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VRMMO日記  作者: あずれ
7/53

2日目―4

リザ浜辺は儲けの良い狩場だ。

リザードマンが固定で出るから、あまり生態系変化の影響を受けない。

だけど、今日は違ったみたいだ。


「お~、デカイな。」

「迫力ありますねぇ。」


ブレイブとみゃ~ちゃんが、揃って驚きの声をあげる。

目の前には、高さ2mはあるだろう巻き貝があった。

『ルームキーパー』ってモンスターらしい。


「関心してないで、攻撃攻撃。」


俺がそう声を掛けると、ブレイブがルームキーパーに向かって行った。

…ところで、いつの間にかルームキーパーに辿り着いたカラスさんが斬りかかる。


「…むっ?」


ルームキーパーを斬ったカラスさんが、疑問の声をあげる。


「オラァ!…なぬ?」


遅れてブレイブが攻撃すると、ルームキーパーの殻が砕け散る。

…と思ったが、小さく欠けはしたが、砕け散るには程遠かった。

ブレイブが驚きの表情で固まっている。

そんな固まっているブレイブに、ちょっと動いた巻き貝の下から、蟹のハサミのようなものが振るわれた。


「あぶねっ!」


流石にブレイブも咄嗟に避けて、浅く斬られるだけで済んだみたいだ。


「こりゃ堅ぇな。」

「私の攻撃じゃ、傷が付いたかどうか、ってくらいだわ。」


どうやらあの殻は随分堅いみたいだ。

ところでヤドカリのヤドは、部屋じゃなくて家じゃねぇのか。

なんでルームのキーパーなんだよ。

…ヒキコモリ的なことなのか?


「それじゃ僕が。〈バーン・ストライク〉!」

「私も!〈ホーリー・ジャベリン〉」


テツとメープルちゃんが後ろから魔法を放つ。

テツの飛ばした火の玉が殻に当たって爆発し、メープルちゃんの光の槍が突き刺さる。

…って。


「魔法もあんまり効いてる感じじゃないね。ってうわっ!」


魔法が効かずに呆けているテツに、殻の下から今度は水の塊が飛んできた。


「テツさん!〈ヒーリング〉!」


水の塊をモロに喰らったテツに、メープルちゃんが回復魔法を使う。


「ありがと。回復魔法良いね、助かるよ。」


ウチのメンバーは誰も回復魔法が使えない。

いつもは回復アイテムを使っている。

みんな攻撃特化だからなぁ…。

回復されたテツは、言葉だけじゃなくて本気で感謝してるに違いない。


「攻撃は大したコト無さそうだけど、あの防御力は厄介だね。」


実際に魔法を喰らったテツが分析する通り、攻撃は大したこと無さそうだ。

ブレイブもテツも大して体力は減らなかった。


「ここは遂に俺の出番か!」

「今っ!」


やっと出番が来た俺が一歩前に踏み出すと、その瞬間ルームキーパーが倒れた。

流石俺。

踏み出すだけで一発で、みんなが苦労した敵を倒せるとは。


「所詮はこの辺に出る敵ですし、堅すぎると思いました。中身は柔らかくて体力が少ないんですね。」


矢を放ったみゃ~ちゃんが、そんな分析をする。

…まぁそうだ。

俺が倒したんじゃない。

俺が一発を踏み出した瞬間、多分攻撃のためにちょっと浮いた殻の下にみゃ~ちゃんが矢を放ったんだ。

矢はそのまま見事に殻の中に吸い込まれ、一発でルームキーパーを倒した。

俺の出番は…。


「まぁまぁ、ギルマス様の出番は次ってことで。」

「そうだよ。ギルマス様の出番にはまだ早いって。」


ブレイブとテツから慰め…絶対慰めじゃない。




「今日はやけに空いてると思ったら、アレのせいかね。」

「だろうなぁ。攻撃弱くても、あんだけ堅いと効率悪そうだし。」

「まぁ、ウチのパーティーだと余裕そうだけどね。」


ブレイブの言葉に頷くと、テツが楽観的に応えた。

まぁ、実際みゃ~ちゃんが一発で倒したわけだし、ウチのメンバーなら余裕だろう。

とは言え、このまま本気で俺の出番が無いのはマズイ。

さっきからリザードマンファイターや、弓で攻撃してくるリザードマンスカウトがちょいちょい出てくるが、俺の出番は一切無い。

やったことはバフをかけ直して、維持しているだけだ。

非常にマズイ。

そんな俺の前に、小山が現れる。


「〈デバフ:ディフェンス〉!」


迷ってる暇は無かった。

出てきた瞬間には仕事をする。

なんなら奪い取る勢いで。


「ペッパーナイス!行くぜ!〈グランドブレイカー〉!」


俺が防御力を下げたルームキーパーに、ブレイブがアーツを発動する。

両手剣を力一杯叩き突けるアーツを受けて、今度こそルームキーパーは殻を砕け散らせる。

よし!

