり上げてくれたのは、丹波だ。
「誰だてめぇ!!」
男が丹波に怒鳴るが
「お前が何だ。高校生相手に何しようとしてんだコラ。」
丹波、そして慎太郎、千田も男たちをひねり上げていた。
「俺達は警察だ。今この子たちに何をしようとしていたか、あっちの署で話を訊こうか?
え?」慎太郎が男たちを睨む。
「警察・・・!?」男達が警察と聞いて顔を青ざめた。
その後、男たちは近くの警察署に突き出されていった。
*
連司と蛍は丹波の車で慎太郎たちが戻ってくるまで待機していたが、ほどなくして戻ってきた。
「お待たせ、あいつらを署に突き出してきたよ。
もう大丈夫。」
「あ、ありがとう・・・翔パパ・・・。」
連司がお礼を言った。蛍はまだ体を震わせていた。
連司は蛍の方を見て、キッと睨んだ。
「あのさぁ、蛍ちゃん!!あんなところで何してたわけ!?」
急に連司は声を荒げた。それを見た丹波が連司を窘める。
「おい!!たった今怖い思いをした女の子に言う言葉か!!」
「・・・・っ・・・!!」
丹波の言葉に連司も口を紡ぐ。
「・・・俺もちょっと訊きたいな。
蛍ちゃん、何故あんなところに?君はあまりああいうところにいるイメージがないんだけど・・・。
ゆっくりでいいから、話してほしいな。」
慎太郎が優しく蛍に声をかける。
「・・・連司の女友達から誘われたの・・・。千絵ちゃんと舞ちゃん・・・。」
「え・・・?」連司が驚く。
「でも・・・もともと連司と仲良かったり、翔君みたいなかっこいい男の子が彼氏で気に入らなかったみたいで・・・あの地下の部屋に閉じ込められて・・・!!」
そこで蛍は嗚咽をしながら大泣きした。
「・・・そうだったのか・・・。怖かったね、もう大丈夫だから・・・。」慎太郎が優しく蛍の頭を撫で、落ち着かせる。
「・・・俺も訊きてぇなぁ。そこのクソガキ!!
てめぇは何であのクラブにいた!?」丹波が連司を睨みながら言った。
「・・・・!!」連司は黙った。
「その件はまた後日でいいよ。まずは二人を寮に送ろう。
さっき、伊藤さんに連絡もしたからね。」
慎太郎に促され、丹波は車のハンドルを握ってアクセルを踏んだ。
寮まで慎太郎たちに送ってもらった蛍と連司。
寮に着いたら、彩芽と寮生達が二人を待っていた。
「蛍ちゃん!!連司!!」
彩芽たちが二人に駆け寄る。
「一体何があったの!?他校の友達と遊んでいたんじゃなかったの!?」優奈が蛍を抱きしめながら訊いた。
「あ・・・。」蛍は思い出し、震えだした。
「・・・ごめん・・・。」
蛍の後ろから連司が声を出した。
「・・・俺のせいなんだ・・・。」
連司がぽつりぽつりと話し始める。すると、翔二が連司の胸倉を掴んだ。
「翔!!」拓也たちが驚いて翔二を呼ぶ。
「お前の女癖の悪さが原因で蛍が怖い目にあったのかよ!?ふざけんな!!」
「・・・ごめん・・・。」
「ごめんで済むかよ!?下手したら蛍はその男たちに強姦されていたのかもしれないってことだろ!?」
「・・・翔二!!」慎太郎が翔二の腕を掴んだ。
「翔君・・・連司は悪くないの・・・!!お願い・・・!!」蛍も翔二の腕に手を添えて、止めた。
「・・・ちっ!!」翔二は舌打ちをして、蛍の手を引いて、寮の中へ入って行った。
「翔二!!連司君、すまない・・・。」慎太郎は連司に謝った。
「謝らないで、翔パパ。翔二は蛍ちゃんの彼氏として正しい行動をしただけだよ。
俺が怒られて当然なんだ・・・。」そう言って、連司は顔を伏せた。
「連司、部屋に戻ろう。」拓也と和也が連司の腕を引いて、一緒に寮へ入って行った。
「翔のお父様、そして、丹波さん、本当にありがとうございました。」彩芽も慎太郎たちにお礼を言った。
「いえ・・・、蛍ちゃんのケアよろしくお願いいたします。」
慎太郎が頭を下げると、慎太郎たちは寮を出て行った。
寮を出た後、丹波の携帯が鳴った。
「はい、丹波。あ、課長。はい、はい・・・。
数名、検挙。了解です。
・・・警部、相原課長からです。あのクラブ何人か検挙できたそうです。」
