第9章 初解決
警察から連絡が来たのは20時過ぎの事だった。
『神奈川県警の者です。石島慶太さん、真理子さんのお宅で宜しいでしょうか?』慶太の母が警察からの電話で心臓が止まりそうになったのは言うまでもなかった。
「そ、そうですが・・・。」
『只今、慶太さんと真理子さんは神奈川県警の警察病院で保護させて頂いております。お二人とも、無事ですよ。』警察からのその電話に母は体中の体力が抜けたかのように座り込んだ。
「・・・・・あなた・・・・!!」母が涙を流し、父が母を抱きしめた。
「すぐに迎えに行こう!!」二人は泣きながらも電話で警察の指示に従い、息子と娘を迎えに行く準備を始めた。
「慶太!!真理子!!」病院に着くと、いち早く父と母は息子たちの病室へ向かって行った。
「と・・・父さん・・母さん・・・!!」
「お父さん!!お母さん!!」慶太と真理子は父と母の元へ走り、お互い抱き合った。
「良かった!!良かった!!心配したよ!!」4人で力強く抱き合った。後ろを振り向くとスーツ姿の男性3人と私服を着ている息子と同い年くらいの男の子がいた。もう分かる。刑事3人と息子の同級生だ。
「本当に・・・ありがとうございました!!」父と母が頭を下げ、その後に兄妹も頭を下げた。
「いえ、慶太さんと真理子さんの兄妹の絆と勇気ある行動が我々へ犯人逮捕に繋げてくれたんです。お礼を言うのは我々の方です。」慎太郎も頭を下げた。慶太が翔二の方に目を向けてお互い笑い合った。慶太は犯人である斉藤達に怪我を負わされていた為、しばらく病院で入院することになった。真理子もストレスなどが原因で相当痩せてしまっていた為、栄養剤を点滴で注入してもらう事になり、慶太と一緒に暫く検査入院をすることになった。
「慶太君、真理子ちゃん。君たちはこの事件での被害者であり、証人でもある。今は色々あって疲れただろうから、ゆっくり休んでくれ。その代わり、辛い事を思い出させてしまって申し訳ないが、君たちが退院した後、事件について色々教えてもらう事になるけど、いいかな?」慎太郎が二人に聞いた。
「け、刑事さん・・・今でも構いません・・・言わなければいけない事があるんです。」慶太がよろめきながら立ち上がり、慎太郎に言った。慎太郎は慶太の目を見ると優しく笑い、慶太の肩に手を置いた。
「君の言いたい事・・・分かってるよ。」慎太郎のその言葉に慶太は目を見開いて驚いた。
「これから行くつもりだ。大丈夫、必ず終わらせる。」慎太郎の言葉に慶太は涙を流した。
「俺・・・・!!」
「いいんだ。辛かったね。」慶太の肩を優しく慎太郎はさすった。翔二には何が何だか分からなかった。
その後、慎太郎達捜査一課は病院を後にし、車へと向かった。
「もう、帰っているんじゃないでしょうか・・・?」丹波が心配そうに言った。時刻は21時を回っていた。
「実は待っててもらっている。これから向かう。」
「え?本人に言ったんですか?」千田が聞いた。
「まさか。本人じゃなくその上司に待っててもらうように言っておいたんだ。」慎太郎、丹波、千田の話に翔二はついていけていない。だが、事件はまだ終わっていないという事だけは翔二には分かった。
「ど、どっかに行く気だな!?俺も連れてけ!!俺も事件の終わりを見届ける権利はある!!」
「はぁ!?ガキは帰れ!!高校生に何の権利があるんだよ!?」丹波がキッと睨んで翔二に言った。
「親父!!」翔二は丹波を無視し、慎太郎に言った。慎太郎は横目で翔二を見ているだけだった。翔二は父の目を見て無言で懇願した。
「・・・・・。」しばらく二人は目を見合った。やがて、慎太郎が口を開いた。
「翔二。」父に名前を呼ばれて思わず姿勢を正した。
「ドラマや小説、ましてやアニメとは違うんだ。それは分かっているな?」父が真っ直ぐ自分の目を見て言った。翔二は小さい頃から、アニメなら名探偵コナン、金田一少年の事件簿、刑事ドラマなら相棒やストロベリーナイト、謎解きはディナーの後で、ガリレオ、新参者など、昔から事件物の話が好きで見ていた。それは父が刑事だからからなのかもしれない。いつしかそのドラマやアニメを見ていくうちに刑事である父の背中を追いかけていた。だから・・・分かっているつもりだ。父の仕事はアニメやドラマとは違うと。アニメやドラマは被害者が酷い奴で、犯人が可哀想って言う設定だが、現実は違うってことを。
「・・・分かっているよ・・・!!」翔二は答えた。慎太郎はその直後、大きなため息をついた。
「丹波君、君の仕事が増えてしまうかもしれないが・・・。」慎太郎は申し訳なさそうに言った。
「お、俺は・・・構いませんが・・・。」慎太郎にお願いされてしまうと、丹波は断れない。翔二も塾に連れて行く事にした。
塾についた。塾に入ると、塾長が待っていた。
「・・・お待ちしておりました。」塾長が迎えてくれた。翔二の姿を見て、少し心配そうな顔をした。
「あ、倅です。お気になさらず・・・邪魔はさせませんので。」慎太郎がそう言うと、塾長は慎太郎達をとある教室へと案内した。教室の前に着くと、塾長は一歩下がった。
