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VRMMO日記  作者: あずれ
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2日目-2

今日も今日とて、いつもの時間に『nWo』にログインする。

ログインするといつも通り、『AOD』のギルドホームか2階の俺のの部屋だった。

いや、当たり前なんだが。

むしろここでログオフしたのに、ここ以外から始まったら焦る。


今日はどうやら、もう俺以外にもログインしてるみたいだ。

ギルドメンバーリストで確認するまでもなく、部屋を出た瞬間に1階から話し声が聞こえてきた。


「お~っす。」


1階への階段を降りたところで、そう挨拶をする。


「おっす。」

「あ、こんにちは、ペッパーさん」


リビングには二人のギルメンがいた。

軽い返事を返してきた方はブレイブだ。

もう一人のちゃんと挨拶を返してきた方は、4人目のギルドメンバー、『みゃ~』ちゃん、元気いっぱいの女の子だ。

身長は150cmちょっとと小さいが、大きい。

小さいけど大きいから、余計に大きく感じる。

もちろん横にでは無い。

痩せてはいないが、健康的な標準的な体型をしている。

一部が標準的では無いだけで。


そして頭の上でネコミミがぴくぴくしている。

みゃ~ちゃんのキャラは、ワーキャットと呼ばれる種族だ。

といっても、見た目はネコミミとネコシッポがはえてる、というくらいしか特徴は無いが。

ステータスとしては、敏捷性に優れていて、腕力が少し低めの種族となる。

いつだったかブレイブが連れてきて、そのままギルドメンバーになった。


「早速ペッパーさんに聴きたいコトがあります!」


あ~、この勢いでこの流れは…。


「昨日可愛い女の子をナンパしたって、ホントなんですか!?」


だよね~。

ブレイブが余計なことを話したに違いない。

目を逸らして、口笛とか吹いてやがる。


「いや、ナンパなんてしてないって!勘弁してよ…。」


そして俺はまた昨日の話をした。

何回この話すりゃ良いんだ。


「…ってことで、別にナンパなんて─。」

「へぇ。その話、私も興味があるわ。」


やっと話終わったタイミングで、そう声がかかる。

リビングに入って来たのは、最後のギルドメンバー、『カラス』さんだ。

カラスさんはモデルのようなルックスをしている。

スラッとしていて身長が高い。

カラスさんの種族はヒューマンだ。

まんま普通の人間で、ステータスは平均的で、優れたところや劣るところが無い。

いや、モンスターを狩れる人間を、普通の人間と言うのかはともかく。

俺もヒューマンだ。

ただ、カラスさんを見ていると、本当に同じ種族なのか疑わしくなるが…。

まぁ、それへは追々。


この人はテツが連れてきた。

物静かで冷静沈着な、お姉さんといった感じの人だ。

そして後ろから、テツも一緒に来ていた。

って、もう一回話すのかよ…。




「─だから、ナンパなんてして無いんです。」


結局もう一回同じ話をした。


「カラスさん、敵の匂いがしませんか?」

「そうね。限り無く黒に近い灰色、かしら。」


敵ってなんだ敵って。

そして、全然黒くない。灰色ですらないから。


「敵ってなんだよ。もし良ければギルド入って貰おうかと思ってたけど、みゃ~ちゃんは反対?」

「む~。会ってみないと、なんとも言えないですねぇ。回復出来る人が増えるのは嬉しいですし、良い人なら。」

「会ってみないとわからないわね。そもそも来るかもわからないんでしょう?」


みゃ~ちゃんもカラスさんも、結局会ってみて、ってことのようだ。

そして、そうなんだよね~。

そもそも、来てくれるかわからないしね~。

義理堅そうだったから、義理で来てくれそうではあるけど。


「まぁ、とりあえず今日はどこいくよ?」


最近の狩場は適正レベル50くらいの浜辺で金策か、適正レベル60くらいの火山麓でレベリングとなっている。

ただ、面白いモンスターが発生したという情報があれば適正レベルに関係無く行ってみたりと、気分で狩場が変わることも多い。


「そ~ですねぇ。いい加減火山も飽きたんですよね。」

「そうね。あそこはもう作業だし、もっと上の狩場でも良い気がするわね。」


…みゃ~ちゃんとカラスさんが、恐ろしい話をしている。

確かにパーティーでの狩りの場合、自分達のレベルより上の狩場で狩りが出来る。

適正レベルはソロ基準なので当たり前だ。

だけど、普通そんなに上の狩場で狩りが出来る訳じゃない。

普通レベル50前半のパーティーが、適正レベル60の狩場でレベリングとかしない。

それなのに、そんな狩場ですら作業…だと…。


「そうだ!砂漠とかどうですか?」


みゃ~ちゃんが、思い付いた!と、ネコミミを立てて提案する。

砂漠─無限砂漠と呼ばれている大砂漠は、火山麓と同じ適正レベル60の狩場だ。

いや、同じとか嘘だ。

確かに適正レベルは同じだ。

ただし、砂漠はパーティー狩場と言われる、パーティー向けの狩場だ。

適正レベルもレベル60前後のパーティー向けだ。

ソロ適正とは全然違う。


「いや、それは─」

「いいんじゃねぇか、砂漠。面白そうじゃん。」

「そうだね。蜃気楼の塔も見てみたいし。」


止めようとした俺の声を遮って、ブレイブとテツが乗り気でこたえる。

このギルドには、ブレーキが存在しない。

いや、俺が存在する。

俺がブレーキだが、基本的に俺の意見は通らない。

民主主義という数の暴力に負けるからだ。

暴力反対!

