第8章 兄妹
3人目の被害者が出てしまった。被害者は中学3年生、大野洋子。控えめで大人しそうな女子生徒で黒髪のボブカットが似合う女子中学生だった。死因は首の頸動脈を切り裂かれたことによる失血死だった。
遺体は法医学を携わる病院に送られ、検死を行ってから遺族に連絡、大野洋子の両親が泣き崩れながら愛しい愛娘を抱きしめた。
「惨い殺し方しますね。好きなだけ強姦して、用が済んだら殺すなんて。」丹波も悔しそうに歯を食いしばった。
「ここで悔やんでいても仕方ない。これ以上被害者が出ない為に俺達が出来る事をやらなければならない。今まさに慶太君真理子ちゃん以外の失踪者は出ていない以上、俺達が出来る事はこれ以上の被害者を出さない事。そして、一刻も早く捕まえるんだ。目星はついているんだからな!!」慎太郎が言った。
「じゃあ、一刻も早くあいつらのDNAを採取しないと・・・!!」
「その件だが・・・上が許可してくれないんだ。」
「刑事部長ですか?」丹波が聞いた。
「いや、刑事部長の前に管理官がなかなか・・・。」
「あのハゲ!!」丹波が切れた。丹波の上司は慎太郎だが、慎太郎の上司にあたるのは管理官(警視)、上村だ。上村は嫌味と悪口が大好きな慎太郎の上司。慎太郎が巡査部長だった頃からの直属の上司だったが、面倒な事は嫌いな性分だった。考えがあって言う性格ではなく、慎太郎がこれを調べたい等と相談すると、何かと難癖をつけてはなかなか承諾をしてくれないのだ。
「まぁいいよ。今鬼束君、それからサイバー犯罪対策課に調べてほしい事をお願いしているから、その結果待ちだ。それまでに・・・もう一度あの塾に行こう。」
「・・・はい!!」丹波、千田が頷き、慎太郎について行った。犯人はあの3人組。3人組である事は間違いないんだが・・・。
「そういえば、警部。サイバーに何を調べてもらっているんですか?」丹波が聞いた。
「うん・・・実はな・・・。」
*
翔二は以前石島に送ったラインを見てみた。既読が付いていなかった。石島の携帯は犯人にどこかに捨てられてしまったのではないのかと疑った。
(・・・無事・・・だよな・・・?)途端に最悪の事態を想像してしまった。でも、石島たちがいなくなった後に失踪した大野洋子が先に遺体となって発見された以上、石島たちを殺していないと断定は出来ていた。人の死体は死後数時間で体の内部で腐敗が始まる。4月14日から8日経っている時点で真っ先に殺しているなら2人の死体は腐敗が出始めて自分のそばに置いたままになんて出来ない。まぁ、大野洋子を先に見つけさせる為に石島たちは警察に見つからない場所に遺棄したとすれば話は別なのかもしれない。でも、翔二は石島兄妹が生きていると信じたかった。
「一番手っ取り早い方法はあの斉藤真也を取っ捕まえて洗いざらい聞き出すのが早いけど・・・何か俺が近づくと逆に俺が通報されそう・・・。」翔二は頭を抱えた。何かいい策はないか考えたが、脳みそのちっちゃい翔二では良い策が生まれなかった。
それならばと、次の日、また塾へと足を運ぼうかと翔二は思った。次の日は日曜日だった。一応、塾は日曜もやっているとインターネットでは検索済みだ。翔二は明日、塾へ行く事を決意した。階段を降りて、一服しようとリビングに向かった。すると、リビングでは蛍がホットカフェオレを飲んでいるところだった。
「蛍、ココアか何かある?」翔二が蛍に声をかけたら、蛍は驚いた顔をして振り向いた。
「な、何だよ?」
「う、ううん・・急に声をかけられたからびっくりしただけ・・・。今、私しかいないかと思ったから。」蛍がにっこり笑って答えた。
「え?みんなは?」
「彩芽さんはお買い物で、優奈ちゃんと美由ちゃんと杉山君はアルバイト、鬼灯君は弟君を迎えに一回実家へ帰って、安藤君は多分、まだ部活から帰ってないかな?」