「・・・私はこれで・・・何かあったら言ってください。」
「ありがとうございます。」慎太郎がお礼を言うと、塾長は階段を降りて行った。翔二はこの後、父の刑事の顔を目の当たりにすることになる。
*
「こんばんは。」教室に入ると、待っていたのはこの塾の講師、進藤智也だった。
「何でしょうか?こんな夜遅い時間に。」進藤が迷惑そうに言った。
「申し訳ないですね。どうしても進藤先生にお伝えしたい事がありまして。」慎太郎が言った。翔二は後ろできょとんとしていた。
「何ですか?」進藤が言った。慎太郎はその時進藤の眉毛がピクリと動いたのを見逃さなかった。慎太郎は口角を上げて答えた。
「この塾の生徒である石島慶太君、そして妹の真理子さんを先程保護しました。お二人とも無事ですよ。」
「それは・・・良かったです。心配していたんですよ。」進藤は笑顔で喜ぶように言った。
「で?報告ってそれだけです?」
「いえ、まだあります。犯人も3人逮捕しました。この塾に通っている斉藤真也と鬼頭祐希と本田純一です。」3人の犯人の名前を慎太郎が出した瞬間に進藤が動揺したのは明らかだった。
「さ、斉藤君と本田君と鬼頭君が!?何かの間違いでしょう!?」進藤が言った。
「それであってほしかったんですがね。多分彼らは自白すると思いますよ。斉藤君は・・・ちょっと手こずりそうですが。」
「何か証拠があって逮捕したんですよね!?」
「まぁ、そうですね。被害者である石島慶太君の妹、真理子さんが通報してくれたんですよ。いいお兄さんですね慶太君は。真理子さんをいち早く逃がそうとしたんですから。まぁ、兄として当然の事をしたまででしょうけどね。」慎太郎が淡々と喋る。
「まさか、それを報告するためだけに私のところへと来てくれたのでしょうか?」進藤の顔がどんどんひきつっているのが翔二にも分かった。
「そんなわけねぇだろ。」丹波が言った。翔二が丹波を見ると丹波は進藤を睨みつけていた。
(・・・まさか・・・。)翔二はこの空気をすぐに読み取る事が出来た。
「まず、第一の事件。鈴野真弓さんが強姦され、殺害された事件です。あれはたしか、3月10日に真弓さんは行方不明になっております。行方不明になる前の3月7日は真弓さんの誕生日でした。その時に一緒にいたのは多分、斉藤真也でしょう。真弓さんは誕生日であり、ましてや家族が必ず祝ってくれる席に12時を回ってから帰ってきました。その時に一緒にいたのは想いを寄せていた斉藤真也であると私は推測しています。行方不明になった3月10日にも多分、斉藤と会っていたのでしょう。もちろん、本田と鬼頭も一緒にね。」慎太郎の推理を進藤は黙って聞いていた。だが、翔二が進藤の顔を見ると冷や汗をかなりかいていた。
「秦野市内にあるアパートは斉藤真也の父親の名義で賃貸されておりました。そこは慶太君と真理子さんが監禁されていたアパートです。そこに鈴野真弓を連れ込んだ。
・・・あなた・・その現場を見たのではありませんか?」慎太郎が進藤に顔を向けた。
「調べさせてもらったがな、あんたあのアパートのすぐ近くで一人暮らししてるな。」続いて丹波が言った。
「それが・・・何が関係しているんですか?」
「住んでいる事が関係してるんじゃないんです。あなたはあのアパートのすぐ近くに住んでいるから見てしまったんですよね?斉藤真也と鬼頭祐希、本田純一が同じ塾の生徒である鈴野真弓さんに暴行しているのを。あぁ、失礼。言うほどすぐ近くじゃありませんね。あのアパートの近くはあまり家がない。かなり何キロか離れた場所にあなたの住まいはありますね。で、あなたの住まいに行くにはあのアパートのそばを通らなければならない。そこで・・・真弓さんの叫び声でも聞いたんでしょう?で、あなたは思わず叫び声のあるアパートの部屋の窓を覗いたんでしょう?そこで3人が真弓さんをレイプしている姿を見てしまった。そこで、あなたが通報していればすぐに真弓さんは殺されずに救出できたのにあなたはしませんでした。何故ならば・・・あなたは見ていたかったんですよね?嫌がる女性を無理やり強姦し、性欲を満たす男達の姿を見て自分も性欲を処理したかったんですよね?」父が淡々と自分の推理を進藤に話している間、翔二は父の言っている事を頭の中で整理していた。
父の言いたい事はこうだ。この進藤という講師は斉藤真也達が最初に殺害した鈴野真弓を斉藤達が強姦して殺害しているのを見た唯一の目撃者であるのにも関わらず、警察に通報しないどころか、自分の性欲を満たすために斉藤達が鈴野真弓を強姦し、殺害しているのを黙ってみていた。と、言う事になる。
「馬鹿馬鹿しい。私が斉藤君たちが鈴野君を強姦しているのを見たという目撃証言でもあると言うんですか?」平静を装っているように言っているようだが、進藤は声を震わせていた。
「いいえ。ありません。」慎太郎が答える。
「くだらない。」進藤が吐き捨てる様に言った。
