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海堂翔二の事件ノート~神奈川県警捜査一課の息子~  作者: ぽち
第三章 神隠し殺人事件
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第19章 共通点

 担当している事件の被害者と接点のあった容疑者二人、キャバクラ嬢のアゲハこと、寺本真実と、麗奈こと、中野瞳から事情聴取を取り、本部に戻って捜査会議用に取りまとめていた。取りまとめが終わった頃、休憩室に行き、丹波は煙草を一服、慎太郎は缶コーヒーを飲みに一服している時だった。自分の携帯のバイブ音が響いた為、慎太郎は携帯を取り出す。

 着信は、息子の翔二だ。また何か聞き出そうとする電話かと思い、慎太郎は嫌な顔をした。

 「で、出ないんですか?」丹波が聞いた。

 「あげる。」すっと、慎太郎は丹波へ携帯を渡す。

 「だ、ダメですよ警部!!」差し出された携帯を丹波は慎太郎に戻す。ふぅっと大きなため息をつきながら慎太郎は電話に出た。

 「おかけになった番号は現在電波の届かない場所にいるか、電源が入っていない為かかりません・・・。」居留守を使おうと自身の声である事にもかかわらず慎太郎が喋った。

 丹波は先程の翔二とのやり取りといい、翔二が絡むと少しお茶目な慎太郎の姿を見る事が出来るので結構楽しんでいるのだが・・・。慎太郎の顔をそのまま見ているとすぐに慎太郎が目の色を変えた事に気づいた。そして・・・。

 「え?何だって?もう一回言え。あ?子供のバラバラ死体!?お前今どこにいるんだ!?」慎太郎の言葉に丹波以外の刑事も反応をして、慎太郎の方を向いた。そばには刑事部長の伊佐美もいた。

 「あぁ、分かった。すぐに俺も含めて捜査本部がくるから、今そこにいる人間全員帰すな!!死体にも誰にも近づかせるな!!

 あぁ、そうだな、死体はそのレジャーシートで他の人間に見せないように被せておけ!!すぐ行くからな!!待ってろ!!」そう言って慎太郎は電話を切った。そして、すぐに上司である伊佐美と上村の元へ報告に行った。

 「伊佐美刑事部長、上村管理官、たった今息子から通報がありまして・・・、伊勢原市内のキャンプ場で子供のバラバラ死体が発見されたとの事です!!

 すぐに、俺達含め捜査本部を向かわせてもらっても宜しいでしょうか!?今回の神奈川区内でいなくなっている子供の一人かもしれません!!それに、木下保もバラバラ死体でした・・・もしかしたら、同一犯の犯行かもしれません・・・!!」

 「何で大の大人を殺した人間が今度は子供を殺すんだ!?」上村が食らいつくように言った。

 (知るかよ!!何であんたはそうやってこっちがまだ見てもねぇ死体の件に毎回訳の分からねぇ質問してくるんだよ!!)と、丹波は上村を睨みつけた。

 「分かりません・・・私はただ単純に今回息子が見つけた子供の死体が木下保と同じバラバラ死体だから、もしかしたらの話として同一犯かと思っただけです。

 本当に同一犯かどうかは、遺体を実際に見ない限り私も何も言えませんが・・・。」と、慎太郎。

 「そうだね、とりあえず今日の木下保の捜査会議は一回停止して今は通報があったキャンプ場へ行こう!!本当に同一犯だったら、神奈川署と伊勢原署との合同捜査になるからね!!行ってきなさい!!」と、伊佐美。

 「はい!!行ってきます!!行こう、丹波君、千田君!!」

 「はい!!」慎太郎、丹波、千田が会議室を出て行った。伊佐美はすぐに伊勢原署の所轄へ連絡をしてくれた。

 一方、死体が発見されたキャンプ場では騒然となっていた。しかも、1組の夫婦が子供がいないと大騒ぎをして、その死体を見せてほしいとせがんできた。

 「ま、待って!!この現場を、この死体を勝手に動かしたり出来ねぇよ!親父たちが来るまで待って!!」翔二が慌てて夫婦を説得した。母親が泣き崩れそうになった頃、奥から小さな子供がこっちに近づいてきた。

 両親が振り向くと、どうやらいなくなった子供らしい。翔二たちは子供が見つかってほっとしたが、それ以外、子供は全員いると言うのだ。

 (え・・・じゃあ・・・この子供は・・・、どこの子供だよ・・・!?キャンプでいなくなった子供じゃないとすると・・・。)そう考えていると、伊勢原署の所轄の刑事が来た。

 「ありがとうね、怖かっただろう?君たちも下がってて。」言われて翔二は下がった。死体発見現場は ビニールシートで覆われ、キープアウトのテープが貼られて自分達がこれ以上近づけられないようになってしまった。

それから数分後に父、慎太郎達も到着した。

*

 慎太郎がキープアウトのテープの前で待機している警察官に警察手帳を見せて、現場へ入ろうとしたのを翔二が止めた。

 「お、親父・・・ここのキャンプ場に来ている子供じゃないみたいなんだ・・・。キャンプ場に来ている家族はみんな子供がちゃんといるって。」

 「そうか、分かった。」慎太郎がまた、中に入ろうとすると、翔二がまた止めた。

 「何だ?」慎太郎が振り返る。

 「って・・・事は・・・どこの子供だよ?今、行方不明になっている神奈川区の・・・?」一応、翔二は色んなニュースを見ているのだ。

 「見てみなきゃ分からん。ちょっと放せ。入れない。」そう言われたのと同時に、父に軽くデコピンされた。

 足跡をつけない為のビニールの靴を履き、慎太郎達は現場へ入って行った。

 翔二は久々に遺体を見たものだから、少し動揺していたと自分に言い聞かせていた。父達が来る前にもっと遺体をよく見れば良かったと反省をしていた。

 (・・・俺・・・親父たちが来る前に現場を荒らしちゃいけないって思って・・・何であんなに必死になっていたんだ?

