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第1章 入学式

 中学3年生の冬、寒さもピークに達した頃、本格的な受験シーズンになった。主人公海堂翔二は、3年1組の教室で担任の中村正先生と進路の話をしていた。翔二は寮のある学校に行きたいと担任に相談していた。

 「寮のある学校ね・・・。だと、私立高校になると思うぜ?東京とか数件ある。」中村先生が東京の高校の一覧を出してきた。

 「いや、高校は神奈川県内がいい!!」翔二は首を横に振った。

 「神奈川~~??神奈川に寮がある学校とかあったかなぁ~~??」そう言って中村先生は色々高校の一覧の本をパラパラめくった。すると、中村先生はあるページを見つけて高校の情報を翔二に見せた。

 「青嵐高校・・・?」翔二は高校の一覧の中から私立青嵐高校のページを読んだ。希望者は寮生活を選択できるという。朝食の用意あり、昼は学校の食堂、希望すれば寮長がお弁当を作ってくれる、夜ご飯もきっちり用意してくれるという。

 「俺、ここがいいかも・・・。」翔二が言った。

 「じゃあ、ここを第一希望にするか?」中村先生の言葉に翔二はうなずいた。その数日後、三者面談で母親とも話をした結果、翔二の第一希望は神奈川県にある私立青嵐高校になった。翔二の友達である安藤拓也、石川優奈、鬼灯和也も同じ高校、同じ寮に入寮を希望した。優奈の友達である高橋春那も同じ高校の受験を受けることにした。

*

 同じ神奈川県内で、同じ高校の受験を受けざるを得ない少女がいた。土方蛍はM女子学園、中等部に通っている少女だ。図書委員会の仕事を終えて、家に帰ってきた。

 「ただいまー。」蛍が家に入ると、いつもは20時過ぎに帰ってくる父がもう帰ってきていたのに気づいた。

 「お帰り、蛍。」父が蛍に声をかけた。母は父にビールを持ってきているところだった。

 「あれ?お父さん早いね。」

 「あぁ、今日は早くに仕事が終わってね・・・。蛍、ちょっと話があるんだが、こっちに来てくれ。」蛍はうんとうなずいてソファーに座った。ソファーに座ると同時に母もビールを父に持ってきて一緒に乾杯をした。

 「あら?蛍も何か飲みたかったら、冷蔵庫にアイスカフェオレあるわよ。」

 「え?話は?」

 「そんなの、飲み物飲みながらできる話よ。」母に言われるがまま、蛍は冷蔵庫を開け、カフェオレを持ってきた。

 「お父さん、話って何?」蛍が尋ねた。

 「うん、実はね・・・。」母が言うと、続いて父が口を開いた。

 「お父さん、来年の春から海外転勤が決まったんだ。」突然の父の言葉に蛍は驚きを隠せなかった。

 「え!?じゃ、じゃあ私も一緒に海外に行くの?」蛍は小さい頃からアメリカやイギリス等、父の転勤が多かった為、色んな国に行く事が出来たが、父の転勤のおかげで折角仲良くなった友達と1か月も経たないうちに離れ離れになってしまうのも事実だ。だが、母からは意外な言葉が返ってきた。

 「いいえ、あなたには寮のある学校に入学してもらいます。」

 「は!!??」蛍は目を丸くして驚いた。

 「いいじゃない、高校入学と共に学校変えられて新しい生活を送れて良かったじゃない。」

 「そんな!!それだったら私一人暮らしする!!」それを言った途端、父が顔を変えた。

 「だめだだめだ!!最近物騒なんだよ!!その学校の寮は寮長の人が色々世話もしてくれて保護者代わりになってくれるから安心なんだよ!!」父が反対した。

 「その寮長さんが若くて美人だったからそこに娘を入れたいんでしょ?」母が父をしらけた顔で見つめて言った。図星を付かれて父は顔を赤くした。

 「学校の名前は青嵐高校、私立高校よ。それなりのあんたでも全然いけるから頑張んなさいね。受験の手続きはもう済ませてあるから。」そう言うと、母は娘の言葉にもう聞く耳を持ってはくれなかった。


*

 12月になると本格的に受験が始まり、試験、面接を行って蛍はめでたく青嵐高校に合格した。1月中旬になると、4月からの入寮手続きを行ったり、蛍の家では海外転勤の為の引っ越し準備をしていた。

 「3月17日に入学説明会と寮の説明会があるみたいだから、蛍、その日は空けててね。」そして、3月17日になり、蛍は母と一緒に学校説明会、4月からお世話になる寮の見学と寮長に挨拶をしに来た。

