パワー(スペクトル密度)が周波数fに反比例するゆらぎのこと。の事ではない。
上野駅から青電と赤電が出ていた。
所謂、常磐線の各停と、快速であった。
片道電車で一時間を越える事は初めは辛かった。
しかし、親の臑を齧っている身には
贅沢そのものだった。
電車で名も知らない数十の駅を、
雨の日や、雨でなくても時間調整等で通学時間が長引くと
厭世気分に成り勝ちでは有った。
長い電車移動の時間が終わると、
最終駅が取手駅だった。
駅の直前には大利根川があり、
坂東太郎として有名だった。
駅から路地に入り、街道を突っ切り、川沿いの狭い道に
一軒の自動車の修理工場があった。
木造二階建てで、階段を昇ると、
アパート自体がゆらゆら揺れる代物であった。
「こいつは良いや、最新の柔構造だ。」
前の道を車が通ると、またまた揺らぎ始める。
管理人が去って、宵の時間になると
廊下の裸電球が侘びしく(勿論自動式に点灯する筈は無い)
点いた。
二階の廊下には、古びた荷物に埃が溜まり、
あまり勢い良く通ると舞い上がり(気分の問題ではない)そうだ。
一番初めの私に割当てられた部屋は木製の引き戸に小さな
磨りガラスの窓が空いていたが、
次の部屋から、一番奥のトイレ迄は
各部屋は透きガラスの引き戸で、部屋の中が丸見えで
住人は居なかった。
なんとオープンな
開放感あふれるアパートだった。
反対のトイレの向こうは利根川の土手で人家は無かった。




