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VRMMO日記  作者: あずれ
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1日目-2

観察していたところ、どうやらフォレスト・オークと戦っているのは、主に白と黒の犬らしい。

さっき聴こえた声からいって、あの犬が『シロ』と『クロ』だろう。


これはちょっと驚きだった。

彼女は魔物使い(テイマー)らしい。

このゲームで従魔(テイム)スキルを持っているプレイヤーは少なくない。

と言うか、ぶっちゃけかなり多い。

だけど実戦で戦えるほどテイムスキルを上げている、テイマーと呼ばれるプレイヤーは余りいない。

テイマーとしてやっていくのは、色々と大変なのだ。

だけどどうやら、彼女はあの二匹の犬で戦えているようだ。

あの二匹は多分、初心者エリアにいる、まんまな名前のホワイト・ハウンドとブラック・ハウンドだろう。

彼女はあんなモンスターをここで戦えるまで育てたのか…。

しかも動きが良いし、多分彼女自体のテイムスキルもかなり高いんだろう。




でも、状況はあまり良くなさそうだ。

彼女も二匹の犬も大してダメージを食らってる風が無かったから、最初は余裕なのかと思ったんだが。

どうやら彼女が回復しているみたいだ。

さっきから、二匹の犬も攻撃を当ててるみたいだけど、あまり有効なダメージになってる感じじゃない。

そして犬が攻撃を貰う度に彼女は回復魔法を使っている。

あれだとそのうち、彼女の魔力が切れてじり貧だろう。

彼女の顔にも焦りが浮かんできたし、もう魔力もそんなに無いのかもしれない。

折角見に来たんだし、ちょっと手助けしよう。

テイマーなんてレアなもの見せて貰ったし。

決して彼女が凄い可愛いからではなく。

とりあえずは…と、


「〈バフ:マナストリーム〉」

「ひゃあっ!」


…どうやら驚かせたみたいだ。

まだ俺に気付いて無かったらしい。


「前、前!ちゃんと敵を見て!」


驚かせて悪かったけど、周りをキョロキョロ見るのは危ない。

戦闘中は敵に集中しないと。

マナストリームは魔力の回復速度を上げるバフだ。

いきなり全開まで回復するほど早くなったりはしないが、それなりに早くなる。

とはいえ、それだけでどうにか出来る状況でも無いだろう。


次は…テイムしたモンスターには、バフは効くんだろうか?

周りにいなかったから、試したこと無いな。

とりあえず試してみれば良いか。


「〈バフ:アジリティー〉」


とりあえずホワイト・ハウンドに素早さが上がるバフを掛けてみる。

失敗したようなログはでなかったし、上手くいったか?

ホワイト・ハウンドがフォレスト・オークから攻撃された瞬間、その斧をバックステップで避けて、そのまま飛び出して爪で反撃した。

ちゃんと効いてるみたいだ。

それにしても、いきなり強化されてもちゃんと対応出来るんだなぁ。

プレイヤーはいきなり素早さ上がると、対応出来ずに転んだりするもんだが。

流石は野生。

魔物が野生なのかは知らんが。

と思ったら、対応出来てない人がいた。

テイマーの女の子が、ホワイト・ハウンドの動きを見てぽかーんとしている。


「ちょ、ちょっと集中して集中!ごめんごめん!」

「あ、ありがとうございます!」


危な過ぎる。

でもテイミング・モンスターにもバフは効くみたいだ。

そうとわかれば、


「〈バフ:アジリティー〉」

「〈バフ:アタック〉」


白と黒、両方の犬に素早さと攻撃のバフをかける。

さっきの回避の感じからいって、防御の強化は必要なさそうだし。

あとは見守ってみようか。




このゲームでは戦闘中のプレイヤーに他人が回復をしたり、強化をすることが嫌がられることはあまりない。

辻ヒールや辻バフと言われて、どちらかと言えば感謝されることが多い。

でも、他のプレイヤーが戦っているモンスターにいきなり横から攻撃したり、弱化するのは嫌われることが多い。

どちらも所謂横殴りとして認識される。

理由は攻撃するのも弱化も、両方とも経験値の分配対象になって、ドロップアイテムのルート権も獲られるからだ。

結果として、最初から戦っていた人の取り分が減り、損をすることになる。

だから俺はとりあえず見守ることにした。


さっきまでとは違い、ダメージもちゃんと入ってる感じだし、何より回避が凄い。

バフを使ってから、フォレスト・オークの攻撃はほとんど当たっていない。

それどころか、攻撃を回避しての反撃の爪、攻撃の隙にもう片方からの噛みつきと、素早さを活かして攻撃頻度も上がっている。

犬の対応力も凄いけど、多分あのテイマーの子も慣れてきたんだろう。

って、良く見たらあのフォレスト・オークは武器が斧なのか。

俺が戦ってた普通のフォレスト・オークは、全部木製の棍棒だった。

防具も革の服っぽいのから、革の鎧っぽいのになってるし、どう見ても普通のより強いパターンの特異固体だったな。


「攻撃も効いてるみたいだし、もうちょっと頑張って~」

「はい!シロ、クロ、もうちょっと頑張って!ホーリー・ジャベリン!」

「グォォウ…!」


フォレスト・オークが斧を振り上げた瞬間に、彼女の杖というには短すぎる武器から光の筋が放たれる。

その光は見事にフォレスト・オークに命中し、苦しそうに呻き声をあげる。


あの武器は、タクトか。

テイムスキルを底上げ出来るらしいけど、そんなに真面目にテイムを使ってる人をみないからマイナーな武器だ。

っていうか、あの子攻撃魔法使えたのか。

回復魔法を使うことも減って、魔力に余裕が出てきたんだろう。

攻撃魔法も効いてるみたいだし、この感じならあとは押しきれるだろう。


それにしても、あの犬二匹は良い動きをしてる。

俺がバフをかけてから、ほとんど攻撃を食らってないな。

今となっては、フォレスト・オークは斧を振り回してるだけみたいな状況だ。

たまにかすってはいるみたいだけど、それ以上に攻撃を当てている。

ぶっちゃけこれなら、マナストリームいらなかったか?