「ふーん・・じゃあ、俺達が留守番か。でも、19時前には帰ってくるだろ?」今夕方の17時40分だった。今日は翔二も蛍もバイトは入ってなかった。
「蛍、明日暇か?」
「あ・・・明日は12時からバイトが入ってるの・・・。」
「あ、そっか。またあの塾に行こうかと思っていたけどバイトなら仕方ないな。」翔二は苦笑した。蛍はごめんねと言ったが、翔二は手を振って答えた。
「あ、あそこの食器棚にココアあるよ。」
「おう。」蛍に教えてもらって翔二はココアの紙パックを開いてコップに注いだ。少しの間、二人の間に沈黙が流れた。蛍は何か話さなきゃと思い、口を開くと翔二も同時に口を開いたので、二人の声がはもったのだ。
二人は気まずそうに下を向いた。
「な、何だよ?」
「う、ううん・・・あれから・・・石島君の事とかどうかなって・・・。」
「あぁ・・・実は・・・まだ、ニュースにのってねぇけど・・・もう一人別の中学生が行方不明になっていただろ?そっちが先に遺体で発見されたんだ。」
「・・・え!?」蛍は驚いた。
「犯人は3人だ。高校2年の3人組で間違いはないんだけどよ・・・何か・・腑に落ちなくて・・・。3人とも別にバイクとかの免許とか持っていないんだよ。」
「じゃあ・・・どうやって女子中学生の遺体を山奥まで運んで遺棄したかが謎なんだ?」
「うん・・・。だって・・・3人で女子中学生を運ぶなんてなると絶対目立つだろ?それに、遺体はバラバラにされてなかったから、バラバラ死体にして運ぶのも不可能なんだ。」
「一つの手段としては車か何かだよね?と、なると・・・これは私の推測だけど・・・タクシーか何かを使って運んだのかもしれないね?」
「そっか!!タクシーなら運べるな!!さすが蛍!!」翔二が目を輝かして蛍を見た。
「で、でも・・・あくまで私の推測だから・・・あんまりあてにしないで・・・。」ほめられて蛍は思わず顔を真っ赤にした。その瞬間、彩芽が帰ってきた。
「ただいま~。」二人は彩芽の声が聞こえるまで結構近い距離で話しているのに気が付かなかった。思わず、翔二は蛍のそばから素早く離れた。
「お、おかえりなさい!!」蛍が彩芽に言うと、翔二はその間に逃げる様に階段を上がって行った。
(・・・びっくりした・・・!!)部屋に戻って机に向かい、頬杖をつくと、顔が熱かった事に翔二は気づいた。
*
「こんにちは。」突然声をかけられて鬼頭と本田は振り向いた。後ろを振り向くとスーツ姿の男性3人が自分達に声をかけたのだ。
「・・・こんにちは。」鬼頭と本田はとりあえず挨拶をした。
「神奈川県警の者です。海堂と申します。今、お時間宜しいですか?」慎太郎が控えめに警察手帳を見せると2人は斉藤の時とは違って明らかに動揺していた。
「な、何でしょう・・・?」恐る恐る話を聞いて、慎太郎はいくつか2人に質問をしてそれに答えるとすぐに2人を解放した。内容は、やはり、今までの事件の女子中学生を知っているかと、石島とは知り合いだが、その妹の顔は見た事がないかと、バイクか何かの免許を取っているかとの質問だった。2人とも、斉藤と同じ回答をしてその場を逃げる様に立ち去った。
「・・・共犯・・・ですかね?」丹波が言った。
「多分な。でも、あれだな。斉藤真也のように落ち着いてはいなかった。分かっているんだろう・・・自分達が馬鹿な事をしている事に・・・。」
「斉藤真也は・・あの二人を脅していると思いますか?」千田が言った。
「可能性はなきにしてもあらずだ。」慎太郎が答えた。
一方翔二は、蛍に言われた通り次の日、タクシー会社に聞いて回ったが、最近高校生くらいの男子3人を乗せた覚えはないと言われてしまった。
