2日目―5
すいません
今週も2話構成で
多分来週も…
来週までじゃないかな、多分
「よっしゃ!祭りだ~!」
「うぉ~!!!」
ブレイブが飛び出して行く。
それに合わせて、周りのプレイヤーも雄叫びを上げながら殺到する。
「さて〈エンチャント:アーマー〉。メープルちゃん回復よろしく!」
そんなプレイヤーを横目に、俺は防御力上昇の魔法を掛ける。
〈エンチャント:アーマー〉は〈バフ:ディフェンス〉と同じように防御力を上昇させる。
バフと重ね掛けが可能で、上昇率はバフより大きい。
但し消費魔力が多く、効果時間が短いというデメリットがある。
この効果時間が問題で、戦闘をしながらの維持がなかなかに面倒だ。
だから俺がタンクになって防御に専念し、維持をするスタイルを取っている。
「俺だって仕事するぜ~!」
魂の叫びに合わせて、リザードマンジェネラルの剣を装備した大鎚で弾く。
リザードマンファイターと一緒に走り寄ってきたリザードマンジェネラルだったが、俺のところに辿り着いたのはジェネラルとファイター1匹だけだった。
4匹のファイターは、3匹をウチのメンバーが、1匹を集まってきたプレイヤーがそれぞれ辿り着く前に倒していた。
残った1匹のファイターも、すぐに集まったプレイヤーに倒される。
その瞬間、ジェネラルの周りにまたもリザードマンファイターが現れた。
「お~、今度は多いな。10匹くらいか?」
「スカウトも混ざってるわね。」
ブレイブとカラスさんが、なんの焦りも無く呑気にそんな会話をしている。
「なんか一杯出ましたよ!?どうなってるんですか!?」
メープルちゃんはまだパニック中みたいだ。
この次々と呼び出される取り巻きこそが、フィールドボスとしてのリザードマンジェネラルの特殊能力だ。
コイツはリザードマンファイターとスカウトを、とにかく呼び出しまくる。
この能力のために、適正レベル以上に狩り辛くなっている。
目の前ではプレイヤー20人くらいとリザードマン10匹くらいの大乱闘が展開されている。
それを横目に、俺はひたすらジェネラルの攻撃を捌き続ける。
と言っても、レベル52しかなく戦闘スキルもまともに取ってない俺に、レベル60のリザードマンジェネラルの攻撃を捌ききれる訳がなく。
どっちかと言うと、まともに捌けたのは初撃だけだったり。
あとは直撃を避けてる程度で、ほとんどの攻撃を食らっている。
バフとエンチャントのお陰で、直撃さえ避けてれば、大したダメージにはならないんだけど、流石にずっと食らい続けていれば体力は減っていく。
でも体力が減り続けてるのは俺だけじゃない。
集まってきたプレイヤーのうち5人が、リザードマンジェネラルを攻撃している。
ジェネラルはずっと俺をターゲットにしているから、後ろから攻撃し放題だ。
ただそんなにレベルが高く無いんだろう。
5人がかりでも、倒すのにはもうちょっと掛かりそうだ。
あんまり早く倒されても困るんだけどね。
それにリザードマンジェネラルは5人の攻撃で体力を減らし続けるが、俺はそうじゃない。
「ペッパーさん〈ヒーリング〉です!もう何がなんだか!」
メープルちゃんは混乱しながらも、しっかり体力管理が出来てるみたいだ。
俺の体力がある程度減ると、その都度回復してくれる。
というか、メープルちゃんの動きを気にしていたら、どうやら回復してるのは俺だけじゃない。
ブレイブの回復もしてるし、たまに他のプレイヤーも回復してるみたいだ。
本当に混乱してるんだろうか?
