2日目―6
「今日はありがとうございました。」
ギルドハウスに帰り着き、ちょっとゆっくりしてから解散となった。
「こっちこそありがと。楽しめたかな?」
礼を言うのはこっちだ。
ヒールで随分助けられたし。
シロを頑張ってくれた。
「はい!とても楽しめました!お祭りとか、初めてでびっくりしましたけど、とっても楽しかったです!」
メープルちゃんが綺麗な笑顔でこたえてくれた。
ちゃんと楽しんでくれたみたいで良かった。
「それじゃ今日の分配は、こっちでまとめて売り払ってからで良いかな?今適当に渡しておく?」
「えっ、分配なんて良いですよ。私は昨日のお返しをしに来たんですし、ドロップはお渡しします。」
え~。
それはなんか、悲しい話だ。
「それじゃ今回きりみたいじゃない。こっちとしては、良ければまた一緒に行って欲しいしさ。ちゃんと分配しようよ。」
「そうですか?今日は楽しかったですし、良ければ私もまた連れていって貰いたいです。それでは今度で大丈夫ですので、お願いできますか?」
良かった、とりあえず今回きりにならないように、次に繋げられそうだ。
分配を後日ってのは、もちろん嫌がる人もいる。
持ち逃げされる可能性があるから、当たり前だ。
知らない人を集めて一時的にパーティーを組む、所謂野良パーティーのときは、大概その場でどうにか分配する。
でもメープルちゃんはそれなりに、こっちを信用してくれてるみたいだ。
分配があれば、言葉だけじゃなく次回に繋げられるだろう。
「それじゃあ、まとめて捌いとくから、とりあえずドロップ回収~。」
「あ、エールはどうしますか?」
メープルちゃんが聞いてくる。
『エール』っていうのは、このゲームの通貨だ。
野良パーティーだと、エールまできっちり分配するけど…。
「シロが結構攻撃してたから、メープルちゃんにもエール入ってるよね?」
「はい。一緒に渡せば良いですか?」
「あぁ、それならエールは良いよ。儲けのほとんどはドロップアイテムだし、エールはそのままで良いでしょ。」
「でもそれだと、ペッパーさんが損をするんじゃ…。」
まぁそうだ。
なんせ俺はほとんど攻撃してない。
デバフを使ってターゲットを取れば、攻撃しなくてもドロップが来ることはあるが。
なんせデバフを使ったのも数回だ。
今日のパーティーなら、間違いなく俺が一番ドロップが少ないだろう。
「まぁ、確かに俺はドロップ少ないけど。だからアイテム分は均等分配なんだし、問題ないよ。」
「そうですか?それでは…。」
みんなからドロップを回収する。
『リザードマンの鱗』に、『リザードマンアーマー』が7個か。
…うん?なな?
「あれ?リザ鎧7もあんだけど?」
「さっき祭り中に2つ出てたぜ!」
「マジか。ログ見逃した。」
ブレイブはあの祭り中、しっかりログ見えてんのか…。
パーティーメンバーのドロップログは、パーティー全員に共有される。
だからしっかりログを見てれば、パーティー全体のドロップがわかる。
ただ、祭り中は凄い勢いでログが流れるため、見逃すことが多い。
見逃すことが多いと思っていたが、もしかしてみんなは見逃さないんだろうか。
リザ鎧7個という俺の発言を聞いて驚いてる人は、ここには誰一人いなかった。
「あとは『ヤド殻』が8に、『黒真珠』が1と…。」
これはルームキーパーのドロップだ。
数からいって、殻が通常ドロップで、黒真珠がレアだろう。
殻が8しか無いのは、レアだったからじゃなくて、そもそも狩った数が少ないからだ。
「これの価値はどれくらいかねぇ。」
「殻はあんだけ堅かったし、素材として優秀そうよね。」
「真珠は宝石ですし、それなりに価値がありそうですね。」
俺の呟きに、カラスさんとみゃ~ちゃんがそれぞれ反応を返す。
ところで、ルームキーパーって、どう見てもヤドカリだったんだけど。
ヤドカリから真珠ってどうなの?