「まぁ・・・1日に何十人も乗せているだろうし・・・覚えているわけないか・・・。」翔二は肩を落とした。翔二はスマホを起動してニュースを見た。昨日以来、行方不明になっている女子中学生や石島たちの事はニュースになってはいなかった。何とかしてこの4月中に石島たちを救出したい気持ちでいっぱいだった。高校入学したばかりなのにこんな事件に巻き込まれるなんて・・・翔二はやるせない気持ちでいっぱいだった。
そんな時、電話が鳴った。相手は鬼束だった。
『翔二殿?今どちらにいらっしゃいますか?実は美味しいバームクーヘンを頂きましたので、翔二殿もどうですか?』
「いいの?」バームクーヘンと聞いた途端、翔二はお腹の虫が鳴った。
『もちろんです!!是非県警本部にいらしてください!!』
「行く!!」翔二はスキップで県警まで足を向けたのだった。
県警に行くと、鬼束が県警前で待っていてくれていた。
「お待ちしておりました、翔二殿!!」
「お、鬼束さん・・・毎回思うんだけど・・・俺の事は翔二でいいよ・・・。そんな殿なんて言われるほどいい身分じゃないし・・・。」鬼束は優しくていい人だけどどうも、自分が鬼束に敬語を言われているのは何か鬼束の方が年上なのに申し訳がなく翔二は思っていた。
「何をおっしゃいますか!尊敬する海堂警部の息子殿を呼び捨てにするなんて出来ません!!」鬼束がニコニコしながら翔二に言った。
「そ、そんなに親父の事を尊敬してるの・・・?ただの親父じゃん・・・。」翔二は首を傾げながら鬼束に質問した。
「とても・・尊敬しております。多分、丹波刑事も警部の事尊敬しておりますよ。」
「あの親父も!?」翔二は余計びっくりした。
「海堂警部に睨まれた容疑者はもう犯人だと思われていいと思っております。私は鑑識になってまだ2年ですが・・・たった2年一緒に仕事をしていただけて海堂警部の凄さを思い知りました。この方についていけば、迷宮入りの事件なんてないと思っております!!」鬼束は目を輝かせながら言った。
翔二の自分の中の父親の記憶は、『勉強は終わったのか!?』、『いちいち俺の事件に首を突っ込むな!!』、『学生の本分は勉強だ!!俺の事件はいいから勉強しろ!!』等々だ・・・。そういえば・・・刑事としての父の姿をちゃんと見たのは、1年前の良平の両親が亡くなった時の事情聴取の時と、この間良平と一緒に県警本部で死神真治の事を教えてもらった時くらいだった。
「きっと、翔二殿も刑事の顔をした警部を見ましたら、警部のような刑事になりたいと思えるようになりますよ。丹波刑事もその一人でしたから・・・。あ、でも丹波刑事もとても素敵な刑事ですよ。きっと翔二殿も憧れます。」そう言われた瞬間、翔二は『えー!?あのくそ親父を俺が!?』と、思った。完全にないと思ったのだった。
急に奥から話声が聞こえた。部屋の陰から顔を出してみると、父達が帰ってきていた。慎太郎達は他の刑事と話をして、何か紙を貰っていた。
「海堂警部、お帰りなさいませ。翔二殿がいらっしゃってますよ。」鬼束がひょこっと顔を出した。
「すまないね、鬼束君。うちのバカ息子の相手をしてくれてて。」そう言いながら慎太郎が入ってきた。
「何貰ったんだよ?」翔二がバームクーヘンを食べながら慎太郎に聞いた。
「お前には関係ありませーん!!」嫌味ったらしく丹波が言って、ひょいっとバームクーヘンを一つ貰って丹波は口に含んだ。
「さっきの人はサイバー犯罪対策課の刑事だよ。」千田が翔二に説明した。
「何でサイバー犯罪?」翔二が聞いた。
「だからお前には関係ねぇっての!!」丹波がそう言って最後の一口のバームクーヘンをまた、口に含んだ。
「俺はお前に聞いてません!!」翔二も丹波に突っかかる様に言い返した。
「丹波君の言う通りだ。お前には関係ない。」慎太郎は翔二に冷たく言い放つ。
「時に翔二。お前タクシー会社に何を嗅ぎまわっていたんだ?」慎太郎が翔二に問いただすと、翔二はぎくっとした。