判断が良すぎる気がする。
そしてシロは飼い主の混乱なんてどこ吹く風で、最初からカラスさんとリザードマンファイターを狩りまくっている。
テイム便利だな…。
それからリザードマンジェネラルが取り巻きを呼び出すこと3回。
俺が攻撃を捌き続けていたリザードマンジェネラルが、ついに倒れた。
「ジェネラル終了~!」
俺がそう宣言するのとほぼ同時に、最後のリザードマンファイターをカラスさんが倒した。
「これで祭りも終わりね。」
「祭りも終了~!皆さんお疲れ様でした!」
カラスさんの言葉を受けて、俺が祭りの終わりを告げる。
「お疲れ様でした!ありがとうございました!」
「おつ~、ありがと~!」
「ありがとうございました!結構稼げたな。」
「ヒールもありでした!」
周りから大量のお礼の言葉を掛けられ、一気に喧騒に包まれる。
「ほいほい、お疲れ様。こっちも助かったよ。ありがと~!」
俺もお礼を返して、お祭りは解散となった。
「結局アレはなんだったんですか?」
「お祭り騒ぎだったでしょ?」
「確かにお祭りみたいでしたけど…。」
祭りも終わり帰路に着きながら、メープルちゃんとそんな話をする。
「実はアレがフィールドボスとしてのリザードマンジェネラルの特殊能力なんだけどね…。」
俺はメープルちゃんに祭りの種明かしをすることにした。
フィールドボスとしてのリザードマンジェネラルの特殊能力は、取り巻きを何度も呼び出す能力だ。
取り巻きを全滅させても、リザードマンジェネラルが生きている限り、何度も呼び直す。
最初それが判明したとき、これで無限に狩り続けられるんじゃね?
と話題になった。
そしてそれにチャレンジするヤツがいた。
壁役がジェネラルを抑え続けて、他のメンバーで取り巻きを狩り続けたのだ。
結果として、無限狩りは流石に無理だった。
10回前後呼び出したところで、それ以上呼び出さなくなったのだ。
その代わり判ったことがあった。
一度に呼び出す数は、周りにいるプレイヤーに依存していた。
1パーティー6人で討伐すると、最大6匹までしか呼び出さないのに対して、無限狩りをしようと30人ほど集めたときは、最大30匹よびだしたそうだ。
これでまた沸き立った。
100人集めて10回呼び出せば、狩りまくれるじゃん!
って感じで。
まぁこれも、最大30匹程度までだったわけだけど。
それでも一時は、大手ギルドが30人集めて貼り付く自体になった。
まぁ、それも長くは続かなかった。
最大手ギルドのギルドマスターが、
「こんな面白いコンテンツを高レベルユーザーが独占してるのは楽しくない!」
と宣言し、壁役がリザードマンジェネラルを止めて、周りのプレイヤーを巻き込むさっきの『祭り』を始めたのだ。
それにお祭り好きなギルドが乗っかって、祭り狩りが定着していった。
「そして高レベルギルドはもっと上の狩場に行くようになって、最近では高レベルパーティーが見つけると祭りをすることが多くなったんだ。今でもギルド狩りをしてる人もいるけど、べったり貼り付いて、ってのはほとんど無くなったんだよ。」
「なるほど、それでさっきの祭りですか。」
メープルちゃんはやっと理解したと、ポンッと手を打つ。
「あれ?でもそれなら、リザードマンジェネラルは最後まで攻撃せずに、一杯呼ばせた方が良いんじゃないですか?」
まぁ、当然の疑問だろう。
10回くらい呼び出すなら、限界まで呼び出させた方が一杯狩れる。
「祭りを始めたギルドマスターがね、『祭りにルールなんていらねぇ、楽しんだヤツの勝ちだ!ジェネラルからレアを狙いたいヤツはジェネラルを殴れば良い。いっぱい狩りたいヤツは雑魚狩りまくれ!』ってね。それで好きに殴ることになってるんだ。」
「ジェネラルを巣まで狩りに行ける高レベルなら良いけど、そうじゃない浜辺適正レベルの人に目の前のボスを殴るな、は可哀想だしね。」
「誰かがそのルールを無視してボス殴った、なんて揉めるのは、お祭りっぽくないじゃないですか。」
俺の説明に、テツとみゃ~ちゃんが補足してくれる。
