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静かな夜のような
「あっ、しまった……!」
「どうしたの?」
玄関からリビングに続く廊下の真ん中くらいでシトラスが声を上げた。すると、洗濯場を通って戻ってきたギールが疑問に思って訊ねる。ギールはソファーに取り込んだ洗濯物を置き、廊下へと歩いていった。
「エディス様に電話機を繋いでもらうのを忘れていました」
床に置いているダンボールに手をついているシトラスは困り切った顔でギールを見上げる。
「電話?」
「壊れたので、昨日新しいのを買い換えたんです。ああ、これじゃあ誰からも連絡が繋がらない」
爪を噛むシトラスを見て、ギールは同じようにしゃがむ。
「貸して。やるよ」
「えっ。……あなた、できるんですか?」
「うん」
はあ、と呟き、箱をギールに渡した。ギールはガムテープをはがし、電話機を中から取り出す。
「君が機械苦手とは意外だね」
「兄さんは得意なんですけど、僕はちょっと」
ブラッド家らしくないですよね、と俯くシトラスの頭をギールはそっと撫でた。シトラスが顔を上げると、ギールは微笑みかけてくる。静かに街を包む夜のように。
ギールとシトラス:「電話」