「高校生くらいの男の子がやたらと変な物を持ってきた高校生くらいの男3人をタクシーに乗せなかったかとタクシー運転手に聞きこんでいると話を聞いてな。どうせお前だと思って。」白けた顔をして慎太郎は翔二を見下ろした。
「べ、べ、別に・・・。」翔二は口をもごもごさせた。
「どうせ、お前の小っちゃい脳みそだと高校生3人組が大きな荷物を持ってタクシーを使って遺体を遺棄した、とかだろう。だが、そんな明らかに私たちはこれから遺体を遺棄しに行きますとか言うような行動を天下の成徳学園の生徒がすると思うか?」慎太郎がコーヒーを飲みながら翔二に問うた。
「じゃ、じゃあ・・・あいつら免許持ってないって言ってたけど、嘘をついてバイクってか原チャリ?とかの免許を持っているとでも?」と、翔二が聞いた。
「ふん。嘘をついた時点で調べている俺達にすぐにバレるさ。彼らは特に斉藤真也はそれを計算して俺達に答えている。だから彼らは何の免許も持っていないさ。」
「は?じゃあどうやって遺体をあんな色んな所に遺棄してんだよ!?」
「その答えを推理できなければお前はまだまだだな。逮捕されるまでまぁ一生懸命考えてろよ。」慎太郎の言葉に翔二はむっとした。
やけ食い気分でバウムクーヘンを頬張ると急にスマホが大きな音で鳴り始めた。ここにいる全員のスマホがそうなった。
「おやおや、地震が来ますね。」鬼束が言った。そう、地震を知らせる災害アラームが全員の携帯からなり始めたのだった。
「うわ!!」急に床が激しく揺れた。揺れは2分ほど続いた。
*
あれから何日経っただろう・・・。慶太はふさぎ込んでいた。そして、隣でぐったりしている妹が本当に心配だった。
2日前の事だった。妹と同じくらいの女子中学生が目の前で男に強姦され、そして、殺されたのを見せつけられたのは。
妹は2日前、自分と同じくらいの女の子が男達に強引に服を脱がされ、犯され、殺害されていくのを間近で見た為、ショック状態でふさぎ込んでしまった。もちろん、慶太もそうだ。無理もない。こんな生々しい光景を見たなんて誰にも言えない。ましてや、助けられなかったなんて・・・。怒りと気持ち悪さで頭がおかしくなりそうだった。
これからもこんな生活をずっと続けるわけにはいかない。下手したら妹が次の被害者になる可能性が高い。今、奴らは全員いない。チャンスだ!!そう思った慶太は立ち上がった。と、その時ぐらっと立ち眩みでもしたのかと思った。
「・・・え?」床が揺れたのだ。そして、ガタガタガタッと家全体が揺れたのだ。
「地震!?」立っていられない位、家が揺れた為、妹を守る様にしゃがみこんだ。近くにある小さな収納引き出しが揺れていた。その中に何かがあるのを見つけた。引き出しが地震の揺れが原因で空いたり閉まったりしていた為、見覚えのある色の物がちらちら見えたのだ。
慶太は床に這いつくばって体を動かし、引き出しがあるところまで移動した。引き出しの所まで移動できた時、口で引き出しを開けると、奪われていた自分の携帯電話が入っていた。
「あ・・・あぁ!!」嬉しさのあまり、泣きそうになった。その瞬間、地震の揺れがやんだ。慶太はその引き出しに鋏もある事に気づき、鋏で自分を縛っている縄を切り落とした。そして、すぐに妹を縛っていた縄も切り落としたのだった。
「真理子!!」慶太は真理子に自分の携帯の電源を入れた後に通話履歴などを見せた。
「この・・・海堂警部・・・それからこの人がその息子さんだ!!どっちでもいい!!奴らの事は俺に任せてこの二人のどちらかに電話して助けを求めるんだ!!それまで・・・奴らは俺が引き付けるから!!」
「い・・・嫌だよ!!お兄ちゃんも一緒に逃げよう!!」真理子は慶太を説得しようとした。だが、慶太は首を横に振った。
