漸くの自覚
その頃ですが
勤務していた某某企画会社で、
某先端技術の機械の専門家向けのマニュアル作りを
先輩が担当していました。
すると、
週に一日
お客様のお偉い方が、やって来て
そうすると、
手がけた仕事を放り出して、
すべてそのお客様に対応しなければ成らなかったのです。
お客様が来るや否や、
即、口述筆記宜しく、
マニュアル用の文章を、云われたまま
ワープロで必死に打ちまくる。
または、お客様の蚯蚓の
這いずり回った様な文字を
解読しながらワープロを打つ。
そして、写真や図面を
切り貼りして、
即レイアウト
20〜30ページのレジメを作るんです。
毎週その魔の一日がやって來る度に
先輩はノイローゼ状態になり、
会社を止める事に成りました。
さて、
次に白羽の矢が立ったのは
誰でしょう。
誰有ろうこの私めでした。
「ねえ、済まないが担当して呉れないか。」
私はぐずり、何度もお断りしましたが、
お客様は待ってくれません。
仕事としては大した売り上げでは有りませんが、
他の大きな仕事を取る為には、
欠かせない業務だったんです。
到頭私も諦めざる負えませんでした。
私の番がやって来ました。
毎週この突然の
招かれざる客には
ほとほと参りました。
どやされ乍らの
一日でした。
私もやがてはノイローゼか…
と、
ところが、
ある日私は考えました。
私はプロとして、
お客の云われたものを作る
それが仕事…
そう思って居ましたが、
云われた侭にやる事が
本当にプロとしての生き方か…
私はこのお客様の仕事をするに於いて、
私はデザイナーで、
機械のプロでは無いから…
と
いつも逃げがありました。
お客が依頼する
その願いは 一体何なのか
それを認識出来なくてプロと云えるか…
それは当たり前の事で、
初歩的な事なのですが、
思い立ち、
その専門分野の資料を
図書や、辞典、お客様の資料等で
学び始め、
B5ノートに書き、貼り込み、それが増えて
ノート三冊位に成った時
お客(蛇蝎の様に嫌っていた)様に
それとなくお見せした時
「よっ、やってるな。」
にっこりと笑ってくれたお客様の笑顔に
救われました。
漸くプロとしての基本ラインに着けた私でした。