 親父たちが来たら、現場に入れてもらえないの分かり切っていたのに・・・。・・・失敗した。)

 慎太郎達は現場に入り、シートが被せられている前でしゃがみ、一度手を合わせてからシートをめくる。めくったシートの中にはバラバラにされた小学生くらいの少年の死体があった。3人とも、顔をしかめた。

 「酷ぇ事しやがる・・・!!全部バラバラだ・・・!!」丹波が言った。ふと、何かを思い出したように歯をギリっと食いしばった。

 「マルガイの身元は?」慎太郎が鬼束に聞いた。

 「この少年はまだ身元が特定されておりません。・・・が、今神奈川区内で子供がいなくなっている件でいなくなった子供達のデータをあたっています。少々お待ちを・・・。

 ・・・あ!!」鬼束がすぐにタブレットを持ってきた。

 「この少年はきっとこちらです!!」鬼束がタブレットを持ってきて慎太郎に見せた。

 「岸田隼人・・・。小学校3年生・・・。

 20〇△年、4月12日に友達と遊びに行ったきり、行方が分からなくなる・・・。」慎太郎が読み上げた。

 (10人いなくなった子供達のうちの一人か・・・!!)慎太郎は顔をしかめ、悔しそうな顔をした。生きて見つけてあげられなかった事を悔いた。

 遺体は腐敗が進んでいた。特にここ最近、夏のように異常な暑さが増えていた関東地方では遺体の腐敗の進み具合が早かったのではないかと鬼束が言った。

 さらに鬼束は遺体の口の唾液からDNAを採取。バラバラにされた体からもDNAを調べている。身体と首のDNA判定の結果を見た鬼束は顔をしかめた。

 「どうした!?鬼さん!!」鬼束の側で現場の周りを調べていた丹波が鬼束の表情に気づき、声をかけた。

 「丹波刑事、この少年・・・首と体のDNAが一致しません・・・。」鬼束の報告に慎太郎や丹波や千田は驚いた。

 「どういう事?」千田が聞いた。

 「この少年・・・首はいなくなった少年のデータをもとに岸田隼人君で間違いはございません。ですが、体から下全てどのDNAもバラバラです。

 腕、胴体、足まで全部別の子供のDNAです。もっとよく調べないとどの子のDNAか分かりませんが・・・。」

 「・・・と、言う事は・・・隼人君以外に殺された子供がどこかにいるという事だね?」慎太郎が聞いた。その質問に鬼束は首を縦に振る以外回答が出来なかった。

 「そ、そんな事って・・・!!」丹波が体を怒りで震わせた。犯人に対して激しい怒りが湧いてきた。小学3年生と言ったら、8歳か9歳だろう・・・。たった8、9年しか生きていない子供に何故、こんな惨い事が出来るのだ、と。

 それは、慎太郎も同じ気持ちでいた。そして、慎太郎は他にも目をつけているところがある。

 「鬼束君・・・木下保の遺体の斬られ方とこの子の体の斬られ方、調べてくれないか?」

 「警部・・・それは、この子を殺した人間は木下保を殺害した人間と同一犯の犯行とお考えで宜しいでしょうか?」と、鬼束。

 「確証はない。木下は川崎市で遺体が発見され、この子は横浜市からいなくなり、この伊勢原で見つかったし。だが・・・偶然にしては・・・という考えもある。確かに死体をバラバラにすればゴミ袋などに入れれば持ち運びは可能だから。」

 周辺を調べても凶器らしきものも見つからず、岸田隼人はどこからこのキャンプ場の川まで連れて来られたのか見当もつかない。

 親子連れでしかも車でこのキャンプ場に来ている家族は沢山いる。しかも、神奈川からだけではなく、わざわざ他の県の東京都や茨城などから来ているという家族もいたのだ。

 岸田隼人の写真はもともと神奈川署から貰っていたので、キャンプに来ていた家族たちに岸田隼人を知っているか聞いたが、全員が知らない子だ、もしくはニュースで見たという回答しか得られなかった。

翔二も遺体の第一発見者の為、父達から事情聴取を受けた。周りがざわつき始めたのをきっかけに川を見たら、子供が浮いていたので溺れてしまっているのかと思ったという。だが、川に入ってよく見ると、川の水が少し、血で滲んでいるように見えた。遺体の体を引き上げるのと同時にもう体がバラバラになっているのが分かり、すぐに引き上げ、寮から持ってきた予備のレジャーシートを彩芽から借りてそれをかぶせて父に電話したとの事。