「俺も一緒に逃げて・・・二人とも捕まったらもう・・完全に父さんと母さんに会えないぞ・・・?真理子!!これは俺を生かすためにお前にやってもらわなきゃいけないんだ!!お前の為にも俺の為にも・・・走ってくれ!!」慶太が、兄が自分に頭を下げた。真理子は涙を流した。
「必ず・・・必ず・・・この刑事さん達に連絡してお兄ちゃんを必ず助けに行くから!!」真理子と慶太は抱き合った。そして・・・真理子は窓から走り出した。
「・・・・頼む・・・真理子・・・。気を付けてくれ!!」慶太は涙を流した。それは一瞬だけ。後は・・・自分が出来る事をする為に犯人が帰ってくるのを待つのだ。
*
地震の揺れは2分程続いた。ゴチッと何か鈍い音が近くで聞こえた。上を向くと何故か自分は丹波に壁ドンされていた。丹波は苦い顔をしていた。下を見ると歴代の警察署長の写真の入った額縁が床に落ちていた。
「震度4弱だそうだ。丹波君、大丈夫か?」慎太郎が丹波を支えた。
「大丈夫です。」苦笑しながら丹波が答えた。
「丹波刑事、どうぞ冷たいタオルです。」鬼束がタオルを丹波に渡し、丹波はそれで頭を冷やしていた。色々すぐに動くので翔二は丹波にお礼を言いそびれてしまった。
立ち上がった瞬間、自分の携帯のバイブ音が鳴った。
(電話・・・?)自分の携帯を取り出した瞬間、翔二は驚いた。
「お・・・親父!!」翔二が父、慎太郎を呼んだ。慎太郎は振り向くと翔二が見せている携帯に目を向けた。電話の相手は石島慶太だった。
「・・・出て見ろ。その間鬼束君!!逆探知機を頼む!!」慎太郎の指示に鬼束がダッシュで逆探知機を取りに来た。携帯に機械を繋ぐアダプタをつけて翔二は携帯を出た。
「も・・・もしもし?」電話の相手は息が切れていた。ハアハアと息をする声が聞こえてきた。
「・・・・もしもし?」息遣いが聞こえるだけだった。その後、相手が喋りだした。
『か、海堂君ですか!?私・・・石島慶太の妹・・・石島真理子です!!』
「石島の妹の真理子ちゃん!?無事だったんだ!!」翔二は電話相手に声をかけながら父を見た。鬼束はパソコンを操作しながら電話相手の位置を懸命に調べていた。慎太郎は手を招いて電話を貸すように指示した。
「待って・・今ちょうど親父がいるんだ。刑事だよ。代わるね。」翔二は父に携帯を渡した。
「もしもし、海堂です。石島真理子さんですね。今の状況を詳しく教えてくれますか?
それから今・・・。」急に父が喋るのをやめた。
「親父?」急に喋らなくなった父を見て、翔二がきょとんとした。
「真理子さん・・・。一回・・・電話を切っても宜しいでしょうか?必ず私の方からかけ直します。」そう言って父は電話を切ってしまった。
「おい!?親父!?」突然の父の行動に翔二は驚いた。すると、父は翔二の携帯で早打ちで真理子宛てにラインを送った。内容はこうだ。
『お兄さんの携帯は盗聴器が仕込まれている可能性があります。これからこのラインで指示をしますので、連絡はこのラインで取り合いましょう。』と、真理子宛てに父はラインを送った。
「おかしいと思わないか?今の今まで携帯は取られていたのに何故急に見つける事が出来た?犯人がわざと見つけさせたとしか思えねぇ。」慎太郎が言った。
「と、言いますと?」千田が聞いた。
「電話口で変な雑音が聞こえた。これは盗聴器が仕掛けられている証拠の典型だ。」慎太郎の言葉に翔二は唾を飲み込んだ。
「鬼束君、探知は出来たかい?」慎太郎が聞いた。
「はい!!ばっちりです!!場所は神奈川県秦野市内です!!」鬼束が言った。
