2日目―4
リザ浜辺は儲けの良い狩場だ。
リザードマンが固定で出るから、あまり生態系変化の影響を受けない。
だけど、今日は違ったみたいだ。
「お~、デカイな。」
「迫力ありますねぇ。」
ブレイブとみゃ~ちゃんが、揃って驚きの声をあげる。
目の前には、高さ2mはあるだろう巻き貝があった。
『ルームキーパー』ってモンスターらしい。
「関心してないで、攻撃攻撃。」
俺がそう声を掛けると、ブレイブがルームキーパーに向かって行った。
…ところで、いつの間にかルームキーパーに辿り着いたカラスさんが斬りかかる。
「…むっ?」
ルームキーパーを斬ったカラスさんが、疑問の声をあげる。
「オラァ!…なぬ?」
遅れてブレイブが攻撃すると、ルームキーパーの殻が砕け散る。
…と思ったが、小さく欠けはしたが、砕け散るには程遠かった。
ブレイブが驚きの表情で固まっている。
そんな固まっているブレイブに、ちょっと動いた巻き貝の下から、蟹のハサミのようなものが振るわれた。
「あぶねっ!」
流石にブレイブも咄嗟に避けて、浅く斬られるだけで済んだみたいだ。
「こりゃ堅ぇな。」
「私の攻撃じゃ、傷が付いたかどうか、ってくらいだわ。」
どうやらあの殻は随分堅いみたいだ。
ところでヤドカリのヤドは、部屋じゃなくて家じゃねぇのか。
なんでルームのキーパーなんだよ。
…ヒキコモリ的なことなのか?
「それじゃ僕が。〈バーン・ストライク〉!」
「私も!〈ホーリー・ジャベリン〉」
テツとメープルちゃんが後ろから魔法を放つ。
テツの飛ばした火の玉が殻に当たって爆発し、メープルちゃんの光の槍が突き刺さる。
…って。
「魔法もあんまり効いてる感じじゃないね。ってうわっ!」
魔法が効かずに呆けているテツに、殻の下から今度は水の塊が飛んできた。
「テツさん!〈ヒーリング〉!」
水の塊をモロに喰らったテツに、メープルちゃんが回復魔法を使う。
「ありがと。回復魔法良いね、助かるよ。」
ウチのメンバーは誰も回復魔法が使えない。
いつもは回復アイテムを使っている。
みんな攻撃特化だからなぁ…。
回復されたテツは、言葉だけじゃなくて本気で感謝してるに違いない。
「攻撃は大したコト無さそうだけど、あの防御力は厄介だね。」
実際に魔法を喰らったテツが分析する通り、攻撃は大したこと無さそうだ。
ブレイブもテツも大して体力は減らなかった。
「ここは遂に俺の出番か!」
「今っ!」
やっと出番が来た俺が一歩前に踏み出すと、その瞬間ルームキーパーが倒れた。
流石俺。
踏み出すだけで一発で、みんなが苦労した敵を倒せるとは。
「所詮はこの辺に出る敵ですし、堅すぎると思いました。中身は柔らかくて体力が少ないんですね。」
矢を放ったみゃ~ちゃんが、そんな分析をする。
…まぁそうだ。
俺が倒したんじゃない。
俺が一発を踏み出した瞬間、多分攻撃のためにちょっと浮いた殻の下にみゃ~ちゃんが矢を放ったんだ。
矢はそのまま見事に殻の中に吸い込まれ、一発でルームキーパーを倒した。
俺の出番は…。
「まぁまぁ、ギルマス様の出番は次ってことで。」
「そうだよ。ギルマス様の出番にはまだ早いって。」
ブレイブとテツから慰め…絶対慰めじゃない。
「今日はやけに空いてると思ったら、アレのせいかね。」
「だろうなぁ。攻撃弱くても、あんだけ堅いと効率悪そうだし。」
「まぁ、ウチのパーティーだと余裕そうだけどね。」
ブレイブの言葉に頷くと、テツが楽観的に応えた。
まぁ、実際みゃ~ちゃんが一発で倒したわけだし、ウチのメンバーなら余裕だろう。
とは言え、このまま本気で俺の出番が無いのはマズイ。
さっきからリザードマンファイターや、弓で攻撃してくるリザードマンスカウトがちょいちょい出てくるが、俺の出番は一切無い。
やったことはバフをかけ直して、維持しているだけだ。
非常にマズイ。
そんな俺の前に、小山が現れる。
「〈デバフ:ディフェンス〉!」
迷ってる暇は無かった。
出てきた瞬間には仕事をする。
なんなら奪い取る勢いで。
「ペッパーナイス!行くぜ!〈グランドブレイカー〉!」
俺が防御力を下げたルームキーパーに、ブレイブがアーツを発動する。
両手剣を力一杯叩き突けるアーツを受けて、今度こそルームキーパーは殻を砕け散らせる。
よし!
