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ある洋食屋の風景 スピンオフストーリー【Detective Blues 迷探偵登場】

作者: ケーパン

洋食屋シリーズのスパゲッティナポリタン編に登場した便利屋シュンスケ。彼を主役に据えたスピンオフストーリーの第一弾でございます。まずはご挨拶がわりの一編です。

 今日のオイラは朝からツイているかもしれない。いつに無くバッチリきまった髪に上機嫌で玄関を出る。一歩踏み出したあと「べチョッ!」と背後の地面に空からカラスの落し物。間一髪で難を逃れ、空を見上げると黒い飛翔体は何食わぬ顔で何処かに獲物を求めて飛び去っていった。「ふん、残念でした!おととい来やがれ!」などとオイラに敵意など持っていないカラス相手に訳のわからない事を呟きながらいつもの様にマウンテンバイクを駆ってオフィスへと向かう。

 オイラのオフィスは寝ぐらのアパートからマウンテンバイクで30分のところにある雑居ビルの2階。少々出っ張ってきた醜い腹を引き締めようと始めた自転車通勤だが、その効果は一向に現れる兆しも無い。だが、毎日自転車を駆っているとペダルを漕ぐ感覚でその日の体調がわかるようになってくる。「うん、今日は何となくペダルが軽く感じる。体調はまずまずだ」


 オイラの名はシュンスケ。仕事は探偵。の、筈だったのだが世の中フィリップ・マーローの様な探偵稼業だけではなかなか食ってはいけない。「困った事は何でも引き受ける便利屋兼探偵」で生計を立てている。しかし、実際には探偵としての依頼はほとんど無いのが現状で、エアコンのクリーニングや水周りの修理、障子、襖の張替え、庭の草むしり、はたまた犬の散歩から迷子のネコ探し等なんでも請け負う便利屋が本業だ。


 それにしても今日は快調だ!いつも信号や踏み切りに何度か引っかかるのだが、気持ちが良い程それらもタイミングよく通過する。きっととてつもなく良い事があるに違いない。なんて思っていると前を歩いている女性に気がつく。彼女はもしかしてオイラのオフィスと同じフロアの美容室で働いているヒロミちゃんではないだろうか?マウンテンバイクのスピードを少し落として彼女に並びかけ、横顔を見るとやはり彼女だ。オイラは普段、もう少し遅い時間にアパートを出るので、こんな風に彼女と出勤途中で会うことは滅多に無い。

「おはよう!ヒロミちゃん」「あら探偵さん、おはよう。今日は早いのね」彼女は面白がってかオイラを「探偵さん」と呼ぶ。オイラはマウンテンバイクから降り、ビルまでの僅かな距離を彼女と並んで歩く事にした。ヒロミちゃんはオイラよりちょっと年下だけど、落ち着いた雰囲気なので実年齢より3、4歳は上に見える。彼女に好意を抱いているオイラ、何度か食事に誘っているけどいつも軽くかわされてしまう。

「ねえ、たまにはさあ、一緒にランチでもしない?下の洋食屋でどう?」

「うん、そうね。今日は予約もあまり無いからいいよ。あとで都合のいい時間に連絡ちょうだい」やったー!やっぱり今日はついているぜ!

 ビルの一階にある洋食屋は人のいいオヤジさんと奥さんがふたりで切り盛りする店で、安くて美味いランチが評判の人気店だ。外回りに出ている時以外は大体ここのランチを食べながらオヤジさんと世間話をする。実はオヤジさんに聞いた話しでは、ヒロミちゃんには将来を約束した彼氏が居たらしい。この店で働いていた見習いコックだが、フランスに料理の勉強へと旅立ち、もう3年になるという。1年前から連絡が途絶えて、ヒロミちゃんは最近「彼のことはもうあきらめた」ってオヤジさんにこぼしたみたいだ。勤める美容室では彼女目当てのお客さんも多く、実質的にほとんどの事は任されているらしい。近い将来にオーナーは引退し、彼女に全てを譲る様だ。


 あっと言う間にビルに到着。オヤジさんが玄関を掃除している。「おはようございます、オヤジさん。今日のランチは何ですか?あとで二人で伺いますから」ヒロミちゃんは照れ臭いのか「それじゃあ、あとでね」と言って階段をかけ上がっていった。彼女の姿が見えなくなるとオヤジさんはニヤニヤしながら「オ、やったじゃん。やっとランチに誘えたんだ。ヒロミちゃんも忙しいからな。今日はシュンスケの好きなメンチカツだよ」

この店の日替りランチでオイラが一番好きなメンチカツだなんて、やっぱり今日はついている!「一番奥の席、キープしておいて下さいね!デザートも奮発しちゃおうかな♪」なんて浮かれ気分でオフィスのドアの前に到着。鼻歌なんぞ歌いながらドアのキーをバッグから取り出そうと思うのだが、なかなか見つからない。うん?おかしいぞ、いつもここのポケットに入れている筈なんだけれど…… し、しまった!昨日は違うウエストポーチを使ったからオフィスのキーはそっちに入っているんだ!

や、やばい。おまけに今日は管理人が休みだからスペアーキーは他に無い。仕方ない、アパートに戻るしかなさそうだ......

 その時、美容室のドアを開けてヒロミちゃんがオイラを呼び止める。

「探偵さん、急な予約が入っちゃったから今日のランチは無理みたい。ごめん、また今度誘ってね」忙しそうに仕事に戻る彼女を呆然と見つめるオイラ……

「くそっ!なにが今日はツイてるだ!踏んだり蹴ったりとはこの事じゃんか。またアパートに戻るなんて、あーめんどくえなぁ」ぶつぶつ言いながら仕方なくマウンテンバイクに跨り、ペダルを踏み込むオイラ。

「べちゃっ!」あーっ!犬のウンコふんじゃった……

ーfinー




*最後まで読んで頂き、有り難うございます!スピンオフストーリーのキャラクター「シュンスケ」よろしくお願いします。次回作はそのシュンスケの活躍編です。美容師ヒロミちゃんがメインキャラクターで登場するスピンオフストーリーも別に有りますが、そちらは折を見てアップします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 便利屋のシュンスケは、ナポリタンの時には、空気読めない自分に正直な奴ってイメージでしたが、そのままですね。 今回の、大吉から凶へ運勢が急降下する話の流れはとても彼らしくて面白かったと思います…
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