2日目-1
なんか早く書けたので…。
日曜日に更新と補記したその日に、日曜日の分とは別に投稿してみます。
ペース乱すなって?
「はぁ…。俺もカワイコちゃんナンパしたい…。」
机につっぷして、そんかコトをボヤく。
いや、俺がじゃない。
俺はそんなアホなコトは言わない。
ボヤいたのは俺の目の前に座る冴えない男。
悪友の相沢結城、昨日俺にログイン連絡をしてきた、同じギルド『AOD』のメンバー『ブレイブ』だ。
結城って名前で『ブレイブ』ってキャラ名は安直過ぎると思わないか?
その点俺のキャラ名は捻りが効いている。
そんなコトより。
冴えない、と言ったが、あれは嘘だ。
誠に遺憾だが、コイツに冴えない、という言葉は当てはまらない。
何故ならコイツは、非常に誠に遺憾だが、所謂イケメンだ。
しかもかなりの。
身長は優に180cmを越えていて、スポーツをやっている人間特有の引き締まった身体。
そして何より、嫌味の無い、どこまでも爽やかなイケメン。
それが相沢結城だ。
まぁでも、そんな隙の無いルックスだが、隙だらけの発言が多い。
さっきのようなアホな発言も珍しくない。
というか、どこまでもいつも通りな昼休みだ。
少し唐突な感じはしたが、発言はいつも通りなので軽くスルーすることにした。
「おぉ結城!そんな辛そうな顔をして、一体どうしたって言うんだい!?」
…俺はスルーした。
スルーしたが、釣られるヤツがいた。
俺の斜め前に座るもう一人の悪友、高山哲史だ。
コイツがギルド『AOD』の名付け親、キャラクターネーム『テツ』だ。
『さとし』の『哲』から『テツ』らしい。
コイツも安直な…と言いたいが、コイツの場合は普段のニックネームもテツだから、そんなもんだろう。
コイツは結城と違って、身長が160cmくらいしかない。
そしてそれほど筋肉も付いていない。
ちょっと小さいが平凡な体型だ。
ただし、童顔で整った顔立ちをしている。
守ってあげたい系のルックスで、お姉さま方に非常に人気がある。
っていうか、なんか芝居がかった反応だな。
外国人の通販みたいな。
…なんか嫌な予感がする。
「聞いてくれよテツ。俺昨日見ちゃったんだよ。」
「一体何を見たって言うんだい?結城。」
「それがさ、知ってる顔のヤツが凄い可愛い子と歩いてたんだよ。」
いや、演技があからさま過ぎだろ…。
「それは誰だったんだい?」
「良く見る顔なんだけど、名前が思い出せなくて…。確か調味料みたいな名前だったような…。」
「いや、明らかに俺のコトだろ!」
「「そうだ!お前だ!!」」
ついつい突っ込んだら、俺のツッコミの倍の勢いで、二人から怒鳴られた。
「その通り。君のことだよ、ペッパー君。詳しく聴かせて貰おうじゃないか。一体いつ、どこであなん可愛い子をナンパした?」
「そうそう。しっかり詳しく教えてよ。僕も凄く興味があるな。」
結城が只でさえデカイ体を乗り出して食い付いてくる。
哲史の方は穏やかな微笑みを浮かべながら、優しそうに諭してくる。
だけど俺は知っている。
哲史の優しそうな笑顔に騙されちゃいけない。
アイツは笑顔のままで、どこまでも追い詰めてくるヤツだ。
「っていうか、ナンパなんかしてねぇし。」
「そんなハズは無い!ナンパじゃないなら、あんな可愛い子と出会う機会なんてないはずだ!あんな可愛い子がお前に声を掛けてくるハズがない!」
…酷くね?
確かに俺は結城ほどイケメンじゃ無いが。
それでも酷くね?