 「そうか、分かった。」父が言った。殺人事件が起こってしまった為、このキャンプ場ではもうキャンプをする事が出来なくなった。

 翔二達は早く帰され、他の客たちも帰る事になった。キャンプ場を去る頃には父を始めとする警察官だけになっていた。

 「すみません、伊藤さん。うちの息子を宜しくお願い致します。」

 「はい。じゃあ、みんな帰りましょう。失礼します。」彩芽が慎太郎達に頭を下げる。慎太郎もそれに頭を下げて応える。

 「翔二、ちゃんと伊藤さんの言う事、よく聞けよ。」

 「わぁってるよ!!それより後で事件で分かった事、詳しくライン送れよな!!」

 「何でだよ?ぜってぇやだ。」

 またまた親子喧嘩的な事が起こる。慎太郎は翔二に早く帰れとしっしっと手で払っていた。

 「刑事さん達大変だね。こんな残酷な事件ばっかなの?」潤が丹波に声をかけた。

 「・・・まぁな。だけど、これが俺達の仕事だから・・・。こいつらの事、宜しくな。」と、丹波。

 「うん、お兄さんも頑張ってね。」と、旬。

 翔二にはくそ親父と言われてしまうので、お兄さんと呼ばれたのは物凄く久しぶりだった。

 「お、おう・・・。」とりあえず、丹波は返事をした。

*

 「・・・せっかくのキャンプが台無しだね・・・。」連司が車の中でぐったりしながら言った。少し、顔色が悪かった。

 「・・・仕方ねぇよ、人一人どころかあの胴体に5人分の子供のDNAが検証されたんだ。つまり、首が岸田隼人、その他5人分の胴体はまだ身元が確認されていないどこかの子供の胴体なんだって。」と、翔二が言った。

 「そういえば、今横浜の神奈川区内で子供がえ~っと・・・10人だっけ?急に行方不明になったんだってね?神隠しだとかニュースで騒がれてた。

 その関係の子たちかな?刑事さん達が話しているのよく聞き取れなかったけど。」と、旬。

 「そうみたいだよ。さっきさりげなく鬼束さんや千田さんに聞いたら、間違いないって。

 だから、さっき言った通り首は岸田隼人でその他の胴体は別の子供だ。」と、翔二。

 「・・・可哀想・・・。お父さんやお母さんの元へ無言で帰宅か・・・。しかも岸田隼人君の胴体、それからバラバラで発見された他の子たちの首やその他の胴体も含めてまだ見つかってないんだよね?」と、運転をしながら潤が言った。

 「あぁ・・・。それにしても、この犯人、小学生の子供を殺害しやがって許せねぇよ!!絶対に俺が捕まえる!!」と、翔二が言った。

 「期待してるぞ、刑事の息子!!」と、旬。

 「でも、翔パパの邪魔にしかならないだろうねぇ~。」と、連司が笑いながら言った。むっとした翔二がこんにゃろーと言って連司の首を絞めて、助手席にいる旬がやめなさいと声をかけた。

