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第2章 再会

 捜査会議が終わった後、神奈川県警本部捜査一課警部、海堂慎太郎は捜査資料に目を通していた。

 「海堂警部。」呼ばれて振り向くと刑事部、刑事部長の伊佐美から声をかけられた。部下の千田と一緒に立ち上がる。

 「4月から警部に昇進、おめでとう。」激励の言葉をもらえた。

 「あ、ありがとうございます。昇進試験に受かったのも、部長や千田君が支えて下さったおかげです。」慎太郎は今年3月まで警部補だったが、晴れて昇進試験に合格し、警部に昇格したようだ。

 「そうだ、実は君の班にもう一人人材を送ろうと思ってな、川崎署の交番勤務から本部に晴れて異動になったんだ。来なさい。」伊佐美に呼ばれて顔を見せたのは長身の若者だった。

 彼は慎太郎に顔を見せると礼儀正しく頭を下げた。

 「お久しぶりです。」若者の姿を見て慎太郎は驚いた。

 「丹波君!!」新入社員の名前は丹波直樹、4月5日付で慎太郎の部下となり、晴れて捜査一課の一員となった。

 「今日から海堂班に勤務となるからよろしく頼むよ。」そう言って伊佐美は軽く手を振り、慎太郎と丹波から離れていった。慎太郎と丹波は伊佐美の後ろ姿に頭を下げ、姿が見えなくなると2人は顔を見合わせて笑い合った。

 その後は千田と丹波と3人で今回の事件について会議を開始した。

 「ガイ者、鈴野真弓は3月10日の19時以降に行方が分からなくなった。鈴野真弓の通っている塾に明日、聞き込みをしようと思う。」慎太郎の指令に2人はうなずく。聞き込みプラス、塾にある防犯カメラを見せてもらい、被害者のいなくなった時間を正確に確認しようと考えた。3人の会議は19時に終えて、その後解散した。

*

 入学式が終わった後に寮生は寮に帰って彩芽に挨拶を済ませた。

 「今日からよろしく、彩芽ちゃん!!」拓也がニコニコしながら彩芽に言った。

 「こちらこそ、みんな宜しくね。さぁ、部屋割りが出てるから。」そう言って、彩芽は7枚寮生に部屋割り表を渡した。

 「荷物は今日みんなの分届いたから各部屋に置いているわよ。」彩芽がそう言った。ありがとーと拓也たちが言って全員階段を上がって部屋へと急いだ。

 翔二は階段を上がって一番奥の部屋だった。段ボールが5箱、積み重なって置いてある。部屋に最初から用意されているのは机とベッドのみだった。あとは枕や毛布などは言えば寮で用意してもらえるし、自分で用意することも可能だった。

 彩芽は19時に夕飯を用意するといったので、その間に寮生たちは部屋の整理を行った。

 漫画やDS等のゲーム機を段ボール箱から取り出して整理しているうちに小学生の頃と中学生の頃のアルバムが入っていた。翔二は入れた覚えがなかった。どうやら母親が入れただろうと翔二は思った。

 「何でこんなの・・・。」そう言いながら翔二は、アルバムを開いてみると、小学生から一緒の優奈と和也、そして中学からのアルバムには拓也が加わった写真が入っていた。ふと、小学生の頃のアルバムを見ると翔二と和也の間に黒髪で短髪の少年が一緒にピースサインをして写っている写真があった。

 (・・・良平・・・。)翔二はしばらくその写真を見つめていた。ふと、頭の中で記憶がよぎった。

 『何で・・・何で親父とお袋を殺した!?』良平のあの睨みつける顔が今でも忘れられなかった・・・。

 19時になって彩芽がオムライスを作ってテーブルに並べていた。女子3人も手伝っている。

 「いいねぇ~女の子がご飯を並べているところって♪」連司がにこにこしながら席についた。

 「おかわりもあるからいっぱい食べてね。あ、あとお風呂はご飯食べた人から順番に入っていいからね。」オムライスを食べながら、彩芽を入れて8人で学校はどうだったかとか会話を弾ませていた。食事中にふとテレビを見ると、ニュースが流れた。

