寂しい夜に
がっと首に腕を回された。相手の腹に肘鉄をかまそうとしたが、発せられた言葉にエディスの動きは止まった。
「酒、飲みに行くぞ!」
「は?」
場所は大量の書類を粗方始末し終えたエディスの執務室。時間はもう、月が遊んでいる頃。
「なに言ってんだ、お前」
いるのは、この部屋で仕事をしていたエディス。それに背の高い青年が一人。
「な、なんだっていうんだよ。どうしたんだ?」
接待用のソファーに促し、自分もその隣に座る。
「なにかあったのか?」
気分が悪いのか、誰かと喧嘩をしたのか、上司に怒られたのか。機械が壊れたのか、作業中に失敗をしたのか、部下がヘマをやらかしたのか。色々聞いても何とも言わない相手にエディスはふーっと長く息を吐いた。
「ちょっと待ってろ」
ポンポン、と相手の背中を叩いた後、外へ出て行った。しばらくした後、薄い扉から帰ってきた。
「ほら、飲め」
白くまるみを帯びた、取っ手のないカップを相手の手に握らせる。
「酒じゃなくて悪い……けど、甘くしといたから」
ごくりと喉を鳴らし、一口飲んだ青年は苦笑した。
「甘めとも言わねえよ」
それを聞き、エディスは少しだけ顔を安堵でほころばせた。飲み終わった後、受け取ったカップを目の前のテーブルに置く。
「もう、今日は寝ろよ。俺ならいてやるからさ」
相手が頷いたのを見、エディスはカップと一緒に持ってきていた毛布を手に取った。
「ほら」
苦笑して膝をポンポンと叩く。相手はエディスの顎を掴み、目や頬、さらに少し顎を上に向けさせ、首に噛みつくようなキスをした。
「おやすみ」
それから、エディスの膝に頭を乗せ、目を閉じた。エディスは首に手を当て、不思議そうな顔をしたが、すぐにはっとなって、相手に毛布をかけた。そして、相手が翌朝起きるまでの間、頭を撫で、ずっと膝を貸していた。




