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VRMMO日記  作者: あずれ
3/53

1日目-3

「ガォオォォ…ン…」


フォレスト・オークがシロの噛み付きで消えていく。

どうやら俺がバフを掛けると、普通のフォレスト・オークには簡単に勝てるくらいには強いみたいだ。


今は林の中をのんびり歩いて帰り中だ。

もちろん女の子も隣を歩いている。


「はぁ~…。バフはホントに強いですね。」

「別にバフがそこまで強いわけじゃ無いと思うけど。君のシロとクロが十分強いからだと思うよ。」


そんな会話をしながら歩く。

道中出てくるモンスターは彼女のテイミング・モンスターに任せている。


「あっ、私名乗ってませんでしたね。私はメープルって言います。そしてもう分かってると思いますけど、白い方がクロで黒い方がシロです」


その声に応えるように、二匹の犬が一度鳴き声をあげる。


「…なん…だと!」


がく然とした。

驚いたというより、半ば絶望したような気分になる。

なんてことだ。

この俺が、完全に騙されていたということか。

確かに彼女のテイミング・モンスターなんだから、名前は彼女が好きに付ければ良い。

だが…そうなんだが。

見た目が白く、元々の名前がホワイト・ハウンドなのに『クロ』。

見た目が黒く、元々の名前がブラック・ハウンドなのに『シロ』。

これほどの絶望が─


「まぁ、ウソですけど。」


そう言って彼女─メープルちゃんが、満面の笑顔を見せる。

悔しいっ!─よりも可愛い!


「なん…だと!!─じゃあ君の名前はいったい…。」


そう言って、ちょっと大袈裟に驚いてみせる。


「─?あっ!違います!私の名前はメープルであってます!それはウソじゃないです。ウソって言ったのは、あの子たちの名前で…。」


メープルちゃんはきょとんとしたあと、慌てたように両手をわたわたさせながらそう言ってきた。

うん。どの表情も可愛いな。

仕返しした甲斐がある。

って、仕返しする前から満面の笑顔が見れてたんだから、そもそも仕返しする必要があったのかわからないが。

とりあえず犬の名前は白いシロと黒いクロで合っていたようだ。


「あははっ。そんな慌てなくてもわかってるよ。俺はペッパーだよ。よろしくメープルちゃん。」


そう言うとメープルちゃんは頬っぺたをぷく~っと膨らませながら、よろしくお願いします、と言ってきた。

拗ねた顔も可愛い!

…けど、良く考えたら、街に送っていくだけで、今更何をよろしくなのか。




「ペッパーさんって、かなり強いですよね?」

「別にそんなに強くないけど?」


出てきたファング・ベアを今度はクロがガウガウして倒したところで、いきなりそんなことを訊かれた。


「今のシロとクロを見ていると、かなりバフスキルが高いと思うんですけど…こんなところで何してたのかなって。」


あぁ、この林で狩りをしてるにしては、ってことか。


「友達がまだログインしてなかったから、時間潰しに大葉薬草を採集してたんだよ。それでさっきログインしたって連絡が来たんだ。」

「あぁ、それでこの林にいたんですか。」

「そうそう。友達が来るまでだったから、あんまり遠出出来ないしね。」


納得納得、とメープルちゃんはコクコク頷いている。

そういや、大葉薬草集めとかすっかり忘れていた。

まぁ、元から時間潰しだから良いんだが。


「それに俺はバフ特化だから、実はソロじゃそんなに強くないんだ。この辺なら流石に余裕だけど、ソロでもっと上の狩場に行くのはキツいんだよ。」

「えっ?バフ特化って、バフ以外に戦闘スキル取ってないんですか?それってかなり珍しいですよね?」


えっ…?

確かにバフ特化は珍しいんだけど…。


「テイムスキルを上げてるメープルちゃんに珍しいって言われてもなぁ。テイムスキルかなり高いよね?そっちの方が珍しいと思うけど。」


そう。

バフ特化は確かに珍しい。

でも、そんなにいないわけじゃない。

テイムで戦えるほど上げてる人の方が珍しいしんじゃないだろうか?


