友は遠く
昔は城に行くのが楽しかった。そこで年下の友人たちと会い、くだらない話や大事な話をするのが楽しみだった。
けれど、とミシアは白い宮殿を見上げる。今は、苦い気持ちになるな、と眉を寄せた。たった一人の男によって、ここは薄汚くされてしまった。全てをとられた――と拳を強く握ったミシアの肩をぽんっと誰かが叩く。
振り向くと、よう! と白い歯を見せて明るく笑うビスナルクが、片手を上げて立っていた。
「こんな所でなにをしているんだ。珍しい」
「あいにく、エディスが任務でいなくてな。代わりに来てやった」
「それはさらに珍しい」
「なんでだ。俺はけっこー優しいんだからな」
ビスナルクはははっと笑い声を上げ、そうかもしれないなと顔を向けてくる。
「知ってるか?」
「なにを」
「エディス、あそこに入りたいみたいだぞ」
笑顔をふっと消し、鋭い目で見てきたビスナルクに、ミシアも目を細めた。
「アイツ、馬鹿だからな」
「口で言ってもなーんも信じないだろうし、困ったな」
ぷうっと息を丸く吐いたビスナルクに、ミシアは首を縦に動かす。
「ま、頑張って抵抗するさ。最後の一人は俺が持ってるから」
「そうしてくれ」
ビスナルクが顔をやったので、ミシアも城に顔を向けた。
「ブラッドの奴以外は、誰もアイツに死んでほしいと本気で思う奴なんていないのに」
「ああ」
アイツがまともな状態なら、自分の子どもくらい片手で抱いて守れるだろうに、とミシアは舌打ちをしそうになった。
「忌々しい血の一族が」
ミシアとビスナルク:「城」