 寮長の女性は伊藤彩芽。30歳の青嵐高校のOBだった。

 「寮長の伊藤彩芽です。蛍ちゃん、4月からよろしくね。」彩芽が蛍ににっこり笑って挨拶してくれた。優しそうで美人な寮長さんだった。蛍は少し、新しい学校生活が楽しみになってきた。その他、赤いネクタイに青いブレザーを着た中学生が4人と、その保護者が来ていた。蛍の母は保護者に挨拶してきた。

 「うちの娘もこの寮に入寮いたしますので、どうぞ、宜しくお願いいたします。」

 「いや、こちらこそ。うちのバカ息子がお宅のお嬢さんにご迷惑をおかけいたすかと思いますが、仲良くしてやってください。」そう言って、少年の父親と母親が頭を下げた。他にも、男子3人、女子2人が入寮が決まったようだ。蛍はあたりを見渡すと、女子はパーマがかかって赤いネクタイに青いブレザーの男の子と同じ制服でもう一人は腰まであるロングヘアでリボンと茶色いブレザーを着た女の子だった。男の子はもう一人青色の学ランを着て茶髪にパーマがかかっている男の子が一人いた。男の子は4人、女の子は3人で蛍を合わせて7人の寮生が入学することになった。

 ここで蛍が感じたのは、派手な子が多いなと思った。さっき挨拶した子は、髪の毛が茶髪で所々に金髪の髪の毛が見え隠れしているのに蛍は気づいた。あとの2人は黒髪だが、1人はやんちゃそうに見え、もう一人の男の子だけそこまで派手に感じなかった事だ。うまくやっていけるか多少不安はあった。これが翔二と蛍の出会いだ。

*

 寮長の彩芽が最初に案内をしてくれたのは、食堂だった。7人の寮生じゃ広すぎるくらいだった。

 「男子と女子で朝食、夕飯をこちらで集まって食べてもらいます。それから、お風呂ですが、食堂を出て右に曲がると男湯と女湯で分かれていますので、夕食後から3時間以内ならご自由に入ってくださいね。」そう言われて続いて案内されたのはお風呂だった。食事は全てこの寮長さんが作ってくれるようだ。

 続いて案内されたのは各部屋だった。玄関に入った目の前に階段があり、左右に分かれている。右側の階段に登れば男子部屋、左側の階段に登れば女子部屋に繋がっているようだ。

 「部屋は入学式の日に部屋割りが発表されます。」部屋を見させてもらうとざっと男子と女子部屋で10部屋ずつあるようだった。

 「どの部屋がいいか決められないの?」黒髪のやんちゃそうな男の子が聞いてきた。

 「ごめんなさいね、毎回私たちで勝手に決めさせてもらってるのよ。だけど、どの部屋も同じ広さでベッドもあるからそんなに他の部屋と違うってことはないのよ。」彩芽が言った。

 そして一通りの説明が終わり、また食堂に戻り、入寮の時は入学式が終わってからと荷物はあらかじめ寮に入学式の日に届くように準備をしておく等の説明をされた時に、携帯のバイブ音が寮に鳴り響いた。

 「失礼。」立ち上がって食堂を出たのは翔二の父、海堂慎太郎だった。

 「ごめんなさい、この子の父はその、警察官でして・・・常に携帯の電源を入れておかないといけないんです。」フォローするように翔二の母、海堂翔子が答えた。

 「いいんですよ、警察官ってかっこいいですね!!」彩芽が言った。

 「あの人・・・。」茶髪でパーマがかかっている男の子が慎太郎を見てつぶやいた。

 「翔パパの事知ってんのか?」黒髪のやんちゃそうな男の子が茶髪でパーマがかかっている男の子に声をかけた。

 「あ、俺、安藤拓也!!隣にいる茶髪アンド金髪メッシュの男の友達!!こいつは海堂翔二でさっき出てったのは翔二のパパだよ!!俺たちは翔パパって呼んでるんだ!!」そう言って拓也は自己紹介した。