 ふと、潤が車のミラーを見ると、拓也が下を向いてじっと真っ暗になっている携帯を見ていた。

 「タク?大丈夫?」潤が声をかけた。

 「・・・・・。」返事はない。翔二が拓也の目の前で手を振って、ようやく拓也が気づいた。

 「え?」顔を上げて拓也が驚いた顔をした。

 「タク?どうしたの?さっき死体を見たから気分悪いの?」拓也の隣にいた和也が聞いた。

 「あ・・・ううん・・。大丈夫。」拓也が答えた。朝の芹沢の一件から拓也は元気がなかった。

 「おい、芹沢の馬鹿の件ならもう気にすんじゃねぇぞ!!あと4日ゴールデンウィークはあるんだ!!楽しむぞ!!俺は事件を追うけどな!!」と、翔二。

 「何それ。」拓也が笑った。その笑顔を見て、潤は少しほっとした顔をした。拓也は笑いながら目線を下にやり、携帯を見た。

 また、“みんなのママ”が何かを投稿したようで、“みんなのママさんが近状を投稿しました”と出て来た。

 (・・・後で見よう。)みんなのママの投稿が拓也にとって他のママの投稿より一番楽しみになっていた。

 寮に戻る前にスーパーに寄ってお弁当などを買った。さすがに全員クタクタになった。

 翔二はハンバーグ弁当を選び、連司はステーキ弁当、和也はのり弁当・・・など、夕飯は弁当にした。拓也はカツ丼を選択した。

 「あんたたちさぁ、昼間あんな死体見たのによく肉弁当食えるよね。」優奈が言った。

 「優奈たちもお弁当選んで?」と、彩芽。だが、優奈たち女子は苦笑した。

 「さすがに食欲ないわ・・・。あんな血まみれのバラバラ死体が超近くで発見されてさ・・・。」と、優奈。

 「バラバラ死体見たのは俺だけだぜ?お前らに見えないように素早くレジャーシート被せたじゃねぇか。」と、翔二。

 「いや、そういう問題じゃない。」と、美由が言った。蛍も隣で顔を真っ青にしていた。

 「まぁ、確かにそうよね・・・?でもお昼もまともに食べれなかったしいいのよ?軽く食べれそうな物、選びなさい。」と彩芽が諭した。

 「まぁ・・・じゃあ・・・。」と言って女子3人はサンドイッチなど軽食物を選んだ。

 「春那、来れなくて良かったね・・・。あの子、ホラーとかグロイのダメなのよ。」と、優奈が言った。春那はその日、バイトがあるとの事でキャンプには行けなかったのだ。

 そして弁当を選んだ後、車に再び乗り、寮への道を真っ直ぐ走って帰った。

 「潤ちゃん、旬ちゃんたちもありがとね。

 今日、泊っていきなさい。疲れたでしょう?」彩芽が言うと、拓也が賛成ーと言った。

 「いいの?ありがとう・・・さすがに疲れちった・・・。」潤と旬がそう言って、寮生たちと一緒に寮へと入って行った。

 翔二は寮に帰るたびにすぐにテレビをつけたら、やっぱり今日の事件がもうニュースで報道されていた。

 「可哀想ね・・・。」彩芽が言った。翔二はすぐにノートをとった。

 「何してんの?」潤が翔二のノートを覗き見した。

 「う・・・、な、何でもねぇよ・・・。」翔二は顔を真っ赤にした。

 「ははん、このノートを自分で取って、事件解決しようってわけか。考えるねぇ海堂刑事?」旬が言った。翔二は顔を赤くする。

 「そうかそうか、刑事になる為の勉強ってわけか。偉いね翔は。」と、潤。

 「あ、あんまり見ないでくれよ・・・。」そそくさと翔二はノートを持って逃げ回った。ふと、拓也を見ると拓也は携帯に釘付けだった。

 「タク?誰かとメールでもしてんの?さっきからずっとスマホいじってんな?」翔二に声をかけられ、拓也ははっとした。

 「あ、ご、ごめん・・・。」パッと拓也は携帯を隠した。翔二は少し気になった。

 「なんだぁ?彼女でもできたか?お兄ちゃんに教えなさい!!」速攻で潤と旬が絡んできた。

 「ち、違うよぉ!!」拓也が笑いながら携帯を隠した。潤と旬に囲まれてじゃれ合うのは昔からだった。

 「もう、ご飯食べなさい!!」彩芽が笑いながら電子レンジで温めた弁当を全員分テーブルに並べた。はーいと言って、全員席に着いた。まだ、みんなのママからのメールを拓也は見れていなかった。見ようとしたけど、ご飯になってしまったのだ。

 ママからのメールを見れたのは風呂に入ってもう寝ようとした頃だった。拓也は今日の事件の事をママに話していた。

 『拓也ちゃん!!事件に巻き込まれたって・・・、怪我はないの!?』自分を心配してくれているメールに拓也はつい、頬を緩めた。

 そしてすぐに返信のメールを打った。

 『大丈夫だよ、ママさん!!俺はどこも怪我してないから!!心配してくれてありがとう!!』

 返信を打つとまたすぐに返信が返ってきた。

 『良かったわ・・・。拓也ちゃんに何かあったらママは生きていけないわ・・・。』

 「あはは・・・大袈裟だなぁ・・・。」拓也はそう言ったが、内心は本当に嬉しかった。

 『俺は大丈夫だよ!!バスケやってるからそれなりに体力もあるし!!』

 『ママにできる事があったら何でも言ってね。拓也ちゃんはママの宝物だから・・・。』

 こっぱずかしい台詞だと思った。でも、ここは素直にお礼が言えた。

 『ありがとう・・・ママ。俺、もう寝るね。

 おやすみなさい。』

 『おやすみ、拓也ちゃん。』

 こうして、この日のママとのメールは終了。拓也は眠りに落ちた。

*

 検死を終えて岸田隼人の両親に連絡をして、遺体と遺族の面会が霊安室で行われた。

 岸田隼人の母親は泣き崩れ、バラバラになった息子の身体を一つ残らず抱きしめた。監察医が隼人の身体の説明をした。首だけが隼人の物でその他の胴体は違う子供の物であることを。両親は愕然とした。自分の息子以外にもこんな目に遭っている子供がいる事を知って・・・。

 「隼人がいなくなる前・・・隼人を叱ったんです。お小遣いをもっとアップしてほしいと言われて・・・。

 でも、私はそれを許可をしなかったんです。

 ・・・後悔しています・・・こんな事になるなら・・・もっとお小遣いをあげれば良かったと・・・。」母親が泣きながら話した。隣で父親が母親の肩を抱いた。

 「その後・・・ですか?いなくなったのは。」丹波が聞いた。

 「あ・・・その直後とかではないです・・・。えっと・・数週間後です・・・。」

 「それまでに何か隼人君に変わった事は?」続いて慎太郎が聞いた。母親は一点を見つめて必死に思い出そうとした。

 「あの・・・何か・・・急にテストの点が上がりました・・・。お小遣いをアップして貰おうと思って頑張ったのかと思って・・・。」母親の言葉に以前聞き込みに行った家を思い出した。