まぁ、ブレイブが鎧を破壊したリザードマンファイターからもリザードマンアーマーが出るし。
ゲームでそんなことを考えても仕方ないな。
「それじゃドロップはこっちで捌いておくよ。また今度、良ければまた一緒に狩りに、うぉ!」
別れの挨拶をしていたら、横から突き飛ばされた。
何事!と思ったら、メープルちゃんの手をぎゅっと握ったカラスさんがいた。
「また今度なんて言わずに、今すぐ『AOD』に入って!お願い!あなたが欲しいの!!」
…えっ。
驚いたのは俺だけじゃ無いみたいだ。
というか、みんな固まっている。
メープルちゃんも完全に固まっている。
やがてメープルちゃんの頬がゆっくりと紅く染まっていき、真っ赤になる。
「えっ、いえあの、えっと…。あ、ほら。私皆さんみたいに戦えませんし…。」
「そんなこと無いわ。あなたのヒールは完璧だったわ。シロも強かったし。ウチのギルマスよりよっぽど働いていたわ。」
動揺したメープルちゃんに、カラスさんが畳み掛ける。
って、余計なお世話だ!
でも良い流れなので、口は挟まないでおく。
カラスさんは完全にテイミング・モンスターの魅力にやられたようだ。
まぁ、メープルちゃんの実力も含めてだろう。
「そう言って貰えるのは嬉しいんですけど、ずっとソロだったので皆さんに迷惑掛けちゃうかも…。」
「迷惑なんて大丈夫よ!今日の感じならすぐに馴染めるわ!もしかして男が邪魔なの?それなら男はすぐにギルドから外すわ!」
お~い。このギルドのギルドマスターは俺で、男なんだが…。
もしかして乗っ取りの危機だろうか。
「流石に男を外されると困るんだけど…。でも迷惑については大丈夫だと思うよ。今日も充分良い動きしてたし、良ければ是非入って欲しいな。」
男を外す案は却下しながら、カラスさんを応援する。
「俺も賛成だぜ!人数は多い方が楽しいし、ヒーラーがいるのは助かるしな!」
「そうだね。やっぱり6人パーティーの方が良いしね。僕も賛成だよ。」
ブレイブが賛成するのはわかっていた。
アイツはお祭り騒ぎが好きだ。
人数が多い方が楽しいのは間違いない。
しかもヒーラーとなれば、嬉しい限りだろう。
「私も概ね賛成なんですけど。良い人そうですし。ただ、良い人だけに懸念が無いことも…。」
「あんなに可愛いテイムを連れてる人に、悪い人はいない!」
「カラスさんはすっかりテイムに心を奪われてしまったんですね…。まぁ、そうですね。やっぱり人数多い方が楽しいですし。女友達が増えるのは嬉しいです!私も賛成です!」
みゃ~ちゃんには思うところがあったようだけど、カラスさんとの間で完結したようだ。
そう言えば、黒に近い灰色とか敵だとか言っていたけど。
まぁ、カラスさんはもうそんなことは考えていないようだし、きっとさっきのカラスさんとの会話で、みゃ~ちゃんも納得したんだろう。
結局なんのことだかわからないままだけど。
「ってことで、『AOD』としてはメープルちゃんを歓迎するよ。メープルちゃんさえ良ければ、どうかな?」
「えっと、みゃ~さんは何か思うところがあるんじゃ…。」
カラスさんが押しきったが、俺もそう思う。
「思うところは私にもあるわ。そうね、ちょっとついてきて貰えるかしら?」
「は、はい?」
カラスさんはいきなり、メープルちゃんの手を引っ張って歩き出した。
そのまま2階への階段を上がっていく。
メープルちゃんは何事か理解出来ないまま、カラスさんに引っ張られて2階へと消えていった。
「一体何が…。」
「さぁ?実力行使じゃねぇか?」
俺の疑問に、ブレイブが恐ろしいことを言う。
確かにかなりテイムに執心していたが、流石に実力行使はしないだろう。
しないよね?
それから随分時間が経ったが、二人は未だに降りてこない。
本気で実力行使だったらどうするか?
