家族遊び
扉を見つめた。家の扉を見つめた。自分の家だ。自分の。初めて、自分の家に帰る。どうしてそれだけでこんなに緊張してしまうんだろう。普通だったら、そんな事ないはずだ。なのにどうしてこんなに、緊張するんだろう。
「た、ただ……いま」
扉を開けて、たった一言言うだけ。それだけなのに。戦闘に出る前よりもずっと、緊張した。なにしろこの言葉を言うのは初めてなのだ。
「……いないのか?」
返事は、ない。それに少し苦笑する。仕方ない。彼は自分が勝手に連れてきただけなのだから。
大きなリビングの横を通り、上の階に行こうとする。すると、微かになにかが聞こえてきた。
「なんだ?」
声につられるようにして進んで行く。微かに聞こえてくるそれは、歌っているようだった。
「コショウふりふり塩ぱっぱ~砂糖ぱっぱ~醤油ぱっぱ~酒は飲んでも呑まれるな~」
「…………は?」
あまりの事に少し呆然としつつ、小走りになって声の元――キッチン――まで行くと、そこには一人の青年がいた。
「『シトラス』」
「はい?」
くるっとその青年がこちらを向く。その身にはフリルのエプロン。
「エディス様、お帰りなさいませ。今、ご飯作ってたんですよ」
にっこりと微笑まれ、なにも言えなくなる。
「……ただいま」
「え、あの……え!?」
少し哀しくなって、寂しくなって、凄く嬉しくなった。「家族」に抱き付いてみたけれど。やっぱり、涙の色は染み付いていた。
ごめんなさい。僕の擬似家族。