 この間行った女児の家では服が増えた。岸田隼人はテストの点がアップした・・・。

 とにかく子供にとって良い事が増えたという事。これはこの事件の共通点になる。

 両親から話を聞いた後はもう夜中の1時を回っていた。慎太郎はずっと考えているような顔をしていた。

 「警部、家まで送ります。」丹波が声をかける。

 「あぁ、ありがとう。」

 千田は自分の車で帰り、慎太郎も自分の車を持っているが、丹波が自分の部下として配属されてからは、家まで迎えに来てくれて帰りも送ってくれるようになった。

 「何かいつも悪いね。俺・・自分で帰れるよ。」慎太郎が言った。

 「いいんです・・・。警部には2回も助けてもらっているんですから・・。俺、警部の足にいくらでもなりますよ。」丹波が笑顔で言った。

 帰りの車の中では、お互い事件について話し合った。慎太郎は自分の考えを丹波に話すと、丹波は驚いた。

 「え・・・?木下保を殺害した犯人と今回の岸田隼人を殺害した犯人は同じかもしれないって・・・どういう事ですか!?」丹波は驚きを隠せなかった。

 「絶対とは言い切れない・・・。ただ、あのバラバラ死体・・・木下保もバラバラだった・・・偶然にしては出来すぎている・・・と、思ってな。」

 「何故・・・木下を殺したにもかかわらず、そんな関係ない子供まで・・・理解できません!!」

 「俺も同じ気持ちだよ。だから・・・絶対とは言い切れないんだ。俺は同一犯かもしれないという考えも持って捜査しようと思っている。まぁ、管理官は殺し方が一緒ってだけで合同捜査にするというとキレるかもしれないけど・・・。」

 (・・・あのハゲ・・・警部にいつもいちゃもんかケチつけてくるんだよな・・・。

 自分は全然ダメダメのくせしやがって。)丹波は慎太郎の上司もとい、自分の上司でもある管理官の上村の事は嫌っていた。心の中か、慎太郎達のいる前では禿呼ばわりしていた。

 上村よりも丹波は心の底から慎太郎の方を信頼していた。それは、自分が高校生の頃からだった。初めて出会い、そして、交番警察になった時も慎太郎の凄さを垣間見ていた人間の一人なのだ。この話は、いつかしよう。

 「あんな小さい子が殺されて・・・弟を思い出します・・・。」丹波が言った。

 「・・・そうだな・・・。」と、慎太郎。丹波は10歳離れた弟がいた。慎太郎達が市民には知られないように極秘で指名手配をしている死神真治・・・、最低最悪の殺人鬼に弟を10年前に殺されていた。

 その日から、丹波は慎太郎に出会い警察官という道を進み、慎太郎と共に弟の仇である死神真治を追っているのだ。丹波は25歳。弟は生きていたら翔二と同じ15歳なのだ。

 今回の事件は、もちろん死神真治の仕業ではない。この件は同一犯の犯行ではあるが、死神の仕業ではない事は、担当している慎太郎と丹波がよく分かっていた。

 死神真治とは、黒髪で長髪の男。身長は丹波が185cmだが、丹波と同じ位かもしくは少し大きいかと思われる長身だ。

 右目には火傷の痕があり、黒い着物を着ており、片手には日本刀を持っている。こんな男、見かけたらすぐに通報されるはずだが、死神の逃走を手助けしている人間がいる。

 それが、森明というかつては竜王組という暴力団の幹部の人間だったが、2~3年前に竜王組を抜け出し、死神と手を組み死神の犯罪の手助けをしているという。

 その情報は竜王組から神奈川県警組織犯罪対策課に連絡が来ていた。竜王組は血眼になって森明を今も探している。組織犯罪対策課が抑える様に言っても聞かないと言うのだ。

 森明の風貌は髪の毛が少し緩いパーマがかかっているくせっ毛で、黒いハット帽をトレードマークにしている。

 この二人がどういういきさつで出会い、手を組んだかはまだ誰も知らない。

 そう、丹波が弟を殺された10年前の時はまだこの二人は出会っていない。丹波は本当のところ死神のみを恨み、逮捕しようと考えているが死神がこれからも何も罪のない人間を殺し続けている事を手助けしている森の事も許せないのだ。

 この極秘で指名手配されている2人を追うと共に現在の殺人事件も担当している慎太郎達は相当大変なのだが、慎太郎と丹波はこの犯罪者たちを捕まえる事によって死神と森と繋がっている犯罪者たちに出会えると思っている。だからこそ、どんな事件もないがしろにしないようにしているのだ。

*

 ゴールデンウィーク3日目の朝。やけに寮内が静かだった。拓也が目を覚ましたのは朝の10時を過ぎていた。大あくびをしてTシャツをめくりお腹をかきながら階段を降りてリビングに入ると、潤と旬と彩芽と中島しかいなかった。

 「あれ?みんなは?」拓也がきょとんとする。

 「翔は、何かお父様の部下の人と会って、蛍ちゃんと優奈と美由は春那ちゃんと一緒に渋谷に遊びに行って、連司はどこかの女子校の女子とデートで、カズは実家に帰って弟君の面倒を見に行ってるわ。」と、彩芽が答えた。