ちゃんと働いた!

さっきのブレイブはアーツ使ってなかったから、実際に俺のデバフの意味があったかはわからないが。

いや、弱気はいけない。

一撃で倒せたのは、俺の仕事のおかげだ。

そんな風に油断仕切った俺に、矢が刺さる。


「あら?」

「〈ヒーリング〉!」


呆けた俺に、メープルちゃんが直ぐに回復魔法を掛けてくれた。


「ペッパーさん、油断し過ぎです!」

「ごめん!ありがと!」


メープルちゃんから怒られてしまった。

良く見てなかったが、敵はルームキーパーだけじゃ無かったらしい。

ルームキーパーの前にはリザードマンファイターが一匹、後ろにはリザードマンスカウトが二匹いたみたいだ。

前にいたリザードマンファイターは、気付いたときにはカラスさんとシロに瞬殺されてたが。

後ろにいたリザードマンスカウトも一発は俺に矢を打ったものの、みゃ~ちゃんの弓とテツの魔法、メープルちゃんの魔法とカラスさんの攻撃で二匹とも直ぐに倒された。


「ギルマス様はやっぱりここぞって時に良い仕事するわ。食らうのも含めて。」

「あぁいう特価型にはデバフが良いよね。それにどっしり構えて避けもしないとか、流石はギルマス様だよ。」


ブレイブとテツが俺の活躍を褒めて…。


「うっさいわ!」




そこからはまぁ、何事も無く。

リザードマン系はサクサク倒せるし、ルームキーパーもデバフを使ってサクサク倒していった。

(ちなみにデバフ無しじゃ、ブレイブのアーツ一発で倒せなかった。ちゃんと仕事してた!)