ちゃんと働いた!
さっきのブレイブはアーツ使ってなかったから、実際に俺のデバフの意味があったかはわからないが。
いや、弱気はいけない。
一撃で倒せたのは、俺の仕事のおかげだ。
そんな風に油断仕切った俺に、矢が刺さる。
「あら?」
「〈ヒーリング〉!」
呆けた俺に、メープルちゃんが直ぐに回復魔法を掛けてくれた。
「ペッパーさん、油断し過ぎです!」
「ごめん!ありがと!」
メープルちゃんから怒られてしまった。
良く見てなかったが、敵はルームキーパーだけじゃ無かったらしい。
ルームキーパーの前にはリザードマンファイターが一匹、後ろにはリザードマンスカウトが二匹いたみたいだ。
前にいたリザードマンファイターは、気付いたときにはカラスさんとシロに瞬殺されてたが。
後ろにいたリザードマンスカウトも一発は俺に矢を打ったものの、みゃ~ちゃんの弓とテツの魔法、メープルちゃんの魔法とカラスさんの攻撃で二匹とも直ぐに倒された。
「ギルマス様はやっぱりここぞって時に良い仕事するわ。食らうのも含めて。」
「あぁいう特価型にはデバフが良いよね。それにどっしり構えて避けもしないとか、流石はギルマス様だよ。」
ブレイブとテツが俺の活躍を褒めて…。
「うっさいわ!」
そこからはまぁ、何事も無く。
リザードマン系はサクサク倒せるし、ルームキーパーもデバフを使ってサクサク倒していった。
(ちなみにデバフ無しじゃ、ブレイブのアーツ一発で倒せなかった。ちゃんと仕事してた!)
「今日はヤドカリのお陰で人少ないから、随分儲けられるな。」
「そうね。リザ鎧ももう5つも出てるわ。」
ブレイブとカラスさんの会話からも、今日の狩りが順調なことがわかる。
「『リザ鎧』って何ですか?」
二人の会話を聞いたメープルちゃんが、そんな疑問の声を上げた。
「リザ鎧って、リザードマンファイターが着てるあれだよ。リザードマンファイターのレアドロップで、『リザードマンアーマー』って言うんだ。」
「あの鎧が良いものなんですか?」
俺の解説に、メープルちゃんが質問を重ねる。
「リザードマンの通常ドロップが『リザードマンの鱗』で、これが汎用素材として結構人気があるんだ。だからこの狩場は人気がある。」
「そしてリザ鎧はそこそこ性能が良くて、レベル40越えたくらいの装備として人気があるの。だからリザ鎧も結構良い値段で取引されてるのよ。」
俺の言葉の後半を引き取って、カラスさんが解説してくれる。
「あぁ、そうだったんですね。それがもう5個と。凄いじゃないですか!」
「あぁ、今日は良い儲けだな。でも6人いるんだし、せっかくならもう1つ欲しいな。」
まぁ、均等分配するから、個数はあんま関係無いんだが。
ブレイブの言う通り、心境的にはもう一つ欲しいな。
「って、話してたら良いのが来たみたいだよ。」
そんなテツの言葉に前を良く見ると、リザードマンファイターより一回り大きなトカゲ人間がいた。
装備もリザードマンファイターより堅そうなプレートアーマーで、剣も大きい。
「あれは…特異個体…ですか?」
「違いますよ。あれはフィールドボスの『リザードマンジェネラル』ですね。」
メープルちゃんの質問に、みゃ~ちゃんが答える。
みゃ~ちゃんの言う通り、あれは特異個体じゃなくてこの浜辺のフィールドボスだ。
フィールドボスは特異固体とは違い、あそこまでレアじゃない。
普段から周期的にポップする、特別なモンスターだ。
ただ普通のモンスターとは違い、フィールドに1匹しか存在しない。
また、出るフィールドが決まっている。
あのリザードマンジェネラルはこの浜辺にしか出ない。
また、特異個体とは違って、戦ってみないと強さが解らないなんてことはない。
個体差はあるものの、大体いつも同じ強さだ。
稀に同じフィールドに出る雑魚モンスターより弱いフィールドボスもいるが、ボスも言うだけあって、大体の場合雑魚より強い。