イジメはダメ!

まぁ、俺がいくらそう騒いでも、結局は止まらないんだが。

それゆえに、このギルドにはブレーキが存在しない。


「まぁまぁ。ペッパーも良いじゃんか。ウチのメンバーならなんとかなるって。」


ブレイブに適当に慰められる。

普通に考えて、なんともならん。


「いやお前等、少しはギルマスの意見ってものを聞こうぜ。」

「聞いてるわよ。これがギルマスの意見じゃ無くてブレイブ辺りの意見なら、聞くことも無いわ。」

「―えっ…?」


ブレイブがカラスさんを見てぽか~んとしている。

御愁傷様。

って、俺の意見も文字通り『聞いてる』だけじゃねぇか!


まぁ、ブレイブの言う通り、ウチのメンバーならなんとかなりそうな気がする。

それがギルド『AOD』の恐ろしいところだ。

ウチのメンバーに『普通』なんて言葉は意味が無い。

『普通』が通じるのは俺一人だ。

俺以外のメンバーは『普通』じゃない。


「はぁ…。まぁいいけど。そんじゃディサから蜃気楼の塔を目指すで良いか?」


結局俺が折れる。

まぁ、いつも通りだが。

ディサは砂漠の入口にあたる街だ。

このゲームは街間ポータルがあるので、街から街への移動は楽だ。


「良いんじゃない?楽しめそうね。」


カラスさんがそう言うと、みんなが頷いた。

今日は砂漠で決定のようだ。

…と思ったら、チリーンと来訪者を告げる鐘が鳴った。

ギルドハウスに誰か来たらしい。

誰か。

誰か、なんて考えるまでも無い。


「おや、誰か来たようだ。」


俺は冷静を装って立ち上がる。

いや、装って無い。

俺は冷静だ。

うむ、誰かわからん。

椅子がガタッと派手な音をたてたが冷静だ。


「まぁまぁ。ギルマス様が直々に出る必要は無いでしょ。座ってなさいよ。」


そう言ってカラスさんが席を立つ。


「そうですよ~。ギルマス様は座っていて下さい。」


みゃ~ちゃんが、がっちり俺の腕を掴んだ。


「いやいやいや。さっきまで俺の意見とか聞かなかったじゃねぇか!何いきなりギルマス様とか言ってんだ!」

「まぁ、落ち着けよギルマス様。」

「そうだよ。カラスさんに任せて座ってなよ、ギルマス様。」


お~ま~え~ら~!!

みゃ~ちゃんを振りほどこうともがくが、ガッチリ掴まれた腕を振りほどけない。

そうこうしている間に、カラスさんが玄関へ消えていく。


「ちょ…離せ─」

「きゃああああああぁぁぁぁ!!」


突然の悲鳴に俺の声が掻き消された。

今の悲鳴は玄関からだ!

しかも女の子の悲鳴!

まさかカラスさんがいきなり…。

いきなり?


「なぁ、今の悲鳴は…?」


みんなを見回すが、みんななんだか微妙な顔をしている。


「なんだか、聞いたことのある声でしたね。」

「っていうか、さっきまでも聞いていた声のような。」

「そもそも悲鳴だったのかな…?」


やっぱりみんな、同じことを考えたようだ。

多分今の悲鳴は、カラスさんだ。

そして、そもそも悲鳴じゃない。

どちらかというと、喜んでいた気もする。

いやでも、カラスさんのあんな声聞いたことない。

カラスさんはいつも冷静沈着で、取り乱したところなんて見たこと無いし。


「と、とりあえず何があったか見に行こう。」


玄関に向かうべく、今の声を聞いて固まっていたみゃ~ちゃんを振りほどく。

一歩目を踏み出したところで、玄関へのドアが開いた。


「ペッパーに客人よ。」


そう言って、カラスさんがリビングに入ってくる。

って、出ていったときとなんか違くね?

カラスさんが玄関に向かったときは、手ぶらだったはずだ。

今は胸元に熊のぬいぐるみを抱いている。


「え~っと、カラスさん。そのぬいぐるみは…。」


さっきの悲鳴?といい、もしや客人から強奪…。


「このぬいぐるみは客人が貸してくれたの。ねぇ?」


そう言って、カラスさんが後ろを見る。


「はい。私の貸したベアさんです。」


カラスさんの言葉を肯定しながら入ってきたのは、見間違いようもない美少女、メープルちゃんだった。

まさか客人がメープルちゃんだったとは!

