2日目-3
あれ?
意外と週2…いや、やめておこう。
調子に乗るのは良くない。
毎週日曜日に更新してます。
「さて、それじゃとりあえず、浜辺に行きますか」
あれからメープルちゃんとギルドメンバーで雑談をして親睦を深め、とりあえず浜辺でパーティー狩りをしてみようと言うことになった。
砂漠での死闘は無事回避された!
これはメープルちゃんのレベルに合わせたからだけど、大人しく浜辺に決まったのにはもう一つ理由がある。
普段なら「砂漠でも大丈夫じゃないか?」とかイケイケなことを言う人が黙っていたからだ。
そう、狩りに関してはいつもグイグイなカラスさんが、狩場の話に口を挟んで来なかったのだ。
というか、もう話とか全然聞いてないし。
ずっとベアさんに付きっきりだし。
たまに普段では見れない、とっても可愛い笑顔が漏れていた。
笑顔が漏れては、慌てていつものキリッとした顔に戻る、というのを繰り返していた。
まさかとは思っていたが、あの声は悲鳴ではなく、カラスさんの歓喜の声だったみたいだ。
「浜辺ってどんなところなんですか?」
浜辺に向かって歩いていると、メープルちゃんが浜辺について聞いてきた。
「この街から歩いて行けるところなんだけど。通称リザ浜辺って呼ばれてる適正レベル50くらいの狩場で、稼ぎが良いんだ。」
「レベル50ですか…。」
今から行く浜辺はリザ浜辺と呼ばれていて、その名の通りリザードマンがメインで出てくる。
このリザードマンは生態系変化の影響を受けず、常に浜辺にいる。
確か、浜辺周辺はシーリザードマンと呼ばれる種族に占領される設定だった気がする。
浜辺を進んでいくと、シーリザードマンの巣というダンジョンがあったはずだ。
「レベル50となると、ベアさんには無理ですね。おいで、ベアさん。」
「あっ…。」
メープルちゃんが呼ぶと、ずっとカラスさんが抱いていたベアさんがメープルちゃんの足元に来る。
カラスさんがとても切ない顔をしている。
というか、切ないどころじゃない。
今にも泣きそうな、絶望的な顔をしている…。
「あっ、あの、すみません。流石にレベル1のベアさんでは無理なので…。」
メープルちゃんがとても申し訳なさそうな顔をする。
「いや…大丈夫だ。いや、大丈夫も何も、私は何も言っていないわ。」
カラスさんがいつもの表情に戻る。
いや、確かに何も言ってないんだけど、あの表情は雄弁に語ってたし…。
「ベアさん戻って。」
「ああぁ…。」
メープルちゃんがそう言うと、ベアさんはカラスさんに手を振りながら消えて行った。
ただのぬいぐるみに戻って、イベントリに仕舞われたんだろう。
そしてカラスさんはベアさんに手を伸ばした姿で、とてもとても悲しそうな顔をしている。
今にも泣き出しそうだ。
「コホン。」
あ、カラスさんが咳払いをして、元の表情に戻った。
う~ん。
なんだかカラスさんが可愛く…いやいや、可哀想になってきた。
っていっても、流石にレベル1のベアさんはなぁ。
「メープルちゃん、昨日のシロとクロは?」
「あ~、シロとクロなら大丈夫そうですけど、皆さんの邪魔になっちゃうんじゃ無いですかね?」
とりあえずカラスさんの為にも提案してみたけど、邪魔に、ねぇ。
確かにどれくらい連携が取れるのかわかんないけど…。
「まぁ、大丈夫じゃねぇか?ウチのメンバーなら、上手くやれんだろ。」
「そうよ、『AOD』のメンバーともあろうものが、連携が取れない訳が無いわ!そんなヤツは私が叩き斬ってくれる!」
ブレイブのフォローに、カラスさんが全力で乗っかる。
いや、ギルドメンバーを叩き斬るのはやめて欲しいけど。
カラスさんはベアさんみたいな、ぬいぐるみを期待してるんだろうか?