 3月17日に発見された女子中学生を殺した犯人がまだ捕まっていなく、警察が捜査中という短いニュースだった。遺体は司法解剖をしてから遺族に返されたらしい。本日、告別式が行われたというニュースが流れて女子中学生強姦殺人事件のニュースは終了した。

 「怖いわねぇ・・・。蛍ちゃん、優奈ちゃん、美由ちゃん気を付けてね。男の子達がちゃんと守ってあげてね。」彩芽が言った。

 「蛍と美由はともかく・・・優奈は逆に犯人がぶっ飛ばされるから大丈夫だな!!」拓也が笑いながら言うと、バシンとティッシュの箱が拓也の顔に飛んできた。

 「しっつれいね!!どうせ空手関東大会優勝女よ!!」優奈が拓也を睨んだ。

 「そうよ、失礼よタク!!」彩芽も拓也を怒った。

 「ごめんごめん」拓也が優奈に手を合わせて謝る。

 「うるさくなりそうね。」美由が苦笑した。

 「楽しくなりそうだって言ってよ!!」拓也が言って周りが笑い始めた。そんな時、翔二が浮かない顔をしているのに蛍は気づいた。

*

 次の日、慎太郎は神奈川県警本部の鑑識課へ向かっていた。部下の千田と丹波も一緒だ。

 「おはよう。」慎太郎が鑑識課へ入ってきた。

 「おはようございます。」鑑識課員が頭を下げる。

 「どうしたんですか?海堂警部。」鑑識課長が駆け寄ってきた。

 「ゲソ痕が学校のローファーだと言っていましたね?」慎太郎が聞いた。

 「はい、今全国の神奈川県内のローファーをあたろうと考えています。」

 「ちょっと、見せてくれませんか?犯人のゲソ痕は同じローファーの跡でした?」

 「はい、3種類とも同じでした。25.0センチが2足と26.5センチが1足でした。」そう言って鑑識課長がパソコンまで案内する。ゲソ痕を見て、慎太郎は目を細めた。

 「見たことがあるな・・・。」

 「え!?」丹波や千田も驚いた。

 「息子の学校のローファーのゲソ痕に似てるんだ。」息子の学校のローファーのゲソ痕まで調べ済みかと丹波は驚いて千田を見た。千田は苦笑して丹波に答えた。

 「課長、うちの息子のゲソ痕を提出させます。それで調べてもらえますか?」

 「え!?でも、それじゃあ息子さん困るのでは?」

 「将来刑事になることを目標にしています。ゲソ痕調べるだけで自分が疑われるなんて思ってないでしょうし、捜査の一環だと言えば逆に喜んで差し出しますようちの息子は。ただ、首を突っ込んで課長たちにご迷惑をおかけいたすかと思いますが・・・。」そんな話を聞いて鑑識課長は笑った。

 「ありがとう、宜しく頼むよ。」

 「こちらこそ、ありがとうございます。息子に話して後日改めて提出いたします。」慎太郎はそう言って頭を下げた。

 「じゃあ、千田君、丹波君。鈴野真弓の通っていた塾に予定通り行こう。」

 「は、はい!!」慎太郎に続いて千田と丹波は鑑識達に頭を下げて鑑識室を後にした。

*

 朝7時に起きれば学校には間に合う。目覚まし時計が鳴り、蛍は重い体を起こした。今日は学校生活2日目。午前中はオリエンテーションで、授業は午後から開始されるようだ。

 蛍は制服に着替えたら、階段を下りて食堂へと向かった。昨日の入学式の日から学校の仲間と学校の寮である青嵐寮で高校3年間過ごすことになった。食堂に入ると、同じ寮の女子2人と男子1人が食堂にもういた。優奈と美由と和也だ。