確かに可愛い子から声掛けられたコトなんて無いけど…。
「別にナンパなんてしてねぇって…。林で採集してたら、たまたま林で会ったんだよ。」
「なんでたまたま会っただけで、街まで愉しそうにお話しながら帰ってくる、なんてコトになるのかな?」
哲史があくまでも優しく問い掛けてくる。
言い方は優しいが、コイツは絶対に獲物を見逃さない。
まぁナンパなんてしてないし、別に逃げるつもりも無いが。
「ホントにナンパじゃねぇって。昨日林で採集してたら…。」
と、昨日あったことを説明する。
別に辻バフしてそのまま一緒に街まで帰った、ってだけなんだが。
「しっかり一緒に帰ろうって声掛けてるじゃねぇか!」
「そうだね。いつもは辻バフしたら、そのまま立ち去るよね。なんで見守ってたのかな?」
…あれ?
俺別にナンパしてないよな?
「たまたま特異固体と戦ってたから見てただけだって。一緒に帰ることになったのも、たまたまタイミングがあっただけだろ。」
そうそう。全部たまたまだろ。
「ふ~ん。じゃあ敏男は、たまたま可愛い子に出会って、たまたま辻バフをして、たまたま声を掛けて、たまたま一緒に帰って来たんだね。」
「そうだぞ。たまたま、な」
そう、たまたまだ。哲史の言葉に頷く。
わかってくれたようで、なによりだ。
「でもそれをナンパって言うんじゃ無いかな?」
…あれ?
いや、そんな馬鹿な…。
「あ~あ~。やっぱりナンパかよ!良いな~!決めた!俺も戦闘職なんて辞めて、補助職になろう!辻バフバンザイ!!」
何これ。
なんか雲行き怪しいんだけど…。
このままじゃ押し切られる気がする。
ここは話の流れを変えよう。
そうだ、それが良い。
「結城はそんなコト言ってて良いのか?可愛い幼馴染みの彼女が怒るぞ?」
そうだ。
そいつには彼女がいる。
しかも幼馴染み。
朝迎えに来て、一緒に登校するような、まさに絵に描いたような幼馴染みだ。
まぁ、結城と友達になってからは、俺も一緒に登校してるんだが。
「鈴は彼女じゃねぇって。ただの幼馴染みだ。なんていうか、妹みたいなモンだよ。」
さっきまでの勢いはなくなり、結城はヤレヤレといった感じでそんなコトを言う。
結城は何故か幼馴染み、一宮鈴と付き合っていることを認めない。
だが言い訳までがテンプレとあっては、説得力はゼロだ。
「そうそう。結城きは一宮さんがいるじゃない。仕方無いから、ここは僕が回復職になるよ。」
「いや、何が『仕方無い』んだよ!大体お前にも『会長』がいるだろ!」
仕方無いの意味がわからん。
そして哲史にも彼女がいる。
『会長』と呼ばれる、一つ上の先輩にして、この学校一番と名高い橘雅先輩だ。
「ねぇ敏男、それ本気で言ってるの?」
哲史はこれまた、ヤレヤレみたいな表情で、そんなコトを言ってくる。
コイツも何故か会長と付き合っていることを認めない。
俺なら、あんな美人と付き合えたら、言いふらしたいくらいなんだが。
「本気でも何も、付き合って無いのに毎日会いに来るとか無いだろ。毎日委員会の用事があるわけじゃ無いんだろ?」
「そ~なんだけどさ~。」
哲史はそう言って溜め息をつく。
やっぱりそうなんじゃねぇか!