 「俺の親父を翔パパなんて言ってるのはお前だけだろ・・・。」呆れたように翔二が声をかけた。

 「あ、いや・・・、かっこいいなぁって思って・・・かっこいいお父さんだね翔パパ。

 俺、杉山連司。西宮坂中出身だよ。」連司が自己紹介した。

 「翔とー、俺とー、優奈とー、カズが白浜中出身なんだ!!あ、連司の左隣にいるのがカズだよ!!で、後ろにいるパーマ女が優奈!!」

 「私たちの分までありがとよ、タク。」優奈が呆れたように拓也に言った。

 「あ、僕が鬼灯和也です。宜しく。」黒髪でメガネをかけた男の子が答えた。

 「女子はーー?おい、優奈、ちゃんと自己紹介したか?」拓也が後ろを向いて聞いてきた。

 「まだよ、てかタク!!まだ説明途中じゃん!!」優奈が拓也に前を向くよう言った。

 「そうよ、タク!!前向いて!!」

 「あはは、ごめんごめん彩芽ちゃん!!」そう言って拓也は前を向いた。

 「あれ?タク、この寮長さんと知り合いなの?」連司が聞いた。

 「うん・・、ちょっとね。ね!彩芽ちゃん!!」

 「はいはい、いいから前を向いて。」彩芽もクスクス笑いながら答えた。その後、寮の説明と共に入学式の説明などが終わってやっと寮の説明会が終わった。

*

 説明会が終わり、寮の玄関先で両親同士が頭を下げたりして話していた頃、子供たちは新しい顔をちらちら見合っていた。

 「ねぇ、二人はどこ中?隣の子は制服見る限り、M女じゃない?」連司が蛍ともう一人の女子に声をかけた。

 「え・・・、えと・・・。」蛍は小学校までしか共学で中学からは女子校だったから何と答えてよいか、声を詰まらせて下を向いてしまった。しまった、感じ悪いかもと思った途端、隣の女の子が口を開いた。

 「私も女子中学校出身よ。学校は違うけど、西女子中学校出身。」

 「俺、安藤拓也、こいつが杉山連司!!君たちは?」拓也がずいっと間に入ってきて女子2人に自己紹介した。

 「私は神崎美由。」そう言ってロングヘアの女子が答えた。

 「君は?」連司が蛍に声かけた。

 「ひ、土方蛍です・・・。」男子と話す面識があまりない蛍は緊張して、小さな声で言ったが、連司と拓也には聞こえたようだ。

 「蛍ちゃん?宜しくね。」連司がにっこり笑って言った。

 「俺も宜しくな、蛍!!」拓也もにっこりと満面の笑顔で答えた。

 その後、拓也が翔二と和也、そして優奈に声をかけて寮生全員が集まった状態になり7人で寮の玄関前で話していた。(その頃、まだ親同士で話し込んでいたからという理由もあった。)そんな時、先程の説明会途中で携帯が鳴り、食堂を出て行った翔二の父、慎太郎が戻ってきた。

 「翔子。」慎太郎が翔二の母に声をかけた。

 「川崎市内で女子中学生の遺体が見つかった。もう千田君が来てくれてるから俺はそのまま現場へ行く。」

 「分かりました。お気をつけて。」翔子が話した後、翔二が間に割って入った。

 「親父!!事件か!?」ずいっと入ってきた翔二を慎太郎は手で制した。

 「お前は、お友達と寄り道しないでまっすぐ帰りなさい。」そう言って答えずに父は行ってしまった。

*

 「じゃあ、また入学式にな!!」説明会が終わり、寮生たちはそれぞれの保護者達と実家へと帰って行った。翔二の父、慎太郎は妻と息子と分かれて部下の車に乗り、遺体が見つかったという現場へと向かって行った。

 「いい子達っぽくってよかったわね。」蛍の母が蛍に声をかけた。最初はちょっと派手な子たちばかりでびっくりしたけど話せば普通に話してくれて蛍は嬉しかったようだ。しかもまさかお父さんが神奈川県警の捜査一課だという息子さんと同じ寮になるとも思っていなかった。蛍は昔から小説が大好きで中でもミステリー小説がとても好きだった。実際の刑事さんの息子ならお父さんから本当の現場の話を聞いてたりするのかなと思った。口数が少ない感じの男の子だったイメージがあった翔二といつか話をしてみたいなと蛍は思った。

 実家に帰ってきたのが16時過ぎだった。母に言われて蛍はさきに風呂に入った。風呂から上がり、何気なくテレビをつけたら、ニュースが流れていた。神奈川県の川崎市内で女子中学生の遺体が発見されたようだ。女の子は春休みの塾の講習に行ったきり行方が分からなくなっていてずっと捜索されていたようだった。

 女の子は腹部を十か所以上刺され中から内臓などが飛び出て、全裸の状態で発見されたらしい。しかも悲しいことに誰かに強姦された後もあったとのことだ。殺害されたのは中学1年生の鈴野真弓。ツインテールの黒髪の女の子だった。