 「おはよう、土方さん。」和也が蛍に声をかけると、寮長の伊藤彩芽も蛍に声をかけた。

 「おはよう蛍ちゃん。ご飯出来てるから食べてちょうだい。」

 「お、おはようございます。」蛍は彩芽、美由、優奈、和也に挨拶した。

 朝ご飯を食べていると、どかどかと大きな音が聞こえてきた。寝坊している翔二と拓也と連司が起きてきた。

 「おはよー!!」拓也が元気よく挨拶した。

 「彩芽、朝刊ってどれ?」翔二が眠そうに聞いた。

 「あ、まだ取りに行ってない!!」

 「じゃあ、俺取りに行ってくるわ。」翔二はそう言って玄関へと向かって行った。

 翔二は玄関前で新聞を取った後少し読んでいた。どうやら最近の中学生殺人事件のニュースの記事を読んでいるようだ。特に昨日のニュースと同じような事が書いてある様に思った翔二はそのまま寮へ戻って行った。

*

 朝食も食べ終え、寮生は全員で寮を出て学校へと向かって行った。寮が学校に近い寮生は女子3人は先に行ったが、男子4人はダラダラダラダラと歩きながら学校へ向かっていた。

 「もう、3人とも!!中島先生怖そうだし怒られても知らないよ!!」4人の中で唯一真面目な和也が言っても聞き入れもしなかった。

 「平気平気!!潤兄と旬兄っていうなかじーの元生徒からは結構その辺無視してくれるって言ってたから!!」拓也はそう言ってコンビニで漫画を立ち読みしていた。

 翔二は雑誌置き場の周りをうろちょろしていると、一台の車が赤信号を止まっているのを偶然見つけた。助手席に乗っているのはまぎれもなく父だった。しかも、運が悪かったのかバッチリと父と目が合ってしまった。

 「しまった!!」と思ったのか思わず目を逸らしたが見つかってしまった。

 「ううん!!」大きな咳ばらいをしながら近づいてきた父は思いっきり翔二を睨んでいた。

 「学校は?」

 「こ、これから・・・。」

 「9時過ぎてるけど?」さすがに刑事だからなのか、取り調べを受けている気持ちになった。

 「親父たちはどこへガサ入れに行くんだよ?」

 「こっちの質問に答えろ!!それにガサ入れには行かん!!」

 「じゃあ、聞き込みか?」

 「お前に教える義理はない!!そんな事を聞いてる暇があったらさっさと学校に行け!!」くわっと鬼の様な形相で翔二を一喝するとすぐに向きは拓也たちの方向へと向けられた。だが、拓也たちには優しく接してさっさと車へと乗って行ってしまった。翔二の頭には大きなたんこぶがあったのは言うまでもなかった。

 その数分後、学校についた翔二達。1年7組の前には中島が仁王立ちをして待っていて、翔二だけではなく、遅れてきた拓也、連司、和也もげんこつを食らっていた。翔二のたんこぶは父のと合わせて2つになった。

 「タク・・・嘘つき。」翔二をはじめとする遅刻した寮生たちはみんな拓也を睨んでいた。

 ふと携帯を見るとラインが入っていたのに気が付いた。相手は先程コンビニで自分にげんこつをくらわした父だった。

 『近々お前の学校のゲソ痕取らせろ。』という短い内容だった。

 (ゲソ痕!?何でだ!?)まさか今回の女子中学生殺人事件の犯人は高校生だとでもいうのだろうか?翔二は事件の事を知れてラッキーだと思い、授業で使うノートより少し分厚いノートを開いた。そこに【犯人、高校生の可能性有。】と書いた。翔二は父の担当する事件に首を突っ込む気満々だった。事件の始めから解決までずっとこのノートに取っておく予定のようだ。そのノートは後に自分でこう名付けるようになった。

 “俺(海堂翔二)の事件ノート”と。

*

 川崎市内にある被害者、鈴野真弓が通っていた塾で鈴野真弓の行方不明になった3月10日の防犯カメラの様子を見せてもらうことにした。

 防犯カメラの台数は数十台にも及び、塾には3クラスある教室には3台ずつ防犯カメラが設置されており、その他、出入り口、中庭などにも防犯カメラが設置されていた。慎太郎たちは塾にある防犯カメラの量にあっけに取られていた。

 「うちの塾はT大学、W大学、T海大学などの合格者を過去20万人程出しておりますが、どうやら、カンニングなどをしている生徒も中にもおるようでして、その対策で防犯カメラを設置しております。」

 に、しても多すぎると思う量の防犯カメラの数だった。生徒たちは何だか監視されている気分で勉強どころではないのではないかとふと、慎太郎は思った。だが、これだけ防犯カメラがあるのは警察としてはありがたかった。