まぁ、余った魔力で攻撃魔法使ってるし、無駄にはなってないか。

それにそもそも、テイミング・モンスターにバフが効くのかんからなかったし。


振られた斧をかわして、そのまま爪で反撃。

逆サイドからもう片方が噛みつき。

大きく振りかぶったら、女の子が攻撃魔法で妨害と、良いコンビネーションだ。


そんな風に見物していたら、友達から連絡が来た。


『ログインしたぞ~。今何処よ?』

『今は近くの林だけど、もうそろそろ戻るよ。』


そう返事をすると、はいは~い。と軽い返事が返ってきた。

フォレスト・オークの動きも鈍くなってきたし、そろそろ倒せるだろう。


「もうちょっとだよ、シロ、クロ!ホーリー・ジャベリン!」


彼女も同じことを考えてたみたいだ。

フォレスト・オークが大きく斧を振りかぶった瞬間に、ホーリー・ジャベリンがフォレスト・オークの顔に突き刺さる。


「シロ、クロ、やっちゃって~!」


彼女がそう言った瞬間、二匹の犬がフォレスト・オークに飛び掛かり、思いっきり噛み付いた。


「ガァアァァ…」


フォレスト・オークは雄叫びをあげたかと思うと、そのまま消えていった。

どうやら無事倒せたみたいだ。




「やった~!!」


女の子は二匹の犬に抱き付いて喜んでいる。

犬も嬉しそうだ。

さっきまで、グルル…と低く唸るような鳴き声だったのが、今ではワンワンと可愛い鳴き声になっている。


「特異固体討伐おめでと!」


そう声を掛けると、彼女はビシッと立ち上がった。


「バフありがとうございました!お陰で勝てました!」


そう言うと彼女は綺麗に礼をする。


「いえいえ。たまたま見掛けたからね。何か良いもの出た?」


せっかく頑張って倒したんだ。

何か良いものドロップしてると良いけど。

…にしても、この子凄い可愛いな。

ふわふわしたロングの茶髪に、ぱっちりした青っぽい目。

綺麗というよりは、可愛い感じだ。

そして可愛いだけじゃない。

さっき立ってお辞儀をしたときに気が付いた。

ローブみたいなゆったりした服を着ているのに、それでもわかった。

…大きい、とても大きい。

ぷるるん、としていた。


…ベタ褒めしてみたけど、まぁ、キャラの見た目なんだけど。

それでもここまで可愛く作れてる人はそういない。

このゲームはキャラの顔をサンプルを基に一から作ることも、自分の顔を基に弄ることも出来る。

自分の顔を基にこの顔になったのなら、元からかなりの美少女だろう。

サンプルから作ったのなら、かなりの美術センスだ。

あの胸が本物なのかが気になる。

切実に。

本物だったからって何があるわけでもないけど、やっぱり…ねぇ…。


「えっ~と…フォレスト・ウォーカーっていう靴が出ました。あとは伐採斧っていう斧ですね。」


…?

…はっ!ドロップの話か。

彼女自身に気をとられて、話を振っておいて忘れていた。

靴の方は知らないが、斧の方は確か回数に制限はあるけど木を伐採採集するときにプラス補正があって、それなりの価値があったはずだ。


「両方レアドロップっぽいね。靴の方は知らないけど、斧の方はそれなりに人気があったはずだよ。おめでとう。」

「本当にありがとうございました!」


またペコリと頭を下げる。

そんなお礼を言われるほどのことじゃないんだけど。

とりあえず不自然にならずに話を続けられたみたいだ。


「それじゃ俺は街に戻るよ。テイムで戦ってる人って周りにいなかったから、良いものが見れて良かったよ。」


まぁ、テイムだけじゃなくて…いや、なんでもない。


「私も街に戻ります。さっきの戦闘でアイテムもほとんど使いきっちゃって。ホントに危ないところでした。」

「それなら一緒に帰る?帰還アイテム使わなくても、街までなら送っていくよ。」


帰還アイテムは高くは無いけど、安くもない。

少なくとも、危険の少ないこんな近場の狩場から帰るのに使うほど安くはない。

もっと安い方が便利なのにと思っていたけど、今はこの値段に感謝だ。

それにこの林なら、彼女を守りながらでも余裕だ。

助けたついでに送って行くくらいは問題無い。

というか、デート感覚で是非お願いしたい。可愛いし。


「う~ん…。それじゃお願いしても良いですか?多数から囲まれたらキツそうなので。」

「りょ~かい。それじゃゆっくり帰ろうか。」


心の中で小躍りしながら、爽やかな笑顔で返事をした。

爽やかな笑顔…になってるよな?

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