「でもあなたは荷担しているんですよ、斉藤達の犯罪にね。あなたが斉藤達の犯罪に荷担する動機なら説明できますよ。」そう言って慎太郎が鞄から分厚い書類を出してきた。
「まず、1枚目。これはとあるインターネットの通販サイトから靴を3足購入した客の買い上げリストです。ここに1行、とある人間のクレジットカードの決済番号が印字されています。この靴は私の息子が通っている学校の指定靴です。息子の担任の先生などに話を聞いたところ、息子の学校は制服から鞄、靴まで学校で用意されている指定の用品なんですよ。どうやら、卒業生たちは卒業したら使わなくなるからどんどん通販サイトで売ったりしているようですよ。息子の担任の先生も通販で売ったと聞いております。」慎太郎の言葉に翔二は“マジで!?”と思って驚いた。自分もいつか売ろうと思ったらしい。
「あなたのクレジットカードの番号を調べさせて頂ければ、誰が購入したかすぐにわかりますね?」そう言って慎太郎はまず、そのリストを机に置く。
「そして・・・問題はこちらですね。」慎太郎は肩を落としながら、分厚い紙の束をどんと机の上に置きだした。こちらもリストになっていた。何かの閲覧履歴みたいなリストだった。
「・・・これ・・・何のリストか分かりますか?」慎太郎が声を落として言った。
「違法動画サイトの閲覧履歴です。暴力団や闇金の人間が金を貸した客の女性やその娘に借りた金を返させる為の資金にしているんですよ。若い女性をターゲットにしたアダルト動画サイトです。そして、これを見た人間にもこのサイトから多額の請求金額が書かれた請求書を送っているようなんですよ。そのリストにあなたの名前も書かれていましたよ。まぁ、さっき連絡がありましたが、この組織の人間たちはうちの組織犯罪対策課がすでに逮捕したみたいですがね。」慎太郎の説明を聞いて、翔二はごくりと唾を飲み込んだ。進藤はと言うと、このリストを見て完全に固まってしまった。
翔二が父の横に並び、そのリストを見た。リスト内容はアダルト動画である事がすぐに分かるようなタイトルの物が多く、そこに会員番号らしき数字10桁と閲覧時間がずらりとリストアップされていた。しかも、今回の事件同様、動画内容は強姦物が多く、電車内で複数の男達が周りに分からないように1人の女子高生に痴漢していたり、暗い森の中に会社員の女性を追い込み、男数人で女性をレイプするような内容の物だと後で内容を知った。タイトルも見ただけでそのような内容の物だと一目で分かるタイトル名だった。
「こんな内容の動画を見続けていたあなたは多分、もう動画だけじゃ満足出来なくなってきたんですよ。そして、あなたにとっては運よく、斉藤達が鈴野真弓に強姦している姿を目撃し、自分の性欲を満たしていた。だが、覗いているところを斉藤に気づかれてしまい、あなたは自ら協力すると言い出したんじゃないんですか?で、あなたの愛車で鈴野真弓、加賀絵理奈、大野洋子の遺体を遺棄する事を協力するようになったという事です。もちろん、3人の女子中学生を強姦するところを傍観させてもらう事を条件にね。これが私が推理した高校生の男子生徒3人が女子中学生の遺体をバラバラにしないで遺棄する事が出来る遺棄経路です。」慎太郎の推理した女子中学生遺体遺棄の経路は自分と全く違う推理だった。まさか4人目の犯人がいるなんて翔二は思ってもいなかった。
「そして、2人目の被害者、加賀絵理奈に関してですが、これは簡単ですね。今はSNSというソーシャルネットワークがあります。斉藤はそれを使って彼女と知り合ったのでしょう。そして、斉藤と仲良くなったのですが、ここで、加賀絵理奈は鈴野真弓とも鉢合わせる事になり、彼をめぐって言い争いを起こしています。鈴野真弓もSNSで彼女の悪口を書いておりました。あなたはその事を斉藤が鈴野真弓を殺害した後、斉藤から話を聞いて、斉藤の名前を使って加賀絵理奈に接近をするように斉藤から命じられた。加賀絵理奈の中学で待ち伏せをして、加賀絵理奈に接近した。斉藤の名前を使えばすぐに加賀絵理奈が食いつくことを知ったあなたは斉藤の名前を出し、加賀絵理奈を呼び出した。加賀絵理奈は告白でもされるのかと期待をあらわにして、親にラインを送った後だったが斉藤の方を優先にし、あなたについて行った。で、斉藤のあのアパートに連れ込み、加賀絵理奈を斉藤達は暴行、あなたはそれを傍観した。で、鈴野真弓と同じように斉藤が加賀絵理奈を殺害したら、3人と一緒に車で加賀絵理奈の遺体を遺棄しに行く。」
「調べれば出てくるんじゃねぇのか?お前の車から3人分の毛髪、もしくは血痕・・・とかな。」丹波が言った。
「じゃ、じゃあ・・・3人目!!3人目の大野洋子はどうですか!?あの子は全然斉藤君たちと関係を持っていない普通の受験生ですよ!?勉強に悩んで行きたい志望校の受験で悩んでいた普通の・・・。」
「おやおや?」慎太郎が進藤の言葉を遮った。
「何故、大野洋子さんが勉強に悩んでいる事を知っているんですか?」慎太郎の質問に進藤は顔を蒼白させた。進藤は今この瞬間、自分で墓穴を掘ってしまった。