「あ~、確かにそうですね。お祭りは楽しまないと!」
メープルちゃんも解ってくれたみたいだ。
「まぁそれに、実際10回呼び出すまで戦い続けるとなると、あの辺適正レベルのユーザーにはキツいしね。」
「あ~それそれ、今回20匹呼ばれたときには、何人か脱落すると思いましたが、一人も脱落しませんでしたね。メープルさんは良い腕してますね。」
「脱落?」
みゃ~ちゃんの言葉に、メープルちゃんは新たな疑問が沸いたみたいだ。
「リザードマンが呼び出されたとき、壁役とパーティー組んでる高レベルパーティーがガンガン倒していって、他のプレイヤーはちょっとずつ倒して行くじゃん?」
「そうですね。皆さん凄い勢いで倒していって、いました。」
まぁ、ウチのメンバーは規格外ばっかりだしな…。
「でも流石に20匹とか呼ばれると殲滅が間に合わなくて、他のプレイヤーが相手をするリザードマンが多くなるんだ。」
「そして普段からあの辺で狩りをしてる人が、一騎にそんなに相手に出来る訳が無くて、やられちゃう人も出てくるのよ。」
後を引き継いだカラスさんの言う通り、つまりはそういうことだ。
あの辺で狩りをしている人には、なんなら2匹くらいまでが限界で、3匹以上はアイテムやアーツを使ってやっと、なんて人もザラにいる。
そんな人が連戦で戦い続けて、アイテムも魔力も保つ訳がない。
「あ~それでやられちゃったり、帰還するのが脱落ですか。」
「そ~いうこと。」
それが今回は脱落者ゼロだった。
大概何人かはいるもんだが。
「後ろから見てたけど、メープルさん凄かったよ。あれだけの人数がいるなかで、的確にヒールしてたし。確かに腕が良いよ。」
「あの人数をカバーするなんて、普段ソロとは思えないわね。」
後ろから魔法を撃ちまくっていたテツが、そんなことを言う。
カラスさんも同意したところを見ると、きっとホントに全員をカバーしてたんだろう。
確かにメープルちゃんが他のプレイヤーをヒールしてるのは知ってたけど、しっかり全体をカバーしてたのか。
「いえいえ、私は全然攻撃せずに、本当にヒールをしていただけなので。あんな速度で倒していく皆さんの方が凄いですよ。」
褒められて恥ずかしかったのか、メープルちゃんは頬を赤くてわたわたと手を振る。
「確かにメープルちゃんは回復に専念してたけど。それは役割分担じゃん。実際良いヒールだったぜ!すげ~助かった。」
そりゃ猪突猛進なブレイブからすれば、回復役がいるのは嬉しい限りだろう。
ブレイブはカラスさんと違って、全回避みたいな動きは出来ないし。
そもそもまともに回避せずに殴りに行くし。
「それに攻撃してなかったと言うけど、あなたのシロは良く働いていたわ。とても良い動きしてたわよ。ねぇ?」
カラスさんがそういうと、シロがワンッ!と鳴いた。
あれ?
昨日シロもクロも、基本的に俺の言葉には反応しなかったような…。
カラスさんとは早くも判り合えたのだろうか。
「そうですね。いっぱい倒しましたよね~。」
みゃ~ちゃんの問い掛けに、シロがまたワンワンッ!と応えた。
あれ?
もしかして俺が嫌われてるのか?
いや違う。俺はシロとクロに話し掛けてはいない。
昨日は同調してくれなかっただけだ。
俺も話し掛けたら、返事をしてくれるに違いない。
とりあえず試すのは辞めておこう。
「いや~、テイムがあんな強いとは思わなかったぜ。こりゃ運営の言葉も嘘では無さそうだな。」
「そうだね。このままシロもメープルさんも育てば、その辺のプレイヤーより強くなりそうだね。」
ブレイブもテツもシロはかなり強いという認識のようだ。
確かにテイムがあそこまで戦えるとは思わなかった。
カラスさんと一緒で、ほとんど回避してたし。
「あああれはペッパーさんのバフが強かったからで…でも、ありがとうございます…。」
「まぁ、あのバフで戦える時点で、結構凄いんだけどね。」
みんなから褒められたメープルちゃんは真っ赤になりながら、それでも最後は嬉しそうに笑っていた。