 「怖いわねぇ・・・女の子を持つと変な男に強姦されないかとかそういうのが心配なのよね。あんたも気をつけなさいよ。寮の男の子たちいい子っぽいし、学校の帰りとか一緒に帰ってもらいなさいね。」母が人参を切りながら蛍に声をかけた。

 「手伝うよ・・・。」蛍は台所に行き、母の手伝いをした。こんな事件神奈川県の川崎市じゃなかったらこんなに不安にならなかった。蛍も早く学校で友達を作って出来るだけ一人にならないようにしようと思った。

*

 4月5日の入学式の朝に、蛍の父と母はアメリカに旅立った。蛍も最後に家を出て、鍵をかけ、学校へと向かった。荷物は前日に寮へと送っていた。マンションを出た後に蛍はマンションを見上げた。

 「しばらく、この家とはお別れか・・・。」何度も小学校の頃からアメリカ、イギリスへ転勤し、日本に戻るときは必ずこのマイホームへ戻ってきていた。中学の時は3年間M女子学園だったのでこの家に過ごしたが、通算して中学3年間と生まれてから幼稚園までの5年間を足して約8年間しかこの家に住んだ記憶がない。

 「行ってきます・・・。」父と母がまたアメリカでの仕事を終えたら、このマイホームに戻るだろうと思い、同じことが起きれば蛍は必ずさようならではなく行ってきますと家に向かって言っていた。

 電車に乗り、小田急線をずっと乗って行き30分もすれば学校のある駅へとついた。寮長にはそのまま実家から学校に行くように指示が出ている。入試と入学説明会の2回位しか行ったことがない学校だったが、駅を降りると沢山の新入生が学校へと向かっていた為、何とか学校への道程を間違える事はなかった。

 駅からまっすぐ歩いて10分もしないうちにこの間の寮にもうたどり着き、そこをまた左に沿ってまっすぐ歩くと学校が見えてきた。寮から学校まで30分もかからなかったのが少しほっとした。最近、変な事件のニュースを見たばかりだから寮から学校が近いことが何よりも嬉しかった。

 学校の校門近くに見覚えのある男女の姿が見えた。同じ寮の生徒たちだとすぐに蛍は思った。中に寮生全員はいないが、男子は寮生4人とこの間寮のドアの前で少し話した茶髪でパーマがかかっている女の子と見慣れないショートカットの女子が前を並んで歩いていた。その子たちの真ん中に歩いている背の高い男の子がこの間父親が刑事だっていう海堂翔二が歩いていた。翔二の横顔を見たとき蛍は少しドキッとした。

 この間は全然話さなくって気づかなかったが、翔二は相当イケメンだと思った。もちろん一緒にいる拓也も連司も和也もかっこいいと思ったが、その中で翔二が一番かっこよく蛍には見えた。

 ふと気づいてくれたのは拓也だった。

 「蛍!!おっはよーー!」拓也が手を振って蛍に挨拶すると他の寮生たちが気づいた。

 「おはよう、土方さん。」メガネ男子の和也が続いて挨拶した。

 「おはよー、蛍ちゃん。」続いて連司。

 「・・・おはよう。」今度は続いて優奈が蛍に挨拶した。

 「お、おはよう!!きょ、今日からよろしくお願いします。」蛍は緊張して頭を下げた。そんな蛍の姿に寮生たちは笑った。

 「俺たち先輩じゃないから!」拓也が突っ込むように蛍に言った。

 校舎の前の掲示板にクラス割りが発表されていた。クラス割りを見ると、寮生全員が同じ1年7組だった。

 「良かったね、みんな一緒だ!!彩芽ちゃんが学校に言ってくれたのかな?」連司がおどけたように言った。

 寮生たちで教室に向かおうとすると、翔二が一度立ち止まった。翔二の右手には今朝の新聞を持っていて、翔二はそれを拓也に預けた。

 「先行ってろ。」そう言って翔二はそのまま教室には向かわず、校舎を出て行ってしまった。

 「どうしたんだろう?」連司が言った。

 「さぁ?でも翔は入学式ぐらいはさぼらない奴だからきっとくるよ。僕たちは先に教室に行ってよう。」和也に言われて寮生たちは教室へと向かった。蛍は、翔二がどこに行ったのか、気になって仕方なかった。