「そう。大野洋子さんは受験に悩んでいたんですよ。行きたい志望校に行くには自分の成績では難しいと担任に言われたそうです。そして、大人しいタイプの彼女はクラスになかなか仲の良い友達もいなく、相談できる相手もいなかったみたいです。親にもなかなか相談できなかったみたいです。そこをあなたは塾の講師という立場を利用して大野さんに近づいたんですよね?彼女に斉藤真也を紹介して。後は前の被害者2人と同様の手を使ったまでですね?」慎太郎相手にもう、何も言い返せなかったのか、進藤は観念したようにガクッと膝を落とした。
*
進藤が膝を落とし、うつむいてしまった。だが、そんな無駄な時間、慎太郎は許さない。立たせて後は署の方でと言おうとした瞬間、進藤が口を開いたのだった。
「・・・2年前ですよ・・・。」進藤がその一言を言った瞬間、とりあえず4人は黙って進藤の話を聞く姿勢をした。
「僕は通っていた大学で3年間付き合っていた彼女がいたんですよ。料理もうまくて、服装も女の子らしくて可愛い女性でしたよ。3年付き合っていればキスも済ましましたし、セックスも済ましています。だけど・・・、僕が電車でのある出来事がきっかけで彼女とキスしたりセックスしても何も感じなくなってしまったんです。」ぼそぼそと進藤が昔の話を話し始めた。
(・・・電車での出来事・・・?)翔二は首を傾げながらも慎太郎達と一緒に進藤の話を黙って聞いていた。
「大学へ行く為に小田急線新宿行きで電車に乗っていたところでした。朝の小田急線は相当ラッシュは混むんですよ。だから・・・痴漢騒ぎも絶えない事が多かったんです。僕はとある日、一人の女子高生が2~3人くらいの男子高校生達に囲まれて痴漢されていたのを目撃しました。僕はその時、女の子と目が合ったんですよ。目が合った瞬間、彼女は僕が証言してくれると思ったんでしょうかね?大きな声で“この人たち痴漢です!!”と、言いましたよ。だが、男達は本当にたちが悪い奴らだった。3人とも口をそろえてやっていないと言い張り、そして彼女は僕と目が合った話をして僕に証言させようとしたんですよ。」
「・・・証言したのかよ?見たんだろ?」丹波が聞いた。少し黙ったが、進藤はその後、不気味な薄笑いを浮かべてこう言い放った。
「証言なんてするわけないじゃないですか。楽しかったんですから。」その発言に翔二も刑事達3人も顔をしかめた。
「僕が見ていないと言って、女の子の方が責められましたよ。ほら、冤罪ってあるじゃないですか!!あの男子高校生たちの勝ち誇った顔も面白かったなぁ!!何かニュースでもこれ騒がれたみたいですね!!女の子は次の日飛び降り自殺したようですよ!!」笑いながら進藤が言った。
「この・・外道が!!あんた最っっ低な人間だな!!」丹波が進藤を睨みつけた。だが、進藤は丹波の言葉なんて気にも留めていない。
「なるほど・・・それからか。違法アダルト動画に手を染めたのは。」慎太郎が見据えたように言った。
「えぇ。で、斉藤君たちにも協力したというわけです。」誇らしそうに進藤が言った。そして、進藤は何故かは分からないが、ちらりと翔二の方に顔を向けた。翔二は瞬きもせずに進藤を見ていた。
「・・・何見てんだよ・・・?」進藤が翔二を睨みつけた。
「・・・え?」翔二はハッとし、答えるとその瞬間に進藤が翔二に掴み掛ってきた。
「僕の事変態だと思っているんだろ!?」ぶわっと急に進藤が襲ってきて、翔二は驚いて対応するのが遅くなった。
「え!?ちょっと・・・!!」思わず翔二は身構えたが間に合わず掴み掛られた。
「翔二!!進藤・・・貴様!!」慎太郎は進藤が翔二に掴み掛るなんて予想外だった為、すぐに進藤を押さえつけられなかった。翔二が進藤に押し倒されそうになったのをすかさず止めたのは翔二のそばにずっといた丹波だった。急に翔二の目の前が黒いスーツで視界を遮られたかと思うと、その瞬間進藤が投げ飛ばされた。
「オラァ!!」丹波が進藤に柔道の技のひとつである、背負い投げをかました。その瞬間、進藤はそばにあった机や椅子の上に叩き付けられ投げられたと同時に机や椅子の下敷きにされてしまった。進藤が叩き付けられた瞬間に塾内で大きな叩き付けられた時の衝撃音が響き渡った。
「変態とかそういう問題じゃねぇ。変態以前にてめぇは最低な犯罪者だよ!!」丹波が抑えつけながら進藤に言い放った。その瞬間、進藤の両手に重たい手錠がかけられた。
*
手錠をかけられても進藤はあがいていた。
「放せ!!くそ!!」
「大人しくしろオラ!!」丹波に頭を抑えつけられてもなお、大人しくならない進藤に対し、慎太郎の足音が塾の中で異様に響いてきた。慎太郎は進藤の元へと歩いていた。そして、進藤の前で止まると、丹波に抑えつけられている進藤を見下ろして口を開いた。
「あんたは・・・・塾の講師という仕事で子供たちに勉学を教える立場の人間ではないのか?勉強だけじゃない、他にも大人として教えるものがあるだろう・・・。
そんなあんたが・・・何をやっているんだ・・・?