「・・・そうか。」慎太郎は頷き、三人は車に乗った。
*
翔二は蛍の手を引いて、自分の部屋へ。蛍をぎゅっと抱きしめた。
「・・・翔君・・・。」
翔二に抱きしめられて、蛍はまた涙を流した。
「・・・何もされてないか?」
翔二が心配そうに訊いた。蛍は翔二の問いに頷く。
「翔君・・・直前で連司と翔君のお父さんと丹波さんたちが助けてくれたの・・・。
だから・・・連司に怒らないで・・・。」
「・・・・。」
蛍の言葉に翔二は返事はしなかった。翔二は黙って蛍の頭を撫でた。
そして、次の日。蛍は優奈と美由と一緒に学校へ行こうとした。
だが、寮を出ると千絵と舞がいた。
「・・・あんたさぁ、結局連司に助けて貰ったんだってね。
どんだけ男好きなんだよ。」千絵が睨みながら言うと、優奈が蛍の前に立つ。
「あんたたちね?蛍にふざけた事しようとしたのは。」
「ギャルは黙ってろよ。」
「・・・あん?」優奈はギラリと睨みつけた。その後ろには、美由も睨んでいた。
「・・・昨日のはあまりにもひどいよ・・・。」蛍も言い返した。
千絵が前に出ようとすると、優奈は千絵を押す。
「蛍に近づくんじゃねぇよ。」優奈のこの喋り方は完全に怒っている言い方だ。
「な、なによ・・あんたに関係ねぇだろ。」
「関係大有りよ!!」
千絵たちが後ろを振り向くと、春那もいた。
優奈から連絡を貰った春那が朝一に駆けつけてきた。
「蛍は私たちの大事な友達なのよ。あんた自分の友達が同じ目に遭ったら怒らないの?
うちらは怒ってるんだよ!!」美由も千絵たちに怒鳴りつけた。
三人に怒鳴りつけられ、千絵も舞も怯んだ。
「君たちのやったことは犯罪だって分かってる?」
後ろから声が。蛍が振りむくと、連司が千絵と舞を睨んでいた。
「れ、連司・・・そんな犯罪だなんて・・・・。」
「男たちに蛍ちゃんをレイプしろって言ったんでしょ?性犯罪教唆っていうんじゃない?」連司が冷めた目で見つめた。
「え・・・・?」千絵も舞も青ざめた。
「・・・そのことについてはてめぇらの後ろにいる奴らに話しやがれ!!」
連司の後ろから翔二が睨んで言った。
「え・・・?」
千絵と舞が驚いて後ろを振り向くと、三人の男たちが。
「君たちに話があるんだ。昨日蛍ちゃんを襲おうとした奴らが君たちから蛍ちゃんを襲うよう指示されたって言っていたからね。
君たちからも話が訊きたいんだ。」と、慎太郎。
「・・・・・・!!」千絵と舞の顔が青ざめた。
「・・・行こう、蛍ちゃん。」連司が蛍の肩を抱いてさっさと歩きだした。
「馴れ馴れしい!!」
連司は美由に手をひっぱたかれた。
「さぁ、行こうか。」
慎太郎たちに舞と千絵は連れていかれた。
「ちょっと待てよ。」
慎太郎たちを止めたのは翔二だ。
「・・・その女達殴らせろ。」翔二は怒りに震えていた。
翔二のその言葉に千絵たちはビクッとなった。慎太郎は顔をしかめる。
「・・・馬鹿を言うな!!」
慎太郎は一言そう言うと、千絵たちを連れて行った。
翔二はちっと舌打ちをした。
その後、千絵たちは厳重注意と蛍たちに接近禁止命令を出し、親御たちに連絡。
二人はがっつり親に怒られたという。
*
「あ、あの・・・翔・・・。」
連司が翔二に声をかけるが、翔二は無視をしてすぐにその場から離れた。
「・・・・。」
「ごめん・・・。」真っ先に和也が連司のところへ来た。
「何でカズが謝るの・・・?俺が翔に謝らなきゃ・・・。」連司は肩を落としている。
「でも・・・翔もあんな態度だから・・・。
翔はああなると暫く戻らないから、翔とはしばらくの間距離を取った方がいいと思う・・・。」と、和也が言った。
「・・・そうか・・・。」連司は目を伏せた。
謝って済むことじゃないのは分かっている。
自分にもし彼女がいて同じ目に遭ったら自分だって怒る。自業自得だと思った。
和也が言った通り、連司は暫くの間翔二と距離を取る事にした。
連司には、まだやる事がある。
第48章に続く。