流石にちょっと不安になってきた。
「これは様子を見に行った方が良いのかな?」
「でも2階に行ったってことは、カラスさんの部屋じゃないかな?様子を見ようにも入れないよ?」
テツの言う通りだ。
2階に行ったところで、部屋に入られたら様子は見れない。
各部屋はプライベートエリアになっていて、ギルマスといえども無理矢理押し入ることは出来ないようになっている。
呼び掛けることは出来るけど、中からは音が漏れることもない。
まぁ、ギルドハウス内では戦闘行為は出来ないし、本当は実力行使なんて出来ないんだが。
それにカラスさんが本当にそんなことをするとは思えない。
思えないんだが…。
そうやって悶々と考えていると、2階から足音が聞こえてきた。
「あっ、どうやら戻ってきたみたいですね。」
みゃ~ちゃんに言われるまでも無く、2階への階段に顔を向ける。
カラスさんと一緒に、ちゃんとメープルちゃんも降りてきた。
降りてきたんだが…。
何故かカラスさんの胸元には、ベアさんが抱き抱えられている。
これはもしかしなくても、時間の大半は話し合いじゃなくて、カラスさんがベアさんを可愛がってた時間だな…。
そんなことを考えて呆れていると、メープルちゃんが俺の前に立った。
「何を話してたのかわらかないけど、どうかな?」
そう話し掛けた俺を、メープルちゃんはじっと見詰めてきた。
「私をギルドに入れてください!是非!今すぐ!!」
…えっ、なにこれ?
さっきまでと随分違うんだけど…。
「カラスさん何したんですか?」
カラスさんに問い掛けてみる。
一体何をしたらこうなるんだ。
もしかしてベアさんは人質ならぬ、ぬいぐるみ質なのか?
脅迫なのか?
「何か失礼なことを考えてるみたいだけど。私は説得しただけよ。しっかり話をしたら、このギルドがどれたけ良いところかわかって貰えたわ。」
…う~ん。
脅迫してる側の言い訳は、大概そんな台詞な気がする。
「え~っと、カラスさんからどう説得されたのかわからないけど、無理しなくても良いんだよ?」
なんかさっきまでと立場が逆転してしまったが。
いきなりここまで態度が変わると、ちょっと何があったのか恐くなってくる。
「いえ、カラスさんからはじっくりお話を聞いただけです。そしてここがどれだけ良いところか理解しました。是非入れてください!」
まぁ、メープルちゃんが積極的に入ってくれるのは嬉しいんだけど…。
「もしかして、あれって…。」
「まぁ、そういうことよ。」
「あ~、もう手遅れでしたか…。」
みゃ~ちゃんとカラスさんが、何かこそこそ話し合っている。
何が手遅れなんだ…。
不穏過ぎる。
「そういうことなら、私も問題ありません!それはそれで、きっと楽しいと思いますし。」
なんだかわからないけど、みゃ~ちゃんのわだかまりは解けたようだ。
みゃ~ちゃんは上で何があったか、わかったんだろうか?
「ありがとうございます。そう言って貰えると、私も嬉しいです。きっと私も楽しいと思いますし。でも、負けません!」
「ふふっ。これからは、今まで以上に楽しくなりそうね。」
「そうですね。今までを考えれば、きっとこれはこれで楽しいです。あとで私ともお話ししましよう!」
「はい、もちろんです!三人で色々話しましょう!」
なんだか良くわからない宣言をするメープルちゃんに、カラスさんもみゃ~ちゃんも楽しそうに返事をする。
良くわからないけど、不穏な空気って感じじゃない。
メープルちゃんも楽しそうだ。
いつの間にか、三人には通じる何かがあったみたいだ。
「それじゃあ、『AOD』はメープルちゃんを歓迎するよ。」
そう言って、メープルちゃんのギルド加入申請を承諾する。
「ギルド『AOD』にようそこ!これからよろしくね。」
「はい!皆さん宜しくお願いします!」
こうして、ギルド『Age Of Discovery』は6人目のメンバーを迎えることになった。
何があったのかはわからないけど、きっとこれからは今まで以上に楽しくなるに違いない。