恥を知れ!!」慎太郎の怒鳴り声が塾中に響いたその瞬間、進藤は完全に大人しくなったのだ。
「連れて行ってくれ。」慎太郎の指示に丹波は答え、進藤を立たせ千田と一緒に連れて行こうとした。ちらりと丹波は翔二の方を見ると、翔二は少し、放心状態になっている事に気づいた。
「おい、大丈夫か?」思わず丹波が翔二の顔を覗き込む。
「え・・・あ・・うん・・・。」翔二はひどく狼狽しているように見えた。
「丹波君、ありがとう。大丈夫だからそいつを連れて行ってくれ。」慎太郎の指示に丹波は頭を下げて答え、翔二を気にしながらも進藤を連れて行った。
途端に父と二人きりになってしまった。父が急に近づいてきて、翔二の腕をぐっと掴んだ。
「・・・大丈夫か?」慎太郎が訊ねた。
「う・・・うん・・・。」
「怪我はしてないか?」
「うん・・・。」
「・・・良かった・・・。」慎太郎が安堵の表情を見せた。
「お前はもう帰れ。もう22時を回っている。伊藤さんに電話をしておくから、迎えに来てもらうまで途中まで一人で帰れるな?」
「・・・・うん。」自分でも意外に父の言う事を大人しく聞いたと思った。それ位、この翔二にとっての初事件はショッキングな出来事だった。汚い大人がいる事を改めて思い知らされたのだ。
「返信は出来ないと思うが、一応寮に着いたら、ラインでいいからメール寄こせ。」
「いいよ、別に。」
「だめだ。言っとくが最近男を襲う痴漢も増えているんだぞ?」
「え!?」父の言葉に翔二は青ざめた。
「気をつけて帰れよ。あと、ちゃんとライン帰ったら送れ。」そう言って慎太郎は教室から出て行き、階段を降りて行った。多分、塾長に説明もするんだろうと思った。
慎太郎が丹波の車の元へ行くと、後部座席に千田と2人で進藤を囲むように座った。
「・・・よくも俺の息子に掴み掛ってくれたな。・・・取調室で覚悟してろよ。」慎太郎がギラリと進藤を睨みつけた。進藤は観念したのかそれ以上何も言う事はなかった。
翔二が寮に帰る事が出来たのは23時過ぎだった。
「おかえり。ご飯食べるでしょ?」彩芽が待っていてくれたのだ。
「うん・・ごめん・・遅くなって。」
「いいのよ。何もなくて良かったわ。」彩芽がそう言って台所に立つ。リビングに行くと、蛍が起きていた。
「何だ、まだ起きてたのかよ?」翔二が驚いて言った。
「う、うん・・・。」
「翔二が心配で待っててくれたのよね?」彩芽が言うと、蛍はボッと顔を真っ赤にした。
「はぁ!?」彩芽の言葉に翔二も耳まで顔を真っ赤にした。しばらく二人は黙ったが、翔二が思い出したように蛍に伝える。
「・・・石島・・・妹と一緒に保護されたし・・・犯人も4人、捕まったから。」
「え?4人?」
「あぁ、4人いたんだ・・・。俺も驚いた・・・。」翔二は蛍に今回の事件の事を話した。テレビをつけてみると、速報で連続女子中学生殺害事件の犯人が逮捕されたと、どのチャンネルをつけてもその速報が流れていた。
「まぁ、3人は高校生だし、未成年だから名前は伏せられるか。でも何かそれっていつも俺、納得いかないんだよな。」翔二が彩芽が作ってくれたラーメンを食べながら言った。
「何かさ・・・本当にドラマやアニメとは違うと思い知らされた。犯人の犯行動機がすげぇ最悪だった・・・。」蛍に自分が体験したことをぽつぽつ話しながら翔二はラーメンをすすった。蛍は黙って翔二の話を聞いていた。
そして、病院では慶太が眠れず病院の廊下のソファーに座り、呆然としていた。
「どうしたの?」夜勤で夜回りをしていた看護士に声をかけられた。
「眠れなくて・・・夢のようなんです・・・。自分が・・・生きている事が信じられなくて・・・殺される覚悟・・・していましたから・・・。」慶太が言った。
「辛かったね・・・。もう大丈夫だから・・・ゆっくり休みなさい。ほら、妹さんのそばにいてあげて。」看護士が優しく、慶太に声をかけた。
「ありがとうございます。」慶太は看護士にお礼を言って部屋へと戻った。ふと、携帯を見ると、ラインが入っていた。翔二からだった。内容はこうだ。
『お前の塾講師もちゃんと逮捕されたから安心しろ。本当にお疲れ様。ゆっくり休めよ!!』翔二からのラインを見て慶太はまた涙が溢れた。
(あの刑事さんも・・・海堂君も本当にすごい・・・。この人たちには感謝しきれない位感謝しなくちゃ・・・。)慶太は自分がするべき事を考えていた。寝ている妹を見つめて、慶太はある決心をした。