*

 翔二が向かった先は体育館の裏だった。3年生の先輩たちが早くも新入生をシメている様だった。呆れたように翔二は新入生をかばうように先輩の前に立ちはだかった。

 「何だお前?」

 「先輩、急に新入生体育館裏に呼び出して何してんすか?」

 「何だお前?邪魔すんなよ!!」明らかに下っ端っぽい3年生が翔二に罵声を浴びせたが、翔二はひるまない。

 「あのな・・・。」一番ボスっぽい3年が翔二に説明をしようとしたその時、翔二がかばっている1年生が逃げ出した。

 「待てよコラ!!」荒っぽい3年生が1年生に呼びかけたが、ボスっぽい3年生が制止した。

 「でも、牧田!!」

 「いい、こいつが逃がしたから。話せばお前も分かるよな?」牧田と言われた3年生はその1年生を逃がし、翔二の目をじっと見た。

 「何でしょう?カツアゲとか?」翔二が言うと、他の先輩が翔二の胸倉をつかもうとしたが、牧田はそれも止めた。

 「違うんだ、あの彼な・・・。万引き犯だ・・・。」牧田の告白に翔二は目を点にした。

 「・・・・は?」

 「だから・・、さっき俺らがコンビニであいつが万引きしたのを見て、それを問い詰めていたんだ。」

 「・・・・・・・・。」1分間の沈黙が流れた。

 「それ早く言ってよ!!」翔二が叫んだ。

 「お前が逃がしたんだろうが!!」他の3年生が翔二に突っ込んだ。神奈川県警、捜査一課の息子、万引き犯を見抜けず、一生の不覚と思ったに違いない・・・。これが、牧田と翔二の出会いだった。

 その後、翔二は背中を丸めてトボトボと歩いて教室に入ってきた。教室に入ってきた翔二の様子に拓也たちが話を聞くとすぐに大爆笑の嵐に包まれた。

 「あははははは!!翔、それはさすがに恥ずいぞ!!」拓也が腹を抱えて大笑いし、後ろにいた優奈や和也、連司までも大笑いしていた。

 「るせーー!!」翔二は顔を耳まで真っ赤にしてぷいっとそっぽを向いた。すると、教室に同じ寮に住むもう一人の生徒、神崎美由が入ってきた。

 「あ、美由―!!同じクラスだったんだ!!宜しくねーー!!」拓也が美由の姿を見て大きく手を振った。美由は手を小さく振り返して自分の席を確認し座った。

 その後、教室のドアがガラリと開き、入ってきたのは茶髪に顎鬚が生えていて、黒いYシャツに紺色のスーツを着ている男が現れた。

 「おい、このまま出席番号順に並んで体育館へ移動しろ。俺の手を煩わすんじゃねぇぞとっとと並べ。」どうやらこの男が担任の教師のようだ。生徒たちはすぐに並び、体育館へ移動した。

 体育館で入学式が行われ、黒髪と白髪の混じった髪の男性が校長先生で彼の挨拶から始まり、その後、どこにでもいそうな嫌味な顔をした禿親父が出てきて、新入生に激励を飛ばした。どうやらこの禿親父が教頭先生の様だった。

 長かった入学式が終わり、新入生が教室に戻ったら、早速自己紹介が始まった。

 「あー、俺はお前らの担任教師の中島進一だ。担当科目は数学だ。俺は面倒臭い事が大嫌いだからお前ら俺の手を煩わすんじゃねぇぞ。次、出席番号一番から5分以内で自己紹介な。名前と出身中学校だけでいいから。」中島の自己紹介を聞いて何て適当な教師なんだと生徒全員が思った。出席番号一番は荒川雅紀、続いて安藤拓也だった。

 「荒川雅紀、生田東中出身。」1番の男の子、荒川雅紀はそう言ってすぐに席に座った。中島は特に気にも留めず、「はい、次」と言って続いて拓也になった。

 「安藤拓也、白浜中出身!!趣味はゲームで特技はバスケ!!宜しくー!!」拓也が元気よく挨拶して、まわりは拓也の元気さにクスクス笑いながら拓也の自己紹介を聞いていた。続いて、石川優奈が自己紹介してそのままあいうえお順にやっていって、翔二の番になった。

 「はい、次。」中島が言って翔二が立ち上がると、周りの女子がざわつきだした。翔二の顔を見て、優奈と美由以外、女子全員が顔を赤らめたのだ。翔二の顔の良さは父親と母親譲り。意外に茶髪で金髪のメッシュが似合っていた。しかも学ランの下に着ている何年代の服装だと思わせるような赤いYシャツまでもが引き立たせていた。

