相応しくない花の贈り場所
「シトラス、シトラス、シトラァースッ!」
どたどたと誰かが走っている。エディス様に注意される声が聞こえると静かになる。そうなると、これはあれか。あれの声か。
「なんですか、エドワード」
「プレゼントだよー」
「はあ……」
いきなりなにを。正直どうでもいい。この子に物を貰う程自分は落ちぶれていないのだから。第一今日は誕生日でも、お祝いを貰うような日でもない。
「はい、どーぞ」
ばさっと赤いものに視線を閉ざされる。
「な、なにをっ!」
「カーネーションだよ」
どけてみると、それは確かに優しい赤の色合いをする花。
「……なぜ」
「なぜって。分からないの?」
首を傾げる、エドワード。分かるはずが無い。
自分は女でも、なんでもないのだから、花など貰うのはこれが初めて……いや、一度エディス様に貰った事があるけれども。
「分からなかったら、兄さんに聞けばいいよ。教えてくれたのは兄さんだから」
とにこにこ笑顔にスキップで、元気よく去って行く子ども。
「エディス様、一体なんですか。どうしてカーネーションなど、僕に?」
「ああ、昔は今日を『母の日』と言っていたらしいぞ」
パタンと分厚い文献をエディスが閉じる。
「それは、どういう日なので?」
「日頃の母の苦労を労り、母への感謝を表す日だよ。カーネーションを渡す子どもが多いんだってさ」
つまりは。つまり、自分は。
「……エドワード」
「なに?」
靴を履いて外に出ようとしているエドワードの首根っこを捕まえ、
「ちょっとこっちに来て、座りなさい」
「え? え? え? なに、僕なんかした!?」
ずるずるとリビングのソファーまで引っ張って行く。そして引きずられた上に座らされ、きょとんとした顔をするエドワードににっこりと微笑み。
「エドワード、お母さんを怒らせると、怖いんですよ」
そそくさと逃げようとするエディスの腰を掴み、座らせた上。
「二人共、少しお話をしましょうか」
ギールが帰ってくるまでの三時間。シトラスの長ーい、お話は続いた。