*
次の日からは容疑者の取り調べが神奈川県警本部で行われた。まずは、主犯である斉藤真也からだ。
第一の被害者である鈴野真弓。彼女は斉藤に想いを寄せていた事を気づいていたのか、斉藤自身に聞いた。
「気づいていましたよ?真弓ちゃん、俺にいつも熱い視線を送っていましたから。」せせら笑いで斉藤は答えた。
「加賀絵理奈さんとはどこでどう知り合った?」慎太郎が質問した。
「ソーシャルネットワークだよ。そこで、あらゆる人たちと交流できる掲示板みたいなものがあって、それでメールをしていくうちにね。」と、斉藤。
「・・・加賀絵理奈さんについて、もう一ついいか?他の2人の被害者と違って何故、加賀さんだけあんなに暴行した?やたらと痣や傷が彼女だけ多かった。」と、慎太郎。慎太郎の質問に斉藤は少しの間黙ったがその後、また薄気味悪い笑みを浮かべてこう言い放った。
「処女じゃなかったから。」
「・・・は?」丹波が不快な顔をして斉藤を睨んだ。
「最近はもう中学生でやってる子って多いんですね。びっくりしましたよ。彼女もう、初体験済みで・・・だから俺の事が好きとか言いながら他の男ともうやっていたんで腹が立ったんですよ。」
「ふざけんじゃねぇ!!」丹波が怒鳴った。
「ふざけてませんよ。僕は彼女を愛していたのに。」
「ほう?随分愛している女性が多いんだな?教えてやろうか?お前のその身勝手な怒りなんてな・・・。」慎太郎がそう言って斉藤の胸倉を掴む。
「大事な子供を失った親の悲しみと怒りに比べたらくだらないものなんだよ!!そんなふざけた理由で3人もの命を奪いやがって・・・命を何だと思っているんだ!!」慎太郎が怒鳴りつけても、斉藤は平然としていたのだった。
続いて鬼頭祐希、本田純一の取り調べにいたっては、斉藤には勉強を教えてもらう事と、斉藤の交友関係がかなり多かったことに沢山の女の子と知り合えると思ったらしく、斉藤について行ったら、気づいたらもう取り返しのつかない事を起こしてしまっていたという。彼ら2人は被害者に対して申し訳ない事をしたと言っていた。ほんの出来心だったという。勉強のストレスの発散に女の子を強姦する。強姦だけで済むと思っていたら、殺人も犯すことになってしまったと泣きながら2人は話していた。ずっと誰かに止めてほしかったと言う。
進藤に至っては、動機は先程と一緒で、進藤が買ったと思われる青嵐高校のローファー3足は、進藤のクレジットカードの決済番号が一致し、進藤が買ったものと判明。次に、進藤の車を調べたら、遺体を遺棄する為に使うブルーシートが1枚と車のトランクからはルミノール反応が検出され、それが3人の被害者の血の成分と一致したのだった。
また、慶太が通っていた塾には進藤が逮捕されたことによって連日報道陣が塾の周りを囲み報道を続け、高校生犯人3人組については未成年法で名前は公開されなかったが、学校が割り出されてしまい、成徳学園の前も報道陣の集団によって連日報道された。報道陣の情報収集は物凄く早かった。逮捕から3日後の4月26日に神奈川県警が犯人逮捕の件で記者会見を行うと情報を掴み、病院でテレビを見ていた慶太と真理子がニュース速報でその情報を知ったのだった。
*
「あのさぁ。」4月25日、翔二が担任の中島に声をかけた。
「明日さ、学校休んでもいい?」
「はぁ?」中島がその一言で翔二に答えた。
「女子中学生連続強姦殺人した犯人捕まってさ、その記者会見が午後13時にニュースでやるんだよ。午前中だけ授業出て、午後早退でも構わないんだけど。」
「だめに決まってんだろ。」中島がそう言って大量のプリントを翔二に渡した。
「言っとくけどな、29日からゴールデンウィークとはしゃいでもいいが、ゴールデンウィーク後は数学の小テストやるから覚悟しておけよ。」中島がニヤリと意地くそ悪い顔をして翔二に言った。
「はぁ!?嫌だよ!!」
「ちなみに赤点採ったら再テスト。再テストも赤点採ったら再々テストだからな。」にやにやと楽しそうに中島が言う。
「お、鬼!!」翔二はそう言ってプリントを持って教室へと帰って行った。
(くそ、こうなったら携帯のテレビでイヤホンつけて観るか・・・。)と、翔二は思った。