 「海堂翔二、タクと優奈と同じ白浜中出身、小学校から剣道と空手やってた。両方とも3段持ってるけど、部活やる気はないです。」そう言って席に座った。

 「どっちもあるぞ、部活。入らねぇのか?」中島が聞いた。

 「ただ何かしら必要だと思って始めただけだし、3段持ってりゃもういいかなって思うからいい。」

 「お前、どっちも3段持ってりゃ絶対空手部と剣道部から追いかけまわされるぞ、覚悟しとけよ。はい、次。」中島はなんやら面白そうな顔をして翔二に忠告した。ふと、翔二は前の方を見ると優奈が笑いながら手を振っていた。翔二はにっと笑って返した。

 続いて、神崎美由、それから杉山連司とどんどんあいうえお順に続き、次は蛍の番になった。

 「土方蛍です。M女子学園中等部出身です。宜しくお願いいたします。」蛍の出身中学を聞いて周りがまたざわつきだした。

 「何であんな頭のいい学校から?あそこ高等部あったよね?」とか言いながら周りは蛍をじろじろ見た。

 「おい、お前ら!!静かにしろ!!次!!」中島が周りを制して次は和也の番。このまままたあいうえお順に続いて自己紹介は終わった。蛍はまだざわついていた中、聞こえた声が頭から離れなかった。頭のいい学校から何で?とか、俺らをバカにするために来たんじゃね?とか心無い言葉が聞こえてしまい、蛍は自己紹介が終わって、少しの10分休みになっても他の人に話しかけるチャンスを失ってしまった。

 10分休みが終わって、教科書が配られ、学校初日が終了した。

 「おい、海堂。お前初日から3年ともめてんじゃねぇ。」中島から教科書でぽかんと頭を叩かれた。

 「あ、あれは・・・!!」翔二は顔を真っ赤にして言い訳をしようとしたが、中島はそのまますたすたと職員室へ行ってしまった。翔二の事情を知っている拓也たちは大笑いしていた。

 「帰ろうよ!!彩芽ちゃんが今日の夕飯オムライスだって!!」連司がスマホを片手に持ってラインを見せた。教科書は全員、机とロッカーにしまい、鞄を持って教室を出る準備をした。翔二は、後ろを振り向き、ある場所まで歩いて行った。

 「行こうぜ。」蛍のもとへと翔二が声をかけた。蛍は驚いて顔を上げた。翔二は頬をぽりぽり掻きながら蛍を見下ろしていた。蛍は周りを見ると、拓也と連司が蛍においでおいでと手を振っていた。優奈も美由に声をかけていた。

 「あ、ありがとう・・・。」蛍はほっとして、翔二たちと一緒に教室を出て、寮へと帰って行った。

 校門まで行き出る直前、びゅんっと一人物凄い勢いで学校を出て行った生徒と遭遇した。

 「はぇぇ!!」拓也が生徒を見て目を見開いて驚いた顔をした。

 「何をそんなに急いでいるんだろうね?」連司も急いで出て行った生徒をまじまじと見た。

 「・・・・?」翔二もその少年が走っているその後ろ姿に何かしら違和感を覚えたのか、じっと見ていた。

*

 神奈川県警、捜査一課では捜査会議が行われていた。

 「被害者は鈴野真弓さん。中学校1年生で今年の4月から2年生に進級予定でした。

 3月10日に塾の春講習に行ったっきり、行方が分からず捜索願が出されていました。そして、3月17日、腹部を10数か所刺された状態で遺体となって発見されました。彼女は塾の授業中はまじめに授業を受けていたようです。ですので、行方不明になったのは塾が終わった19時以降となるかと思われます。」一人の捜査員が説明をした。

 「次、海堂班。」呼ばれて立ち上がったのは神奈川県警捜査一課警部、海堂慎太郎。

 「遺体を司法解剖した結果、死因は腹部を十数か所刺されたことによる失血死かと思われます。また、科捜研によりますと、彼女には強姦された形跡がありました。複数の男の精子がガイ者の体内から検出されました。」慎太郎の説明を聞くと、刑事部長の伊佐美が顔をしかめた。

 「ガイ者は何者かにさらわれた後、強姦され、そして腹部を十数か所刺され殺害され、川崎市の森林にて遺棄されたとみられる。必ずガイ者の無念を晴らそう!!」伊佐美が声をかけ、捜査員全員が「はい!!」と返事をした。

 だが、この殺人事件が序章にしか過ぎないことは誰にも予想はしていなかった。


    第2章に続く。


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