 中庭の見える廊下を通ると生徒らしき子供がサッカーをして遊んでいる。まるで学校の校庭並みの広さの中庭だった。

 「彼らは?学校は?」慎太郎が中庭で遊んでいる子供たちを見て疑問に思い、訊ねた。

 「彼らは諸事情で学校に行けない子供達がうちの塾に来て学校の授業の遅れを取り戻しています。大体学校に通っている子供達は夕方に集まりますから、朝から昼まではそういう事情の子供達がうちで授業を学ぶんです。」要するに、学校を不登校になっている子供達の為の塾でもあるわけかと慎太郎は思い、うなずいた。

 防犯カメラの監視をテレビで見れる部屋へと入れてもらった慎太郎、千田、丹波は1つ1つカメラのビデオを見ていた。どのビデオでも鈴野真弓は女友達と休み時間は話し込み、授業中は真面目に授業を受けている映像しか見受けられなかった。男子生徒も何人か彼女に声をかけたりしていたが、いなくなった日の出入り口の防犯カメラには彼女が友人と2~3人で帰る姿が映っていただけで終わった。

 「ガイ者の遺体が発見されたのは3月17日・・・。それまでの映像はありますか?彼女は家には帰っていなかったようでしたが、塾にも来ていませんでしたか?」慎太郎が聞いた。

 「あ、映像はありますが、そうですね・・・来てなかったと思います。あ、彼女のタイムカードがありますので見ますか?」

 「ぜひお願いいたします。」映像と、タイムカードを持ってきてもらい、まずはタイムカードを確認した。確かに3月10日以降は塾に来ていないようだ。10日以降の防犯カメラも確認したが、来ている様子はなかった。

 「タイムカードですが・・・、コピーを取らせて頂いても構いませんか?」

 「え、ええ・・・構いません。」

 「それと、彼女と一緒に帰ったこの生徒たちの名前と、彼女たちが塾に来た日にもう一度連絡頂けませんか?彼女たちから話を伺いたいと思いますので。」

 「分かりました。1人は今日来る予定ですので、19時以降、塾は終わりますが・・・、多分、授業の30分前かその位に来ると思いますけど・・・。」

 「授業が始まる前でも終わってからでも構いませんよ。授業が終わった後に話を伺う事になれば終わった後は我々の方で彼女を責任もって駅までお送りいたしますので。」そう言って出て行こうとしたその後、慎太郎はまた、くるっと振り返り塾長へ顔を向けた。

 「あと、もう一つ・・・。男子生徒の通っている学校の一覧が分かるものがあればコピーで構いませんので、頂けませんか?個人情報なのは重々承知なのですが・・・。もちろん、生徒の名前は伏せて頂いて構いません。気になる生徒がいたらその生徒の制服見れば分かりますので、こちらから声をかけることはあるかと思いますがその辺は捜査上、ご理解頂けたらと思います。」

 「わ、分かりました。少々お待ちを・・・。」そう言って塾長は一旦資料を持ってくるために慎太郎達から離れ、数秒後にはその資料を渡しに戻ってきた。

 「ありがとうございました。」こうして塾での捜査は終了した。

 「犯人は塾の生徒だと睨んでいるんですか?」丹波が訊ねた。

 「あぁ、現場に残っているゲソ痕からローファーが検出されたから一応ね。後はうちの息子のゲソ痕も提出してもらえば1校はローファーのゲソ痕は分かっているし。

 ただ、私立はうちの息子と同じ指定のローファーだからいいものの、公立となると多分、その辺の靴屋で購入した物かも知れないからちょっと厄介だね。」そう言って車まで3人は歩いて行った。