「─盛り上がってるところゴメンね。ちょっと良いかな?」
馬鹿なやり取りで盛り上がっていると、後ろから可愛い声が聴こえた。
間違いない。
振り返るまでもなく、この声の主は美人に違いない。
しかも、超絶美少女。
っていうか、振り返らなくても誰だかわかる。
「なにかな?白倉さん。」
そう、哲史が言った名前は、俺が思い浮かべた通りの名前。
振り返った俺の目に飛び込んで来たのは、このグラス一番の美少女の顔。
というか、この学校の美少女ランキング2位と名高い、白倉楓の顔だった。
ちなみにこの学校の美少女ランキング1位は、会長こと橘先輩で、3位はテンプレ幼馴染みこと鈴ちゃんだ。
くそぅ。なんで俺の周りはイケメンばっかりなんだ。
いや、別に悔しくなんて無いが。
くそぅ…。
「橘先輩が高山君に用事だって。」
そう言って白倉さんが指差した先には、教室の入り口に佇む橘先輩がいた。
目があったので、ペコリっと挨拶をしておく。
すると向こうも手を挙げて返してくれた。
「ほらみろ。今日もこうやって、会いに来てるじゃないか。」
「はいはい、そ~だね。」
哲史はそう言って席を立つ。
あんな美人の先輩が訪ねてきて何が不満なのか、哲史はつまらなそうな、今にも溜め息でも付きそうな顔だ。
「そういえばなんだかとっても盛り上がってたみたいだけど、なんの話をしてたの?」
「あぁ、いつも通り大したことじゃ─」
「聞いてくれよ白倉さん!」
白倉さんの問いに俺の言葉を遮って、結城が大きな声で返事をする。
いや、まてなにを…。
「敏男のヤツが昨日、凄い可愛い子をナンパしたんだ!」
「ええっ!佐藤君がナンパ!?」
その瞬間、教室が静まり返る。
というか、俺も言葉が出ない。
…びっくりした。
結城の妄言は予想通り過ぎてびっくりしなかったが。
白倉さんのリアクションに教室中が驚いている。
話を振った結城ですら驚いた顔で固まっている。
あんな大きな声を出すところ、初めて見た。
白倉さんは別に静かな方って訳じゃない。それどころか、普段から明るい、接しやすい方だ。
ただ、あまり大きな声で騒いだりするタイプじゃない。
そんなクラスでダントツに人気のある白倉さんが 、普段上げない大声をあげたのだ。
しかも内容がナンパ。
クラス中が驚くのも頷ける。
っていうか、ナンパ?…ナンパ!
叫んだ内容がヤバすぎる!
「おい結城!適当なコト言ってんなよ!俺はナンパなんてしてねぇ!」
ヤバさに気付いて立ち直った俺が、ちょっとヤケ気味に叫ぶ。
「あ…あぁ、そうだな。」
結城は少し呆然とした感じのまま頷いた。
「えっ…。あぁ、嘘か~。あははっ、驚いちゃった。」
白倉さんは自分が大声を出したことに気付いたのか、赤い顔で苦笑いを浮かべている。
そこでクラスの連中も立ち直ったらしく、なんだ結城のいつもの馬鹿話か…とか言いながら自分達の会話に戻っていく。
なんとかクラス中からナンパ野郎だと思われるのは、回避出来たみたいだ。
「そうだよ、別にナンパとかしてないし。昨日ゲームでね…」
白倉さんに、昨日ゲームで女の子を助けた話をした。
白倉さんはふむふむ、と途中相づちを挟みながら話を聞いてくれた。
「というわけで、別にナンパとかした訳じゃないんだよ。」
「…あ、あぁ、そうなんだね。それはナンパじゃないね。」
白倉さんはわかってくれたみたいだ。
なんか上の空っぽいけど。
ゲームをやらない人にゲームの話しとかしても、そんなに面白くなかったかもしれない。
まぁ、誤解が解ければそれで問題はない。
「それって、なんていうゲームなの?」
あれ?
白倉さんは実はゲームとかやるんだろうか。
興味を持ってくれたのかもしれない。
「『New World Online』っていう、VRのオンラインゲームだよ。俺と結城にテツの三人でやってるんだ。」
「ふ~ん…。そうなんだ…。」
白倉さんはそう言って、席に戻っていった。
あら、聴かれたからこたえたのに、なんだか気のない返事が返ってきた。
別に興味を持ったわけでは無かったのか。
社交辞令的なヤツかもしれない。
ゲームのタイトルを聴くのが、社交辞令になるのかはわからないが。
そんな馬鹿話で昼休みは終わっていった。
途中クラス中から冷たい目で見られる未来が思い浮かんだが、どうやらその未来も回避出来たようだし。
概ねいつも通りの昼休みだった。