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『僕がいた過去 君が生きる未来。』SS  作者: 結月てでぃ


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愚か者は

 あの子は愚か者だ。きっと、俺が邪魔なんだって言ったら笑って俺の手を自分の首まで持っていって、じゃあお前が俺を殺してくれよなんて言うんだろう。それくらいに馬鹿で仕方ないようなガキだ。


 猫のように毛を逆立てたりして反抗したり、何かを失敗してしまった時にこうこうこういう理由でお前が失敗をしたからこういう人達に迷惑をかけたんだと道筋立てて説教をしたりする。それを怒りっぽいと勘違いする奴も、それなりには、いる。

けれど、そうやって終始怒っているように見える奴は、実はあまり本気で怒るということがない。自分のペースを保つから、ある程度までは大丈夫なんだ。

けれど、エディスは俺にだけは甘い、というか甘すぎる。明らかに邪魔したら怒られるだろう、魔法の研究に膝を枕に寝転がっても髪を指の先で撫でるだけで何も言わない。大の苦手だという甘味を口元に持っていっても、一瞬眉間に浅く皺を作るだけで食べる。猫の首根っこを掴んで持ってもじっと見るだけで

「一体なにをしたら怒るのかな、君は」

 髪をぐしゃりと潰しながら訊ねると、彼はきょとんと目をほんの少しだけ丸くさせてから、決まってるだろと穏やかな微笑を浮かべた。

「お前が泣いたら俺は怒るよ」

 そんな可愛い顔しても俺には意味がないとか、他の男にはそういうことするなとか、言ってしまえそうな言葉が何個か浮かんできたけれど、自分には似合わない気がして口を閉じた。けれど、1つだけ出してもいいと自分で許可出来る言葉を見つけたので、口を開いてみる。

「なんで君ってそんななの」

「……なんでって、お前だし」

 俺が邪魔するせいですっかり放置ぎみになった本から顔を上げたエディスはそれが当たり前のことなんだ、という顔しかしない。

「俺を甘やかしても何も出ないよ」

 ふっとまた笑って、

「それでいーんだよ、ギール」

 蕩けるように甘い言葉だけをくれる。

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