一緒に狩りをするんだから、流石にぬいぐるみのままってわけでは無いと思うけど…。
「まぁ、ああ言ってるし大丈夫じゃないかな?」
「そうそう。僕もテイム見てみたいし。」
「私も興味あります。テイムで戦ってる人って、あまり見ませんし。」
テツとみゃ~ちゃんも興味があるみたいだ。
みんな良いって言ってるし、実際ウチのメンバーならなんとかするだろう。
「そうですか?ありがとうございます。それじゃシロだけ。おいで、シロ。」
「うわぁ~…!」
メープルちゃんがそう言うと、傍らに真っ白な犬が現れた。
もちろんぬいぐるみではなく、昨日と同じホワイト・ハウンドだ。
今気が付いたけど、モンスターとして出てくるときほど怖い顔はしてないんだな。
今はまさに飼い犬、といった感じの、飼い主に甘えるような顔をしている。
そしてそのシロを見たカラスさんは、今までに見たことのない、とても良い笑顔をしている。
どうやらぬいぐるみじゃなくても良かったようだ。
まぁ、ぬいぐるみじゃなくても、もふもふした可愛い犬だしね。
「さ、触っても良いかしら?」
「はい。大丈夫ですよ。」
どうやら繕うのはやめたらしい。
カラスさんが笑顔のまま、シロを撫で回している。
シロもされるがままで、とても大人しい。
最早元々モンスターだったとは思えない。
そしてカラスさんは普段の凛々しい姿が見る影もなく、とても可愛い。
カラスさんにこんなに可愛い一面があったとは。
「カラスさんそろそろ狩場着くんで、準備を…。」
そう声をかけると、カラスさんはビクッ!と撫でる手を止める。
「そ、そうね。準備をして狩りを始めましょうか。」
ぎこちない動きで立ち上がり、いつもの表情に戻る。
あぁ、繕うのを止めたんじゃなくて、我慢出来なかったのか…。
「とりあえず、〈パーティーバフ:アタック〉、〈パーティーバフ:ディフェンス〉」
パーティーバフを使って、みんなの攻撃力と防御力を上げる。
パーティー全員を強化するバフだ。
通常の一人に使うバフより消費魔力は多いけど、パーティー6人に一人一人掛けるよりは消費が少ない。
「あとはテツとメープルちゃんはマナストリームだけで良い?」
「良いよ~。」
「はい。お願いします。」
「んじゃ、〈バフ:マナストリーム〉」
俺とテツ、メープルちゃんにそれぞれマナストリームを掛ける。
「ブレイブはいらないよな?カラスさんはアジで、みゃ~ちゃんはどうする?」
「俺は大丈夫だ。」
「頼んだわ。」
「私はデックスでお願いします~。」
「はいよ。〈バフ:アジリティー〉と、〈バフ:デクスタリティー〉」
カラスさんに素早さを上げるバフを、みゃ~ちゃんに器用さを上げるバフをそれぞれ掛ける。
「そんじゃ、狩りを始めますか。」
みんなにバフを掛け終わったところで、狩りの始めを合図する。
この後は俺はぶっちゃけ暇だ。
この狩場だと、殆ど俺に出番は無い。
っと…。
「ちょっと待った。忘れてたわ。〈バフ:アタック〉、〈バフ:アジリティー〉」
「ワンワンッ!」
シロにもちゃんとバフを掛けないとね。
どうやらテイムには、パーティーバフが適用されないみたいだ。
とりあえずアタックは掛けておく。
昨日の戦闘を見る限り、ディフェンスは無くても大丈夫だろう。
っていうか、もう殆ど魔力残ってないし。
そう。
俺に出番が無いっていうか、そもそも最初のバフで殆ど魔力が無くなる。
マナストリームを掛けているから、ちょっと待てば回復するけど、それまで大して出来ることもない。
まぁ、やることも無いんだけど。
最初に出会ったのは、リザードマンファイター3匹だった。
この浜辺では、一番ベーシックなモンスターだ。
「よっしゃ!行くぜ!!」
そう言ってブレイブが飛び出す。
そういやブレイブは『スプリガン』という、物理攻撃力特化な種族で、物理攻撃力特化な脳筋パラメーターだ。
そして戦い方も猪突猛進な、もう真っ向から脳筋だ。
そしてそんなブレイブがたどり着く前に、リザードマンファイターに斬りかかる影がある。
カラスさんだ。
この人の動きはいつ見ても良くわからない。
ブレイブと違って、いつの間にかモンスターに斬りかかっている。
しかも大概ブレイブより先に。
「フッ…。」