「そうなんですかね?テイム、可愛いじゃないですか。ね~。」


メープルちゃんがそういうと、シロとクロが揃って「ワンッ」とハモった。


「それにこのゲームでは、どんどん見たこと無いモンスターが出てくるし。いつどんな子と出会えるか楽しみじゃないですか。」

「あぁ、それは確かに。俺がこの林にいたのは、それも理由の一つなんだ。」

「??どういうことです?」


そう言って小首を傾げる。

合わせたようにシロとクロが「ワゥ?」と鳴いた。

いや、テイムなんだし合わせたのかも知れない。

テイマーの気持ちがテイミング・モンスターに、どこまで伝わるのかは知らないが。


「このゲームは生態系変化でどんどん出てくるモンスターが変わって行くじゃん?のんびり散歩しながら、新しいモンスターを探すのが、結構好きなんだよね。」

「あぁ、なるほど!」


そう言って、ポンッと手を打つ。

シロとクロもワンッと鳴いた。

どうやら思ってた以上に、テイミング・モンスターには伝わるようだ。


「でも私は今回、その生態系変化にやられちゃいました。」

「やられた?どゆこと?」


今度はこっちが首を捻る番だ。

もちろんシロとクロは鳴いてくれない。


「実はプラント系モンスターが出るから稼ぎが良い、って聞いてここに来たんですけど…。もういなくなってたみたいで。」

「そ~ゆ~ことね。」


タハハ…と苦笑いするメープルちゃんに、なるほど、と頷いていみせる。

すると今度はシロとクロはクゥゥン…と同調してくれた。

いや違う。

あれは俺に同調したんじゃなくて、メープルちゃんの苦笑いに同調したんだろう。

鳴き声もどこか、残念…って感じだったし。


「でも特異固体からレア出たし、そこそこ儲かったんじゃない?」

「どうでしょう?アイテムも結構使っちゃいましたし。どれくらいの価値なんでしょうか。」

「さっきも言ったけど、フォレスト・ウォーカーの方は知らないけど、伐採斧はそれなりに人気があるよ」

「フォレスト・ウォーカーは、林や森での移動速度が上昇して、隠密性も上昇、らしいですよ」


ほほう。

ってことは伐採斧とセットで、採集する人には人気がありそうだ。


「上昇率によるけど、採集で使えそうだし。それなりに人気は出そうかな」

「だと嬉しいですね。」


どうだろ?と疑問顔から、えへへ、という笑顔に変わる。

ずいぶん表情豊かな子だなぁ。

そう思っていると、ハッ!気付いた!という顔になった。

分かりやすいな…。


「そういえば、お礼をしたいんですけど。ペッパーさんは採集に来てたんですよね?フォレスト・ウォーカーはどうでしょうか?」

「ん?あぁ、俺は採集メインなわけじゃないし、それにお礼なんて良いよ。」


採集メインだったり商人プレイヤーなら喜びそうだけど。生憎俺は採集がメインなわけじゃない。

それにそもそも、辻バフしたくらいで、普通お礼なんて貰わないし。

あってもありがとうとお礼を言われるくらいだ。

レアアイテムなんて貰えない。


でもメープルちゃんは、それじゃ納得出来ないみたいだ。

むむむ…と唸っている。


「でも私あんまり良いもの持ってなくて。他にお礼になるようなもの無いんですよね…」


そう言って、しょぼ~んとしている。

そんなコト言われても、ホントにお礼なんていらないんだけどなぁ…。


「そういえば、メープルちゃんは普段からソロなの?」

「そうですね~。私テイマーじゃないですか。だからあんまりパーティープレイに向かないんですよね…。」


まぁ、それもそうだ。

テイマーは自分の他にテイミング・モンスターも育てなければいけない。

だから、戦闘もテイミング・モンスターと一緒にすることになる。

そしてテイミング・モンスターはそだてれば強くなるとはいえ、やはりプレイヤーの方が強い。

結果として、パーティープレイではテイミング・モンスターは足手まといになることが多く、テイマーはパーティープレイでは実力を活かしきれないことが多い。

でもまぁ、そこは普通のパーティーなら、だろう。

うちのギルドメンバーなら、テイミング・モンスターとでも上手く共闘する気がする。


「もしギルドにも入って無いんだったら、うちのギルドに来てよ。お礼ってことで。」

「ギルドに入ることが、お礼になるんですか?私はあまりレベルも高く無いですし、テイマーだからお役に立てないかと…。」


いや、可愛い君がいてくれるだけで、ギルドが華やぐ!