 「おはよう、タク。昨日は疲れただろう?ゆっくり休めよ。」と、潤と旬も出かける準備をしていた。

 「え?潤兄と旬兄は?」

 「俺達大学に行くよ。ゴールデンウィークも授業があるんだ。」

 「なかじーは?」てゆうか、いたのかと思ったが心の中でしか言わないようにしている。

 「あぁ、俺も一回帰るわ。タク一人の勉強見てもしゃあねぇしな。」

 やった!!と、拓也は心の中でガッツポーズをした。

 「タクは今日どこか出かける?」彩芽が声をかける。

 「あ・・・特に予定は・・・。部活も緩くて予定ないし・・・。」

 「じゃあ、今日一日ゆっくりしてろよ。明日からスパルタだからな?」ニヤリと中島が笑う。

 そうだな、なかじー・・・鬼がいない間にゆっくり休息でもしていようと、拓也は思った。

 ベッドで横になり、スマホを取り出し“母親日記”を開いてみた。

 すると、友達のママ達が新しい投稿をしていた。拓也はそれを読んでいき、面白い投稿があったら、コメントを残した。

 母親日記を読むと、嬉しいような虚しいような気持ちになった。ここに投稿しているママさん達はみんな子供を愛しているのが見て分かるのだ。それは嬉しい反面、少し虚しくも思えた。自分の母親も生きていたら、こういうのに自分の赤ちゃんの頃の写真とか載せてくれたのかなと思う。

 仲の良いママの投稿にコメントを送って、返信が来ても毎回思い知らされるのは、『この人は俺のママじゃない』という事だけ。それだけがどうしても虚しく思えたのだ。

 しばらくスマホをいじって母親日記を読んでいると、玄関の呼び鈴がなった事に気づいた。

 「はーい。」彩芽の声が聞こえた。

 「あら、うちの寮生の子の友達?そう、タクと同じバスケ部なの?タクいるわよ。」彩芽が誰かを招き入れたのが聞こえた。

 「タクー、バスケ部のお友達よ~?」

 バスケ部の友達?誰だろう?何人かいる。階段を降りていくと、陽気な顔が目に映った。

 「よ!!」同じクラスで同じバスケ部の荒川雅紀だ。身長は拓也と同じくらいだが、瞬発力が抜群で、とても早い。

 175cmくらいの身長しかないのに、ジャンプ力もすごく、この間の2年生との練習の時に2年生のゴールを物凄いジャンプ力でハエたたきをしてボールを叩き落としたのをよく覚えている。

 「どうしたの!?」拓也は驚いた。

 荒川はいい奴だ。天然で、陽気な性格で、入学式の最初の自己紹介の時はあまりしゃべらなかったからクールな奴かと思ったら話したらすごくいい奴だった。ちょっと、お調子者で天然な所も拓也は結構好きだった。

 「いんや、なんか暇だから安藤とか何してるかな~って思って。迷惑だった?」

 「ううん!!他の寮生たちみんな気づいたら遊びに行っちゃったみたいだから暇だったよ!!」

 「そっか!!良かった!!」荒川がにっと笑うと、部屋がノックされた。彩芽がジュースやクッキーなどを持ってきてくれた。

 「は~い、おやつどうぞ!!」

 「ありがとう、お姉さん!!」荒川が礼を言う。

 「あらやだ!!お姉さんだなんて!!」彩芽が嬉しそうに笑った。しばらく彩芽も交えて話をした後、彩芽が気を利かせて部屋を出て行き、また2人でたわいのない話をしながら、お菓子を食べたりジュースを飲んだりした。すると、荒川が前に拓也が倒れた件について聞いてきた。

 「この間、大丈夫だったかよ?何だったの?」

 「あ、あぁ・・・ごめんね、迷惑かけて。

 過呼吸だって言われたけど、もう大丈夫。」拓也は過呼吸を起こした日の事を思い出した。あれは、用務員が持っていたデッキブラシを見て、自然に出てしまったものだった。昔、自分はデッキブラシで虐待されていたなんて言えない・・・。翔二達にも実は虐待児である事はカミングアウトをしたが、どんな虐待を受けていたかは話していないのだ。

 「あとさ~、杉田だっけ?あいつの事、気を付けろよ。芹沢とつるんでいる奴。」

 「え?何で?」思わず、きょとんとする。

 「あいつ、この間部活中に芹沢が遊びに来てそれで話し込んでいたからキャプテンにキレられたじゃん?で、キャプテンはお前と次の日ワンオーワンしただろ?あれで逆恨みしてるっぽいんだ。

 だから、この間海堂がキレてお前が海堂を止めていた時にさ、“いい子ぶってんじゃねぇ”とか言ってたじゃん?あれ、嫉妬してんだぜ、きっと。」荒川から話を聞いて、拓也は思わず心配そうな顔をした。そう言えば、最近、杉田とはあまり口を聞いていなく、気づいたら、杉田は芹沢と一緒に自分をバカにするようになったと思った。

 「そっか・・・。」

 「でも、気にすんなよ?キャプテンはお前の実力を見込んでくれている。それだけ信じておけばいいじゃん?」また、荒川が陽気に笑った。何だか、荒川の笑顔は元気にしてくれると拓也は思った。