*

 遅刻した罰として自分達の教室の1年7組の掃除を翔二、拓也、和也、連司は担任である中島に命じられていた。

 「ごめん、翔・・みんな・・。5歳の弟を迎えに行かなくちゃならなくて・・・。」和也が申し訳なさそうに3人に話した。

 「そうか、時雨の迎えか。いいぜ、行って来いよ。」翔二と拓也と連司は頷いて了承した。

 「ごめんね、中島先生にはちゃんと僕から言っておくから。今度、何かおごる!!」そう言って和也は先に職員室の方まで中島に報告するのか走って行った。

 その後は拓也がバスケ部を見学したいと言って、続いて連司が女の子と約束があると言ってきた。当然翔二はそんな事は了承しない。

 「は?ふざけんな!!」

 「まーまー!!今度ハンバーグ奢るって!!」そう言って拓也が教室を出ていき、

 「今度可愛い女の子紹介してあげるから!!」続いて連司が教室を出て行った。2人の逃げ足はとても早かった。

 「て、てめぇら!!待ちやがれ!!」ただし、翔二は考えた。教室を振り返ると超やりかけ。このまま追いかけて出て行き、中島に見つかったらまぁ、事情話せば分かってくれるかもしれないがやりかけのまま誰もいない教室を中島に見られたら後が大変だと思った翔二はしぶしぶ教室の掃除を1人で続けたのだった。

 「あんの2人・・・寮に帰ったらぎったぎたにボコってやる・・・。」

 午後の授業が終わった後は全員さっさと帰って行った。優奈も美由もだ。多分、蛍も・・・。そう思っていたらガラリとドアが開いた。教室に入ってきたのは蛍だった。

 「な、何してんだよ・・・?」いきなり現れた蛍にびっくりしたらしい。

 「と、図書委員会でそれで終わったから・・・。」そんな会話をして事情を知った蛍は翔二の教室の掃除を手伝い、一緒に終わった後中島に報告をしに行った。

 「ごくろう。タクと連司は明日逆さ吊りの刑にするからお前ら帰っていいぞ。」やっぱり話したら分かってくれたと思ったが、言った言葉にかなりぞっとした翔二と蛍は逃げるようにその場から出て行った。

 下駄箱で靴を履き替えていると「おい。」と呼ばれて蛍は振り向いた。

 「これ。」そう言って翔二は蛍に缶のアイスカフェオレを渡した。

 「さんきゅな。助かった。このカフェオレ昨日飲んでたろ?やるよ。」

 「あ、ありがとう・・・。よく見てたね。」突然の事に蛍はびっくりしていた。

 「べ、別に見てたわけじゃねぇよ!!親父が刑事だから周りを観察する癖が移っちまっただけだから!!」そう言って翔二は自分の分のコカ・コーラの缶を開けて一気に飲んだが、その後むせた。あれ?今の言葉は結局見てた事になるのか?と、正直思っていた。

 コカ・コーラを飲みながら翔二と蛍は川沿いを歩いていた。帰る方向が同じな為、蛍は翔二の後ろをついていくような形で帰っていた。と、そんな時、サッカーボールが翔二の右手めがけて飛んできて、翔二は持っていたコカ・コーラの缶の向きが自分の服に向いてしまいそのままコーラがYシャツにこぼれてしまった。

 「げ!?」一瞬にして赤いYシャツが黒く、そしてジュワーと音をたてながら湿ってしまった。

 「す、すいません・・・。」ボールの持ち主であろう小学生が翔二の不良の様な外見を見てビクビクしながら近づいてきた。翔二はふーっと大きなため息をついたが、ボールを取って小学生に渡した。

 「ほら、気を付けろ。」そう言って翔二はそのまま川の方へと下って行った。気になってついてきてみると川で翔二は濡れたYシャツを染みにならないように少し、川の水で濡らしていた。