驚いた!!

…いや、この演技もう意味無いし良いか。


「さっそく来てくれたんですね。ありがとうございます。」

「いえいえ。先日は助けていただき、こちらこそありがとうございました。」


メープルちゃんが丁寧に返して、頭を下げる。

それにあわせて、カラスさんが抱いたベアさんも手を挙げて返事をした。


「おっ、そのクマは噂のテイムか。」


それを見たブレイブが、声を上げた。


「これはもしかして昨日の林で?」

「そうです。昨日林で、ファング・ベアーから出たベアさんです。」


そう、この一見ただのぬいぐるみは、ただのぬいぐるみだ。

…いや、それじゃ意味がわからん。




このゲームの『テイミング』は、モンスターを倒したり、餌付けをして手懐けたりはしない。

ではどうするかというと、モンスターを倒したときに、レアドロップとしてそのモンスターのぬいぐるみを出すことがある。

テイムスキルを持っていると、このぬいぐるみをテイミングモンスターとして使役することが出来る。

これがこのゲームでのテイミングとなる。

そしてこのぬいぐるみ、元々のモンスターと違って、基となるモンスターを思いっきりデフォルメした、二頭身のふわふわなぬいぐるみなのだ。

そのため、元がどんなに凶悪なモンスターでも、ぬいぐるみは大体可愛い見た目になる。


例えば今カラスさんが抱いているベアさんことファング・ベアーは、元々は長い牙を持った、人と同じくらいのサイズがあるまんま熊なモンスターだ。

それがぬいぐるみの今は、手で抱き抱えられる50cmくらいのふわふわなぬいぐるみになっている。

口から牙が生えてはいるが、多分あの牙も刺さるほど堅くは無いだろう。

そもそも先が丸まっている。

そして目は真ん丸のボタンのような目で、凶悪な熊の顔からはほど遠い、愛嬌のある顔になっている。


これがこのゲームでテイムスキルが人気の理由だ。

街を歩いていると、とにかく可愛いぬいぐるみを連れて歩いている人が多い。

みんなペット感覚でぬいぐるみを連れて歩くのだ。

ペット自体は実はちゃんといる。

こちらはテイムスキルが無くても連れて歩けて、戦闘にも参加出来る。

だけどペットに出来るのは、限られた犬や、馬だったりする。

それに対してテイミング・モンスターは生態系変化システムの仕様もあって、莫大な種類が存在する。

しかもペットは可愛いには可愛いが、流石にデフォルメされたぬいぐるみのような可愛さは無い。

そのため、ペットとは別にテイムスキルを取って、テイミング・モンスターを連れている人が多い。


ただ、テイムスキルにも問題がある。

まずぬいぐるみが高い。

ぬいぐるみ自体がレアドロップであり、また人気もあるため、相場がかなり高い。

普通のザコのぬいぐるみでもかなり高く、一部の可愛いぬいぐるみや、生態系変化によって短い期間しかいなかったモンスターのぬいぐるみは、ヘタなボスレアよりも高い。

そしてこれはまぁ当たり前なんだが、ぬいぐるみには大した戦闘能力が無い。

ぬいぐるみのままでも一応戦闘に参加出来るが、攻撃力はめちゃめちゃ弱く、すぐにやられてしまう。

ぬいぐるみだし。

ではどうするかというと、テイムスキルをある程度育てると、ぬいぐるみから元の姿に戻せるようになる。

こうして元の姿に戻して、やっとまともに戦えるようになる。

とは言え、テイミング・モンスターは最初はプレイヤーと同じく、レベル1から始まる。

元の姿に戻せても、レベルを上げないとやっぱり弱い。

どれくらい弱いかと言うと、元々モンスターなのに、何故かペットより弱い。

そしてレベルを上げるには、一緒に戦うしか無い。

そして一緒に戦うと、経験値をプレイヤーとテイミング・モンスターで分けることになる。

結果として、プレイヤーのレベルが上がりづらくなる。

ペットの場合も経験値を分けることにはなるが、ペットの方が取られる経験値の割合が少なく、またレベルも上がりやすい。

新しいテイミング・モンスターを育てようとすると、最初はテイミング・モンスターに合わせて弱い敵と戦わなければならず、その後もプレイヤーが手に入る経験値が少なくなる。

ある程度育てれば、この前のメープルちゃんみたいに、一緒に強い敵と戦うことで、ソロではキツい敵とも戦えるようになるが…。

それならペットで良いのだ。

運営は育てれば最終的にはペットよりテイミング・モンスターの方が強くなる。

そのためにテイミングの方がキツくなっている。

と、説明しているが、正直キツ過ぎた。

結局テイムスキルは、ぬいぐるみを連れて歩けるスキルとして絶大な人気を誇ったが、まともに使う人は少数派、というスキルに落ち着いたのだった。



メープルちゃんは昨日特異個体と会っただけじゃなくて、ぬいぐるみもゲットしていたのか。

運が良いな。

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