 しばらくしたら、荒川の携帯が鳴った。

 「はい、荒川です。はい、はい・・・・。

 いいですよ、今日何もないんで。はい、じゃあ、13時に。」そう言って携帯を切る。

 「バイト。」

 「え!?部活とバイトの掛け持ち禁止じゃ・・・。」

 「意外にバレねぇよ。学校からかなり遠い実家の近くのコンビニだし。悪い、もう帰るね。」そう言って荒川は立ち上がる。

 「安藤もやってみたら?キャプテンも隠れてやってるみたいだよ。マジ、意外にバレない!!」荒川はそう言って寮を出て行った。

 いや・・・中島がこの寮を占領している以上、バレる確率は高いだろうと拓也は思った。

 (それにしても・・・キャプテンも隠れてやっているなんて・・・驚いた。)一瞬、キャプテンもやっているなら・・・という、感情も芽生えた。

 すると、携帯がピロンと鳴った。携帯を見てみると、母親日記に関する連絡がいくつも来ていた。3人くらいの友達母親の日記が更新されたという連絡だった。

 「あ・・・・。」その中に“みんなのママ”の投稿も更新された事の通知があった。拓也はすぐに部屋に戻り、“母親日記”を開いたのだ。

*

 拓也は数多くの母親の日記の中でもこの“みんなのママ”の日記を一番楽しみにしていたのだ。

 拓也はベッドの上に寝転がり、“母親日記”を開いた。スマホをタッチすると、“みんなのママ”の投稿がすぐに観れるようになっていた。

 『今日は息子がサッカーの試合でスタメンに選ばれたようです。私も自分の事のように嬉しいです。』と、書かれていた。写真には、息子の物であろう、サッカーのユニホームと、サッカーボールがアップされていた。

 「へぇ~~、息子さんサッカー選手なんだ!!」拓也はすぐにコメントを送った。

 『ママ、すごいね息子さん!!俺はバスケ部なんだけど・・・スタメンになるには程遠い道程だよ~』と、コメントした。すると、すぐに返信のコメントが送られた。

 『拓也ちゃん、コメントありがとう。拓也ちゃんもきっとスタメンになれるよ!!だって、小学校の頃からやっていたんでしょ?』コメントを返信しようとしたが、拓也は手を止めた。

 (・・・あれ?俺・・・ママにバスケ小学生の頃からやっているって・・・言ったっけ?)ふと、そんな疑問を抱いた。確かに、拓也は小学校3年生の後半くらいからミニバスケットボールをやっていた。そのまま中学、高校へと続いているのだ。

 だが、ママからはそんな疑問をすぐに消されたようなこんなメールが続いてきた。

 『拓也ちゃんは部活だけ?バイトとかしていないの?』

 『してないな~・・・。学校がさ、部活とバイトの掛け持ち禁止なんだよ・・・。やりたいんだけどさ~担任がうるさくって(笑)

 今日来た友達は、隠れてやっているみたいで、意外にバレないって言ってくれたけど・・・。俺がいる学校の寮に担任が入り浸る時があるから迂闊に出来なくてさぁ。』

 拓也がこのように返信をすると、ママからまたすぐに返信が返ってきた。返信の内容に拓也はかなり驚いた。

 『じゃあ、ママとメールか電話をするだけのバイトをしない?メールだったら、1通1000円とか!!』

 「え!?」思わず拓也は驚いた声を出した。

 『い、いや・・・さすがに悪いよ~。』拓也はすぐに返信した。

 『大丈夫よ?それにママ・・・拓也ちゃんの声を聞きたいな。まぁ、無理にとは言わないけど・・・。』

 少し、困った。どう返事しよう・・・。そう思っていた矢先、伯父の茂がくれた茂と拓也と母、貴子が写っている写真を見た。

 いつも、伯父にお小遣いを貰っているからそこまで金に困ってはいなかった。だけど、いつもお小遣いや色んな物を買ってくれる伯父に、何か返したいと思っていた。それが、伯父から貰うお小遣いからではなく、自分がバイトなどで働いたお金で。

 『分かった・・・俺も・・・ママと話してみたいかも。』

 拓也は返事をした。バイトは時給1000円。何時間でもママと話していいという事になった。

 『本当に、そんなにいいの?』

 『大丈夫よ。それにバイトをする事は今後の拓也ちゃんの人生に必要な経験だと思うわ。

 ママ、バイトをしたいという拓也ちゃんの気持ちを応援したいし、自ら進んで行動に移そうと考えているそんな拓也ちゃんが大好きよ。』

 “大好き。”そんな言葉にドキッとした。親に“愛してる”だとか、“大好き”と言われた事のない拓也にとってその言葉はまるで、初恋に落ちたような気持ちになり、心臓がドキドキするのを感じた。