 4月とはいえ、夕方になれば風は冷たかった。濡れたYシャツに風が通り抜けると寒くなってきた。

 「こ、これ使って・・・。」蛍が翔二にハンカチを渡した。だが、翔二は照れ臭かったのか、「いらねーよ。」と言ってハンカチを受け取らなかった。

 と、その時誰かが自分たちに声をかけてきたような声が聞こえ、振り向くと小太りの男がこちらへ近づいてきているのが見えた。

 「君たち、どうしたの?川で遊ぶのはあまりお勧めしないよ。」小太りでスーツ姿の男が翔二達の元へ近づき声をかけてきた。すると、男はまじまじと翔二を見た。

 「ん?君・・・翔二君?」声をかけられ翔二は顔をあげ、男の顔を見返した。

 「ち・・・、千田刑事・・・。」翔二は驚いた様子で相手の名前を呼んだ。声をかけてきたのは神奈川県警捜査一課警部補、千田健一だ。翔二の父、慎太郎の部下だった。

*

 「久しぶりだね・・・。最後に会ったのって・・・確か・・・去年の修学旅行で北海道で会ったきりだね。」千田が言った。

 「そっすね・・・。」翔二は目を伏せてなるべく千田の顔を見ないように話していた。そしてそのまましばらくの間沈黙が続いた。蛍はどうして良いか分からず、とりあえず2人をただ見守っていた。すると、千田が口を開いた。

 「あれから彼とは?連絡とっているの?」

 「ラインもブロックされてるし、電話もメールも拒否られてる。」翔二が答えた。

 「俺達も彼に連絡を取ろうとしているんだけど全然で・・・。確かあの日以来、彼は神奈川にいる親戚に預けられたようなんだけど、その親戚に連絡をこの間したらもう家を出て一人暮らしをしている様なんだ。だけど、それ以外手がかりなくて・・・。」千田がため息をつく。翔二は目を伏せたままだった。

 「神奈川にいるなら・・・そのうち会えるだろうな・・・。」翔二が言った。

 (俺を殺しに・・・。)

 「うん、会えたら翔二君に連絡するよ。携帯赤外線ついてる?」

 「あぁ、うん・・・。」そう言って2人は赤外線で連絡先を交わした。

 「じゃあ、俺行くね。これから聞き込みに行かなくちゃいけないんだ。」そう言って千田は立ち去ろうとしたその時、翔二が呼び止めた。

 「千田さん・・・!!あいつは・・・あいつはまだ捕まってないの?」翔二の問いに首を横に振って千田は答え、そのまま立ち去った。

 蛍は翔二の後ろ姿をずっと見ていた。何だか、寂しそうで何か重いものを背負っているように蛍には見えた。

 ふいに翔二は蛍の方へ振り向いた。

 「悪ぃな、帰るぞ。」そう言って学ランを着て鞄を持ち、そのまま寮までの道程を歩いて帰った。

 帰りの道程は2人ともされど口を利かずに歩いて帰っていた。蛍は翔二の後ろ姿だけを見ながら歩いていた。蛍はきっと翔二は今、昨日の夕食の食堂の時と同じようにつらい顔をしていると思った。何も思い浮かぶ言葉が見つからぬまま、ただただ、翔二の後ろを歩いているだけだった。

*

 19時を過ぎた頃、慎太郎と丹波と千田は1人の生徒に話を伺っていた。

 「今日と同じくらい、19時過ぎには授業が終わります。その後、駅まで一緒に帰ってあたしは小田急線の登り方面で真弓は下り方面でしたので、駅の階段を上った所で分かれました。でも、お互いの電車が来るまで、変な人とかが来たりはしませんでした。しいてそばにいた人なら・・・、やっぱ同じ時間帯の生徒たちがホームで電車を待っていたぐらいかと思います・・・。」鈴野真弓の友人、坂井恵子は言った。

 「塾はいつもこの時間に終わるの?」慎太郎が聞いた。

 「平日は・・・。土日は夜の授業を取らないで昼間の授業を取る人が多いんです。昼間は13時から16時半まで授業です。」

 「なるほど・・・、まぁ、土日くらい、早く帰って家でくつろぎたいもんな。」丹波が言った。

 「彼女が行方不明になる前に彼女に何か変わったことはありましたか?」続いて千田が質問する。

 「う~ん・・。」恵子は考え込んだ。すると、顔をあげて話し始めた。

 「恋を・・・してたのだと思います・・・。」

 「恋?」

 「最近、真弓ちゃんどんどんかわいくなっていたんです。びっくりしたときは化粧して塾に来て、先生に怒られていました。」

 「中学生で化粧・・・!?」丹波が唖然とした顔をする。

 「その・・・相手の人の話は聞いたことがあったかな?」慎太郎が聞く。

 「いえ・・何も・・・。でもその頃からちょっと服装も派手になったかなぁって思います。いつものツインテールの髪もおろしたりしてました。そんな真弓ちゃんになったのは2月下旬頃でした。」それ以外、恵子は思い浮かぶものはないと言ったので、聴取はここまでにした。