リザードマンジェネラルは適正レベルは60くらいだ。
とは言え、リザードマンジェネラルはちょっと特殊だ。
「リザードマンジェネラルは確かにこの浜辺のフィールドボスなんだけど、実はあんまりレアじゃ無いんだよね。」
「そうなんですか?」
「リザードマンジェネラルは確かにこの浜辺に1匹しか出ないんですけど、この先の『リザードマンの巣』に行くと普通の雑魚として出るんです。」
みゃ~ちゃんの言う通り、リザードマンジェネラルはこの先にある洞窟、『シーリザードマンの巣』に行くといくらでも出会える。
一応ここにいるリザードマンジェネラルはフィールドボスとして、レアが出やすかったり特殊な能力があったりするけど。
まぁ、奪い合いになるほどのレアボスという訳でもなく、必死に倒すようなモンスターじゃない。
しかもボスとしての特殊能力のせいで、レベル60の割に倒し辛い。
「どうする?サクッと倒しちゃう?」
とりあえず皆に意見を聞いてみる。
「えっ~と、フィールドボスなのに、サクッと倒せるんですか?」
メープルちゃんから当然の質問が来る。
普通フィールドボスをサクッとは倒さないしね…。
「まぁ、ウチのメンバーならサクッと倒せるんだが。ペッパーが聞いてるのはそういうことじゃないぜ。」
そうなんだよなぁ。
ウチのメンバーだと、サクッと倒せちゃうんだよなぁ。
でもブレイブの言う通り、挑むかどうするかを聞いた訳じゃない。
単純に挑むんなら、別に聞くまでもなく倒しに行く。
「いつも通り祭りで良いんじゃないかな?」
「そうですね。お祭り楽しいですし。」
「私もお祭りで良いわ。」
みんな祭りで良いみたいだ。
「そんなじゃ祭りにしますか。」
「えっ、祭りってなんなんですか?」
メープルちゃんだけついて来れていない。
まぁ、知らなきゃ当たり前だろう。
「まぁまぁ、すぐわかるよ。みんな…体力も魔力も全快か。」
みんなのステータスウィンドを見て、体力も魔力も全快なことを確認する。
バフもまだまだ切れないし、大丈夫だな。
「それじゃ、メープルちゃんは回復に専念してね。多分人が集まるから、ウチのメンバーじゃなくても危なそうな人がいたらどんどん回復して。」
「えっ?えっ??」
メープルちゃんは混乱しまくってる感じだけど、あんまり教えちゃうと面白くないし。
「あ、シロはリザードマンファイターをどんどん攻撃してね。カラスさんシロのフォローよろしく。」
「言われるまでもないわ。指一本触れさせない。」
「えっ、あの、リザードマンファイターいませんよ?」
確かに今はリザードマンファイターなんていないんだけど。
「大丈夫、すぐ出てくるから。そんじゃ行くよ?」
俺の声に、みんなが頷く。
メープルちゃんは何もわかって無いんだろうけど、つられて頷いた。
「そんじゃ、ジェネラル狩るぞ~!」
掛け声に乗せて、アーツを発動する。
〈ウォー・ハウリング〉は俺が使う数少ないアーツの一つだ。
効果はモンスターのヘイトを上げて、ターゲットを集める。
普通壁役が使うスキルだが、ウチのギルドにタンクはいない。
みんな攻撃特化だしね…。
純粋防御力では実はブレイブの方が高いんだが、バフの都合で基本的に俺がタンクをする。
…仕事が無いってのもある。
俺のアーツにつられて、見事にリザードマンジェネラルがこちらをターゲットする。
そして少しこちらに近付いたとこで、リザードマンジェネラルの周りに5匹のリザードマンファイターが突然現れたら。
それと同時に、周りにいた他のプレイヤーがこっちに駆けてきた。
「人少ないと思ったけど、結構集まったな。」
「お~、15人くらいか?」
ブレイブの言う通り、15人くらいは集まったみたいだ。
「えっ?なんですかこれ?リザードマンファイターいっぱいでましたけど?えっ?」
メープルちゃんは絶賛パニック中みたいだ。