可愛いストーカー
「エディスにストーカー?」
たまたま報告書を提出しに行こうとして戦闘科棟の中に入った。どこも時間との戦いなのは変わらないが、他よりも殺伐とした雰囲気の廊下を歩いていると、知り合いの名前が頻繁に出てくる会話が耳に入ってくるのがどうにも気になり、近くで話していた奴に訊いてみた。その結果がこれだ、エディス准将にストーカーがいるらしいんです。まあ、なんというか、ありえそうな話だ。 「そのエディスは今何処にいるんだ?」
ただのストーカーならまだいいが、ストーカーじゃなかった場合――例えば、反軍の残党だったりした場合――危ない。アイツがそう簡単にやられるとは思わないが、一応ってこともある。
「それが……どうも外に出て行ったようなんです」
危機感が足りねえ。お前らも止めろよ、馬鹿か。
「いつ」
「さあ。いつかは、ちょっと」
役に立たねえ、それでよくやってられるな。どうせ、少し前なんだろう、と勝手に決めつけ、話していた奴に適当に礼を言ってから別れて、危機感の足りない馬鹿を迎えに行くことにする。どうせ視察だろうから、すぐに帰ってくるだろう。
涼しい顔で普通に正面玄関入ってきた奴の頭を軽く小突くと、半眼でじとっと見られた。
「ストーカーかなにかがいるんじゃないのか」
「いるにはいるけど、それがどうかしたのか?」
「危ないだろ、外出を慎めよ」
そう言うと、エディスはぷっと小さく吹き出した。こっちは本気で心配してるのに笑うんじゃねえよと睨むと、あー悪い悪い、説明してやるからちょっと待ってろ、と半笑いでまた門から出て行く。それで、すぐ戻ってきたら俺の顔の前に何かを突き出してきた。俺の頬をふわふわとした手で触ってくるのは、
「……猫?」
茶ぶちの子猫だった。
「可愛いストーカー、だろ?」
子猫にじゃれつかれ、くすくす笑いながらその頬を指で撫でているエディスは猫好きだ。可愛い子猫のストーカーなんて嬉しすぎるものだろう。
「こんなストーカーなら大歓迎ですけど? 俺は」
いつも以上に余裕がねえなあ、シュウ君は、と肩を叩き、子猫を腕に抱いたまま戦闘科棟に入っていく後姿を見、俺は拳を握った。またやられた…!