「すぐに出動する!!まずは被害者の保護を最優先に動く事!!」慎太郎が部下に指示をした。そして、パソコンを見た。近くにコンビニがある事を見つけた。ラインでコンビニに保護してもらうように真理子に指示をした。そして、すぐにそのコンビニに連絡を取り、自分達警察がくるまで真理子を保護している事を誰にも伝えないようにコンビニの店員に伝えた。数分後、真理子はそのコンビニに保護されたとコンビニから連絡を貰った。他の班の捜査員が真理子の保護を担当することになり、慎太郎達の班が慶太が監禁されている家へ行き、慶太の保護、また犯人逮捕を担当することになった。
鬼束が慶太の携帯を解体した結果、やはり、盗聴器が仕組まれていたことが発覚した。
「さすが海堂警部です・・・。」鬼束が言った。
「そういえば鬼さん・・・。海堂警部の息子君は?」鬼束の同期の鑑識員が聞いてきた。
「翔二殿は海堂警部について行きました。」
「え?まじで?俺達息子君の事も家かなんかに送る事言われなかったっけ?」
「多分、今頃警部も丹波刑事も同じ車にいる翔二殿に驚いているでしょうね。」鬼束が笑顔で言ったが、同期の鑑識員はそれでいいのかと思い、苦笑した。
「あの・・・兄は・・・。」真理子が震えながら鬼束に聞いた。
「大丈夫ですよ。必ずお兄さんも助けます。だって、お兄さんを救出しに行った警部は神奈川県警本部一、頭のキレる刑事なんですから。」鬼束の優しい笑顔に真理子は今までの恐怖から解放されてほっとしたのと兄が心配で仕方がない事と同時に涙をボロボロ流した。
一方、慎太郎達はどうやら、慶太が監禁されている家を見つけたようだ。
「警部!!あれ斉藤真也です!!ビンゴです!!」丹波が言った。とある家に斉藤真也が入って行ったのを見つけた。車から出て家に近づくと話声が聞こえた。斉藤真也の他に、あと2人いる事が声で分かった。どうやら、本田純一と鬼頭祐希もいるらしい。殴るような鈍い音が聞こえた。
「おい、妹どうしたんだよ!?」鬼頭が慶太の胸倉を掴んで殴りながら聞き出そうとした。
「教えるわけねぇだろ・・・!!大事な妹・・・あんたらに酷い目に遭わせられたら俺は兄貴失格だ・・・!!」顔、体中を殴られながらも慶太は必死で3人を足止めしていた。
「ふ、ふざけやがって・・・!!」本田がまた殴ろうとした時、斉藤が声をかけた。
「もういいよ。どうせそう遠くには行ってねぇだろうし、後で連絡するさ。だけど・・・。」斉藤が立ち上がった。鉄パイプを持って・・・。
「お前はもう用無しだよ。」不気味な笑顔で鉄パイプを振り上げた。このまま慶太を亡き者にし、真理子は探して強姦して殺せばいい。斉藤はそう思っている。慶太を殺す気満々だった。鉄パイプを勢いよく慶太の上に振り落とそうとした瞬間、呼び鈴が鳴った。
「・・・行け。」斉藤は鬼頭に指示をした。
(・・・・真理子・・・!!)きっと自分はここで殺される。最後に妹の名前を心の中で呼んだ・・・。鬼頭がドアを開けたその瞬間・・・・。
ドガぁ!!!と、ドアがぶっ壊れた音が聞こえた。ドアの方を見ると、鬼頭がドアの下敷きになっていた。そして、一気に3人の男達が本田、斉藤を取り押さえた。鬼頭はドアの下で気絶しているのを翔二が確認した。慶太は目を見開いて驚いた。あの時の・・・刑事さん!!
「斉藤真也、本田純一、それから鬼頭祐希!!誘拐監禁、傷害の罪で緊急逮捕する!!」慎太郎が斉藤を抑え、丹波が本田を抑えた。そして、2人に手錠がかけられ、ドアの下敷きになっている鬼頭も千田に手錠をかけられたのだった。ドアを蹴破ったのは空手3段持っている翔二だった。
翔二はすぐに慶太の元へと駆け寄った。
「ま、ま・・真理子は・・・!?」慶太がすがる様に翔二に聞いた。
「大丈夫だ・・・神奈川県警がちゃんと保護したぜ。安心しろ。」翔二は慶太を支え、背中をさすった。翔二の言葉に慶太は大声をあげて泣き始めた。
(終わった・・・やっと・・・やっと終わったんだ・・・!!)その後、慶太と真理子は病院で再会を果たした。
第9章に続く。