「今日はヤドカリのお陰で人少ないから、随分儲けられるな。」

「そうね。リザ鎧ももう5つも出てるわ。」


ブレイブとカラスさんの会話からも、今日の狩りが順調なことがわかる。


「『リザ鎧』って何ですか?」


二人の会話を聞いたメープルちゃんが、そんな疑問の声を上げた。


「リザ鎧って、リザードマンファイターが着てるあれだよ。リザードマンファイターのレアドロップで、『リザードマンアーマー』って言うんだ。」

「あの鎧が良いものなんですか?」


俺の解説に、メープルちゃんが質問を重ねる。


「リザードマンの通常ドロップが『リザードマンの鱗』で、これが汎用素材として結構人気があるんだ。だからこの狩場は人気がある。」

「そしてリザ鎧はそこそこ性能が良くて、レベル40越えたくらいの装備として人気があるの。だからリザ鎧も結構良い値段で取引されてるのよ。」


俺の言葉の後半を引き取って、カラスさんが解説してくれる。


「あぁ、そうだったんですね。それがもう5個と。凄いじゃないですか!」

「あぁ、今日は良い儲けだな。でも6人いるんだし、せっかくならもう1つ欲しいな。」


まぁ、均等分配するから、個数はあんま関係無いんだが。

ブレイブの言う通り、心境的にはもう一つ欲しいな。


「って、話してたら良いのが来たみたいだよ。」


そんなテツの言葉に前を良く見ると、リザードマンファイターより一回り大きなトカゲ人間がいた。

装備もリザードマンファイターより堅そうなプレートアーマーで、剣も大きい。


「あれは…特異個体…ですか?」

「違いますよ。あれはフィールドボスの『リザードマンジェネラル』ですね。」


メープルちゃんの質問に、みゃ~ちゃんが答える。

みゃ~ちゃんの言う通り、あれは特異個体じゃなくてこの浜辺のフィールドボスだ。




フィールドボスは特異固体とは違い、あそこまでレアじゃない。

普段から周期的にポップする、特別なモンスターだ。

ただ普通のモンスターとは違い、フィールドに1匹しか存在しない。

また、出るフィールドが決まっている。

あのリザードマンジェネラルはこの浜辺にしか出ない。

また、特異個体とは違って、戦ってみないと強さが解らないなんてことはない。

個体差はあるものの、大体いつも同じ強さだ。

稀に同じフィールドに出る雑魚モンスターより弱いフィールドボスもいるが、ボスも言うだけあって、大体の場合雑魚より強い。

リザードマンジェネラルは適正レベルは60くらいだ。




とは言え、リザードマンジェネラルはちょっと特殊だ。


「リザードマンジェネラルは確かにこの浜辺のフィールドボスなんだけど、実はあんまりレアじゃ無いんだよね。」

「そうなんですか?」

「リザードマンジェネラルは確かにこの浜辺に1匹しか出ないんですけど、この先の『リザードマンの巣』に行くと普通の雑魚として出るんです。」


みゃ~ちゃんの言う通り、リザードマンジェネラルはこの先にある洞窟、『シーリザードマンの巣』に行くといくらでも出会える。

一応ここにいるリザードマンジェネラルはフィールドボスとして、レアが出やすかったり特殊な能力があったりするけど。

まぁ、奪い合いになるほどのレアボスという訳でもなく、必死に倒すようなモンスターじゃない。

しかもボスとしての特殊能力のせいで、レベル60の割に倒し辛い。


「どうする?サクッと倒しちゃう?」


とりあえず皆に意見を聞いてみる。


「えっ~と、フィールドボスなのに、サクッと倒せるんですか?」


メープルちゃんから当然の質問が来る。

普通フィールドボスをサクッとは倒さないしね…。


「まぁ、ウチのメンバーならサクッと倒せるんだが。ペッパーが聞いてるのはそういうことじゃないぜ。」


そうなんだよなぁ。

ウチのメンバーだと、サクッと倒せちゃうんだよなぁ。

でもブレイブの言う通り、挑むかどうするかを聞いた訳じゃない。

単純に挑むんなら、別に聞くまでもなく倒しに行く。


「いつも通り祭りで良いんじゃないかな?」

「そうですね。お祭り楽しいですし。」

「私もお祭りで良いわ。」


みんな祭りで良いみたいだ。


「そんなじゃ祭りにしますか。」

「えっ、祭りってなんなんですか?」


メープルちゃんだけついて来れていない。

まぁ、知らなきゃ当たり前だろう。


「まぁまぁ、すぐわかるよ。みんな…体力も魔力も全快か。」


みんなのステータスウィンドを見て、体力も魔力も全快なことを確認する。

バフもまだまだ切れないし、大丈夫だな。


「それじゃ、メープルちゃんは回復に専念してね。多分人が集まるから、ウチのメンバーじゃなくても危なそうな人がいたらどんどん回復して。」

「えっ?えっ??」


メープルちゃんは混乱しまくってる感じだけど、あんまり教えちゃうと面白くないし。


「あ、シロはリザードマンファイターをどんどん攻撃してね。カラスさんシロのフォローよろしく。」

「言われるまでもないわ。指一本触れさせない。」

「えっ、あの、リザードマンファイターいませんよ?」


確かに今はリザードマンファイターなんていないんだけど。


「大丈夫、すぐ出てくるから。そんじゃ行くよ?」


俺の声に、みんなが頷く。

メープルちゃんは何もわかって無いんだろうけど、つられて頷いた。


「そんじゃ、ジェネラル狩るぞ~(ウォー・ハウリング)!」


掛け声に乗せて、アーツを発動する。

〈ウォー・ハウリング〉は俺が使う数少ないアーツの一つだ。

効果はモンスターのヘイトを上げて、ターゲットを集める。

普通壁役(タンク)が使うスキルだが、ウチのギルドにタンクはいない。

みんな攻撃特化だしね…。

純粋防御力では実はブレイブの方が高いんだが、バフの都合で基本的に俺がタンクをする。

…仕事が無いってのもある。


俺のアーツにつられて、見事にリザードマンジェネラルがこちらをターゲットする。

そして少しこちらに近付いたとこで、リザードマンジェネラルの周りに5匹のリザードマンファイターが突然現れたら。

それと同時に、周りにいた他のプレイヤーがこっちに駆けてきた。


「人少ないと思ったけど、結構集まったな。」

「お~、15人くらいか?」


ブレイブの言う通り、15人くらいは集まったみたいだ。


「えっ?なんですかこれ?リザードマンファイターいっぱいでましたけど?えっ?」


メープルちゃんは絶賛パニック中みたいだ。

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