なんて言ったらただのナンパだし、そもそも俺はそういうコトを言える性格じゃない。

大体そんなことはちょっとしか思ってないし。


「うちのギルド、五人しかいないんだよね。だからいつもパーティー枠が一つ余っちゃうんだよ。そして、うちのギルドにはなんと、回復使える人が一人もいない!」


そうなのだ。このゲームは最大6人でパーティーが組める。

それなのにギルドメンバーは5人しかいないため、狩りはいつも一人足りない5人パーティーでの狩りになる。

そしてなんと、うちのギルドには回復役が一人もいない。

それどころか、回復魔法を取ってる人間が一人もいない。

俺が唯一バッファーなんてやっているが、他はみんな攻撃特化だ。

それでなんとかなっちゃうあたり、うちのギルドメンバーは…。

それはともかく。


「それにうちのギルドメンバーは、狩りにテイム連れてっても大丈夫だと思うよ。レベルは一緒に狩りに行けば、そのうち追い付くさ。」


レベルなんて大した問題じゃない。

一緒に狩りに行ってれば、その内同じくらいになるだろうし。

大体この林で普通に狩りが出来てたんだから、そこまでレベルが低いってことは無いだろう。

この林の適正レベルは、ソロならレベル40くらいだったハズだ。

うちのギルドメンバーは大体50越えたくらい。

俺が一番低くてレベル52で、一番上でも54しかない。

レベル10くらいの差なら、バフ使えば一緒に狩りに行けるだろう。


「そうですか…。う~ん…。でも私、ずっとソロでやってきたから。」


メープルちゃんは困った顔で考えこんでいる。

まぁ、そりゃそうか。

たった今出会ったばかりのヤツから、いきなりギルドに誘われても困るか。

それにメープルちゃんは女の子だし。

(良く考えたら、リアル女の子かは知らないけど。そう思い込んで、疑って無かった。)

いきなり男にギルドに誘われても、それこそナンパっぽいよな。

メープルちゃんくらい可愛いと、過去にナンパされた経験とか、いくらでもありそうだし。

もしかしたら、それで嫌な思いをしたこともあるのかも知れない。


「まぁ、気が向いたらで良いよ。なんなら今度、とりあえずうちのメンバーと一緒に狩りに行ってみようよ。ギルドに入るかは、それから考えてくれれば良いさ。」


気が合わないのにギルドにいても、居心地悪いだけだし。

何度かパーティー組んで、それから結論をだして貰えば十分だろう。

元々お礼自体はどうでも良いし。


そんなことを話していたら、いつの間にか林を抜けていたようだ。

気が付けば木も疎らな草原を歩いていて、もう街が見えている。

もうちょっと歩けば、すぐ街に着くだろう。

もうこの楽しいデートも終わりか~。

いや、デートでは無いんだが。


「うちのギルド『AOD』のギルドホームは、この街にあるから。気が向いたら訪ねて来てよ。」

「ギルド『AOD』ですか。」

「そうそう。『Age Of Discovery』ってね。」

「エイジ…。あぁ、『大航海時代』ですか!冒険と新たな発見、って感じですか?このゲームにぴったりですね!」

「…って思うじゃん?」


俺もそう思ったんだよなぁ。


「そのギルドネーム付けたのは、俺じゃ無くて友達なんだけどさ。ネーミングセンス良いな、って言ったら、『胡椒と言えば大航海時代』って言われた…。」

「胡椒…?あぁ、名前…。」


納得したあと、苦笑いをされた。

あの顔は、それはそれで納得、って感じかなぁ。


「ちなみに知り合いは何故か、みんなすぐに胡椒と紐付いてた…。」


冒険とか新発見と紐付く方が少数派で、みんな『ペッパーだけに』って言いやがる。

まぁ、友達はそのつもりで付けたんだから狙い通りなんだが、俺の狙い通りじゃない。

でもウケは良いんだよなぁ。


「まぁ、気が向いたら顔出してよ。きっとみんな歓迎するからさ。そんでパーティー狩りしてみよう。」

「はい。わかりました。」


ただの社交辞令かもしれないけど、とりあえずメープルちゃんはそう言って頷いてくれた。

ホントに来てくれたら嬉しいんだけど…。

そう言ってる間に、街に着いてしまった。


「無事到着っと。それじゃまた今度。無理はしなくて良いから、気が向いたらで良いからね。」

「はいっ!今日はありがとうございました!」


メープルちゃんはそう言って、元気にペコリと頭を下げた。

こうして俺と可愛い女の子との出会いは終わりを告げた。

…いや、出合いの話が終わっただけだからね?

別にもう会えないとか、確定してないからね?

ホントに来てくれるかも知れないじゃん?

可能性はゼロじゃない!

…多分。




そのあとはいつものギルドメンバーと合流して、いうも通りに狩りに行った。

まぁ特に書くようなこともなく。

特にレアも出なかったし、レアなモンスターにも会わなかった。

普段の狩りを書かないと、今後日記に書くことなんで無さそうだけど。

今日は可愛いメープルちゃんとの出合いを長々と書いたから十分だろう。




そういや忘れてたけど、『熊の牙』なんだけど。

知り合いの商人のところに持っていったら、


「これはなんと素晴らしい汎用素材なんだ!なんの特殊効果も無い、素晴らしい汎用素材だ!」


と言われた。

…早い話、ただの汎用素材としての価値しか無くて、全然レアじゃなかった。

安い値段で買い叩かれて終わった。

…ちくしょう。

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