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9.VS エイリーン・アルドリッジ(4)

ちょっと短めです。

「さて、エイリーン女史。互いの認識を確認したい」

「良いでしょう」

「戦争を回避する。この点において共通する。そのことについて明確に言質を頂きたい」

「アルドリッジは。というよりワタクシ個人が戦争は無益な……いや、より言えば損を齎す行為だと認識しています」


 ディントはそれを聞いて首を傾げた。

 先のジェリセの説得に応じたということは、確かに戦争を別に望んでいたわけじゃないのだろうが。

 しかし、それにしては強硬的な手段も辞さなかった辺り、無茶苦茶ではなかろうか。

 そう思ったのが、顔に出てもいたのだろう。エイリーンは何かに気づいたというようにピクと、狐耳を動かしながらそれに答えた。


「そこの子が言いたいことは分かりますわ。

 ……利益の最大化。初めて聞いたけれど、いい言葉ね。ワタクシの行動原理はまさにそれなの」

「つまり、最初にこちらが国力を背景とした脅しに屈すれば何を要求しても通りうる。

 その甘い誘惑には彼女は抗えなかったというわけだ。理性的であるが故に」


 ジェリセがそれを補足するようにすると、狐の女貴族は我が意を得たりと大きく頷いた。

 ディントにはいまいち納得しきれないものがあったが、そういうものかと取り敢えず頷いてみせるしかなかった。

 あの行為は野蛮に過ぎるようにも、思うのだが。


「理性的な蛮族というのは、存在しうる。

 知識がなくとも、最適解が取れる上に暴力装置の使い方を心得た類の連中だ。

 彼女はそれ以上に知に富んでいるようではあるがね」


 ジェリセがいつものように、誰かに講義をするようにディントにそう諭した。


 暴力、武力、国力。


 そういったものさえ交渉の札の1つなのだと。

 そう割り切り、行動できる者は確かに居るのだと。そう言っていた。

 ディントは疑問を抱く。……自分は、甘いのだろうか。世間知らずに過ぎるのだろうか。


「そして戦争は、その利益を徹底的に損なうわ。

 他所でやってくれる分には、物資の消耗がワタクシたちに利することがあって潤うこともあるけれど」


 他所でなら戦争が起こっても得を出来る。

 この商売に詳しい人間の論理も、ディントは正直あまり理解できる領域じゃなかった。


 帳簿を読めるが、そこからどんな意味を読み取るかはそれぞれ違う。

 恐らくジェリセやこの目の前の人物はディントとは違う目線でそういった数字を見ているに違いなかった。

 ディントにとってみれば、戦争とは自らの意思を武力に任せて押し通そうとする行為に他ならず、そしてリュヌにとっては、自国を守ることそれが戦だと考えている。

 商売の種になろうはずもないし、そういった観点で見ることが戦への侮辱だとさえ思う。


 その為の皆兵政策。その為の厳しい立地に適応した戦争想定。

 自ら他国を侵すというリスクとその愚は、恐らく今代の女王は理解しているはずだし、そう信じている。

 周りが大国であるというのもあるが、自ら戦争で危険を晒してまで他国を飲み込もうとするその意志が、あまりディントには想像できなかった。


「素晴らしい戦争経済論だ。

 確かに、例外を除いて戦争は経済的損失の方が大きい。

 貴女ならそれを理解してくれると思っていましたよ」

「当然ですわ」


 ナチュラルな上から目線の言葉に、それは賞賛として受け取るエイリーン。

 どうやら元来から、どちらも自信家でエイリーンは特にそのケが強いようだ。

 2人の相性は良いのかもしれない。

 これはまぁ、今後も付き合いがあるという意味では良いことだろうか。


「……そう、ソレイユのような例外を除いてね」


 そう独りごちたジェリセの言葉は、ディントの耳にだけ届いたのだろう。

 その意味を噛み砕く前に、エイリーンが切り出した。


「それで、ジェリセ殿?」

「うむ」

「ワタクシに、何をお望みで?」

「それなのだがね」


 ジェリセはツルリとした自分の頭を撫でた。


「まず、第一にアルバへの政治工作。つまりは、非戦派として戦争論を抑えてもらいたい」

「ふむ。ここまで強調してきた事柄から見て妥当ですわね」


 ディントとしても、頷ける内容だ。このために此処に来たと言って良いのだから。


「以上でよろしくて?」

「とんでもない。その程度で帰っては次に繋がらない」


 次?

 ジェリセはその言葉を言ってから、珍しくまた考えこむようにした。

 いつも明朗に考えを述べる彼にしては珍しい。何かを躊躇っているのか。

 或いは自らの考え、仮説について考えなおしているのか。


 とにかく、怪訝そうにこちらを見ているエイリーンのこともある。

 ディントはジェリセに先を促すことにした。


「次とは、どういうことですか。今後の交渉の約束でもするのですか」

「当然、それは必要だね」

「まるでそれだけじゃないというような言い方です。何が気になっているのですか」

「うむ。……いや、そうだな。言うべきか」


 歯切れが悪い。

 ディントまで怪訝な顔をしてしまいそうなところで、ようやくジェリセは言った。





「ソレイユと、繋ぎを取って欲しい」





 その言葉は、ジェリセ以外の誰もが予想していなかっただろう。

 場に衝撃を齎した。




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