 「遅くなって悪かったね。自宅まで送ろう。」慎太郎が優しく微笑み、丹波の車で彼女を送ることにした。

 車の中でぽたっと音がした。ふいに横を見ると、恵子は涙をぽろぽろ流していた。

 「何で・・・真弓ちゃん殺されちゃったんだろう・・・?いい子だったのに・・・。」さっきまでしっかり受け答えをしてくれていた彼女は急に緊張が解けたのか、涙をぼろぼろ流し始めた。そんな彼女の背中を慎太郎は優しくさすった。

 「犯人は必ず私たちが捕まえる。そして、彼女の無念もちゃんと晴らす。君たちがまた、安心して塾に通えるように一刻も早く捕まえるから。今日は協力してくれて本当にありがとう。」慎太郎の優しい言葉と微笑みが彼女を落ち着かせた。家まで送った後は県警本部へ報告の為に戻って行った。

*

 その夜、寮に慎太郎が来た。まさか、本当に自分の学校のゲソ痕を取りに来たのかと翔二は肩を落とした。

 「悪いな、しばらくローファーを借りるぞ。担任の先生には話してあるからしばらくはスニーカーで学校に行ってくれ。」慎太郎は翔二のローファーを袋の中に入れた。

 「お茶をご用意しますよ。」彩芽が言った。

 「そうだよ、翔パパ!!飲んできなよ!!」

 「おじさん、そうして!!」拓也と優奈が慎太郎に言った。慎太郎は優しく微笑んだ。

 「ありがとう、でもまだ仕事が残っているから今度ゆっくり来るよ。風邪をひかないようにね。

 じゃ、夜分遅くに失礼いたしました。」そう言って、彩芽に頭を下げて慎太郎は寮を出て行った。

 「事件の内容・・・一言でも教えてから出てけよな・・・。」翔二はむすっとした顔をした。

 次の日、和也は日直で朝早く出かけ、美由も6時には寮を出ていたようだ。拓也と連司が寝坊してて今だ寝ていて、優奈は出かける前の化粧をしていた。翔二の姿が見当たらなかった。蛍はそのまま玄関を出ようとすると、やはり、翔二の昨日用意していたスニーカーがないことに気づいた。先に行ったかと思って玄関を開けると翔二が玄関前で携帯をいじっていた。

 「お、おはよう・・・。」蛍は特に朝食でも会っていなかった為、言ってみた。

 「うす・・・。」小さく翔二は返事をすると、歩幅を合わせて蛍の横に並んで歩いた。流れで一緒に学校に行く感じになった。昨日、父の部下と会ってからあまり元気がないように感じていた為、蛍は翔二が少し心配だった。

 何か話そうかとちらりと翔二の横顔を見た。特にいつもと変わらず、何を話そうか悩んでいた頃、急に翔二が立ち止まっていた。

 「か、海堂君?」気づかずに翔二を置いて行った形になり、元に戻って翔二に声をかけた。翔二は真っ直ぐに前を見て固まっていた。

 「良平・・・。」翔二の視線の方へ目を向けると、髪をワックスでツンツンたてていて、紺のブレザーを着ている高校生が目の前に立っていた。ブレザーの胸ポケットには黒い桜の紋章があった。その紋章のある高校といえば隣の神奈川県立黒桜高校の制服だった。

 「よう、久しぶりだな翔二。」良平が翔二に声をかけた。

 「神奈川に戻っていたのは話聞いてたけど・・・隣の高校だったんだな・・・。」翔二が答えた。

 「お前が青嵐だって聞いたからな。近い方がいいと思ってな。だって、黙ってお前を野放しにしてるとまた、親父とお袋の様な被害者が出てしまうもんな。なぁ?

 ・・・俺が言いたいこと・・・分かっているよな?・・・・この人殺し!!」良平が怒鳴った。良平の言葉に蛍は驚きを隠せなかった。

 (え・・・!?どういう事!?)蛍は翔二を見た。だが、翔二は何も言わず、ただただ良平を見つめていた。

 第3章に続く。


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