カラスさんが息を吐く音と共に、手に持った日本刀でリザードマンファイターの一匹を斬りつける。
鎧の隙間に鋭い太刀筋が走る。
いつ見ても惚れ惚れするほど綺麗な太刀筋。
恐ろしく速く的確に鎧の隙間を縫った刃が、リザードマンファイターを深く傷付ける。
とはいえ適正レベルの敵を一撃必殺とは行かず、リザードマンは深く傷付き仰け反ったものの倒せはしなかったみたいだ。
そして日本刀を振り抜いたカラスさんのもとに、残った2匹のリザードマンファイターが飛び掛かる。
ただリザードマンファイターが手に持った剣を振り上げた時には、カラスさんは既にその場から飛び退いていた。
「よっしゃ行くぜ!おオラァァ!!」
カラスさんに注意が向いたリザードマンファイターの片方に、ブレイブが気合いの声とともに両手剣を叩き付ける。
こっちはカラスさんと違い、力一杯上段から降り下ろすだけの簡単な攻撃。
ただし物理攻撃力特化なブレイブの攻撃力は、カラスさんの攻撃よりも重い。
リザードマンファイターも咄嗟に避けたみたいだけど、肩口に鎧を破壊し深々と剣が食い込んでいる。
「それじゃ私はもう片方!」
「うわぁ!出番が無くなる!〈サンダージャベリン〉!」
声と共に俺の後ろから、矢と雷の槍が飛び出す。
みゃ~ちゃんの長弓から放たれた矢は狙いたがわず、最後の無傷だったリザードマンファイターの喉元に突き刺さる。
そしてテツの魔法の槍は、ブレイブの攻撃で傷付いていたリザードマンファイターを見事に倒した。
あ、忘れてたけど、テツは『ニュージェネレーション』という種族だ。
ヒューマンから新たに進化を遂げた人間、らしい。
進化を遂げたと言っても、ヒューマンの上位互換と言うわけでは無く。
ヒューマンより肉体能力は衰えているが、魔法に適した進化を遂げた人間だ。
それにしても珍しい。
普段ならみゃ~ちゃんもカラスさんの攻撃した敵に合わせて、数を減らしに行くのに。
と思ったら、シロがカラスさんの攻撃したリザードマンファイターの首筋に噛み付き、あっさり倒して見せる。
そして残った矢の刺さったリザードマンファイターをカラスさんが斬りつけて、戦闘は一瞬で終わった。
みゃ~ちゃんはシロが攻撃するのが見えてたのか。
初めてとは思えない、見事なコンビネーションだ。
「ふわぁ~…。皆さんとても強いですね。私何も出来ませんでした。」
メープルちゃんは驚いた!という表情で、感嘆の声をあげる。
だよね~。
ウチのメンバーは異常だよね~。
そういや最後になったが、メープルちゃんは『エルフ』だった。
いや、昨日見たときから気付いていたんだが。
エルフは良くある通り、耳が長くて尖っているし。
ちなみに特徴も良くある通り。
力が弱めで器用で魔法が得意。
魔法は『ニュージェネレーション』よりは弱いらしい。
そして知らなかったが、テイムやペットに補正がかかるらしい。
流石はエルフ。
動物と仲が良いということか。
いや、テイムは動物では無いが。
動物みたいなもの…なのだろうか?
「メープルさんも活躍したじゃ無いですか!シロちゃん良い動きでした!」
「その通りだ。シロは良い活躍をしていた。テイムスキルあっての動きでしょう?」
みゃ~ちゃんとカラスさんが、シロの活躍を褒める。
「そうそう。メープルちゃんは働いたよ。それに引き換えウチのギルマス様は流石の高みの見物。」
「そうだね。ギルマス様ともなると、雑魚の相手はギルマスに任せると。」
ブレイブとテツも一緒になって、メープルちゃんの活躍を褒め…あら?
なんか違くね?
「お前ら!俺をイヤなヤツに仕立て上げるな!確かに何もしてねぇが、俺はちゃんとバフを掛けてる!」
まぁ、バフは最初に掛けっぱなしで、さっきの戦闘ではなんもしてねぇが。
でもあんな速度で戦闘が終わったら、出番ねぇって。
「そうだね。バフには感謝してるよ。今の戦いじゃ一番働いて無いけど。」
「そうね。バフのお陰であれだけ楽に戦えてるんだし。感謝してるわ。今の戦いは出番が無かったけど。」
「うが~!」
テツとカラスさんの励まされない励ましに、俺が両手を振り上げる。
それを見たみんなが笑いに包まれる。
メープルちゃんも笑ってるから、まぁ良いとしよう。