そして、来る4月26日になった。13時に記者会見が行われた。神奈川県警本部の捜査一課の責任者、刑事部長の伊佐美と、管理官の上村がテレビに出ていた。
(なんだ・・・親父は出ないのか・・・。)と、翔二は内心父が出るのかと思って期待していた。刑事部長の伊佐美が事件の内容を事細かく話し、途中で質問が記者からくると受け答えをするの繰り返しだった。やはり、主犯は未成年である事から、個人情報として主犯の犯人の名前などは避けられたが、“有名進学塾に通っている男子高校生3名とその塾の講師、26歳の男を逮捕した”と説明していた。塾講師の進藤の名前は公表していた。
そんな会見の最中、ガラリとドアが開いた。開いたドアを見ると一人の少年がドアの前で立っているのが見えた。
(・・・・石島!?)今検査入院をしている石島が何故、神奈川県警本部にいるのか、翔二はちんぷんかんぷんだった。
開いたドアの前に立っている少年に全員が釘付けになった。
慶太が歩き出し、記者の前まで行き、立ち止まるとその場で土下座をした。記者は何が何だか分からないが、土下座をした慶太に一斉にカメラを回し、写真を撮った。
「き、君!!」上村が石島に声をかけたが、反応はない。
「君も容疑者ですか!?」と、記者の言葉に慶太は土下座をしたまま反応はしなかった。
「彼は容疑者ではありません。むしろ、被害者です。今回、妹さんと一緒に無事に保護した高校生の少年です。」伊佐美がフォローした。すると、石島が声を出した。
「・・・・申し訳・・・ありませんでした・・・。」慶太の言葉に更に記者は写真を撮りまくる。
「どういう意味ですか!?」
「・・・僕は・・・まず、2人目の被害者、加賀絵理奈さんの遺体が遺棄されるのを目撃した人間です・・・。」慶太のその言葉にどよめきが起こった。後ろで見ていたのは3人の被害者の両親たちだった。
「・・・石島・・・!!」テレビを観ながら翔二は呟いた。
「塾の帰り、僕は塾の先生がとある場所に車で来ているのを見かけました・・・。その後、先生と同じ方面に帰るところだったので、挨拶をしようと先生を追いかけたら・・・犯人3人組と何かブルーシートに包まれたものを持って草むらへと消えていきました。おかしいなと思って追いかけると・・・遺棄されたのは全裸で体中切り傷や痣だらけの絵理奈さんの遺体でした・・・。」記者の後ろで加賀絵理奈の両親が顔を震わせた。
「僕は怖くなり・・・逃げようとした瞬間・・・犯人である主犯と目が合ってしまいました・・・。それからです・・僕が狙われたのは・・・。それから・・他にも遺族の方に謝らなければなりません・・・。
自分が妹と監禁された時・・・3人目の被害者・・大野洋子さんが・・ぼ、僕の目の前で服を脱がされ強姦され、殺されました・・・。」また、部屋中がどよめいた。後ろでは大野洋子の母親が泣きだした。
「僕は1回だけ・・・“やめろ”と犯人集団に言いました・・・。そしたら・・・妹を差し出せばやめてやると脅され・・・本当に・・・ごめんなさい・・・!!僕は・・・大野さんをそのまま見殺しにしました・・・!!1人目の鈴野真弓さんもそうです・・・!!あいつと仲良くしていたなんて気づかなかった・・・!!あいつがあんな奴だって知っていれば・・・鈴野さんの事もちゃんと助けられたはずなんです・・・!!みなさん・・・・本当に・・・申し訳ございませんでした・・・!!」その場で部屋中が沈黙した。慶太は土下座をしたまま、動かなかった。
「君の妹は・・・怪我などはしていないのか・・・?」記者の後ろから声がし、慶太は顔をあげた。1人目の被害者、鈴野真弓の父親だった。
「は・・はい・・・。」慶太は涙を流しながら答えた。
「・・・そうか・・・良かった・・・。」鈴野真弓の父は下を向き、涙を流した。
「私たちは君たち兄妹が無事でいてくれてほっとしたよ。また、娘と同じ被害者が出なくて良かった・・・。そして、私たちは君たちをこれっぽっちも恨んでいない。何故ならば私たちが一番今恨んでいるのは、犯人4人組だ・・・。しかも・・娘が信頼を寄せていた塾の講師までもがその犯人だったなんて・・・何を信じればいいのか分からない位だ。
だから・・・君は何も責任を感じる必要はない・・・。」そう言って鈴野真弓の父親が立ち上がり、慶太の元へと向かった。