 そして、メールから電話番号が送られてきた。080から始まる、普通の携帯番号だった。

*

 失踪した子供の捜査は神奈川署からの依頼を突発的に行っていた事を、たった今初めて聞いた。翔二は父の部下の千田から事件の事を聞いた。

 「あぁ。もともとは川崎市で見つかった男性のバラバラ死体の事件を俺達は追っていたんだ。」千田がコーヒーを飲みながら翔二に説明する。

 「そして、警部はこの2つの事件は同一犯の犯行かもしれないって言ってた。」

 「マジで!?」翔二は千田の話に食いついてノートに書きこむ。

 「な、何か・・・マジで漫画やドラマみたいだ・・・。」

 「でも、漫画やドラマより残酷だよね。」千田の言葉に翔二も頷く。

 「でも・・・何でその男性と子供が殺されなきゃならねんだろ・・・。男性の方の素性は?」

 「35歳の商社マン。なかなかのイケメンで、奥さんと子供がいるけど愛人が2人いる。

 奥さんも愛人がいる事は何となく予想がついていた。で、これが奥さんで、愛人2人の写メね。後で画像も送るよ。」

 「ありがとう、千田さん!!助かる!!」

 「いえいえ、その代わり翔二君も何か気づいたら教えてね。警部の息子なだけあってやっぱ君はいい所に気づくからね!!」

 「えへへ・・・そう?」照れながら頬を掻いた。

 「あ、でも・・・親父には内密に・・・特に親父の他にあのくそ親父は親父以上にうるさいし!!」

 「くそ親父?」千田がきょとんとする。

 「丹波とかいう新人の刑事だよ!!あいつ、この間思いっきり殴りやがって!!」

 「あぁ、丹波さん!!彼はいい人だよ!!柔道剣道共に8段、拳銃の使いも神奈川県警一の腕を持つからね!!

 小さい頃、翔二君も会っていたと思うけど?」

 「えぇ!?嘘!?覚えてないよ!!」

 「だって、翔二君まだ5歳だったもん!!丹波さんの事お兄ちゃんって言ってなついていたんだよ?」

 初耳だそんな話。初めて聞いた。翔二は開いた口がふさがらない状態だった。

 すぐに翔二はハッとし、話題を変えた。

 「そ、そういえばその失踪して遺体となって発見された子供達と商社マンの男性を殺害した犯人が同一犯かもしれないって言うのは、発見された遺体がバラバラだからとか?」

 「そうだね。警部は少なくともそう考えているみたい。それだけで一緒にするなと管理官は怒るんだけど。」

 「確かに・・・それだけじゃ何も同一犯の犯行だなんて言えないよな。」

 「だからこそ、今警部はそれ以外に共通点を探しているんだよ。」

 「共通点ね・・・。」そう言って翔二は一口コーラを飲んで、おごってもらったチョコレートパフェを食べ始めた。

 「美味しい。」

 「いっぱい食べてね。」

 「うん、ありがとう。」

 甘いものは良い。考える時には甘いものを食べるのが一番だと翔二は思っている。

 (それにしても・・・バラバラ死体の他に子供の死体とその商社マンの共通点って何だ?犯人は商社マンの女性関係が派手である事を考えると、女の可能性が高いって事だよな?)

 「ねぇ、千田さん。写メを送ってくれると同時にどっちがアゲハでどっちが麗奈か書いといてね?」

 「うん、今送ったから。」

 「ありがとう!!」

 さて、調べるぞ!!あ・・・その前に・・・。

 「この2人はキャバ嬢なんだよね?って、事は出会いはキャバクラ?」

 「そういう事になるね。会社の同僚と一緒に行ったキャバクラでこの2人と出会ったらしいよ。あ、それと・・・この麗奈さん・・・。本名中野瞳さんだけど・・・一度京都でマエモノなんだ。」

 「マエモノ・・・。つまり、前科者だね?」

 「あぁ、昔学校でいじめに遭っていていじめの主犯たちに万引きを強要されて捕まった過去があるんだ。

 その男は何故かそれを知っていた。店の人達にバラされたくなかったら・・・その~・・・ヤラせろって・・・。」

 「!!??」翔二は少し顔を赤らめた。

 (それって!!)

 「ど、ドラマの典型的な殺人の理由!!」

 「まぁ、中野さんは否定している。だが、中野さんも含め、もう一人の寺本真実さんもアリバイは無し。」

 「じゃあ、とりあえず容疑者はこの2人に間違いはないんだ?」

 「あ、いや・・・実はね木下さんの奥さんの話だと他にも手を出していた女性がいるらしいんだ。今度、その人にも話を聞きに行く予定なんだけど。」

 「んじゃあ、その人からも話を聞いたら教えてね!!」翔二がにっと笑う。

 「うん、分かった。」

 その後は、二人はパフェを食べて、たわいない話をする。千田は翔二が小さい頃から世話になっている父の部下の一人。千田の他にも、組織犯罪対策課の相原、生活安全課の戸川も翔二にとって父の仕事の仲間は自分にとって近所のおじさんと同じ感覚なのだ。

 その中で唯一、丹波の事だけが覚えていないらしい。

 まぁ、丹波は当時15歳から17歳か18歳くらいまでの期間しか翔二といる事はなかったのだ。その頃の翔二は5~7歳くらい。覚えていないのは、仕方がないと思っていいだろう。

 今、翔二の頭の中では事件の事でいっぱいだった。

 「ねぇ、この子供が殺された事件は他に分かった事はないの?」翔二が聞いた。

 「う~ん、そうだな・・・。あ、そういえば・・・何かね子供達、やたらと携帯をいじる頻度が多くなったって言ってたよ!!それから、成績が急に上がったとか・・・・。」千田の答えに翔二は頷きながらノートを取った。

 「携帯をやたらといじる・・・。」言いながらノートを取る。

 すると、ふと、翔二の脳裏に拓也が携帯を最近よくいじっている姿がよみがえった。

 「・・・・いや、まさか・・・まさかな・・・。」翔二はかぶりを振った。


 第20章に続く。

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