父親は慶太の傍まで行くと、慶太を抱きしめた。慶太を抱きしめながら声を上げて泣いた。それにつられて慶太も涙をボロボロと流した。その姿を記者たちは思う存分写真に収めた。次の日の新聞やら雑誌の記事には、“被害者遺族と監禁されていた男子高校生、涙の和解!!”などと書かれた見出しで掲載されていた。
翔二はとりあえず、その記事が載っている雑誌を買って、その記事を切り取り、自分のノートに貼っておいた。取り調べの件を父に聞こうとしたら、“お前には関係ない。”と言われ、ぴしゃりと電話を切られてしまった。
金曜日には慶太も真理子ももう退院をしていたようだ。彩芽が翔二達に声をかけ、ゴールデンウィークは一緒に寮の庭でバーべキューをしようと伝えてと言われた。
翔二はすぐさま慶太にラインを送ると、慶太から喜んでと返事が来た。
*
「退院、おめでとーーー!!」寮の庭でジュースを乾杯した。寮生と慶太と真理子が青嵐寮の庭でバーベキューを楽しんだ。
「ありがとう・・・!!」慶太と真理子はお互い笑い合いながらジュースを飲んだ。
「本当、無事で良かったよ!!」和也が慶太に言った。
「今、こうやって無事にみんなと話せているのは・・・海堂君のお父さんたちと海堂君のおかげだよ・・・。本当にありがとう・・・。」慶太が翔二にお礼を言うと、翔二は照れ臭そうにうなずきながらジュースを飲んだ。
「今日はもう嫌な事忘れてパーッとしようぜ!!」拓也が慶太に言うと、慶太も嬉しそうにうん!!と言った。
「お肉いっぱいあるから、いっぱい食べてね!!」彩芽も張り切って肉や野菜を焼いていた。
「今日からゴールデンウィーク!!羽目を外してもいいよね!!」連司が言うと、急に首に腕をかけられた。
「羽目を外してもいいが、ゴールデンウィーク後は数学の小テストがある事、忘れるなよ?」後ろにいたのは中島だ。
「げぇぇぇ!?なかじー何それ聞いてない!!」拓也が叫んだ。
「いや、昨日言ってたよ?」和也が苦笑しながら拓也に説明した。
「うそぉ!?」どうやら、連司も聞いていなかったらしい。
「石島頼む!!勉強教えてぇぇ!!カズも~~!!」拓也が慶太と和也に泣きつき、慶太は快く引き受けた。
「もう・・俺達友達だろ?慶太って呼んでもいいじゃね?」翔二が言った。
「う、うん・・・!!」今、生きている事が夢の様だった。慶太はちらりと妹を見ると、楽しそうに蛍達女子と話していた。こうやって新しい友達が増えるなんて思ってもみなかった。
「ごめんください。」聞きなれた声が玄関から聞こえてきた。彩芽が玄関まで行き、庭へ連れてきたのはなんと、翔二の父、慎太郎だった。
「げ!?何でいるんだよ!?」翔二が嫌な顔をして、父に言った。
「何だ?来ちゃ悪いか。」慎太郎が翔二に言うと、
「そんなことないよ!!翔パパも一緒にバーベキューしよう!!」と拓也が慎太郎の元へと駆け寄った。そんな拓也に慎太郎は微笑んだ。
まず、彩芽に慎太郎はケーキを渡した。
「いつもうちの息子がお世話になっております。あの、これ私の職場の近くに美味しいチーズケーキ屋さんがあるので、良かったら寮の子たちと一緒に食べて下さい。」
「まぁ!!わざわざありがとうございます!!」
そして、担任の中島の元へ行き頭を下げた。
「いつもうちの息子がお世話になっております。先生、うちの息子が馬鹿な事をしたら、拳骨でも何でもしてくれて構いません。」慎太郎が担任の中島にそう言って挨拶すると、
「あ、じゃあ遠慮なく。」と、中島が言い、2人の間に変な結束が生まれてしまった。
「ちょっと待てよ!!」翔二が2人に突っ込むと周りがどっと笑った。笑っていると何故か、慶太は涙が溢れてボロボロと涙を流してしまった。
「・・・あれ?」顔を手で覆い、下を向いた。
「お兄ちゃん・・・。」そんな兄の姿を見て、真理子も涙目になった。
「・・・生きてて・・・良かった・・・!!」肩を震わせ、慶太はまた涙を流した。
「いい言葉だ。」慎太郎が微笑み、慶太の背中を優しくさすった。
「これから先、沢山楽しい事あるからね!!」慎太郎が笑顔で慶太に言った。
「・・・はい!!」慶太が涙をぬぐい、微笑んだ。そんな姿を見て、翔二もにっと笑った。
「えっと・・・。」翔二はノートを開き、シャープペンで書いた。
“人質である石島保護、犯人4人逮捕・・・解決!!”と、ノートに書いた。
翔二の最初の事件はこうして解決したのだった。
第10章に続く。